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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
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その36

 深夜にふと目が覚めた。

 時間を見ると、午前2時過ぎ。

 あれ?

 お風呂のスイッチ消したかな。

 最後に入浴したのは私だ。

 それが、鈍い頭をよぎる。

 確認をしてこなければ。

 胸元に抱き付くなぎ君の手を離して、隣に眠るもえちゃんの手を添えた。

 もえちゃんの横には和威さんが、眠る。

 変則的な川の字である。

 いや、双子ちゃんを真ん中にしないと、ベッドから落ちちゃうからね。

 なぎ君はましだけど、もえちゃんの寝相は悪い。

 乳児期から、柵がないとベビーベッドから落ちかけるわ、隙間に挟まるわで、困ったちゃんなのである。

 でも、なぜかは知らないけど。

 私の隣に眠らせると、静かに眠るのだよね。

 大概が、和威さんが被害に遇っている。

 うーん。

 不思議だ。

 お腹にいた頃から、余り蹴らない子だった。

 ママには優しいお子様達である。

 いかん。

 和んでいる場合ではない。

 確認をしなくては。

 ベッドを静かに抜け出す。

 喉が渇いているので、先にお水でも飲もう。

 キッチン経由でお風呂場に行く。

 うん。

 やっぱり、スイッチ消してなかった。

 大反省する。

 今日はいろいろあり過ぎた。

 キッズルームでは、なぎ君の意外な一面を見た。

 少々、言葉は荒かったけど、立派なお兄ちゃん振りだった。

 しかし、もえちゃんを苛めるお子様には、容赦しない素振りに一抹の不安も出てくる。

 保育園なり、幼稚園なりに入所すると、二人だけの世界ではいられなくなる。

 キッズルームでお友達を作らずに、二人だけで遊ぶ姿には考えさせられる。

 将来の親友が作れるのかな。

 ママは、心配だ。

 まあ、これからだよね。

 問題行動をしている親とお子様には天罰が降ったから、段々と慣れさせていけばいいか。

 今日も、キッズルームに遊びにいかせよう。

 和威さんも、お仕事しないといけないし。

 静かに熱中して貰う時間も必要だよね。

 キッズルームに彩月さんが、入れないのは痛いけど。

 何とかなるでしょう。

 次に、極妻擬きの母登場には驚いた。

 よく、誕生日会に入れたよね。

 会場で喧嘩が勃発していたそうだし、警察沙汰になってしまった。

 売買された朝霧コレクションの、今後が気になる。

 結局、高浜さんの息子は窃盗罪で逮捕された。

 問題の売買された品は警察に押収されて、司法の判断待ちとなった。

 お師匠さんは、善意の第三者を訴えているご様子だが、朝霧コレクションと知って購入していたら、それが通じるかどうかだ。

 お祖父様は、お怒りで高浜さんの元から全品を取り戻した。

 信頼していただけに、反感も重い。

 一度、お祖父様宅に伺いに行こうと、和威さんが提案した。

 曾孫の癒しで、お怒りを鎮めて貰う作戦だ。

 お祖母様が入院されているのに、お祖父様まで倒れたりしたら大変だ。

 人身御供でなんだけど、なぎともえには頑張って貰うしかない。

 方針が決まれば、さっさと寝ましょう。

 序でに、ガスの元栓も確認し直して、部屋に戻るかな。

 踵を返すと、微かな声が聴こえてくる。

 ん?

 誰かいる?

 リビングから、何か聴こえてきた。


「……ママ~。どきょに、いりゅにょ~」


 泣き声だ。

 あれ?

 起きてしまった?

 慌ててリビングに行くと、暗い中でなぎ君の背中が見えた。


「ママぁ~」

「はい。なぎ君、どうしたの? ママ、ここよ」

「ママ~」


 灯りをつけて声をかけると、反転して両手を広げて駆け寄ってきた。

 泣いていたせいか、眩しさにくらんだか、数歩で転んだ。


「うわ~ん」


 なぎ君にしては、珍しく起き上がらず激しく泣きだした。

 何が起きたのかな。

 ママ、びっくりだ。

 あかん。

 戸惑っている場合ではない。

 慌ててしゃがみこみ、なぎ君を抱き上げる。


「どうしたの? ママここにいるわよ」

「……ママ~」

「うん。なぎ君の側にいるでしょう?」


 泣き止ます為に、ぽんぽんと背中を叩く。

 いつにない力で抱き付かれた。

 おおう。

 なぎ君の本気な泣きかたに、新鮮さを覚えた。

 感情豊かなもえちゃんは、泣きかたも派手だ。

 対して、なぎ君は静かに泣く。

 ここまで、大きく泣かない。

 わんわんと、耳元に泣き声が響く。

 顔を歪めて必死にしがみついてくる。

 何が悲しいのかな。

 床に座るのもなんだし、ソファに移動した。

 序でに、ティッシュペーパーも側に置く。

 涙と鼻水にまみれた顔をティッシュペーパーで拭いてみる。


「ママ~」

「はい、なあに。ママ、いるよ」

「ひっく、ねんね、しちぇちゃりゃ、ママにょ、とくんとくん、ききょえにゃきゅ、にゃっちゃ。ひっく、おっき、しちゃりゃ、ママ、いにゃい」

「そっか、ママいなくて寂しくなっちゃったのね」

「ひっく、あい。ひっく、ママ、いにゃいきゃりゃ、ここに、きちゃ」


 ああ。

 まさか、お風呂場にいるとは分からないから、リビングにママがいなくて泣いていたのか。

 和威さんともえちゃんがいたから、声をかけなかったのが、失敗した。

 私も、なぎ君が起きるとは思いもしないでいた。

 やらかしたな、私。

 ねんねの途中で起き出すのは、もえちゃんだけではなかった。

 なぎ君も、起きていたな。


「ごめんね。ママ、お風呂場にいたのよ」

「おふりょ、にゃんで?」

「うん。お風呂のスイッチ消し忘れていたの。ママ、失敗したのよ」


 なるべく、伝わり易い言葉を選んで説明する。

 こつんと、顔をあげたなぎ君の額に額を合わせた。

 大分、涙が薄れてきたな。


「ママ。しっぴゃい」

「そうよ。パパに知られたら、怒られちゃう。内緒にしてね」

「ないちょ、あい」


 怒られはしないだろうが、注意はされる。

 少し、おどけてみた。

 内緒と聴いて、なぎ君が小指を出す。

 私も、小指を出して絡める。

 定番の歌を歌い、指きりする。

 頬を撫でると、笑顔を見せてくれた。

 一安心だ。

 でも、なぎ君の顔がまた歪んだ。


「どうしたの? まだ、悲しい?」

「ちあうの。なぁくん、おちり、いちゃい」

「お尻? どうして、痛いのかな。暗かったから、何処かでぶつけた?」

「ちあう。ベッドきゃりゃ、おんりしちゃ」


 ベッドから、降りてお尻を打った?

 はっ。

 もしや、なぎ君はベッドから一人で降りたのか。

 和威さんが降ろしたのではなかった。

 てっきり、そう思っていた。

 前々から、ベッドではしゃいで遊ぶ双子ちゃんに、高さがある場所で一人で降りたりしないと、約束させていた。


「なぎ君は、一人でおんりしたの? パパに降ろして貰わなかったのね」

「あい。パパ、ねんね、しちぇ、おっき、しにゃい。なぁくん、ひちょりで、おんり、しちゃ」


 あらま。

 パパ、起きてはくれなかったか。

 それで、ママもいないし、パパも起きないから、余計に悲嘆にくれたのか。

 大抵は、リビングで過ごしているので、ママはいると思っていたのだろう。

 それが、いなかった。

 なぎ君にしては、一人で行動したのは初めての大冒険だっただけに、焦ってしまったね。

 お家の中で、迷子になった気分だったのだろうな。

 落ち着いて考えれば、廊下からお風呂場の電気が点いているのが見えただろうに。

 テンパっちゃったね。


「ママ、おちり、いちゃい」

「うん。ママに見せてね」

「あい」


 パジャマのズボンとおむつを避けて、見てみれば赤くなっていた。

 どうしようかな。

 湿布を貼った方が良いのかな。

 でも、独特な匂いが嫌いだしな。

 彩月さんに、聴いて見ようか。

 でも、深夜だしな。

 悩んでいたら、何処かで大きな爆発音が響いてきた。

 余波で窓ガラスが、揺れる。

 そして、火災報知器が鳴った。


「な、何事?」

「ママ~。とりしゃん、わりゅい、ひちょに、おしおき、だっちぇ」

「はい? とりさん?」


 咄嗟に抱き締めたなぎ君が、腕の中で鳥を指差した。

 深夜の静寂に、いきなり響いた爆発音に驚いた私を、なぎ君は呑気に見上げている。

 君、さっきまで泣いていたよね。

 なんで、ママより冷静かな。


「琴子、なぎは、いるか」

「和威さん、いるわ」

「ママ~、なぁく~ん」

「あい、もぅたん。なぁくん、いましゅよ」


 和威さんも、さすがに起きてきた。

 腕にはもえちゃんが、しっかりと抱かれている。

 なぎ君を認識したもえちゃんが暴れて腕の中から降り、なぎ君も私の腕から脱出して突進するもえちゃんを受け止める。

 和威さんはカーテンを開けて、外の様子を伺う。


「なぁくん」

「あい、もぅたん。だいじょぶよ。パパちょ、ママちょ、なぁくん、いりゅ、きゃりゃね」


 なぎ君はもえちゃんの泣き顔に、一瞬で自分の弱さを隠した。

 お兄ちゃん振りを、見せている。

 あんなに泣いていたのが、嘘の様に鳴りを潜めた。

 少し、不安になるなあ。

 なぎ君は、もえちゃんの前だと良きお兄ちゃんになってしまう。

 甘えるのが下手と言うだけではなく、もえちゃんを優先してしまうのか。

 うん。

 理解した。

 さっきの様に、たまにはなぎ君を優先して甘やかそう。

 でないと、なぎ君が潰れやしないか不安だ。

 抱き締めあう双子ちゃんを、更に抱き締めた。


「「ママ~」」

「琴子、駐車場で火事だ」

「火事? なぎ君が、鳥さんがお仕置きした、と言っていたわ」

「鳥? 香炉の鳳凰の事か」

「多分だけど、そうみたい」


 次第に消防車のサイレンまで聴こえてきた。

 深夜だけによく響く。

 マンションの駐車場は、二ヶ所ある。

 地下駐車場と、広い屋外駐車場だ。

 恐らく、屋外駐車場で車が燃えているらしい。


「琴子、万が一を考えて避難するぞ」


 険しい表情で和威さんは、スマホを手に彩月さんに指示をだす。

 避難かぁ。

 またもや、武藤家にプチお引っ越しか。

 父、母が喜ぶな。


「失礼致します。彩月でございます」

「峰です。司郎、いちもおります」


 我が家の万能家人の皆さんが、合鍵で入ってきた。

 素早いな。

 ちゃんと、普段着に着替えている。


「わんわ~」

「さあたん、みーくん、ろうくん。おっきにゃ、おちょ、しちゃね」

「はい。なぎ様もえ様が泣いておられないので、安心致しました」

「んちょね、とりしゃんぎゃ、わりゅい、ひちょに、おしおき、しちゃにょ。わりゅいひちょ、おうちを、ねりゅうにょ。ねりゅうっちぇ、なあに」

「なぎ、そのなあには、後でな。彩月は、荷作りを手伝え。納戸に厄介な品を仕舞っている。峰は、情報収集にあたれ。司郎といちは、子守りを頼む」

「「「 畏まりました」」」


 和威さんの指示に、三人は異口同音で返し、其其の役に就いた。

 彩月さんは納戸を開けて今日舞い込んできた品々をだす。

 峰君は玄関を出ていき駐車場に向かう。

 司郎君は子守り。


「琴子。こんな時間に悪いが、奏太さんに連絡してくれ」

「あっ、うん。武藤家に行くの?」

「いや。行くのは朝霧家だ。其方の方がセキュリティが高い」

「朝霧家? 武藤家ではなく?」

「ああ。なぎの話を信じるなら、一刻も早く安全な場所に移動したい」

「なんか、大袈裟過ぎない」

「琴子。爆発音は駐車場からした」

「うん。そうね」

「鳳凰がお仕置きだと断じたのなら、狙われたのは俺達だ」


 は?

 えっ?

 ちょっと待って。

 なんか、思考力が追い付いていかない。

 狙われたのは、うち。

 何故に?

 和威さんの言葉に、疑問符ばかりが跳ぶ。

 この時はまだ楽観視していた。

 我が家を狙う輩が本当にいるなんて、信じてはなかった。



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