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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
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その50

 暫く引っ付き虫だったもえちゃんが、膝から降りてなぎ君と私達の前に立つ。

 機嫌が回復してきたのか、身体全体を使って何年か前に流行った双子が踊る真似をし出した。

 ちゃんと歌つきで。

 隣を見ると和威さんは、定番のスマホを構えている。

 私は練習に付き合っていたので、手拍子で音頭を取っていた。

 完璧には遠い踊りだけど、最後のポーズではやりきった顔をしていた。

 何故か、ワンコまで併せて跳ねていた。


「なぎ、もえ。可愛いな。凄いぞ。パパ、今日は大発見ばかりだ」


 双子ちゃんより、和威さんのテンションがすこぶる高い。

 両手でなぎともえを抱き締めた。


「感動した。パパ、嬉しくて泣きそうだ」

「パパ、えーん、めめよ」

「にこにこ、しちぇね」


 抱き締められているなぎともえが、パパの肩やら背中を叩く。

 ん。

 少しだけ力加減ができてないのじゃないかな。


「「パパ、きゅりゅちい」」

「おっ、すまん」


 力を緩めてなぎともえのほっぺにちゅうをかます。

 離すという、選択はないのだろうか。


「なぎ様、もえ様、お茶を飲みましょうね」

「「あい。さぁたん。あいあと」」


 彩月さんに、すかさず水分補給を促される。

 ジュースと言わないのは、お利口さんである。

 いちも、峰君からお水を飲ませられていた。


「いち、お二人の邪魔をしたら駄目だろう」


 言葉ほど、峰君は怒ってはいない。

 なにしろ、可愛いかったから許せるのだ。

 ワンコと戯れながらの踊りは可愛かった。

 大事なので二度言いたい。


「いや。いちも、ナイスアシストだったぞ。可愛い我が子と愛犬の踊りだ。兄貴達にも送ってやれ」


 口を挟む間もなく、スマホを操作して動画付きメールが旅立っていく。

 皆さん、其々お仕事中でしょうが。

 返事は夜になるでしょうに。


「パパ、なあに、しちゃにょ?」

「ん? パパのお兄さん達、なぎともえの伯父さん達に、さっきのお遊戯を自慢したんだ」

「じまん?」

「そう、自慢。なぎともえが、凄く可愛いと自慢したかったんだ」


 なぎともえにとっては、スマホはもしもしと会話する機器と認識がある。

 メールを送る意味はまだ、理解してはいないだろう。

 不思議そうに、パパを見上げている。


「おっ。返事がきた」

「はやっ。平日でしょ。皆さん、お仕事ではないの」


 着信音が頻りに鳴る。

 兄弟分以上に鳴っているのだけど。


「康兄貴は、親父やお袋にも送れときた。雅兄貴は、会社精算の癒しだと誉めてるな。悠兄貴は、休憩中で義姉さんと見ていたらしい。臣兄貴は、何をしてるんだか、とっとと寝ろ」

「臣お義兄さんにだけ辛辣だけど、どうしたの?」

「臣兄貴、昨日は沖縄、今日は徹夜明けでフランスに出張。空港で三時間待機してるんだと」


 うわぁ。

 それは、和威さんではないけど、寝たらいいのではないかと。

 臣さんは、新進気鋭の建築デザイナー。

 日本だけでなく、海外も飛び回っている。

 話を聞くと、いつ睡眠時間を捻出しているのか、不思議でならない。

 殊に、海外からお土産が届くのだけど。

 翌日には、違う国から届いたりする。

 ブラック企業ではないらしい。

 雅博さんも仕事人間だけど、臣さんはそれ以上に働き過ぎだ。

 本来なら、止めるべき奥様が臣さんにはいない。

 結婚三年目に病で他界された。

 お子様もいないため、なぎともえをことのほか可愛いがってくれている。


「康兄貴に、密告してやる」

「パパ、おーくん。ちゃいへん、にゃにょ?」

「まちゃ、おしょりゃ、ちょんぢぇうにょ?」

「そうだ。飛行機で、フランスに行くんだと」

「「ふりゃんしゅ、どきょ?」」


 なぎがパパの膝から降りて、地図の図鑑を探し始めた。

 もえもマグマグを置いて、追従する。

 図鑑は、マンションに置いてきたのではなかったかな。

 峰君が、持ってきてくれていたかな。


「あっちゃ」

「もぅたんも、はきょぶ」

「あいあと、もぅたん」


 二人仲良く図鑑を運ぶ。

 ラグの上に座込み、一生懸命地図をめくっている。

 どれ、ママも手伝うかな。

 パパは、返信で忙しそうだし。


「ママ、ふりゃんしゅ、どきょ?」

「どこかなあ。欧州、ヨーロッパ辺りだよ」

「ふ、ふはどきょでしゅか」


 なぎは賢く、目次で探している。

 惜しい。

 フランスはカタカナ表記である。

 まだ、読めはしないのだ。


「ちょっとだけ、ママに貸してね」

「「あい」」


 素直に見つけられないと分かると、図鑑を見やすく配慮してくれた。

 なぎ君が、もえちゃんによくやる行動だ。

 辺りをつけてパラパラとめくると、世界地図のページが出てきた。

 これで、分かるかな?


「なぎ君、もえちゃん。ここが、日本。今、二人がいる国ね」

「にほんわ、しっちぇりゅ。けんぎゃ、いっぱい、ありゅにょ」

「もぅたんは、わきゃやまに、いちゃにょ。いまは、とーきょね」

「そう。二人とも、賢いね」


 頭を撫でると、にぱっと笑う。

 本当に賢い。

 一度さらっと話しただけなんだけどなぁ。

 日本地図のパズルがあって、ただ型を嵌めているだけだと思っていたら。

 きちんと、何々県と発言している。

 パズルに付き合ってくれていたのは、篠宮のお義父さん。

 律儀に名産品やら、特色を話してくれて、覚えてしまっている。

 生憎と、世界地図のパズルはない。

 英才教育にはしたくなかったので、買わなかった。


「それで、フランスはここね」


 指を指した場所を真剣に見つめるなぎともえ。

 日本との距離に驚いていた。


「ママ、ふりゃんしゅ、ちょおいね」

「おーくん。ちゃいへんね」

「そうね。遠いね。お仕事大変だね」

「臣兄貴が、なぎともえの写真を送れと、訴えている。なぎともえ。はい、ポーズ」


 スマホを構えるパパに、条件反射で歪なピースをする双子ちゃん。

 ポーズを代えて何枚か写真を撮ると、臣さんに送っている。

 お兄さんの要望を叶える和威さんだ。

 合間に着信音がしているのが、不気味だけど。

 皆さん、実は暇なのかしら。


「なんだぁ。今度は雅兄貴か。梨香がまた、着ぐるみを作成しているんだと。着せたら、送れと煩い」

「梨香ちゃんで思い出したけど、母と椿伯母さんの着せ替えは何時になったんだろう」

「あー。梨香が何やら一枚噛んでいるそうだ。日曜辺りになりそうだぞ。兄貴達も見たいと、都合をつける気だ」

「なら、巧君や司君も犠牲になるわね」


 合掌。

 椿伯母さんの迫力に泣かないといいなぁ。

 うちの母も強引だし、きっと恵梨奈ちゃんや拓磨君も巻き添え確定だ。

 従兄弟達には、まだお子様はいない。

 お祖父様の曾孫は、私と胡桃ちゃんのお子様達だけ。

 篠宮家も、問題なく巻き込むだろう。


「悠兄貴が、臣兄貴に暴露した。その写真も送れと言っている。いいから、寝ろや」

「飛行機の中で寝るのじゃないの」

「臣兄貴は、乗り物内では寝ないんだ。不特定多数の他人がいる中では、絶対に寝ない。雅兄貴にも叱られているな」

「エコノミーではなく、ビジネスでしょ」


 ゆったり出来るのでは。

 と、言いかけて、臣さんの潔癖症を思い出した。

 家族にはそうでもないのだけど、他人が差し出した物は受け取らない。

 食べない。

 飲まない。

 キャビンアテンダントの、押し売りが煩わしいと言っていたな。

 機内食は我慢せざるをえないと、嘆いていた。

 機内では、ひたすら仕事をしているようだ。


「仕事相手のプライベートジェット機だと。んで、沖縄も仕事相手の都合に合わせた様子だったが、振り回されているんだと」


 ビジネスだよね。

 プライベートジェット機なら、朝霧家も所有しているから、そんなに驚いたりはしない。

 短大卒業旅行には、お世話になりました。

 いや、海外に行くと計画していたら、お祖父様にボディガードと案内人をつけられたのだよね。

 後で、楓伯父さんに聞いたら、どうやら邪な輩に狙われていたらしい。

 私達の見えないところで、排除されていた。

 通訳要らずだったけど、お祖父様の配慮で朝霧家の恩恵を受けていられた。

 安全に帰国できた。

 母に怒られたけどね。

 何でも、邪な輩は旅行先の財閥の御曹司。

 朝霧家の人間と、縁を得たかったらしい。

 かなり、ヤバめな相手がいたそうだ。

 臣さんも、その手の輩かな。


「臣兄貴が、名実共にパートナーにならないか、迫られているんだと」

「女性なの」

「そうらしい。緒方の麒麟児の息子を迎えたいと、はっきり言われたそうだ」


 緒方の麒麟児。

 篠宮のお義父さんを意味する言葉。

 株の流れを読む能力に長けた人で、婿入りしてから篠宮家の財産を何倍にも増やしたりした。

 だから、跡取りのお義母さんとは結婚できた。

 資産が増大だもの。

 分家もあやかりたいと、お義父さんの付き人のなり手は多数いる。

 お義父さんのおかげで、買い戻した山々や土地を分家が我が物顔で管理している。

 私が男女の双子を産んだ時期に、淘汰されたけどね。


「「パパぁ。おーくんに、ひきょうき、にょりゃにゃいで、いっちぇ」」

「ん。どうした」

「おーくん。あぶにゃいよ」

「おしょりゃ、

きゃりゃ、おちちゃう」


 なぎともえの言葉に和威さんと、顔を見合わせた。

 へにょり眉の双子ちゃんは、真面目だ。

 言われて、私も気分が悪いのに気がついた。


「和威さん。整備不良があると思う。漠然とした感でしかないけど、ざわざわする」

「ああ。臣兄貴には、媛神様の託宣だと言っておく」


 メールではなんなので、和威さんは電話に切り換えた。

 等々、なぎともえははっきりと意思表示がでてきた。

 七歳までは神の子。

 旧家には、仕来たりがある。

 七歳未満の子供の言葉には重みがある。

 馬鹿にしたりしないで、対策を練る。


「ママぁ。おーくん。いっぱい、おけぎゃしちゃう」

「大丈夫。パパが、おーくんにお話してくれるからね」

「あい。おーくん。だいじょぶ。くりょいにょ、にゃきゅにゃっちゃ」

「あい。おーくんきゃりゃ、どっきゃいっちゃえ」


 両手で黒いのを払う仕草を繰り返し、満足したのか私に抱き付いてきた。

 身体に力が入っていないから、何かが消耗したのだね。

 くるる。

 もえちゃんのお腹が鳴る。

 次いで、なぎ君も鳴る。

 君達、シリアスが飛んでいっちゃったね。

 お腹を抑えて、あうと鳴く。

 篠宮の託宣が下りた様子を見ていた、彩月さんと峰君が固まっている。

 ワンコも、自然と伏せをしていた。

 篠宮家の守り神様も、なぎともえを案じていてくれているのだろう。

 水無瀬の御守りもあるし、幼い子供は神の威を伝えやすい傾向がある。

 特になぎともえは、神職の水無瀬の血も入っているしね。

 やっぱり、一度は水無瀬の本家に連れて行った方がよいやもしれない。

 兄と相談してみよう。

 臣さんの無事を祈り、なぎともえを安心させるために愛でてみた。

双子ちゃんが踊る曲は、F君とMちゃんが踊るあの曲です。

皆様にはお分かりでしたかな。




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