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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
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その2

ブックマーク登録評価ありがとうございます。


「お待たせの、にゅうにゅうだぞ」

「「にゅうにゅう⁉ にゅうにゅう、だぁ」」


 今日ばかりは無駄にテンションの高い我が兄の登場に助かった。

 お昼寝から目覚めたなぎともえが、起きるなりに冷蔵庫を開けてしまった。

 私はベランダで洗濯物を干していて気がつかなかった。

 側にいたはずの和威さんは電話中で一歩遅れた。

 そう、お察しの通りもえちゃん愛飲のフルーツ牛乳はないのである。

 万能家人の彩月さんは手配してくれていたのだけど、 何せ山奥の交通の便が不便な場所にお店があるのだ。

 個人宅配業者が配達出来ないと泣きがはいった。

 うん。

 業者は悪くないと思う。

 だって、宅配できても賞味期限の問題にぶち当たったから。

 詫び状が代わりに届けられ、彩月さんも困り顔だった。

 牛乳が飲みたかった双子は大泣き寸前の表情でパパにしがみついていた。

 お利口さんな双子は、和威さんが電話を切るまで泣き出さなかった。

 物分りが良すぎるのも困った。

 そんなところで、兄到来だ。

 待ち望んでいたお土産つきで。

 兄よ、ありがとう。

 しかし、電話した私も私だけど。

 兄、仕事はどうした。

 何?

 上司の伯父さんが許可したですと。

 そんな特別待遇で人間関係大丈夫なのか。

 あぁ、既に弱味を握っているですか。

 狡猾な兄らしい。

 やりますなぁ。

 フッフッフ。


「琴子。奏太さんと無表情で会話しないでくれ。なぎともえが、固まったぞ」


 あら、いけない。

 久しぶりの対面なだけに、やってしまいました。

 前回はなぎともえが、まだ乳児の頃だから知らないね。


「ママ、しょーくんちょ、けんか?」

「けんきゃは、めぇ、よ」


 はい。

 ごめんなさい。

 いつもとは逆ね。


「あははは。これは、喧嘩じゃないから、安心していいぞ」

「「うっ⁉ じゃ、にゃぁに?」」


 爆笑する兄はお土産を和威さんに手渡すと、双子ちゃんの目線に合わして座り込んだ。

 空いた両手で頭を撫でる。

 数えるほどしか会っていないけど、電話で慣れっこな相手なので、人見知りを発揮しない。

 大人しく撫で続けられている。

 これには、パパママはびっくり仰天だ。

 何故か頭を撫でられる行為が嫌いななぎともえなのである。

 和威さんのお義兄さんには、絶対に撫でさせないのだけど。

 さては、牛乳につられたかな。


「ママとしょーくんは、なぎともえと同じ仲良しだから、言いたい事を言い合えるんだ」

「「? わかん、にゃい」」


 兄。

 その説明では幼児には理解力が追い付かないよ。

 眉が八の字になってしまいましたがな。


「う~ん。難しかったか」

「ママちょ、しょーくんは、なぁくんちょ、もぅたんちょ、いっしょ?」

「うん。いっしょの仲良しだよ」


 おや、なぎがなにかしら思いついたかな。

 和威さんと静かに見守りましょう。


「なかよし、ぢゃきゃら、ママ、きょわい、きゃお? 」

「あれはこわい顔じゃないぞ。笑いたくなるのを我慢してるんだぞ」

「わりゃうの、ぎゃまんするの。……あい。ママ、めんしゃい。なぁくん、まつがいた。ママとしょーくん、なかよし」


 なぎなりに納得したのか、ぺこりと頭をさげる。

 慌てて倣うもえちゃんだか、こちらは理解していないなぁ。

 不思議そうな顔でなぎ君をみている。


「なぁくん」

「あい、もぅたん」


 取り残された感がしたのか、寂し気になぎ君を呼ぶ。

 なぎはもえの両手をとり、額を合わせる。

 この時勢いがつきすぎて、ごつんと音がしたのはご愛嬌だ。

 この体勢暫く前からやり始めた仕草なんだけど、所謂双子の神秘とか言う奴である。

 額を外した後のもえちゃんが、疑問点解消できたのかスッキリとした表情で頷いている。


「あいあと、なぁくん」


 にぱっ、と笑顔なもえちゃん。

 本当に摩可不思議である。

 隣で和威さんは、笑っております。

 今度はママが取り残された感満載なんだけど。


「「ママ、にゅうにゅう、にょみたいなぁ」」


 そっくりな顔で上目遣いのおねだり。

 身長差から当然なんだけど。

 おっきしてからの水分補給がまだだったね。

 では、おやつタイムといたしましょう。

 宣言すると、跳び跳ねるほど大喜びした。

 階下から苦情こないかな。

 えっ、真下は峰君の部屋だから大丈夫?

 角部屋だから隣は彩月さん?

 2フロア分丸々緒方家が所有してるから、苦情はこない?

 そうでしたか。

 それは安心です。

 パパの手をとり、リビングに向かう双子ちゃんたち。


「兄」

「何だ。妹」

「一応このマンション。ファミリー層向けだけど、購入すると家一軒買えちゃうんだよね」

「タワーマンションだから、コンシェルジュと警備員常駐だしな。部屋番聞かれて手荷物確認されたぞ」


 あら、連絡したけどなぁ。

 下まで行けば良かったね。


「旦那さんは慣れっこだけど、緒方家って太っ腹よね」

「おちびちゃんがいるからだろ。この辺は治安も悪くないし、朝霧のお祖父さんだってこのクラスを紹介しようとしてだぞ。母さんが断ってたが」

「うん。お祖父様のとこなら、断るの考えてたなぁ」


 と言うより、住居は和威さんが手配してくれていたのだけど。

 もっぱら私は家具担当で、なぎともえが不安がらないようお山のお家と同じ配置にこだわっただけ。

 そのせいもあって、直前までマンションが億ションだと気付いていなかった。

 家賃はと訪ねたら、定期的に緒方家に遊びに行くのを条件に、かなり割引されている。

 それが3部屋ときたもんだ。

 いやぁ、彩月さんと峰君のお給料と家賃は和威さんではなく篠宮家が出しているときいた。

 ちなみに和威さんの職業はプログラマーだ。

 珠に電話で魔法の呪文じみた会話をしている。

 最近の双子のおままごとでもなぎが分からないままお喋りしてる。

 もえちゃんはニコニコと聞いているから、パパとママの真似かな。


「「ママ~。しょーくん~」」


 しびれを切らしたらしい双子ちゃんに呼ばれた。

 おやつの請求かな。


「ほーい。今行くよ」


 兄。

 双子ちゃんが真似するから返事は正しくしておくれ。

 人前では人見知りして余りお喋りしてくれないけど。

 珠に爆弾発言してくれるから。





「「おいちぃ、ねぇ」」


 それは何より。

 兄が持参してくれたフルーツ牛乳はもえちゃんを満足させてくれた。

 良かった、良かった。

 和威さんが早速ネット注文した。

 切らさない様にしないといけないなぁ。

 おやつは、兄が買い求めたショートケーキである。

 口回りにクリームをのこしながら、美味しいと連発だ。

 互いのあーんには、兄がコーヒーを吹いてくれたが。

 可愛いから良いじゃないか。

 立ち直った兄がスマホを取りだし双子に向ける。


「なぎ、もえ。もう一度あーんして欲しいな」

「「あい、あーん」」


 兄のリクエストに応えるなぎともえ。

 和威さんが写メをよく撮るので、写真だと理解している双子ちゃんは不器用なフォーク使いで口元にケーキを持っていく。

 便乗して和威さんもスマホで写メを撮っている。

 これは、私もやるべきか。

 悩んでいる間に撮影会は終了した。

 あーんで食べ終わってしまった。

 後で見せて貰うことにしよう。

 牛乳も飲み終わって双子ちゃんはテレビの前に陣取る。

 おやつの後は渋いことに相撲観戦だ。

 これは、お山にいる曾祖母の影響で中継がある日はテレビに釘付けである。

 今日は気を利かせてパパがお付きあい。

 私と兄は駄弁っている。


「そう言えば、兄。お祖母さまの具合いはどうなの? 母に聞くと気にしないでってばかりなのだけど」

「あんまり、良くないみたいだ。おれも見舞いにいけてない。ばあさまの身内が張り付いていて、病室まで釣書持ってくる」


 やっぱりか。

 祖母の実家は公家の流れを組む旧家。

 神事に携わる家系で血筋を大事にしている。

 そんなもんだから、兄や私の結婚に口を出してくる親戚に事欠かない。

 雑種呼ばわりして硫酸をぶっかけてくれた親戚は御当主さまに断罪されたとのこと。

 お祖母様は後妻で我が母と私と兄のみが、御当主さまの血縁である。

 祖母の実家を継げる男児は本家筋には兄しかいない。

 次点でなぎ君だ。

 若しくは婿とりするもえちゃんか、まだ産まれてもいない兄の子供。

 頭の痛いことだ。

 兄はいずれは祖母の実家、水無瀬家に養子に行く覚悟はできている。

 私が思いの外早くお見合いの末に結婚・出産したものだから、しわ寄せが兄にいってしまった。

 兄の元には毎週水無瀬家に縁のある親戚から、釣書が届けられている。

 すまぬ、兄。

 和威さんもこんな事情があるから、兄には頭があがらない。

 兄がなぎ君への防波堤になってくれているし。

 言葉にできないくらい感謝している。


「そうだ、妹よ。ちょいと相談にのってくれ」

「いいけど。珍しいね」

「妹の年頃だとブランド品何が欲しいんだ?」

「遂に兄に貢ぐ相手ができたの? ピンキリだけど、手堅いとこいくなら」


 最大大手なブランド店を挙げていく。

 背後で聞いている和威さん、私が欲しいわけではないぞ。

 要らないからね。

 祖父に対向しないでちょうだいな。

 毎年誕生日にブランド品を贈ってくれる朝霧家一堂。

 結婚した最初の年にブランド品のハイヒールが贈られ、山奥でないわぁと笑い話にしたのだけど。

 和威さんは、私が欲しいとねだった家電製品を買ってきてくれた。

 それが、不満だったらしく翌年には、相談せずにブランド財布を買ってきた。

 丁度お出かけ用のが欲しかったので重宝したけど、出先で値段を知り驚いた。

 財布ひとつにあの値段はないわぁ。

 その夜盛大な口喧嘩になり、機嫌の悪いママに乳児の双子ちゃんまで泣き喚く始末だった。

 反省した和威さんは、私が怒るボーダーラインを研究して、以降は適切な値段の品を買ってくれる。

 私も前以て欲しい品をそれとなく言うようした。

 メーカー名もしっかり伝えてだ。

 祖父が資産家なだけで、私は一般家庭で育ったのだから。


「相手はどんな人なの」

「残念ながら、おれの相手ではなくてな。里見に頼まれた」

「あの、里見さん? 」


 兄の友人で、フォロー役の苦労人な方だ。

 稀にやらかした兄を説教してくれ、とメールがくる。

 兄が貢ぐとは一ミリも思ってなかったけど、里見さんもそんな人ではない気がした。


「里見には、高校時代から付き合っている彼女がいるんだ。そろそろ結婚を考えていて、婚約指環を何処にするか悩んでいるんだと」

「それ、最初に言ってよ。指環なら、和威さんに聞いて」

「それも、そうか。なら、チェンジで」


 婚約指環なら思いいれのある和威さんでしょう。

 何せ二個もくれたし。

 曰くある最初の指環は、いずれはなぎかもえに継承されていくだろう。

 立派なタンスの肥やしと化している。

 まさか、あの指環にあんな意味があったとは思いもしなかった。

 和威さんの亡くなられたお祖父様は五人の孫に指環を準備してた。

 石は最高ランクのもので、超有名な宝飾ブランド店の品だから、かなりなお値段になる。

 万が一離婚した後の慰謝料代りにしろ、との厳しい御言葉付きで渡されたそうだ。

 兄弟の皆さまはやはり血筋なのか、自分で稼いで指環は贈ったらしい。

 そして、タンスの肥やしとなる。

 お義姉さん方に愚痴ったら笑われたのには、そんな理由があったからだ。

 慰謝料って、と結婚前になんて不吉なんだか。

 まぁ、無事に結婚できたからいいけど。

 まさか、双子ちゃんにこれも継承されるのか、ママは心配です。

兄が持参したのは大瓶の牛乳でした。

双子は牛乳瓶でにゅうにゅうを判断しています。

冷蔵庫には、紙パックの牛乳がありましたが、見向きもしませんでした。


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