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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
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その3

 週明けの月曜日に和威さんは、熱烈なハグとチュウを双子にかまして出勤していきました。

 なぎともえはまだパパがお仕事に行く意味を理解していない。

 行ってらっしゃい、と言って見送ったにも関わらず、お昼にパパがいない現実を受け止めかねている。

 いつもなら、朝昼晩の三食ともに家族揃って食事をする篠宮家である。

 パパ不在に眉根が寄るなぎともえ。


「ママぁ。パパは、ぎょはん、いりゃないの?」

「パパ、おきゃいもの、おしょいねぇ」


 これである。

 お仕事だとあれほど教えたのになぁ。

 出勤前の週には、なにかと理由付けてパパのいない時間を体験させたのに、効果はなかったか。


「パパはお買い物ではなく、お仕事だから、帰って来るのは夜ご飯前かな」

「「うにゅっ。おしぎょちょ? にゃあに?」」

「なぎ君がの大好きなバナナと、もえちゃんが大好きなフルーツ牛乳をお買い物する時に、お金をお店の人に渡すでしょう」


 幼児には根気よく分かりやすく説明しないと駄目だ。

 これが難しくて仕方がない。

 どういう説明したら、双子ちゃんが納得してくれるのか、手探り状態だ。


「「あい」」


 お返事はしてくれるものの、まだ疑問符だらけな顔付きだね。


「そのお金はパパが、会社に行って働いたら貰えるの。お山のお家にいた時も、パパは会社に行ってたでしょう」


 週1だけど出勤していたのを思いだしたのか、首をぶんぶん振るわが子たち。

 目が回らないかな。


「今日はパパが会社に行ってお仕事してくる日なの。今日から毎日お仕事だから、お昼はパパいないの」

「おやちゅは、いっちょ?」

「よりゅ、ごはんは、パパ、かえっちぇ、くりゅ?」

「おやつは無理かな。夜ご飯には、帰ってくるかな」


 一応5時の退社予定らしいけど。

 懇親会と言う名の飲み会が無ければ、6時すぎには、帰ってこれるはず。

 ご飯を食べるのを忘れて、ママの言葉を精一杯理解しようとしているなぎともえ。

 まだ2歳なのにこの落ち着きっぷりは和威さん譲りかな。

 もっと我が儘になってもいいのに、ママ1人だけの時には、普段のやんちゃが鳴りを潜めてしまう。

 それどころか、私の一挙一動を監察している。

 カルガモの親子よろしく、後を付いて回る時もある。

 対面式のキッチンの陰に隠れようものなら、泣きながら大絶叫は確実だ。

 そんな試すようなこと出来ないけど。

 今すでに泣きそうである。

 お昼が終われば、お昼寝タイム、

 悩み事に眠気が勝てるか、ママは案じてもいます。

 カルガモ状態になったら、小さなお手伝い要員の誕生だけどね。


「パパ、いないの。ママも、びょーいんで、なぁくんちょ、もぅたん、おりゅしゅばん?」

「‼ おりゅしゅばん、いやぁ。もぅたん、いいきょに、しゅりゅかりゃあ‼」


 なぎ君の言葉にとうとう泣き出したもえちゃん。

 発言した当人も涙を貯めている。

 やはり、心細い思いしてたか。

 後で、和威さんにラインしておこう。

 今は、双子ちゃんを安心させないとね。


「ママは何処にも行かないから、安心してご飯たべようね。ママが、あーんしてあげる」


 今日のお昼はなぎ君のリクエストでオムライス。

 抱っこを強請るもえちゃんを膝に載せ、なぎ君の頭をなでる。

 ぐずつくもえは、しっかりとしがみついてくる。

 安心していいから。

 ママは一人でお出かけしないよ。

 ぐしゃぐしゃなお顔は拭こうね。

 病院とは火傷後の経過監察に行く時のことで、なぎともえは大抵お留守番だ。

 健康優良児な双子には検診以外病院に縁がない。

 逆に風邪でも貰ってきたら、と和威さんも心配してお義母さんに預けていた。

 毎回大泣きされて出ていくのだけど、毎回帰る頃には門の内側で泣きながら待っている。

 そんな姿を見たら愛しくて可哀相で、次回は連れて行こうかと話題に昇る。

 まぁ、実際は置いてきぼりにしちゃうのだろうけど。

 子供達の健康優先である。


「はい、あーん」

「「あーん」」


 順番にあーんで、オムライスを口の中にいれていく。

 素直に口を開けてくれるなぎともえ。

 苦手なニンジンも食べてくれて、ママは嬉しいぞ。

 甘えてくれているのか、苦手な野菜はあーんすると食べてくれる。

 食べ終わったら、過剰なくらい和威さんが誉める。


「ニンジンさん、ゴックンできたね。偉いぞ。ママは綺麗に食べてくれて嬉しい」


 ママも負けじと誉めてあげようね。

 ギュッ、と双子を抱き締める。

 割りと篠宮家はスキンシップが多い。

 誉める時は誉め、叱る時は叱る。

 男の子ばかり5人も育て上げたお義母さんの受け売りだ。


「「あい。ごちしょう、しゃまでしゅ」」


 ママに抱き締められながらも、きちんと両手を合わせて言えたね。

 お利口さんだ。

 食後のお茶を一気飲みにするのは、パパの真似と見た。

 むせやしないかと心配だけど、ぷはぁとするのが楽しいらしい。

 泣いた烏がもう笑っている。


「おてちゅだい、しましゅ」

「もぅたんも、しゅりゅ」


 椅子から降ろすと食べ終わった食器をシンクまで運んでくれる。

 落としても割れない様に子供達のお皿とコップはプラスチック製だ。


「では、お願いします」

「「あい。まかしゃえ、ました」」


 ちなみに、任されましたは、和威さんの口癖。

 手元だけでなく、足元も気にしてね。


「あぅ」


 あらら、珍しく慎重ななぎ君が転んでしまった。

 もえちゃんがビックリしている。

 お家の中だし怪我はなくて何よりだ。

 なぎ君は口を真一文字にして立ちあがり、散らばったお皿とコップを拾い、待機していた私にさしだす。


「はい、良くできました。泣かなかったね、いい子いい子」


 先程のもえにしてあげたギュッをしてあげると、泣くそぶりを見せずにこりと笑顔を見せるなぎ。

 本当に良い子である。

 もえちゃんだとまた泣き出している。

 もしかして、もえちゃんが泣いたからなぎ君まで泣いたら、ママが大変だと感じちゃったかな。

 それなら、和威さんに相談する案件だ。

 まだ、幼児なのだから我が儘言って甘えていいんだよ。

 いや、私が甘やかせばいいのか。

 よし、今日のおやつは豪華にいくとしよう。

 ふふん、待ってなさい。

 なぎともえ。

 ママ、頑張ってつくるからね。






『成る程なぁ。なぎはもえが感情的に爆発させると宥めに回るからなぁ。男女の違いかと思ってたが、甘え下手な処があったか』


 電話越しの和威さんもなぎ君をなにかしら気にしていたみたいだ。

 そのなぎともえはただ今お昼寝タイム。

 リビングのソファで仲良くお休み中だ。

 ラインを送ってみたら、ちょうど休憩時間ですぐに電話が掛かってきた。


「パパがいないから、余計に我慢しなくてはと思ってるのかなぁ」

『そうだな。環境変化にまだ慣れていないだけかもしれないが、それが大きそうだ。やはり、在宅に回るかな』


 和威さんの後ろで誰か喚いている。

 一緒に転勤になったというか、和威さんの腕を買って本社勤務を推薦した上司さんかな。

 見捨てるなとか、定時退社でいいからとか、騒いでいるのだけど。

 なにしたの、和威さん。

 部署は確か情報管理システム部でしたよね。

 あの兄と同様に早速弱味でも見つけましたか。


『奏太さんと一緒にするな。ただ大学の後輩が、ミスした問題点を解消してやっただけだ』


 残念ですが詳しいプログラミング言語は、魔法の呪文にしか聞こえないのだってば。

 英語とフランス語とイタリア語なら任せてちょうだい。

 和威さんはドイツ語と中国語が話せるから、いずれ海外旅行にでもいきますか。

 もえちゃんが狭い飛行機のなかが大丈夫ならばだけれども。

 その前に新幹線が先かな。

 なぎ君が興奮して熱を出さないかちょっと気になるかな。


『気になる様なら、彩月に相談してくれ。今日は定時で退社するから』

「はい、わかりました。気をつけて帰ってきてね」

『おぅ。じゃあな』


 背後の声が煩わしくなってきたので、電話を切る和威さん。

 休憩時間も終わりかな。


「「パパぁ」」


 寝言かな。

 それとも、電話の声でパパが帰ってきたと思ったかな。

 眠い目を擦り欠伸をしながら、起きようとするなぎともえ。


「パパはまだ帰ってきてないよ。もう少しねんねしていいからね」


 ねんねねんね、とお腹をリズムをとってぽんぽんすると、眠りについていく。

 お昼に眠っていないと晩ご飯の最中に眠くなり、パパとお風呂入れなくなってしまうぞ。

 そうなると、機嫌が悪くなるのはなぎともえだけでなく、和威さんも落ち込む。

 特にもえちゃんは女の子だから、いつまでパパと一緒に入ってくれるかわからない。

 思春期が始まるとパパをうざく感じちゃうのかなぁ。

 私も通った道である。

 なんだか、もえちゃんには当てはまらない気がする。

 このまま、パパママ大好きっ子に育ってほしい。

 勿論、なぎ君もだ。

 元気に健康ならママは文句は言わないぞ。

 よし、今のうちに洗濯物をとりこむかな。


「ママ、ベランダにいるからね。安心してねんねしていいからね」


 双子ちゃんの頬を撫でながら声を掛けておく。

 そうしておかないと大変な事が起きる。

 眠っているからと油断していると、飛び起きて寝ぼけ眼で網戸に突撃されかねない。

 実際もえちゃんがやらかした。

 女の子なのにと和威さんが嘆いたほど、顔に盛大な網目模様をつけてしまった。

 もえちゃんは我が家のお笑い要員だと思うぐらい逸話を残しているけど、逆に考えるとなぎ君以上に繊細なのだと思う。

 感情表現の浮き沈みが激しいから、今回の転勤には消極的にならざるをえなかった。

 和威さんに泣き落しされて一家でお引っ越ししたのだけど。

 いつ、お山に帰りたいと言い出さないか、気が気でなくて仕方がない。

 そのときは、和威さんに責任をとって納得させて貰おうと思う。

 なにせ、双子ちゃんのうるうるお目目の上目遣いに負けた私である。

 反対は出来ない。

 和威さん、頑張って説明してくださいな。


「あら。一雨来そうな雲がいる」


 視界の端に雨雲が見えてきた。

 和威さん、傘持って行ったかな。

 昨今気象の変化が激しいから折り畳み傘は手離してなかったはず。

 和威さんは体力作りの為自転車通勤をしている。

 都心の道に慣れてないので、渋滞に嵌まるのを危惧したともいう。

 いや、でも和威さんは東京で免許取ったはずだよね。

 あの人高校から大学まで東京だったはず。

 裏道とか知ってるよね。

 帰ってきたら、問いただしてみようっと。

 今は急いで洗濯物を取り入れないと。

 また網戸に突撃は勘弁してほしいなぁ。

 ママは切に願います。


前話の兄はそうたと読みます。

双子は、そうが言えなくてしょーくんになっております。


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