表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
41/180

その40

 ふう。


 お昼時。

 母屋での食事を待つ間、もえちゃんがお子様には思えない溜め息を吐き出した。

 子供椅子に座り、なぎ君と手を繋いでアンニュイ。


「もえは、どうした。元気がないなぁ」

「そうだな。なぎも愁い顔をしているな」


 同席しているお祖父様と胡桃ちゃんに指摘される。

 遊び場で出会った恵梨奈ちゃんと拓磨君も、気になる様子を見せている。

 短時間の間にしおらしくなってしまった原因は、今この場にいない和威さんにある。


「「パパ、おちぎょちょに、いっちゃっちゃ、にょ」」


 そうなのだ。

 遊び場から離れに戻ったら、和威さんは会社から呼び出しを受けてしまったのである。

 何でも、自宅謹慎が解けて、可及的速やかに出勤するように訴えられた。

 まあね。

 大事なプロジェクトチームのリーダーが、いないのだから行き詰まりをみせる訳だ。

 部下と上司に社長自ら、ひっきりなしに電話が掛かってきた。

 なぎともえは、電話の最中は静かだったけど。

 終わるなり、パパに抱き付いた。

 察知能力半端なし。


「「どきょ、いきゅにょ?」」


 上目遣いで、うるうる攻撃。

 和威さんは撃沈した。

 仕事行きたくねぇ。

 と、宣った。

 私が、憤慨したのは言うまでもなく。

 嫌がる和威さんのスーツを、峰君に運んで貰うのを頼んだ。

 一応は、持ってきてあるが、温情だ。

 スーツが来るまでは、我が子を堪能するが良し。

 峰君が到着するまでは、本当に双子ちゃんを離さなかった和威さんは、渋々支度をして泣き出したもえちゃんを抱っこして車に乗った。

 こら、離しなさいな。

 なぎ君は、諦めて私の脚にしがみついているのに。

 パパが、そんな状態でどうするの。

 嗜める私にやっともえちゃんを預けて、出勤していきましたよ。

 涙声で、


「「いっちぇ、りゃっちゃい」」


 を言えたのは、偉かった。

 その後は、私から離れたがらなかった。

 母屋に来る時も、両手を繋いで来たのである。


「そうか。仕事か。通りで、和威君の姿がないと、思った」

「あら。てっきり、おじ様はお仕事お休みかと思っていましたわ」

「うん。へいじつに、いたから。そうだとおもった」

「あい。パパ、じちゃきゅ、きんしん、にゃにょよ」

「おうちぢぇ、おちぎょちょ、にゃにょよ」

「自宅謹慎かな。どういう事だい」


 なぎの説明に、胡桃ちゃんが食い付いた。

 お祖父様には説明をしている筈だけど、言いふらす人ではないから、初耳なのだろう。

 恵梨奈ちゃんと拓磨君も、驚いた表情だ。

 聴いてはいけない事を聴いた。

 と、ばつが悪そうにしている。

 別段、和威さんが悪いことをした訳ではない。

 件の不倫願望女性の話題を出す。


「和威さんの会社の秘書課の女性がね、家を突き止めて和威さんをデートに誘ったのよ。勿論、断ったけど、逆恨みしてセクハラで訴えてきたのよ」

「それで、謹慎かな。とんだ、とばっちりではないか」

「元々、和威さんは在宅の仕事を希望していたから。嬉々として受け入れてたわ。だけど、プロジェクトチームのリーダーになっていたからね。遅かれ早かれ、謹慎が解けるのは分かっていたわ。パパといたい、なぎともえには悪いけどね」


 順番に双子ちゃんを撫でていく。

 むう。

 剥れているなぎともえは、ご機嫌が斜め。

 行儀悪くスプーンを口にくわえている。

 パパに見られたら、お小言必須だよ。


「それで、なぎともえは膨れておるか。ならば、ご飯の後でひいじぃじと遊ぼうか。恵梨奈と拓磨も一緒なら寂しくはないだろうて」

「あい。ねぇね、にぃに、あしょんで、くぅしゃい」

「おきゃし、いっぴゅい、にゃにょ。いっちょに、ちゃべりゅにょ」

「良いですわ。一緒に遊びましょうね」

「うん。いいぞ」


 遊んで貰えると分かると、少しは機嫌が戻ったかな。

 宝箱のお菓子も助けになっている。

 ほとんど、手を付けていないので、消費してくれるのは有り難い。


「さあさあ、難しいお話はそこまでですよ。お昼御飯が出来ました。沢山食べてくださいませ」

「「うにゅう。ふきゅしゃん?」」


 カートに昼食を乗せて、喜代さんが運んできた。

 喜代さんは、祖母に付き添う富久さんの妹さんである。

 容姿が似通っているので、初見の方は双子かと見間違う。


「なぎ様ともえ様には、初めてお会い致しますね。富久の妹の喜代でございます」

「「きよしゃん?」」

「はい、喜代でございます」

「しょっきゅり、ねえ?」

「あい。なぁくんちょ、もぅたんちょ、いっちょにゃにょ?」


 ちょっと、違うかな。

 富久さんと喜代さんは、年子である。

 本当に、双子かと思う位似ている。

 我が家の双子ちゃんは、首を傾げて観察している。


「残念ながら、双子ではございません」


 手際よく配膳してゆく喜代さんは、双子ちゃんの疑問に答えてくれている。

 大人には和食を、子供たちにはオムライス。

 それぞれ、ケチャップで動物を描いてくれていた。

 料理長さんの、配慮に頭が下がりますなぁ。


「ほわわ。くましゃんだ」

「もぅたん、うしゃしゃん」

「私は、猫さんですわ」

「おれは、ライオンだ」


 歓喜の声をあげるお子様たち。

 食べるのが勿体なさそうだ。


「ママ。くましゃん」

「うしゃしゃんよ」

「うん。良かったね。美味しく食べてね」

「「ちゃべちゃうにょ、じゃんねん」」


 オムライスに釘付けな双子ちゃんは、意を決して口に入れていく。

 端から零れていくのは、ご愛嬌だ。

 もぐもぐと咀嚼していく。

 ん?

 なぎの眉間に皺がよった。

 苦手な人参でも入ったかな。


「ママ~。にんじんしゃん、あっちゃ」

「うん。ぺっ、したら駄目よ」

「……」

「お返事は?」

「あい~」

「なぎは、人参が嫌いか」

「あい。にんじんしゃん、にぎゃいにょ」

「もえは、何が嫌いだ」

「ぴーまん!」


 お祖父様の質問に、スプーンを高々とあげるもえちゃん。

 なぎ君は、野菜の中で唯一人参が苦手。

 食いしん坊なもえちゃんの方が苦手な野菜が多い。

 苦味のある野菜が駄目である。

 キュウリは丸ごと食べちゃうのに、アスパラガスは駄目。

 キャベツやレタスは大丈夫なのに、ほうれん草は言わないと食べない。

 二人ともクッキーにすると、食べちゃうのに不思議だ。


「んちょ、なしゅちょ、かりかりふりゃわーも、いや」


 もえちゃん。

 カリフラワーだから。


「ブロッコリーも駄目よね」

「あい」


 元気よくお返事しても駄目よ。

 付け合わせの温野菜には、しっかりとブロッコリーが入っている。

 食べ残しはママがダメダメするからね。


「もえは、偏食気味だな。琴子も食べれない野菜が多かったからな。遺伝したか」


 うぐ。

 それを言われちゃうと、甘くならざるをえなくなってしまう。

 いまだに、茄子とイクラは食べれないママである。

 食感がね。

 どうしても、駄目なのよ。


「ママも、なしゅ、ダメダメよ」

「あい。ダメダメよ」

「琴子」


 はは。

 宣言されちゃった。

 よく見ている双子ちゃんだ。

 お義母様には、茄子は嫁に食わすなと言うし、と見逃して貰っている。

 お義姉さんも、美味しく料理をしてくれるのだけど、ダメダメなのよね。

 代わりに、なぎ君と和威さんに食べて貰っているママと娘だ。


「なぁくん。なしゅ、ちゃべれりゅよ」

「あい。なぁくん、しゅぎょいにょ」

「そうか、なぎは偉いなぁ。拓磨も、ピーマンは苦手だな。恵梨奈は、キュウリが苦手だ」

「うっ。で、でも、小さくしてくれるなら、食べれますわ」

「おれも~」


 お子様の野菜嫌いは、何処の家庭でも悩みは同じかな。

 あの手この手で、食べて貰おうと秘策を練る。

 その点、我が家は人参以外は食べれるなぎ君がお手本に、なってくれている。

 食わずぎらいにはならないけど、二口目はどうしても手がでない。

 なぎ君にあーんされて、漸く口を開ける。

 涙目でゴクンとすると、過剰な位に誉められる。

 笑顔がでると、誉めるなぎ君も笑う。

 可愛いお子達だ。

 自然と私もにこにこになる。

 和威さんは、私が笑うから双子ちゃんは我慢して食べるのだと言う。

 誉めて誉めてと、にこにこになるのだとか。

 ならば、沢山誉めてあげよう。


「なぎ君。人参さん、よく食べれたね」

「あい」

「もえちゃん。ブロッコリー、食べれたね」

「あい」


 誉めると、撫でてと頭を傾けてくる。

 宜しい。

 満足いくまで、撫でてあげるよ。

 パパもいたら、笑顔で良かったね、してくれるはずだ。


「ママは、なしゅしゃん、ちゃべちゃ?」

「残念。ママのご飯に茄子はなかったの」

「なぁくん。ママ、なでなで、しちゃ、きゃっちゃ」

「もぅたんも」


 私の茄子嫌いは周知されているので、はじめから提供はされていないのだ。

 それを、知らないなぎともえは、残念と訴える。

 ごめんね。

 ママは、本当に茄子が駄目なのだよ。

 給仕を終えた喜代さんが、双子ちゃんの食べれない野菜をメモしてくれる。

 次回からは、食べやすい大きさにしてくれるだろうね。

 もしくは、私みたいに最初から出さないかだな。


「じぃじの膳には茄子があるぞ。食べるか、琴子」


 悪戯好きなお祖父様が、漬物の小鉢を差し出す。

 遠慮したいところだけど、胡桃ちゃんのお子達も見ている。

 これは、食べないとかな。


「ひいじぃじ、なぁくんぎゃ、ちゅべりゅきゃりゃ、きゃんべんしちぇ、くぅしゃい」

「おや、なぎはママ想いだな」


 なぎ君。

 ママ嬉しいなぁ。

 ふんす、と意気込んでなぎ君は小鉢を受け取る。


「パパぎゃね。ママは、なしゅしゃん、ちゃべりゅちょ、かいかいに、なっちゃうにょ、おしえちぇ、くえちゃにょ。じゃきゃりゃ、なぁくん、ママ、まみゅりゅにょよ」


 おおう。

 何てママ想いな、なぎ君だ。

 男前だなあ。

 惚れ惚れしちゃう。

 漬物を迷いなく、食べていく。

 和威さんも、色々となぎ君に仕込んでいるなぁ。

 幼児に守られてどうするよ。


「なぁくん。あーん」

「もぅたん、いいにょ?」

「あい。もぅたんも、ママ、まみゅりゅにょよ」

「あい、あーん」


 なぎ君は小さめな漬物を選んで、もえちゃんの口にいれた。

 妹想いでもあるし、もえちゃんもママ想いで、泣けてくる。


「これは、じぃじの負けだな。意地悪したなあ」

「と、言うより。なぎともえの、ママ想いが炸裂したな。恵梨奈と拓磨は、私の嫌いな椎茸は食べてくれない」

「だって、ママの嫌いな椎茸は、私も嫌いなんですもの」

「うん。おれも、きのこはにがてだ」


 胡桃ちゃんが、拗ねてしまった。

 うちと違い、胡桃ちゃん一家は、三人ともに茸類が駄目みたい。

 拓磨君は、舌を出して嫌がっている。


「給食は我慢して食べていますわ」

「そうだ。がまんして、たべてる」

「うん。それは、偉いな」


 恵梨奈ちゃんと拓磨君を、胡桃ちゃんは誉めている。

 私達の前だからか撫でてはいないけど、二人は誉められて満足気でいる。

 きっと、三人だけになったら、充分に甘えるのだろうな。

 私も、負けじと甘やかそう。


ブックマーク登録ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ