その41
お待たせしました。
連載再開です。
お腹が満たされた双子ちゃんは寝落ちしてしまったため、遊びはお昼寝後に相成りました。
恵梨奈ちゃんと拓磨君も、胡桃ちゃんに甘えて学校の課題を済ますそうだ。
お祖父様は残念な事に、重要な会合が入っていた。
和威さんばりに、悔しがっていた。
会長職に退いたとは言え、経済界の大物。
そうそう、引きこもりは許されはしないだろう。
名残惜しげに秘書と沖田さんを連れて、出かけて行った。
「琴子様もお身体を、お休めくださいませ」
「じゃあ、お茶をください」
「畏まりました」
なぎともえは、ぐっすりと熟睡している。
今日も手を繋いで、穏やかな寝顔をしている。
お昼寝なので寝室にしている和室ではなく、リビングの片隅の小上がりに寝かしている。
私の声が聴こえる位置にいないと、目を覚ましてしまう。
とくに、今はパパが不在でいない。
安心してねんねして欲しいな。
「緑茶でございます」
「ありがとう」
食後は緑茶を好む私の嗜好を把握している彩月さんは、ローテーブルにお茶を出してくれた。
「ママ、近くにいるからね。安心してねんねよ」
ぽんぽこお腹を軽く叩いて声をかけ、双子ちゃんから離れた。
ぐずる気配を見せずねんねしている。
「お夕食は各自で取られるご様子ですが、如何致しますか」
「そうだなぁ。朝と昼が任せてしまっているから、何か作るかな」
「和威様のご帰宅時間が不明でございますから、お夕食は琴子様がお作りになられた方が、なぎ様ともえ様もご安心されるかと」
彩月さんの言う通り何だよね。
本日の和威さんは、中途半端に呼び出されて出勤した。
電話越しの切迫した様子だと、随分と煮詰まっていたかと思う。
デスマーチ発動かな。
そうすると、なぎともえの機嫌は最悪なことになると予想出来る。
ママの食事で回避出来るなら、安いものだよね。
なら、好物でも作るかな。
「喜代様から、母屋の食材が届いております。煮物とハンバーグの下準備は済んでおります」
流石は彩月さんである。
予想済みだ。
私のやる事がない。
なぎ君の好物な煮物は、里芋が沢山入っている煮っころがしだ。
お山の曾祖母様が、それはもう大変上手に作ってくれた。
母親としてはその腕を盗みたいのだが、中々上手くはいかない。
下手をしたら、彩月さんの腕前が一番近い。
同じ材料を使っているのに、不思議な事に味付けが微妙に違うのだよね。
なんでだろう。
「ありがとうございます。彩月さんも、少しは休んでくださいね」
「はい。休憩は取らせて頂いております」
にこやかな彩月さんは、お世話が出来て満足しているのだろう。
定期的にお掃除をしているとは言え、人が住まない離れは何処と無く空気が淀んでいた。
それが、お昼から戻ると払拭していた。
お掃除、張り切って頑張ったのだと分かる。
益々、頭が上がらない。
仕事だからと割りきって出来る事ではないと思うのだけど。
本当に出来た家人である。
五男の一家についていい人材ではないなぁ。
でも、決定権を持つお義母さんとお義父さんは、双子ちゃんのお世話は大変だからの一言で、煩い親戚を煙に巻いている。
私としては、大助かりだ。
峰君も、そうだよね。
望めば海外の大学に入る資格は有しているし。
峰君の機械関連の技術はある海外の大学からや、技術系の企業からスカウトやオファーが殺到しているのを和威さんから聴いた。
そういった家人としてより、生まれ持った才能を開花した将来有望な路を進めばいいのでは、と思わざるをえない人材は多い。
篠宮家は、人材宝庫な一面が強い。
他者を惹き付ける何かがあるのだろう。
和威さんの友人達も、何気にそうだしね。
でも、それだとなぎともえはどうだろう。
幼児だからか、人見知りが発揮しているからか、その兆候は見えていない。
どころか、逆に苛めっ子組に狙われてやいないか。
トラブルにあってばかりいる気がしないでもなく。
もしや、これは私の血かな。
和威さんが、俺の遺伝子云々言っているけど。
顔だけでなく、トラブル吸引体質も受け継いでいるのか。
それなら、ママ泣いてしまうがな。
ごめんね。
なぎともえ。
「琴子様?」
「はい」
「どうされました? 急に表情が……」
あはは。
私の不運が遺伝しているかも、とは言えんがな。
お茶を濁さねば。
「最近、嫌なことばかり続くなぁと」
「確かに、そうですね。ですが、都会ならば、仕方がないと推察されます。若い時分には私も、上京しておりました。暮らしていた場所が治安が良くなかったせいか、毎日パトカーの音を聴いておりましたよ」
お茶のお代わりを提供してくれる彩月さんは、やんわりと私が濁した部分を察してくれていた。
スマホまで、鳴り出した。
相手は和威さんだ。
彩月さんに、断りを入れて出る。
「はい」
『昼時に悪い。なぎともえは?』
「残念。お昼寝中」
『あー。やっぱりか』
これは、双子ちゃん成分を補充したかったのかな。
出勤間際はもえちゃんは泣いていたものね。
笑顔が見たかったりして。
「寝顔でも、写メして送る?」
『いや。心ひかれるが止めておく』
「それで、何か用事でも出来て、帰れないコール?」
『はっはっは。意地でも帰ってやるさ。単に忘れ物してお使いを頼もうかと思ったな』
「忘れ物?」
『そう。ノートパソコンにUSB刺さっていないか』
「ちょっと待ってて」
和威さんの仕事道具には滅多に触らないから、何処にあるんだろう。
和室かな。
案の定、和室にパソコンがあった。
無造作に床に置いてある。
なぎともえが遊び道具にしても、知らないぞ。
まあ、パパの大事な物には無断で触らない良い子達だけどね。
「発見しました。刺さったままね」
『やっぱりか。悪いが峰にでも託してくれないか』
「峰君は、午後に何か頼んでいなかった?」
『やばい。頼んでいた』
司郎君は編入した学校に今日から通い、峰君には何か用事を頼んでいたよね。
ワンコは、寂しくお留守番だ。
鳴いていないと、いいんだけど。
司郎君が学校終えたら、朝霧邸に連れてくることになっている。
「彩月さんに、頼んで見る?」
『あー。それ、無理だろ。琴子やなぎともえが一緒なら来てくれるが、基本的にそこまででしゃばらない』
うん。
美魔女な彩月さんは、変な噂が立たない様に気を使っている。
内向きな仕事は喜んでしてくれるが、外向きな仕事は峰君が対応して役割り分担している。
困ったな。
私が行く訳にも行かない。
帰宅したら、双子ちゃんがね。
大号泣間違いなし。
しょうがない。
なぎともえには、悪いけど。
泣いて貰うかな。
「「ママ~。どきょう~」」
あっ。
何てナイスなタイミング。
リビングにいない私を察知して飛び起きたかな。
「我が家の双子ちゃんが、空気を読んだわよ」
『? 昼寝から起きたか? 早くないか』
ママを呼びながら、彩月さんに手をひかれてなぎともえが、和室にやってくる。
ママは、しゃがんで待機しておりますよ。
「「ママ~」」
「はい。泣かないの。ママは、ちゃんといるでしょう。それより、なぎ君ともえちゃん。パパから、お電話よ」
「「パパ~」」
『おう。パパだぞ。悪いな、ママはパパの忘れ物を探して貰ったんだ』
「「パパだ~。パパ、はあく、きゃえっちぇ、きちぇね」」
スマホをスピーカモードにすると、なぎともえは涙を引っ込めた。
スマホにかじりつきだ。
『パパが早く帰れるかは、ママにかかっているな』
「ママ?」
「なあに?」
「なぎ君ともえちゃんが、彩月さんとお留守番してくれるなら、早いかな」
「「うっ。おりゅしゅばん」」
双子ちゃんにとって、大嫌いなお留守番。
パパの帰宅と天秤にかけて、悩みだしている。
が、すぐになぎ君は地団駄を踏み、もえちゃんは寝転がり両手足も振り回し始めた。
眠いのも相まって、豪快に泣き出した。
「「おりゅしゅばん、いやぁ~」」
『琴子。何て単語をだすかな。泣くだろ』
「いえね。パパをだしにすれば、お留守番できるかなぁ、と」
『そりゃ、無理だろ。なぎともえは、置いていかれるのを嫌う。行き先が分かろうと、二人ボッチは嫌な記憶を呼び覚ます』
「しょうがないなあ。和威さんの忘れ物、早く届けた方が良いのよね」
『済まんが、頼む』
「双子ちゃんを泣き止ませてから、私が届けるから。その際の苦情は聴かないからね」
『あー。何となく分かった。背に腹は返られない。会社前に着いたら、電話してくれ』
「了解しました。じゃあ、切るね」
『ん。頼む』
スマホを切る。
と、泣いていたなぎともえが、一瞬泣き止み私を窺う。
置いていかれないように、必死かな。
「ほら、もえちゃん、おいで」
「ママ~」
呼ぶとすっ飛んでくる。
途中でなぎ君の手をひいて、二人仲良く私の腕の中におさまる。
「なぎ君ともえちゃんは眠くない?」
「「にゃい」」
「そっか。じゃあ、ママとお車でパパの仕事場にお出掛けしようね」
「パパにょ? いきゅ」
「おりゅしゅばん、いやぁよ」
「彩月さん、喜代さんに車を準備して貰って。子供たちも一緒だと伝えてください」
「畏まりました」
朝霧家の内政は喜代さんが仕切っているから、所有する車や運転手の手配を難なくしてくれる。
我が家の事情を把握しているし、護衛付きで準備をしてくれるだろう。
彩月さんを見送り、お出掛け準備をしよう。
「なぎ君、もえちゃん。お顔洗って、お着替えしようか」
「「あい」」
お留守番を回避してお出掛けになったからか、素直に頷き私の手を取る。
それだと、ママ立てないのだけど。
頑張れ、琴子。
手を離したら、また泣くぞ。
何とか立ち上がると、にぱっと笑うなぎともえ。
涙の跡が残るお顔の笑顔は、いじらしいぞ。
洗面所で顔を洗い、序でにうがい。
お出掛け着はどれにしようかな。
御守りが付けれる、お揃いのオーバーオールにしてみよう。
中着もお揃いのにしようと。
最近は暑くなったり寒くなったりで、寒暖の差が激しい
カーデガンも揃えたら、おかしいかな。
おむつも換えて、着替え終わった双子ちゃんは、お揃いの服に指差していっちょと喜んでいる。
ママは、大変満足しております。
「琴子様。お車の準備が整いましてございます」
「はい。此方も終りました」
お気にいりのリュックと、帽子を被せたら双子ちゃんの準備は終わり。
私の身仕度は手早く済ませてある。
肌の露出を抑えたニットのタートルネックに、デニム。
軽くお化粧して、忘れ物を鞄にしまった。
大事な忘れ物は、二度チェックした。
良し。
ならば、いざ和威さんの職場に突撃だ。
「「ママ、元気ねぇ」」
なぎともえの声援ありがとう。
何せ、ママは少なくとも和威さんの職場の人に会うのは初めてである。
第一印象は、良妻賢母を目指したい。
後は、不倫願望の女性陣に牽制をしてやろうではないか。
だから、高級車で乗り付けるのは許して頂戴な。
朝霧邸には、ファミリー向けの車はない。
和威さんも、諦めた様子。
また、周りが煩くなりそうである。
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