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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
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その37

 俄に信じがたい和威さんの言葉に、暫しフリーズ。

 我が家が狙われた。

 その事実を受けいれがたいまま、兄に電話する。

 深夜といった時間帯を気にしてはいなかった。


『……妹よ。何時だと思っている』

「ごめん、兄。和威さんの指示なのよ。つい、さっき駐車場が爆発したの」

『はあ? おい、寝惚けているのか? 和威君に代われ』

「はい」


 私も、混乱しているみたいだ。

 爆発したのは、車だ。

 素直に、スマホを和威さんに渡した。

 和威さんは、神妙な面持ちを崩してはいない。

 すぐに、事実を話し出した。


「「ママぁ」」


 なぎともえが、抱き付いてくる。

 司郎君とワンコとお喋りしていたのでは、なかったかな。

 揺ったりと身体を預けてくるから、眠くなってきたのかも。

 深夜だしね。


「なぎ君、もえちゃん。おねむかな」

「「あい。ねんね、しちゃい」」


 可愛らしく欠伸が漏れる。

 両側から抱き付かれているので、彩月さんの荷作りを手伝えない。

 見ているだけ。


 わふ。


「なぎ様、もえ様、いちが一緒にねんねしようと伝えていますよ」

「うにゅ。わんわも、ねんね?」

「いち、ねんね、しゅりゅ?」

「はい。お二人と一緒にねんねしましょう」


 司郎君の指示でいちが、寝転んだ。

 もえちゃんが先ずいちに近寄り、隣に寝転ぶ。

 その隣になぎ君が、並ぶ。

 安心させる為に、お腹と背中をぽんぽん叩いてあげる。

 火災報知器は鳴りやんだけど周りが慌ただしい中で、眠気が勝ったのかすぐに寝息を立て始めた。

 でも、もえちゃんは消防車の音に敏感になり、親指をしゃぶりはじめている。

 これは、ストレスが掛かっている予兆でもある。

 大好きなワンコと、頼れるパパがいても、不安に感じているのだろう。

 隣に眠るなぎ君の手を握り締めていた。

 なぎ君ももえちゃんの不安を感じているのか、小さな手で頭や背中を撫でている。


「安心してねんねしてください。なぎ様ともえ様の側には、頼れるパパと暖かいママがおりますよ」

「「……ぁぃ」」


 司郎君の言葉に頷いている双子ちゃん。

 ぐづついてねんね出来ないと思った私の予想は、大きく外れた。

 次第に深くねんねしていく。

 いちが、交互に舐めてくれるのも、安心を誘ったのかもしれない。

 あいむかいに姿勢を変えて、眠ってくれた。

 よし。

 双子ちゃんは司郎君とワンコにお任せして、荷作りを手伝おう。


「ママは、荷作りするからね。側には司郎君といちが、いるからね。パパも側で、お電話しているから、淋しくないからね」


 声を掛けないと、また起き出してしまいかねない。

 司郎君にぽんぽん叩いて貰うのを替わってもらい、寝室に戻る。

 衣服や、下着は自分で用意したい。

 実家に居候した時の鞄に、詰め込んでいく。

 まあ、朝霧の家には椿伯母さんが同居しているから、双子ちゃんの衣服には困らないだろう。

 お祖父様も、機嫌良く爆買いしそうだ。

 玩具は、いらないな。

 動物園で買ったばかりのぬいぐるみだけで、いいか。

 お気にいりの絵本を数冊入れておこうかな。

 後は、なんて考えながら用意していくと、かなりの分量になった。


「琴子、奏太さんが迎えに来てくれる事になった。万が一を鑑みて朝霧家から、ガードを手配してくれる」


 リビングに鞄を運んだら、大層なことになっていた。

 これ、お祖父様にも話がいったな。

 兄も、事故ではなく事件だと認識した様子だ。

 深夜にも関わらず、マンションまで来ると言うし。

 それに、ボディガードを手配してくれる。

 きっと、顔馴染の沖田さんかな。

 ご苦労様である。


「和威さん」

「ん? 何だ」

「和威さんは、どうして、私達が狙われたと判断したの」


 気になったので、聴いてみた。

 和威さんが、関係各所にGOサインを出した途端の出来ごとだ。

 昨日はいろいろ有りすぎた。

 何処が発端になったのだろう。


「ああ。雅兄貴には悪いが、子会社の社長一家を叩き潰した。あそこの一家には、悪どい噂があったからな、峰に探らせた」

「峰君にあまり、危ないことさせたら駄目じゃないの」

「峰の情報収集能力を侮るなよ。嬉々として、集めてくれたぞ」


 私の中で峰君の印象が変わりそうだ。

 峰君は、一見優男に見えるが、合気道や柔道の有段者である。

 それでいて、機械関係にも強い。

 電導の玩具は簡単に修理してくれる。


「まさか、盗聴とかしてないでしょうね」

「どうだろうな」


 こら。

 顔をそらすでない。

 和威さんが指示しないと、やらないでしょうが。

 もう。


「で、悪どい一家に何をしたの?」

「知り合いの筆頭株主に、愚痴った。離婚を迫られ、ストーカー化して、子供たちを外で遊ばせられない、と」

「……筆頭株主って、何をしているかな」


 和威さんは、緒方商事創業者の血を引く。

 上流階級の友人も多くいる。

 中には、どこぞの御曹司だったり、自分で起業したり、トレーダーの方もいる。

 そういった、横の繋がりは私よりも深い。

 さぞ、皆様張り切っただろうな。

 昨日の今日だし。

 素早い対処だな。


「あれ? 緒方の子会社潰して良かったの?」

「子会社って言っても、緒方のじい様の縁でてこ入れしてただけだしな。今回、雅兄貴が副社長になったのも、立て直しを期待されたからだったしな」

「お義兄さんが、可哀相じゃないの。赴任したら、会社が潰されただなんて」

「その辺は、悪いと思ったさ。兄貴の経歴にけちをつけたのは。だけど、緒方の叔父にも、事実を話しているし、兄貴はまた本社に出戻りするさ」


 だろうけど、今一納得出来ないなにかがある。

 会社勤めしてない私が言うのも難があるけども、子会社の従業員のことも考えないとね。

 従業員にも、家族があるのだし。

 緒方が、再就職を斡旋しても罰が当たらないと思う。

 朝霧のお祖父様にも、一言伝えておこう。

 いや、楓伯父さんにかな。


「ん? 緒方の叔父からだ」


 和威さんの、スマホが鳴った。

 ナイスなタイミングである。

 コンシェルジュから、連絡いったのかな。

 このタワーマンションは、資産家が多く住んでいるから、その伝もあるかも。


「はい、和威です」

『和威君、大丈夫なのかい。琴子さんに、なぎ君ともえちゃんは無事かな』


 スピーカモードにして、私にも聴こえる様にしてくれた。

 義叔父様は、何を聴いたのだろう。

 我が家には、直接的な被害はない。

 双子ちゃんも、仲良く夢の中である。


「うちは、大丈夫です。駐車場の車が燃えているだけですが、ストーカー擬きの件もあるので、念の為に朝霧家に避難します」

『そうか、分かった。雑事は緒方に任せてくれればいい。雅博君の処にも末子がストーカーしているようだ。静馬君が、珍しく苦情めいた訴えをしてきた』

「うちも、子供たちを外で遊ばせられないです」

『うんうん。監視を頼んだ情報部から、報告を受けているよ。夜が明けたら、朝霧家と会合する。悪戯っ子達には、手を引くように伝えておきなさい』


 ほら、忠告されちゃった。

 和威さんの眉間に皺がよる。

 視線が泳いでいる。

 これは悪戯っ子の中には和威さんも、入っているな。

 さすがは、大企業の会長だ。

 甥の動向を把握しておられた。


『まあ、今回は発端が緒方家だから、兎や角言わないが、あまり年寄り達を振り回すものじゃないぞ』

「はい。すみませんが、よろしくお願いします」

『兄さんや、雅博君のお小言はきちんと聴くんだぞ。和威君が、無茶をしないか心配をしていたからな』

「はい」

『なぎ君ともえのちゃん声を聴いて安心したいが、流石に夢のなかだろうな。また、落ち着いたら遊びにおいで。ではな』


 義叔父様は笑って電話を切られた。

 一件の後始末は任せてしまって良いと、言われたね。

 悪戯っ子にも苦言があったからか、和威さんは溜め息を吐き出した。

 本格的に緒方家が動き出したから、安全は約束されたかな。

 でも、まだ不安はある。

 逆恨みでもされて、なぎともえが標的にならないとも限らない。

 暫くは、朝霧家で守られていよう。


「和威様、武藤家のご一家が参られました」


 ほえ。

 ご一家ですと。

 兄だけではなかったかな。

 峰君に案内されて、父、母、兄が静かに入ってきた。


「琴子。なぎ君ともえちゃんは、無事なのかい」

「そうよ。おちびちゃん達は、何処にいるの」


 父、母。

 落ち着こう。

 双子ちゃんが、起きてしまうがな。

 案の定、ねんねの邪魔されたワンコが身動きしたからか、もえちゃんの目が覚めた。


「うー。だあれ? もぅたん、ねんね、できにゃいよ」

「ああ、良かった。もえちゃん。ばぁばよ。お顔見せて頂戴な」

「ばぁば? もぅたん、ねんね、しちゃい」


 母の混乱振りは滅多にみない。

 兄よ。

 一体、どんな説明をした。

 母は、嫌がるもえちゃんを見事に無視して、抱き締める。

 父は、と見ると。

 此方は、まだねんねしているなぎ君の頭を撫でていた。

 無事を確認して安堵したようだ。


「うにゅ。じぃじ。にゃあに」

「ああ、起こしてしまったね。じぃじは、火事があったと聴いて心配をしたんだよ」

「かじ? ウーウー、カンカンにょ、かじ? おうち、かじにゃいよ」

「うん。でも、近くで起きたのだろう。泣いていないか心配をしたんだよ」


 父も、僅かに混乱しているな。

 なぎ君も起きてしまった。

 兄が片手を済まんと立てている。

 兄よ。

 ほんとに何て説明をした。

 もしかしたら、私達の硫酸事件を思い出させているのか。

 私も、双子ちゃんも怪我ひとつないぞ。


「父、母。寝ている子供たちを起こさないでよ」

「だって、火事は二度も起きたし。今度は、身近で爆発したのよね。心配をするじゃないの」

「そうだよ、琴子。無事だと分かっていても、じかに見ていないと不安になるものだよ」


 母、抱き締める力を緩めてあげて。

 もえちゃんが苦しがっているから。

 父、この世の終わり何て顔してなぎ君を抱き起こさないの。

 双子ちゃんは、どうしていいか分かってないから。

 眠っていたのを起こされて、不満顔だから。


 わんわん。


 ほら、いちが吠えて、助けだそうとし始めた。

 母の腕を甘噛みして、もえちゃんを苦しめる原因を取り除こうとしている


「いち。止めろ。噛んだら駄目だ」


 慌てて司郎君がいちの口に手をいれた。

 司郎君に怒られて甘噛みは止めたいちだけど、視線はもえちゃんとなぎ君をうろうろしている。


「申し訳ございません」

「わんわぁ」

「あら、いいのよ。もえちゃんを心配したのよね」

「そうよ。司郎君が謝る必要はないわ。もえちゃんを起こした母が悪いのだから」


 平伏する司郎君は悪くない。

 勿論、いちも。

 悪いのは母だ。

 母は動物アレルギーだが、動物嫌いではない。

 鼻を無図痒い素振りを見せて、笑顔を見せている。

 母の腕を抜け出したもえちゃんは、いちに飛び付いた。

 若干涙目である。

 本当に、何をしに来たのか。

 心配をするのは分かるけど、家に来なくても良かったのに。

 緒方の叔父様を見習って、電話すれば良かったのに。

 睨みつけるが、何処吹く風である。

 マイペースな両親に頭が痛んだ。

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