その28
「「たあいまぁ」」
元気な声が玄関に響いた。
パパとのお散歩からの、帰宅に喜びが溢れている。
「はい、おかえり。今日も公園で遊んで来たの?」
丁度、洗濯物を洗濯機から取り出しているところだった。
洗面所に双子ちゃんが、飛び込んできた。
「「ママ。はっけ~ん」」
にこにこと笑顔満載である。
機嫌が良くて何よりだ。
あら?
いちがいないよ。
我が家のワンコは何処かな。
「いちは、何処にいるのかな」
「わんわはねぇ、びょーいん、つれていきゅにょよ」
「病院? 怪我でもしたのかな」
「いや。久しぶりの散歩で体力が尽きた。念の為に、動物病院に行かせた」
和威さんが手洗いを促して、追加した。
そういえば、痩せていたね。
大好きな双子ちゃんに会えて、体調を崩したのか。
お留守番させていた方が良かったね。
でも、もえちゃんが笑顔だから、たいした出来事ではないのかも。
悲観していないから、重大性はないのかな。
「いちねぇ。ぶんぶんしっぽ、ふっちぇ、いちゃにょに、ありゅけにゃきゅ、なっちゃった」
「あら、心配ね」
「ろうくん、わらっちぇらいちゃよ」
「いち。はりきり、しゅぎ、にゃんだっちぇ」
うーん。
本調子でないのに走り回り、足にきたのが正しいのか。
入院するまでもなく、お家で安静かな。
双子ちゃんが、親身になってお世話しそうだ。
なぎともえは手洗いうがいを終わらせ、洗濯物を覗き込む。
君達の肌着やバスタオルだよ。
実家でのんびりし過ぎて、洗濯物が溜まっておりました。
「なぁくん、おてちゅだい、しゅりゅ」
「もぅたんも」
二人仲良く洗濯篭を持ち上げる。
勢いつけすぎて、ひっくり返しそう。
和威さんが見えないところで、介助している。
「ほら。頑張れ」
和威さんは、やりたい事はやらせる主義。
ママも、応援しよう。
リビングまで、後少し。
頑張れ。
「ふいー」
「どっしぇい」
うん。
もえちゃんの掛け声は勇ましい。
なぎ君と逆ならいいのに。
お転婆娘は、お笑い担当でもある。
「「ママ、ちゅきましちゃ」」
「はい、ありがとう。ご褒美にジュースをあげましょう」
「じゅうちゅ」
「やっちゃあ」
両手をあげて万歳。
こんな小さな事でも、全力全開だ。
単なる水分補給でも、にこにこと笑ってくれて、ママも嬉しいな。
「はい、どうぞ」
「「あいあと、ママ」」
マグマグに注いだら、凄い勢いで飲み始めた。
喉が乾いていたのを、見過ごしはしない。
和威さんも、忘れないでね。
「和威さんは、コーヒーでいい?」
「自分でやる。琴子は、なぎともえを頼む」
視線の先には、ジュースを飲み終えて、洗濯物に突撃している、双子ちゃんの姿が。
バスタオルを引っ張っりだして、床を掃除している。
こらこら、そのバスタオルはベランダに干すのよ。
「こらぁ。洗濯物で遊ばないの。めっ、だよ」
「なぁくん、ほしゅにょ」
「もぅたんも、おしょちょ、だしゅにょ」
自分の身長より長いバスタオルを、引っ張っりだして踏んづけたら、汚れてしまうでしょうが。
彩月さんがハウスクリーニング後に、掃除をしてくれていて埃はないと思うけど。
ずるずると、引き摺るバスタオルが可哀想だよ。
お手伝いは有り難いけどね。
君達には、バスタオルはまだまだ速いよ。
「なぎ君と、もえちゃんは、こっちを干して欲しいな。ママ、助かるなぁ」
「「うにゅぅ?」」
ガーゼタオルを両手で振る。
双子ちゃんには、小さな洗濯物から頑張って貰いたい。
「なぎ君ともえちゃんに踏まれて、バスタオルさんが痛いよぅって、ママにお話してくれているの。助けてだって」
「あれぇ。ふんでちゃ」
「ちゃおりゅしゃん、めんしゃい」
素直な双子ちゃんは、足の下のバスタオルを認識すると、慌てて飛び退いた。
もえちゃんは、律儀にぺこり。
「ママも、めんしゃい。ちゃおりゅしゃん、グワングワン、しちぇくぅしゃい」
「はい。もう一回お洗濯ね。なぎ君ともえちゃんは、足の裏は冷たくはない?」
「ちゅきょし、ちゅめちゃい」
「ふんで、ちゃっちぇ、ぬれちゃっちゃ」
その場で座ると、靴下を脱ぎ出した。
濡れたバスタオルを踏んで、靴下が気持ち悪くなったようである。
一生懸命靴下と格闘中だ。
「おっ。自分で脱げれる様になったか」
「転がらないか、不安だけどね」
靴下の先を引っ張っるなぎともえ。
脱げた反動で、後ろにひっくり返らないか、ママは心配だ。
見守っていると、案の定もえちゃんが転がる。
脱げた靴下が勢いよく、背後に飛んだ。
なんてお約束な娘だろうか。
「危ない」
和威さんの手が、もえちゃんの後頭部に回る。
ごちん。
床にぶつかる前に和威さんの手が間に合った。
もえちゃんは、暫し放心状態。
時間がたち、自分の身体が後ろにひっくり返ったのを理解したら、涙が溢れてきた。
「パパぁ~」
「どうした。痛かったか」
「もぅたん。いちゃいにょ」
なぎ君がもえちゃんを覗き込み、頭を擦る。
痛いより、びっくりしたのだと思う。
「ママぁ~」
「なあに。ママのとこにおいで」
仰向けから半回転して起き上がり、私に抱き付いてくる。
その表情は歪んで大泣き寸前。
「びっくりしたね。でも、パパが頭を庇ってくれたから、痛くはないでしょ」
私の言葉に頷き、涙を堪えている。
いじらしいなぁ。
素直に泣いていいんだよ。
「もぅたん、いちゃいにょ、いちゃいにょ、とんで、いっちゃえ」
「あいあちょ、なぁくん」
もえちゃんの背中を撫でて、翔んで行けを繰り返すなぎ君。
涙目で、お礼を言うもえちゃん。
「ちくしょう。子供たちが可愛い」
なにか、違う方向で和威さんが、悶えている。
うちの双子ちゃんが可愛いのは、今更だ。
スマホを連写モードで撮り始めた。
気づいたもえちゃんが歪なピースをする。
なぎ君は、首を傾げている。
何がパパの琴線に触れたのだろうね。
「パパ、にゃいちぇりゅ、もぅたん、パシャパシャにゃんで?」
「なぎともえが可愛いからだ」
「かあいい、にゃんで?」
なぎ君の、なあにが始まった。
好奇心の赴くまま聴いてくるから、ママも説明出来ないことが多々ある。
さあ、パパはなんて答えるかな。
「可愛いは、正義だ。理由はいらない」
「う? にゃんで」
「かあいい、せいぎ、なあに?」
ほら、通じてないぞ。
双子ちゃんは、ますます首を傾げる。
涙が引っ込んだもえちゃんも、なぎ君と手を繋いでパパの説明を待っている。
「なぎともえは、可愛いパパの宝物だから。パパはパシャパシャ撮りたいんだ」
「「ちゃきゃりゃ、もにょ?」」
「そう、宝物。大事な大事な宝物」
「ひぃばぁばにょ、おちゃわん、ちゃきゃりゃ、もにょ。いっちょ?」
「割れたら無くなるお茶碗よりも、大事な宝物だ」
ひぃばぁばのお茶碗が宝物だと、なぎ君は言うけど。
双子ちゃんの方が大切だよ。
君達は、ママの宝物でもあるのだよ。
「なぎ、もえ。大好きだぞ」
「「うきゃあ」」
双子ちゃんを捕獲して、和威さんは熱烈なバグとチュウをかます。
パパに抱き締められて大満足な子供たち。
お返しにパパのほっぺにチュウをしている。
いいなぁ。
ママにも、チュウして欲しいな。
「ほら、ママも待ってるぞ」
「「あい。ママもチュウ」」
あら、嬉しいな。
ママも、チュウだ。
にこにこ笑顔で機嫌は最高潮。
なあに。
が、いつの間にかチュウ合戦に発展していく。
和威さんの、作戦勝ちかな。
ひとしきり、楽しんだ後は、放置した洗濯物を干さねばならぬ。
ベランダに、出た。
と、固定電話が鳴る。
また、例のあれかな。
双子ちゃんと和威さんが、お散歩に出た頃合から、ちょくちょく掛かってくる悪戯電話。
「和威さん、悪いけど出てもらえる?」
「? 構わないが……」
録音しているけど、念の為に和威さんにも聴いて貰いたい。
私の眉間に皺がよるのを、不審に思いながら和威さんは、受話器を取る。
「もしも……」
言葉が途切れる。
やはり、又悪戯電話みたい。
悪意ある悪戯電話に、和威さんの眉間にも皺がよっている。
「「ママぁ~」」
悪意に敏感ななぎ君がもえちゃんの手を繋いで、私の服の裾を握る。
お山にいた頃の様に、神経を尖らせている。
「おしゃんぽにも、へんにゃひちょ、いちゃ」
「変な人? 大丈夫だった」
「あい。わんわぎゃ、わんわんしちゃ」
「ろうくんぎゃ、あっちいけ、しちゃ」
「「おばしゃん、パパに、おきょりゃれちゃ」」
女性がいちに威嚇されて、和威さんにも怒られた、かな。
これは、あれかな。
和威さんの会社関係か、雅博お義兄さんの会社関係かも。
和威さんの会社関係は、不倫願望の秘書課の女性が乗り込んで来ては、玉砕したけれど。
まだ、狙われているのかな。
雅博さんの会社関係は、緒方家も関わっているお見合いの釣書問題に発展したものね。
なんにしろ、可愛い子供たちに危害が加わらないといいのだけど。
「ふざけるな。あんたの言う事は前提が間違っている。これ以上あんたに関わる義理はない」
和威さんが、受話器を叩きつけた。
序でに、電話線を引き抜いた。
何を言われたのか、気になる。
「パパ、まちゃ、おきょっちぇりゅ」
「あい。ぷんぷんよ」
「ぷんぷんね。なぎ君、もえちゃん。怒っちゃやあよ。って、パパに突撃しようか」
「「あいっ。パパ、やあよ」」
「おっ。パパの癒しが来てくれた。パパ、嬉しいぞ」
足に抱き付いた双子ちゃんを、和威さんは抱き上げる。
ほっぺにチュウは、規定路線。
小さな指が、眉間の皺を伸ばす。
「やっぱり、悪戯電話だった?」
「ああ。雅兄貴の会社の社長令嬢だと。自分の魅力を売り込んできた。琴子の実家が一介のサラリーマン家庭だと思い込んで、いろいろ語っていたぞ」
「私には、男性の声でセクハラしてきたわ。一応録音してあるから、後で確認してください」
「もえには、悪いが散歩も考えないといけないな」
「わりゅいひちょ、いっぱい、ぢゃきゃりゃ、おしゃんぽ、ちゅうしね」
「あい。なぁくんちょ、わんわちょ、おうちで、あしょびましゅ」
折角の可愛い我が儘さえ叶えられないなんて、腹がたつなぁ。
また、もえちゃんが我慢してしまった。
なんとか、せねば。
兄に進言したら、確実にお祖父様まで、話がいくわよね。
そちらが、実家を持ち出して来るなら、こちらも対抗してあげようではないか。
「安心しろ。緒方家にも、報告する。直ぐに潰れるさ」
あら。
また、呟いていましたか。
なぎ君に真似されちゃうね。
だけど、なぎともえの笑顔を守るなら、朝霧家を頼るのは異論はなし。
待っててね。
ママ、頑張るから。
では、まずは兄にメールしよう。
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