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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
32/180

その31

 有閑マダムを撃退して、お家に帰って参りました。

 なぎ君はプンスカとお冠。

 賢いなぎ君は小学生に言われた内容を、理解しているのだろう。

 もえちゃんは、あっけらかんとしていたけど、家に入るなりわんこに抱きついた。


「どうなさいました? もえ様。いちは何処にも行きませんよ」

「あにょね、ろうくん。もぅたん、いじわりゅ、いわれちゃにょ」


 留守番を任せていた司朗君は、早い帰宅に不思議がっていた。

 わんこをブラッシングしていたのを止めて、なぎともえの話に耳を傾けている。


「意地悪ですか?」

「あい。おんにゃじかお、きみぎゃ、わりゅいん、だっちぇ」

「パパにょ、わりゅぐちも、いっちぇちゃ、にょよ」

「それは、意地悪ですね」

「あい。でも、なぁくんが、おきょっちぇ、くえたにょ。きゃっこ、よきゃっちゃ、にょ」

「そうですか。なぎ様は頼れるお兄様ですね」


 司朗君に誉められて、双子ちゃんは笑顔で頷いている。

 もえちゃんはなぎ君が誉められて嬉しさ満載で、繋いでいる腕をブンブンと振っている。

 なぎ君も照れた様子で、司朗君に頬を撫でて貰っている。

 司朗君は双子ちゃんが、頭を撫でられる数少ない人だけど、無闇に触ろうとはしないでくれている。


 わふっ。


 いちまで、なぎともえを舐めだした。

 体重差があるので、尻もちをつく双子ちゃん。

 だけど、軽い衝撃なので笑っている。


「わんわ。いちゃいよ」

「いち、おみょい」


 双子ちゃんは両側から抱き付いて、動きを封じた。

 いちは尻尾を振っているので、構って貰っていると嬉しそうだ。

 交互に頭を双子ちゃんに、擦り付けている。


「意地悪なお子様が居らしたのは、抗議なさいますか」

「そうだな。本来はキッズルームには、幼稚園児までが入室出来るはずなに、小学生がいた。一応は、コンシェルジュに苦言しておくか」


 苦言の行き着く先は、緒方家傘下の不動産会社だろうな。

 朝霧グループとは揉めたくないからと、有耶無耶には出来ないぞ。

 此方は、緒方家の直系親族である。

 頭を下げなければいけないのは、和威さんにである。

 対応次第では、何人の首が飛ぶかな。


「畏まりました。彩月様に連絡致します」


 家人の序列は彩月さんが一番上になる。

 司朗君は直ぐ様に彩月さんに連絡をとった。

 徹底した上下関係は司朗君の為でもあった。

 司朗君は養子。

 血筋を尊ぶ篠宮家の親族の中には、外の血を見下しているきらいがある。

 司朗君を養子にした峰君のお父さんは親族の中でも、筆頭に連なるお家。

 そりゃあ、反対意見は山ほどあった。

 最終的に、司朗君はお家の名を戴くが、財産は放棄、家人の身分も下位の方、将来は独り立ちすると諸々の約束事をさせられている。

 けれども、我が家の双子ちゃんがお兄ちゃんと慕うわ、甘えるわで微妙に浮いてしまっている。

 危惧した和威さんと当主のお義兄さんは、司朗君は彩月さんの助手見習いと位置付けた。

 彩月さんのお家は医師の家系だから、独り立ちの後見となるには充分。

 司朗君は、自身の将来は医者か獣医師を目指している。

 拾われた恩を少しでも返す、健気な少年だ。

 地元の進学校に通っていなかったら、東京に連れてくる予定だった。

 もえちゃんがホームシックにかかって、無駄に終わっちゃったけど。

 そんな司朗君は無事に編入試験を終えて、来週から通学する。

 勿論、通う学校は進学校である。

 私と和威さんの母校だ。

 本当に、和威さんの周りの人は頭が良い人ばかりだ。

 遺伝が確かならなぎともえも、通えるかな。

 まだまだ、先な事だけど。


「失礼致します。彩月でございます」

「ああ。悪いな休憩時間に」

「いいえ。丁度暇を持て余しておりました」


 うん。

 お山と違い本家のお仕事を任せられないから、家人の皆さんは暇を持て余していた。

 我が家の無駄に広い余している部屋の掃除や、大物の洗濯等は手伝いをして貰ってはいる。

 たまに、食事の面倒を見て貰っているが。

 なにしろ、双子ちゃんはママのご飯がいいと、可愛い我が儘を言ってくれる。

 頻度は低い。

 峰君に至っては、買いだし担当位しかお仕事がない。

 いまは、あまり外出しないので、護衛は必要ないし。

 外に出た方が良いのかな。

 一度は、お山に帰るか打診してみた。

 答えは否だった。

 また、和威さんの留守中に何事か起きるか分からない。

 力仕事が出来る男手はあった方が良い。

 力説された。

 でもなぁ、お仕事が極端に減ったのは事実だし。

 和威さんは、どう思っているんだろう。

 後で、聴いてみよう。


「畏まりました。では、その様に手配致します」

「その件は任せた。俺は、俺でやり返す」

「はい。峰さんにも、周辺の巡回に気をつける様に致します」

「頼む」

「では、失礼致します。司朗君はなぎ様ともえ様の身の周りに注意していなさい」

「はい。彩月様」


 彩月さんが、一礼して出ていく。

 和威さんの指示に従い、コンシェルジュと話を詰めるのだろうな。

 コンシェルジュには、篠宮家がオーナーの身内だと知られている。

 朝霧グループの身内だと触れこんだ椿伯母さんの義妹とは、扱いが違うだろう。

 椿伯母さんも、ご立腹だったし。

 どんな尻ぬぐいをしてきたんだろう。

 きっと、追い出した住人に新しい住居を斡旋したのだろうな。

 敵に回してはいけない人達を怒らせたのには、

 少しだけ同情はする。

 和威さんは早速ノートパソコンを立ち上げて、有閑マダムの後楯となる家を潰しにかかっている。


「パパ、おいかりね~」

「あい。パパ、プンプンね~」

「なぎ様ともえ様を苛めたのです。和威様がお怒りになるのは、当然です」

「なぁくんも、おいかり~。もぅたん、いじめちゃ」

「もぅたんも、なにきゃ、しゅりゅ?」

「なぎ様ともえ様は、普段通りにお遊びになればいいのです」

「司朗君の言う通りよ。なぎ君ともえちゃんは、元気に遊ぶのがお仕事よ」

「「ママぁ」」


 側によるとなぎともえに抱き付かれた。

 パパの険呑な雰囲気に驚いているのかな。

 心配げに、いちが鳴いている。


「大丈夫。なあんにも、心配しないの。なぎ君ともえちゃんを意地悪したお兄さん達を、パパが懲らしめてくれるからね」

「ママを、いじめちゃ、おばしゃんも?」


 なぎ君に問われる。

 やっぱり、見ていたか。

 なぎ君の観察力は半端ないなぁ。


「ママに意地悪したおばさんは、椿伯母さんがガツンとしてくれたのよ。だから、安心してね」

「きぃちゃんが、やっつけちゃ、にょ?」

「そうよ」

「「きぃちゃん。つおい、しちゃ。ありあと、しゅりゅ」」

「じゃあ、椿伯母さんのお仕事が終わる時間に、もしもししようね」

「「あい」」


 そうそうと、緊急電話は出来ない。

 まあ、椿伯母さんはなぎともえに電話されたら、狂喜乱舞だろうけど。

 お仕事の邪魔は控えよう。

 行儀よくお返事したなぎともえ。

 では、おやつの準備をしようかな。


「お利口さんな、なぎ君ともえちゃんにお知らせです。今日のおやつはイチゴとバナナのパンケーキだよ」


 パンケーキ自体は昨日大量に焼いて冷凍したやつだけど。

 昨日はメープルシロップたっぷりな甘いパンケーキ。

 今日は、フルーツ乗せのパンケーキ。

 続いてしまうから、飽きちゃうかなと思った。

 けど、双子ちゃんは両手をあげて喜んだ。


「やっちゃあ。きょうも、ぱんけーき」

「いちごちょ、ばにゃにゃ」


 それはもう、跳び跳ねる勢いだ。

 釣られてわんこも跳び跳ねる。

 いちには、カットしたイチゴとバナナをあげようね。

 わんこと一緒の食事は序列を優先させる為に避けるべきである。

 誰かが言っていた。

 なので、朝晩の食事は司朗君があげている。

 おやつ時は多目に見て貰おう。


「おっ。ご機嫌だな」

「パパ。うりゅしゃあ?」

「おしぎょちよ、じゃま、しちゃあ?」


 パソコンに向かっていた和威さんの視線が、跳び跳ねる双子ちゃんプラスわんこにいく。

 ごめん。

 邪魔させたかな。

 ママ、反省。


「いや。邪魔じゃないぞ。それに、仕事ではないから、そんなにしょげるな」

「「ほんちょう? パパ、カシャカシャ、しちぇちゃよ」」

「本当だ。ほら、おいで」


 邪魔をしたと項垂れる双子ちゃんを、和威さんは膝に誘う。

 ノートパソコンを折り畳むが、なぎともえは不安な様子で手招きするパパに近付く。


「パパは、怒ってないぞ。カシャカシャしてたけど、仕事ではなく調べ物していただけだ」

「しりゃべ、もにょ?」

「うん。ママを苛めたおばさんの情報収集していたんだ」

「じょーほー、しゅーしゅ?」


 さすがに、なぎ君は疑問系だ。

 パパの膝上で首を傾げている。

 もえちゃんは、はなから思考放棄である。

 沸いた疑問は、なぎ君から聴くのが常習。

 うーん。

 幼児な今は可愛いから許されるが、学校になり通うとなぎ君に頼れなくなったら、どうするんだろうか。

 双子は同クラスにはなれないと聴いた気がする。

 ここは、私立学校に通わせて、寄付金を上乗せするかな。

 まだまだ、先の事だけど、幼稚園で慣れさせなくてはいけないかなぁ。


「パパ。じょーほー、しゅーしゅ、なあに?」


 あら。

 珍しくもえちゃんが聴いた。

 和威さんも驚いている。


「もえがパパに、なあには珍しいな」

「めっ、だあめ?」

「駄目じゃないぞ。いつもは、なぎがなあにをするから、驚いただけだぞ」

「う~。もぅたんも、なあに、しゅりゅもん」


 気分を損ねたもえちゃんが剥れた。

 イヤイヤに発展しないといいな。


「ごめんな、もえ。パパが悪かった」

「う~。パパ、しあない。ママぁ」


 軽く片手で抱き上げて頬ずりするパパを嫌がり、私に助けを求めるもえ。

 涙目で両手を伸ばす。

 あーあ。

 本格的に、泣き出す一歩手前だ。

 ごめんね。

 もえちゃん。

 ママも、驚いていたよ。


「ほら、和威さん。もえちゃんが嫌がっているわよ。もうじきに、泣き出すわよ」

「ママぁ~」

「ん? 最近のもえは泣き虫さんだな」


 和威さんの腕の中で身を捩るもえちゃんは、私を呼びながら両手を必死に伸ばしている。


「なきむししゃん、だもん。ママにょ、ときょに、いきちゃいにょ」

「ほら、手を離すぞ。転ばないようにな」


 やっと、パパの腕から逃れて、私に抱きつくもえちゃんの目は、涙混じりである。

 必死に捩っていたからか、息が荒い。

 胸元で、唸っている。


「泣かないの。パパは、遊んでくれたのよ。もえちゃんを意地悪したのではないからね」

「……ぁぃ」

「あー、琴子。すみません」


 からかいすぎな和威さんは、素直に頭を下げた。

 なぎの険呑な眼差しに、負けたとも言う。


「パパ、もぅたん、いじめちゃ、めっよ」

「そうだな、なぎ。本当に、ごめんなさい、だな」

「あい。もぅたん。パパ、めんしゃいよ」

「あい。どういちゃましちぇ」


 何故に、どういたしましてなのか、不思議だ。

 誰かの真似かな。

 でも、パパを許したのは分かる。

 イヤイヤ期のもえちゃんが、泣き出し易いのを忘れたパパが悪かったね。

 おやつで機嫌が直るか、どうか。

 和威さんめ。

 買い出しに行かせてやる。

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