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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
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その29

 夕飯前に兄がやって来た。

 なんと、里見さんと奧さんもやって来た。

 兄一人だと思い玄関を開けるなり、里見さんと奧さんに頭をさげられた。


「この度は、うちの姉妹がご迷惑おかけしました」

「すまない、篠宮」


 平身低頭。

 里見さんと奥さんは律儀に謝罪するのだけど、奥さんは実家と縁を切られたのだよね。

 謝罪する、理由にはなるか。

 うん。

 私もするな。


「頭を上げて下さい。先輩方には責任はないでしょう。子供たちの前です。真似しますから、それぐらいにしてください


 兄を出迎えようとしていた我が家の双子ちゃんは、ポカンと口を開けている。

 指さしてなあにをしないのは、空気を読んだかな。


「しょうくん。しゃちょみしゃん、なんで、めんしゃい?」

「わりゅいきょと、しりゃないょ」


 我に返るのが速いなぎ君が、兄の服を引っ張る。

 釣られて、もえちゃんも引っ張る。

 兄。

 大人気だな。

 お子様にも理解出来る解答をお願いいたします。


「今日は、パパとお散歩に行ったんだよな」

「あい。パパちょ、わんわちょ、いっちゃ」

「あにょね。わんわは、いちよ。おやまきゃりゃ、きちゃにょ」

「公園で恐いオバさんに会ったんだよな」

「「あい」」


 兄は双子ちゃんの目線に合わせて、メールの内容を聴いている。

 私と和威さんの二人からのメールに、兄は即返信してきた。

『すぐに寄る』

 とのことだった。

 まさか、お客様連れて来るとは。

 よく、里見さんの都合がついたと思う。


「その恐いオバさんと、お姉さんは姉妹なんだよ」

「しまい、なあに?」

「なぎともえは、兄妹だろう」

「あい。なぁくん。にぃに」

「もぅたん、いもーちょよ」

「男の子と女の子な兄妹な。お姉さんと妹が姉妹というんだ。分かったかな」

「「うにゅう?」」


 双子ちゃんは、首を傾げている。

 兄。

 その説明では分からないようだ。


「もし、なぎが女の子だったら、ねぇねになるのは分かるか?」

「あい。わきゃりゅ」

「もえは女の子だから、妹な」


 見兼ねた和威さんが口をだす。

 賢いなぎ君は、にぃにとねぇねの違いを理解した模様である。

 もえちゃんは、怪しいな。

 後で、なぎ君になあにをして、理解してね。


「女の子と女の子のきょうだいは、姉と妹で姉妹となるんだ」

「ねぇねちょ、いもーちょは、しまい?」

「そうだ。賢いな」

「おおう。なぁくん。えりゃい。もぅたん、わきゃん、にゃい」


 もえちゃんはなぎ君が理解したら、あっけらかんと思考を放棄した。

 里美さん夫妻がいなかったら、なあにをしてなぎに頼る気満々だ。

 いや。

 今なぎ君と手を繋いでいるから、密かに内緒話しているのかも。


「あちょで、もぅたんに、おしえちぇらあげりゅ」

「あい。おにぇぎゃしましゅ」


 していなかった。

 人前でなあには、封印か。

 余程、私の母が怖かったらしい。

 トラウマになっちゃったかな。


「きょわいおばしゃんちょ、おねぇしゃんは、しまい。ぢゃかりゃ、おねぇしゃんは、めんしゃい、にゃにょ」

「なぎは、賢いな。その通りだ」

「本当に賢い子だなぁ」

「ええ。驚いたわ」


 なぎ君は兄に誉められて笑顔になる。

 もえちゃんも何故か笑顔満面である。

 喜びを分ちあっているのだよね。

 握った手をブンブンと振っている。

 里見さん夫妻も、双子ちゃんの愛らしさに強張っていた緊張が解けた。


「妹よ。双子が理解したなら、上がらせて貰うぞ」

「兄よ。世帯主は和威さんだ」


 何時までも玄関口で会話は何だと思うが、私に許可をとるでない。

 言外に和威さんにとれと促す。

 しかし、兄は気にせず靴を脱いだ。


「あ、あの。私達は、これでお暇します。また、時間を見計らって、事前にご連絡致します」

「ああ。悪いとは思うが、これから彼女の実家に乗り込んで一戦やらかしてくる。先ずは、篠宮や琴子ちゃんに謝罪しないといけないと、取り急ぎ訪問させて貰った」

「お二人だけで、大丈夫なんですか」

「うんにゃ。朝霧家の顧問弁護士付きで、乗り込んで貰うんだ。楓伯父に話したら、快く派遣して貰えた」


 それは、快くなのか。

 朝霧家の顧問弁護士が出てきて、後楯はバッチリで安心出来るけど。

 双子ちゃんが迷惑被ったからか、伯父さんもお怒りかな。

 絶対にお祖父様まで、話がついてるな。

 和威さんも、弁護士に相談するかと思案していた。

 その場合、出てくるのは緒方家だ。

 不義理をしたのは和威さんの従兄弟だから、緒方家は攻勢にはでないだろう。

 何ら、関係がなかろうと思われる朝霧家が出てきて、驚くだろうな。

 下手をしたら、水無瀬家もでばってきそうだ。

 今日は、無礼な縁戚と行き当たりしたし、ご当主様には心配させてしまった。

 一度、ご機嫌伺いするべきかな。


「弁護士が間に入るなら、安心しました。ですが、無理はしないでくださいよ。武藤先輩との武勇伝は聴いています」

「今日は、自分より彼女の抑えに回るよ」

「ええ。本当は、うちの一家揃えて謝罪に来させたいのだけど。可愛いなぎ君ともえちゃんに、会わせたくはないわ。私の謝罪で赦してください」

「「あい。どういちゃましちぇ」」


 双子ちゃんは、自分の名前が出たからお辞儀をする。

 意味は分かっていないなりに、空気を読んだね。

 お利口さんだ。


「では、行くとしよう」

「また、絶対に伺います」

「はい。おもてなしもしなくて、すみません」


 私もお辞儀をして、夫妻を見送った。


「「ばいばい」」


 双子ちゃんは手を振ってお見送り。

 兄は、握り拳に親指を立ててエールを贈った。

 やめい。

 真似するがな。


「琴子。コーヒーくれ」

「だから、和威さんの了承を得なさいな」


 我が物顔で上がり込む兄に、和威さんは苦笑している。

 義理の兄だからといって、甘やかさないで欲しい。

 和威さんも、なにかお小言いってくださいな。


「しょうくん。おじゃしま、しゅは?」

「いわにゃいちょ、めっよ」


 ほら、なぎともえに叱られた。

 両足にしがみついて、歩みを止める。

 上目遣いで、めっと咎めた。


「おっと。そうだったな。お邪魔します、だな」

「「あい。どーじょ」」

「益々、琴子に似てくるな」

「それには、同感です」


 兄の前にスリッパをだす。

 何をいいますか。

 訪問の挨拶は、和威さんの両親の真似事だ。

 義祖母さんに、躾られているのだよ。


「しょうくん。ごはんちゅべりゅ? きょうは、はんばあぐ、にゃんだよ」

「もぅたん、ペチペチしちゃにょ」

「おっ。美味そうだな。招待ありがとさん。でも、ばぁばに、家で食べると言っちゃったよ。コーヒーだけで、勘弁な」

「きゃんべん、なあに」

「許して下さい。だよ」


 それぞれ、兄の手を繋いでリビングに案内する双子ちゃん。

 兄だけになり、なあにが復活。

 気になる単語がでてくると、すぐになあにが始まる。


「上がって良いと言ってないのになぁ」

「まあ、なぎともえがご機嫌だ。大目に見よう。俺にもコーヒーをくれ」

「了解しました」


 ドリップではなく、インスタントで勘弁して貰おう。

 ケトルに水を淹れてお湯を沸かす。

 なぎともえも、ジュースがいいかな。

 マグマグに林檎ジュースを淹れておく。


「夕飯前に悪かったな。丁度、里見から相談を受けている途中でメールがきた。彼女も、いたものだから、今すぐに乗り込むと意気ごまれて焦った」

「そうだったのですか。それは、悪い時間にメールしたみたいですね」

「まあ、時間の問題だったがな」


 もえちゃんは和威さんが、なぎ君は兄が膝の上に座らせる。

 双子ちゃんはおとなしく、神妙な面持ちで話に耳をそばだてている。

 分からない単語がでたら、なあにと聴いている。


「琴子の素性を探ろうと、武藤家を探偵が見張っていたな。序でに、俺の事も探ろうとしていたしな」

「そういえば、うちの固定電話に掛かって来ました。それも、調べられたものですかね」

「だろうな。相手は会社社長だ。その道の知り合いがいるんだろう」

「確かに、病院に向かう間に、変なつけ方をしている車が有りました。帰りにもいました」

「くりょいくぅま、ずっちょ、うしりょに、いちゃね」

「あい。へんにゃひちょ、にょっちぇた」


 片手を上げて意見するなぎともえ。

 バックミラーに映り込んでいたのかな。

 お湯が沸いたので、コーヒーを淹れていく。

 双子ちゃんのマグマグとカップを、トレーに乗せてリビングに。


「おっ。サンキュー」

「「あいあと、ママ」」

「ありがとう」


 配ると、各自にお礼を言われた。

 どういたしまして。

 和威さんの隣に座ると、兄が渋い表情を見せた。

 決して、コーヒーが不味い訳ではない。

 と、思う。


「富久から、連絡貰った。縁も所縁もない、不審者がナースステーションに現れたらしい」

「富久さんに、投げ飛ばれた縁戚ではなく?」

「違うな。警察を装い、近付いてきたそうだ。勿論、情報は漏らさないように徹底していたからな。ばあ様には知らせていない。が、一応はじい様が、警察に相談した。朝霧家の顧問弁護士がいたのは、その話もしていたからだ」

「悪事ではないから、相談なのね」

「そうだ。厳重注意がいいところだな」


 悩ましいな。

 後ろ暗いことはしてないのに、探られるなんて、いい気がしない。

 腹立つなぁ。


「弁護士曰く、琴子の処には直接被害があるから、被害届出してもいいそうだ。相手は、緒方家に瑕疵があると主張して、和威君の家庭を壊そうとしているからな。じい様も、容赦はしないと言っている」

「新婚の里見さん夫妻や、会社を立て直そうとしているお義兄さんには悪いけど。実害が起きる前に処断して欲しいわ」

「充分に実害あるだろ。今は安心して子供たちを外で遊ばせれない。セクハラ紛いな電話が掛かってくる。勘違い女が、女房面して離婚を迫る。実害だらけだ」


 和威さんは鬱憤が貯まり、一気に発言する。

 もえちゃんが驚いているよ。

 パパの顔を見上げている。


「因みに、電話は記録してあるか?」

「有るわ。面倒だから、電話線は引き抜いてあるけどね」

「そうか。で、被害届出すか?」

「ひぎゃいとうげ、なあに?」

「もぅたん、しぃよ。パパちょ、しょうくん、だいじにゃ、おはにゃしよ」

「あう」


 なぎ君に注意されて、両手で口を隠すもえちゃん。

 マグマグが転がるのを、和威さんがキャッチした。


「パパ、めんしゃい」

「うん。次は、マグマグをテーブルに置こうな」

「あい」


 素直に頷くもえちゃんだ。

 緊迫した雰囲気が和やかに、笑みがこぼれた。

 さすがは、お笑い担当。

 ママは、笑ってしまった。

 狙ってやったのではないので、兄も笑っている。

 なぎ君は身を乗り出して、もえちゃんの頭を撫でる。

 まだ、被害届を出さなくても良いかな。

 里見さんの一戦を待ってからでも、遅くはないと思った。

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