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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
42/180

その41

お待たせしました。

連載再開です。


 お腹が満たされた双子ちゃんは寝落ちしてしまったため、遊びはお昼寝後に相成りました。

 恵梨奈ちゃんと拓磨君も、胡桃ちゃんに甘えて学校の課題を済ますそうだ。

 お祖父様は残念な事に、重要な会合が入っていた。

 和威さんばりに、悔しがっていた。

 会長職に退いたとは言え、経済界の大物。

 そうそう、引きこもりは許されはしないだろう。

 名残惜しげに秘書と沖田さんを連れて、出かけて行った。


「琴子様もお身体を、お休めくださいませ」

「じゃあ、お茶をください」

「畏まりました」


 なぎともえは、ぐっすりと熟睡している。

 今日も手を繋いで、穏やかな寝顔をしている。

 お昼寝なので寝室にしている和室ではなく、リビングの片隅の小上がりに寝かしている。

 私の声が聴こえる位置にいないと、目を覚ましてしまう。

 とくに、今はパパが不在でいない。

 安心してねんねして欲しいな。


「緑茶でございます」

「ありがとう」


 食後は緑茶を好む私の嗜好を把握している彩月さんは、ローテーブルにお茶を出してくれた。


「ママ、近くにいるからね。安心してねんねよ」


 ぽんぽこお腹を軽く叩いて声をかけ、双子ちゃんから離れた。

 ぐずる気配を見せずねんねしている。


「お夕食は各自で取られるご様子ですが、如何致しますか」

「そうだなぁ。朝と昼が任せてしまっているから、何か作るかな」

「和威様のご帰宅時間が不明でございますから、お夕食は琴子様がお作りになられた方が、なぎ様ともえ様もご安心されるかと」


 彩月さんの言う通り何だよね。

 本日の和威さんは、中途半端に呼び出されて出勤した。

 電話越しの切迫した様子だと、随分と煮詰まっていたかと思う。

 デスマーチ発動かな。

 そうすると、なぎともえの機嫌は最悪なことになると予想出来る。

 ママの食事で回避出来るなら、安いものだよね。

 なら、好物でも作るかな。


「喜代様から、母屋の食材が届いております。煮物とハンバーグの下準備は済んでおります」


 流石は彩月さんである。

 予想済みだ。

 私のやる事がない。

 なぎ君の好物な煮物は、里芋が沢山入っている煮っころがしだ。

 お山の曾祖母様が、それはもう大変上手に作ってくれた。

 母親としてはその腕を盗みたいのだが、中々上手くはいかない。

 下手をしたら、彩月さんの腕前が一番近い。

 同じ材料を使っているのに、不思議な事に味付けが微妙に違うのだよね。

 なんでだろう。


「ありがとうございます。彩月さんも、少しは休んでくださいね」

「はい。休憩は取らせて頂いております」


 にこやかな彩月さんは、お世話が出来て満足しているのだろう。

 定期的にお掃除をしているとは言え、人が住まない離れは何処と無く空気が淀んでいた。

 それが、お昼から戻ると払拭していた。

 お掃除、張り切って頑張ったのだと分かる。

 益々、頭が上がらない。

 仕事だからと割りきって出来る事ではないと思うのだけど。

 本当に出来た家人である。

 五男の一家についていい人材ではないなぁ。

 でも、決定権を持つお義母さんとお義父さんは、双子ちゃんのお世話は大変だからの一言で、煩い親戚を煙に巻いている。

 私としては、大助かりだ。

 峰君も、そうだよね。

 望めば海外の大学に入る資格は有しているし。

 峰君の機械関連の技術はある海外の大学からや、技術系の企業からスカウトやオファーが殺到しているのを和威さんから聴いた。

 そういった家人としてより、生まれ持った才能を開花した将来有望な路を進めばいいのでは、と思わざるをえない人材は多い。

 篠宮家は、人材宝庫な一面が強い。

 他者を惹き付ける何かがあるのだろう。

 和威さんの友人達も、何気にそうだしね。

 でも、それだとなぎともえはどうだろう。

 幼児だからか、人見知りが発揮しているからか、その兆候は見えていない。

 どころか、逆に苛めっ子組に狙われてやいないか。

 トラブルにあってばかりいる気がしないでもなく。

 もしや、これは私の血かな。

 和威さんが、俺の遺伝子云々言っているけど。

 顔だけでなく、トラブル吸引体質も受け継いでいるのか。

 それなら、ママ泣いてしまうがな。

 ごめんね。

 なぎともえ。


「琴子様?」

「はい」

「どうされました? 急に表情が……」


 あはは。

 私の不運が遺伝しているかも、とは言えんがな。

 お茶を濁さねば。


「最近、嫌なことばかり続くなぁと」

「確かに、そうですね。ですが、都会ならば、仕方がないと推察されます。若い時分には私も、上京しておりました。暮らしていた場所が治安が良くなかったせいか、毎日パトカーの音を聴いておりましたよ」


 お茶のお代わりを提供してくれる彩月さんは、やんわりと私が濁した部分を察してくれていた。

 スマホまで、鳴り出した。

 相手は和威さんだ。

 彩月さんに、断りを入れて出る。


「はい」

『昼時に悪い。なぎともえは?』

「残念。お昼寝中」

『あー。やっぱりか』


 これは、双子ちゃん成分を補充したかったのかな。

 出勤間際はもえちゃんは泣いていたものね。

 笑顔が見たかったりして。


「寝顔でも、写メして送る?」

『いや。心ひかれるが止めておく』

「それで、何か用事でも出来て、帰れないコール?」

『はっはっは。意地でも帰ってやるさ。単に忘れ物してお使いを頼もうかと思ったな』

「忘れ物?」

『そう。ノートパソコンにUSB刺さっていないか』

「ちょっと待ってて」


 和威さんの仕事道具には滅多に触らないから、何処にあるんだろう。

 和室かな。

 案の定、和室にパソコンがあった。

 無造作に床に置いてある。

 なぎともえが遊び道具にしても、知らないぞ。

 まあ、パパの大事な物には無断で触らない良い子達だけどね。


「発見しました。刺さったままね」

『やっぱりか。悪いが峰にでも託してくれないか』

「峰君は、午後に何か頼んでいなかった?」

『やばい。頼んでいた』


 司郎君は編入した学校に今日から通い、峰君には何か用事を頼んでいたよね。

 ワンコは、寂しくお留守番だ。

 鳴いていないと、いいんだけど。

 司郎君が学校終えたら、朝霧邸に連れてくることになっている。


「彩月さんに、頼んで見る?」

『あー。それ、無理だろ。琴子やなぎともえが一緒なら来てくれるが、基本的にそこまででしゃばらない』


 うん。

 美魔女な彩月さんは、変な噂が立たない様に気を使っている。

 内向きな仕事は喜んでしてくれるが、外向きな仕事は峰君が対応して役割り分担している。

 困ったな。

 私が行く訳にも行かない。

 帰宅したら、双子ちゃんがね。

 大号泣間違いなし。

 しょうがない。

 なぎともえには、悪いけど。

 泣いて貰うかな。


「「ママ~。どきょう~」」


 あっ。

 何てナイスなタイミング。

 リビングにいない私を察知して飛び起きたかな。


「我が家の双子ちゃんが、空気を読んだわよ」

『? 昼寝から起きたか? 早くないか』


 ママを呼びながら、彩月さんに手をひかれてなぎともえが、和室にやってくる。

 ママは、しゃがんで待機しておりますよ。


「「ママ~」」

「はい。泣かないの。ママは、ちゃんといるでしょう。それより、なぎ君ともえちゃん。パパから、お電話よ」

「「パパ~」」

『おう。パパだぞ。悪いな、ママはパパの忘れ物を探して貰ったんだ』

「「パパだ~。パパ、はあく、きゃえっちぇ、きちぇね」」


 スマホをスピーカモードにすると、なぎともえは涙を引っ込めた。

 スマホにかじりつきだ。


『パパが早く帰れるかは、ママにかかっているな』

「ママ?」

「なあに?」

「なぎ君ともえちゃんが、彩月さんとお留守番してくれるなら、早いかな」

「「うっ。おりゅしゅばん」」


 双子ちゃんにとって、大嫌いなお留守番。

 パパの帰宅と天秤にかけて、悩みだしている。

 が、すぐになぎ君は地団駄を踏み、もえちゃんは寝転がり両手足も振り回し始めた。

 眠いのも相まって、豪快に泣き出した。


「「おりゅしゅばん、いやぁ~」」

『琴子。何て単語をだすかな。泣くだろ』

「いえね。パパをだしにすれば、お留守番できるかなぁ、と」

『そりゃ、無理だろ。なぎともえは、置いていかれるのを嫌う。行き先が分かろうと、二人ボッチは嫌な記憶を呼び覚ます』

「しょうがないなあ。和威さんの忘れ物、早く届けた方が良いのよね」

『済まんが、頼む』

「双子ちゃんを泣き止ませてから、私が届けるから。その際の苦情は聴かないからね」

『あー。何となく分かった。背に腹は返られない。会社前に着いたら、電話してくれ』

「了解しました。じゃあ、切るね」

『ん。頼む』


 スマホを切る。

 と、泣いていたなぎともえが、一瞬泣き止み私を窺う。

 置いていかれないように、必死かな。


「ほら、もえちゃん、おいで」

「ママ~」


 呼ぶとすっ飛んでくる。

 途中でなぎ君の手をひいて、二人仲良く私の腕の中におさまる。


「なぎ君ともえちゃんは眠くない?」

「「にゃい」」

「そっか。じゃあ、ママとお車でパパの仕事場にお出掛けしようね」

「パパにょ? いきゅ」

「おりゅしゅばん、いやぁよ」

「彩月さん、喜代さんに車を準備して貰って。子供たちも一緒だと伝えてください」

「畏まりました」


 朝霧家の内政は喜代さんが仕切っているから、所有する車や運転手の手配を難なくしてくれる。

 我が家の事情を把握しているし、護衛付きで準備をしてくれるだろう。

 彩月さんを見送り、お出掛け準備をしよう。


「なぎ君、もえちゃん。お顔洗って、お着替えしようか」

「「あい」」


 お留守番を回避してお出掛けになったからか、素直に頷き私の手を取る。

 それだと、ママ立てないのだけど。

 頑張れ、琴子。

 手を離したら、また泣くぞ。

 何とか立ち上がると、にぱっと笑うなぎともえ。

 涙の跡が残るお顔の笑顔は、いじらしいぞ。

 洗面所で顔を洗い、序でにうがい。

 お出掛け着はどれにしようかな。

 御守りが付けれる、お揃いのオーバーオールにしてみよう。

 中着もお揃いのにしようと。

 最近は暑くなったり寒くなったりで、寒暖の差が激しい

 カーデガンも揃えたら、おかしいかな。

 おむつも換えて、着替え終わった双子ちゃんは、お揃いの服に指差していっちょと喜んでいる。

 ママは、大変満足しております。


「琴子様。お車の準備が整いましてございます」

「はい。此方も終りました」


 お気にいりのリュックと、帽子を被せたら双子ちゃんの準備は終わり。

 私の身仕度は手早く済ませてある。

 肌の露出を抑えたニットのタートルネックに、デニム。

 軽くお化粧して、忘れ物を鞄にしまった。

 大事な忘れ物は、二度チェックした。

 良し。

 ならば、いざ和威さんの職場に突撃だ。


「「ママ、元気ねぇ」」


 なぎともえの声援ありがとう。

 何せ、ママは少なくとも和威さんの職場の人に会うのは初めてである。

 第一印象は、良妻賢母を目指したい。

 後は、不倫願望の女性陣に牽制をしてやろうではないか。

 だから、高級車で乗り付けるのは許して頂戴な。

 朝霧邸には、ファミリー向けの車はない。

 和威さんも、諦めた様子。

 また、周りが煩くなりそうである。

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