表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
47/180

その45  和威視点

 うわ~ん。

 やあ~よ。


 早朝の朝霧家、玄関口。

 双子の泣き声が響き渡る。

 少なからず、近所迷惑かと思うが、どうしようもない。

 本日は生憎な雨模様。

 昨日も雨だった為か、なぎともえは少々運動不足気味。

 今その鬱憤を晴らすが如く、俺の腕の中で盛大に暴れまわる。

 泣き叫ぶ。

 車に乗る琴子に向けて、必死に両手を伸ばす。


「「ママ~。おいちぇきゃ、にゃいぢぇ~」」

「なぎ君、もえちゃん。パパとお留守番していてね」


 困惑顔をしている琴子だったが、意を決して車の発進を促した。

 運転手も、罪悪感半端ないことだろう。

 車が動くと益々泣き声が大きくなる。


「「いゃあ~。ママ~」」


 こら、もえ。

 身を捻るな。

 危ないだろう。

 なぎ。

 叩いても駄目だ。

 絶対に降ろさないぞ。

 俺の腕から解放されたら、車を追って門の外に飛び出し兼ねない。

 そんな危ないことさせられるか。

 確りと、双子を掴んでいた。


「「パパにょ~。いじわりゅ~」」

「何と言っても駄目だ。お前達は留守番だ」


 宣言すると、また泣き出した。

 その、絶望感顕な泣き方はやめてくれ。

 そんなに、パパとのお留守番は嫌か。

 パパは大ショックだ。

 かなり、へこむ。

 事の起こりは、琴子の定期健診。

 彩月に問われたのは昨日。

 上京してまだ一度も健診を受けていないが、予約はしてあるのかと。

 すっかり、忘れていた琴子は汗だくになり、慌てて病院に電話を入れた。

 何故なら、彩月はお怒りであったらしい。

 引越しから今まで、色々な出来事があった。

 落ち着く暇なく、あちこちに移動していた。

 彩月なりに思うことがあり、セキュリティが万全な朝霧邸に滞在している間なら、双子の身の安全に繋がる。

 子守り役も、いる。

 遊び場もある。

 退屈はしないだろう。

 なら、次に彩月が気になるのは琴子の体調管理だ。

 しばしば、体調不良が見られる。

 俺が気が付かない日中に、左半身に違和感を感じている様だった。

 度々、動かし辛そうにしている。

 だが、相談がない。

 彩月は、見逃さなかった。

 それで、琴子に聴いた訳だ。

 予約はしてあるのかと。

 表情は笑っていたが、眼は笑っていなかった。

 琴子は、久方振りな彩月の本気に、ひきっつた笑顔しかでなかった、と教えてくれた。

 んで、病院に電話したら、主治医にも怒られた。

 義理を欠いていたのは、琴子の方だ。

 謝罪しながら、予約を入れた。

 都合がいい話で、丁度翌日の午前に空きがでた。

 予約を取れた琴子に、主治医はインフルエンザが流行っているから、おちびちゃんは連れて来ない方が良いと、忠告された。

 琴子は、思った。

 やばい、双子ちゃんに泣かれる。

 彩月と峰と、大人しく留守番するとは思えない。

 俺も、そう思った。

 悲しいことに、前科がある双子だ。

 実家の山では俺達を追って、家人や母達の目を盗み、道路に出ていたそうだ。

 いちが騒ぎだし追いかけて、発覚した。

 何て、大した行動力だか。

 以来、留守番日は片時も目を離せない問題児達になった。

 まあな。

 気持ちは分からないでもない。

 なぎともえは、琴子が大好きだからな。

 離れるのを極端に嫌う。

 琴子が鞄を準備すると、外出なんだと理解している。

 そうなると、カルガモの雛よろしく、付いて回る。

 抱っこを強請る。

 服を離さなくなる。

 ぐずりだす。

 宥めすかしても、聴いてはくれない。

 毎回外出時は、戦争だ。

 連れて行ければ良いだけなんだが、山道を走る車内で、チャイルドシートを抜け出すもえは危ない。

 拘束を嫌がるもえは、全身で拒否する。

 火がついた様に泣くのには、困らされた。

 だから、最初は単純に車が嫌いなのだと思い、外出時は留守番させていた。

 その割りには、毎回大泣きして彩月の手を拒んでいたらしい。

 一度様子をビデオに録画して貰った。

 まあ、泣くわ、叫ぶは、暴れるわ。

 見事な三拍子だった。

 帰宅した琴子は、母恋しい双子にしがみつかれて、神妙な顔をしていた。


「もえちゃん。ぶぅぶぅが、嫌いじゃないの?」

「ママ、やぁよ。やぁよ」

「ちあう、にゃいにゃい」

「何が、ないないなのかな」

「「おううばん、やっ!」」


 なぎともえが喋りだして、車は嫌いではないのは知った。

 留守番が嫌だと、訴える。

 その後は、病院以外は車に乗せた。

 免疫力が弱い幼児を、病院で長時間待たせるのは憚られた。

 かといって、車に乗せたままなのも、駄目。

 琴子の側に行きたがる双子に、随分と手を焼いた。

 駐車場の車内で泣く双子に不審がられて、通報もされた。

 誰が、可愛い我が子を虐待するか。

 保護しようとする警官を嫌がり、俺にすがり付きパパと泣く双子の姿と、戻ってきた琴子と付き添いの看護師によって誤解はとけたが。

 人生初めての職質は腹立たしいものだった。



「ほら、ママはもう行ったぞ」

「「おりゅしゅばん、いやぁ」」

「駄目だ。なぎともえは留守番だ」

「もぅたんも、いきゅにょ~」

「なぁくんも~」

「諦めろ。パパは、許さないぞ」


 喜代と名乗る朝霧家の家人が、はらはらと見守る中で、離れに向かう。

 泣きじゃくって疲れたのか、諦めたのか力が抜けた身体を抱き直して、庭を歩く。

 池があった。

 鯉がいた。

 楽しそうに報告してくれたのは、記憶に新しい。

 パパのごつんこが嫌だから、近寄らない。

 誉めて欲しそうに見上げたので、存分に撫でて誉めてやった。

 満足した笑顔で、にぱっと笑っていた。

 今日との対比が激しいな。


「お帰りなさいませ」


 離れに戻ると、峰に出迎えられる。

 彩月には、琴子に同行して貰った。

 まだ、ストーカー擬きと、爆発した車の事件が解決していない。

 朝霧家からも、ガードがつけられている。

 それもあって、双子の外出は見送られたのだ。


「タオル有るか?」

「はい、準備はしてあります」


 峰にも、双子の惨状は簡単に思い付かれていた。

 リビングのラグに座り、胡座をかいた膝に双子を乗せる。

 なぎともえの顔は、見事に涙と鼻水まみれだった。

 濡らしたタオルで、顔を拭く。

 嫌がる素振りを見せたが、気にしないでおく。

 お前達。

 そんなに、パパが嫌か。

 ママが恋しいか。

 悲しい事実に、俺の方が泣けてくる。


 きゅん、きゅん。


 いちが周りを巡る。

 顔を舐めたそうにするが、ちょっと待て。

 なぎともえの顔は、大変なことになっている。


「う~。パパにょ、いじわりゅ~」

「おりゅしゅばん、いやにゃにょに~」


 仕方ないだろうが。

 拭いた端から、涙が盛り上がる。

 粗方、綺麗になると、膝を降りていちに抱き付く。


「もぅたん、しゃびしい」

「なぁくんも、しゃびしい」

「パパだって、寂しいぞ」


 一人前に黄昏れるが、パパは嫌がられて不満だ。

 育児には積極的に関わってきたつもりだが、背中で拒絶されると悲しい。


「にゃんで?」

「パパ、おちぎょちょ、いっちゃう、にょに」

「しょうよ」


 はっ?

 ちょいと、待て。

 今、何て言った。

 パパはママが病院に行くから、有給取って双子とお留守番なんだがなぁ。

 ママも、パパとお留守番していてねと、言っただろうが。


「なぎ。もえ」

「「ぴゃう」」


 しらず、低い声が出た。

 なぎともえの肩が跳ねる。

 恐る恐る、俺の顔色を伺っている。

 すまん。

 怖がらせる気はなかった。


「パパは、今日はお休みだからな。お仕事に行かなくて、なぎともえと一緒にお留守番だからな」

「うっ?」

「いっちょ?」

「ああ。一緒にお留守番だ」

「「ほんちょ?」」


 歪んでいた顔が喜びに変わった。

 お互いの顔を見合わせてから、俺に抱き付いてきた。

 うん、どうした。


「あにょね。なぁくん、パパ、おちぎょちょ、いっちゃうちょ、おもっちゃ」

「あにょね。もぅたん、みーくんちょ、なぁくんちょ、おりゅしゅばん、おもっちゃ」


 ああ。

 彩月も琴子と一緒に病院に行ったから、峰と三人で留守番だと理解したのか。

 んで、パパは仕事に行くと。

 さては、琴子の外出に気を取られて、話を聴いていなかったな。

 思わぬ事実に、顔が綻ぶ。

 嫌われてなかったと、安心した。

 琴子は、ちゃんとパパとだと言ったのにな。

 パパは、嫌み言われながら有給を取ったんだぞ。

 少しは、感謝してくれ。

 でも、激しく泣き出した意味が分かり安堵した。


「なんだ、必死に泣くからなぁ。パパと一緒にお留守番は嫌かと思ったぞ」

「いや、ない」

「パパちょ、いっちょ」

「おりゅしゅばん、しゅりゅにょ」

「パパ、だいしゅきよぅ」


 同時に頭を左右に振る。

 首もとでやられるから、くすぐったい。

 ほら、あんまり振ると目眩を起こすぞ。

 頭を固定して、撫でる。

 上目遣いに見上げてくる。

 今度は、俺の服を掴んでいた。


「パパ、めんしゃい」

「もぅたんも、めんしゃい」

「何だ。謝らなくても、パパは怒ってないぞ。なぎともえは、パパもいなくなると勘違いしたんだろう」

「「あい」」

「ママもお出掛けするから、置いていかれると、悲しくなったんだろう」

「「あい」」


 素直に頷く双子の様子は、不安を表している。

 自分達の勘違いで、パパがいなくなると思っているのだろう。

 俺も不安にさせるために、指摘しているのではない。

 利発な子供だ。

 間違いを訂正してやらないと、段々と碌でもない事を考えるだろう。


「安心していい。ママがお出掛けする時は、パパと一緒にお留守番だからな」

「あい」

「パパ、ありあと」


 もえが頬にちゅうをする。

 次になぎもする。

 お返しに、俺も双子の頬にちゅうをした。

 ニッコリと笑顔が溢れた。

 琴子がスキンシップを欠かさないからか、なぎともえも見習いちゅうは頻繁にしてくれる。

 可愛い仕草に、俺も微笑んだ。


「お留守番嫌いななぎともえの為に、これからは出来るだけパパが一緒にお留守番するからな。一杯、甘えていい」

「「あい。パパ、だいしゅき」」


 なぎともえは、あまり俺に甘えてはくれない。

 抱っこは強請るが、ああして、これしては、琴子にも言わないみたいだし、甘えてはいけないと考えている節がある。

 前世の記憶が強烈すぎて、俺や琴子に嫌われない一線を常に探っている。

 そんなことをしなくても、可愛い我が子だ。

 もっと、甘えて我が儘言ってもらっても構わない。

 どれだけの愛情を注げば、伝わるだろうか。

 暖かな温もりを腕に抱いて、熟考する。

 なぎ。

 もえ。

 今日は、パパが一杯甘やかすからな。


ブックマーク登録ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ