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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
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その18

 夜明けになるともえちゃんの熱は下がりだした。

 ひと安心である。

 ぐっすりとねんねしてくれた。

 ママは徹夜で眠たいなぁ。


「琴子。俺が起きているから、少し眠ったらどうだ」

「そうさせて貰おうかな」


 和威さんの提案に睡魔に負けてしまいました。

 もえちゃんの隣に横になったら、あっという間に眠ってしまった。

 気が付いたら、お昼間際だった。

 どれだけ寝てたのか。

 寝起きな頭では鈍い反応しか出来ない。

 スパーンと大きな音を立てて襖が開いた。

 ちょっとびっくり。


「ママ、おっき、しちゃ」

「こら、ママを起こしたら駄目だ」

「ちあうもん。ママ、おっき、しちゃにょ」


 犯人は勿論我が双子ちゃんだ。

 両側からなぎともえに抱き付かれた。

 うん?

 少し泣いてない?


「「ママぁ。だいじょぶ? びょーいんいきゅ?」」


 病院?

 もえちゃんではなく私が病院に行くのか。

 定期検診には、まだ早いなぁ。


「琴子。寝惚けてるな。なぎともえはママが、起こしても起きないから病気だと勘違いしているんだ」


 あら。

 それは、心配かけちゃったね。

 抱き締めれば首にしがみついてきた。

 もえちゃんの身体は平熱に戻ってきている。

 まだ、冷えピタは貼ったままだけど。


「ママはねんねしていただけだよ。病気ではないから、安心してね」

「「ほんちょう?」」

「本当よ」

「「ほんちょうにょ、ほんちょう?」」


 疑り深いなあ。

 どうしたんだろ。

 いつもなら、にぱっと笑ってくれるのに。

 和威さんも、渋い表情だ。


「あのなぁ。大分泣いていたのに、琴子が起きないからだ。彩月に診断されたの覚えていないだろう?」


 はて。

 全然知らなかった。

 それは、泣くはずだ。

 よいよい。

 我慢しないで、泣くとよい。

 ふえ~ん。

 なぎともえが泣き出した。


「あら、やっと起きたのね。なぎ君ともえちゃんが、ママのご飯が食べたいと可愛い我が儘を言ってくれたのよ。早く顔を洗って支度してちょうだい」


 母の言葉に感傷に浸る時間がない。

 動きたくても、力一杯しがみついてくるから動けないのだけど。

 暫くは駄目みたい。

 よしよし。

 ママは大丈夫だから、安心してね。

 和威さんに、目配せしてみた。


「ほら、ママのご飯が食べたいのだろう。いつまでも、ママに抱き付いていたら、食べれないぞ」

「「……あい」」


 意を酌んでくれた和威さんが諭してくれた。

 顔をあげたなぎともえは、涙の跡が残る頬をそのままにして離れていった。


「ママと一緒に顔を洗いに行こうね」

「「あいっ」」


 頬を撫でると元気に手をあげた。

 では、洗面所に行きましょう。

 両手を差し出すと手を繋いで、やっと笑顔を見せてくれた。

 うんうん。

 笑っている方が良いね。


「「ママにょ、ごはん。ママにょ、ぎょはん。おいしい、ママにょ、ぎょはん」」


 おおう。

 また、自作な歌が歌われた。

 今度はご飯の歌かな。

 美味しいと言ってくれるのは、嬉しい。

 和威さんは悪食だし。

 新婚当初のご飯は、味付けが自分でも微妙だと思う。

 母の味とは遠いしろものだった。

 和威さんは何でも食べてくれた。

 不味いご飯を食べさせたりしたらいけない。

 双子ちゃんが産まれてからは、必死に勉強した。

 お義母さんや、彩月さんに習った。

 そのかいがあり、双子ちゃんは食べに食べてくれる。

 やや、食べ過ぎな感がしないでもない。

 わりには、標準体型より小さい身体だと言われる。

 もっと、食べさせてくださいと、検診でも言われた。

 食べてるもん。

 ママのご飯が大好き。

 双子ちゃんが絶叫したのは、言うまでもない。

 うんうん。

 ママは大丈夫。

 怒られていないよ。

 納得させるのが大変だった。


「はぁい。お顔を洗って」

「「あい。ありゃう、にょよ」」


 私が先に洗い、次になぎともえを洗面台が使えるように、抱き上げた。

 双子ちゃんなりに一生懸命洗っている。

 いかん。

 もえちゃんの額には冷えピタが。

 慌てて、剥がした。


「目の回りだけでなく、頬も洗ってね」

「「あーい」」


 可愛いなぁ。

 ママの言う事をちゃんと聴いてくれる。

 洗い終わり仲良くタオルで、顔を拭く。


「キレイキレイになったね。いつもの、なぎ君ともえちゃんだ」

「ママも、きりぇいねぇ」

「あい。ママは、きりぇいねぇ」


 ありがとう。

 ママは嬉しい。

 にぱっと笑ってくれる。

 ママはなぎともえが大好きだよ。

 さて、着替えてご飯を作らねば。


「ママ。なぁくん、ちゃーはん、ちゃべちゃい」

「もぅたんも、ちゃべたい」

「炒飯ね。了解です」


 何でも食べたい。

 でもなく、食べたいものを口にしてくれる。

 有りがたい。

 悩まなくて済む。

 和室に戻り、着替えを済ます。

 しかし、泣き出したなぎともえをほおって、爆睡したとは。

 寝起きの悪さは改善したと思っていたのになぁ。

 引っ越した翌朝も熟睡していたし、彩月さんに相談案件かなぁ。


「「ママぁ。どうしちゃにょ」」


 着替えたのに動こうとしない私に、なぎともえが近寄ってきた。

 抱き付かれないのは、私が大丈夫ではないかもしれないと、不安がっているからかな。


「何でもないよ。おいで」


 両手を広げれは、おずおずと抱き付かれた。

 なぎともえは私以上に、私の身の心配をする。

 家事で疲れたなと感じると、遊びに熱中していても側に寄ってきて、さぁたん呼ぶ、パパ呼ぶと聴いてくる。

 幼いながら、私の怪我を重く感じている。

 まあ、お留守番が嫌なだけだろうけど。

 病気だといつも、お留守番で泣いているのに。

 今日は自分達から言い出した。

 それだけ、不安にさせちゃったのだけどね。

 反省だ。


「ママは病気ではないからね」

「もぅたんが、わりゅいにょ」

「ちがいます。もえちゃんも、なぎ君も誰も悪くないの」


 ああ。

 そう感じてしまったか。

 ただの、睡眠不足だから。

 不安にならなくてよいの。

 ぎゅっと、力を込めて抱き締めた。


「おっ。どうした?」

「ママちょ、ぎゅっちょ、しちぇりゅにょ」

「ママは、あっちゃかいにょ」

「そうか。ママは暖かいか」


 和威さんが隣に座る。

 顔が綻んでいる。

 和威さんは、私達がぎゅっとしていると、よく笑う。

 これ、篠宮家の禁忌が関わっているとみた。

 物騒な曰くがある双子だし。

 仲良しなのが嬉しいらしい。


「さて、ママはご飯つくるから、次はパパに突撃だ」

「「あーい」」


 促せば二人が和威さんの膝の上に突撃した。

 一歳児の頃はよく頭の上にまで登りたがった。

 降ろしても降ろしても登りたがり、高い処が好きなのかと思っていた。

 和威さんが酔っ払って、もえちゃんを高い高いと遊ぶまでは。

 以降は肩車さえ、嫌った。

 今は改善されたけど。

 抱っこまで嫌ったら、和威さんはリアルorzだ。

 自業自得だが。

 なぎともえは和威さんに任せて、ご飯を作らねば。

 キッチンにいくと、食材がだされていた。

 人参、ピーマン、玉葱、ウィンナー。

 母が、気を利かしてくれたのだろう。

 人参をやや苦手ななぎが食べやすいように、細かく刻んでいく。

 なぎ君は好ききらいなく何でも食べてくれるが、もえちゃんは食わずぎらいが多い。

 この差は私の遺伝だろう。

 私も幼児期は好ききらいが、多かった。

 母を困らせていた。

 どれだけ細かく刻んでいても、食べなかったらしい。

 母親の苦労は、親になって初めて知る。

 なぎ君は、細かく刻んであーんすれば、食べてくれる。

 まだ、ましな部類な方だ。


「琴子。ご飯はこれ位でいいかしら」


 母が、子供用のお椀に白米をいれて差し出した。

 先程のもえちゃんの様子を見ると、足りないかな。

 今日は食べてくれるだろう。


「もう少し足してちょうだい。炒飯にすると、二人ともよく食べてくれるの」

「わかったわ」


 余れば和威さんなり、私が食べればいい。

 手際よく炒めていく。

 美味しくなぁれ。

 ベタに言ってみた。


「「ママにょ、ぎょはん。まあだ?」」


 よい匂いにつられてなぎともえがやって来た。

 と言ってもキッチンには、近付かない。

 料理をしている時には油や火が跳んだりするから、近付かない。

 きちんと、言いつけを守っている。

 うん。

 いい子達だ。

 和威さんが、万が一に備えて背後に立ち背中を掴んでいた。

 マンションやお山の家では境界線を理解しているけど、実家ではないからね。


「もう少しで出来るから、座って待っていてね」

「「あーい。パパ、いきょ」」


 元気にお返事。

 和威さんの手を繋いで、定位置のローテーブルにクッションを置いた。

 相変わらず理解が早いなぁ。

 和威さんが仕事に行かないで、側にいてくれるから安心しているのかな。

 普段なら、暫くは私の挙動を見つめている。

 冷蔵庫の横で座込みしたりする。

 いじらしぃなぁ。

 と感心させられる。


「琴子。中華スープはこれでいいかしら」


 母の手にはインスタントなスープの素がある。


「それでいいわよ」


 お湯を注ぐだけだから、手間はかからない。

 炒飯もすぐに出来上がる。


「「ママぁ、まあだ?」」

「あんまり、ママを急がせたら、ママが火傷しちゃうぞ」

「「う~。おにゃきゃ、ぐるぐるよ」」

「どれ。ほんとだ鳴っているな」


 パパにお腹を撫でられている。

 朝御飯は、どうしたんだろ。

 母の料理を食べたと思うのだけど、私が起きなかったからあまり食べた気がしなかったかな。


「母。朝御飯は、きちんと食べたの?」

「琴子を心配して、食は細かったわよ」


 やはりか。

 これは、お代わりがかかるわね。

 だけど、なぎ君はともかく、熱が下がったばかりのもえちゃんは、満腹にさせていいものか、悩ましい。

 お皿に炒飯を盛り付けるが、気持ち多めにしてみた。


「はい。お待たせしました。炒飯だよ」

「「きゃあ。ちゃーはん、ちゃべちゃい」」

「いい子は、お座りして食べるのよ」

「「あーい」」


 興奮したなぎともえは、立ちあがり歓声をあげた。

 炒飯に喜ぶ。

 なんて、安上がりな子達だろう。

 注意すると素直に座る。


「はい、どうぞ」

「「いちゃだきましゅ」」

「ゆっくり食べろよ」


 テーブルに置くと、お口に一杯炒飯を詰めている。

 和威さんが指摘すると、こくんと頷く。

 可愛いけど、行儀はわるいかな。

 後でパパに叱られるぞ。

 いや、しないか。

 表情は穏やかだし、頬を撫でている。

 まあ、今日は見逃してあげよう。

 さて、和威さんのご飯も作らねば。

 母がフライパンを使用している。

 私達の分は母が作ってくれるようだ。

 中華スープを運ぼうかね。

 少し冷ました中華スープを持っていく。

 炒飯は半分食べられていた。

 早すぎな気もしないでもない。


「ママ。ちゃーはん、おいしいにょ」

「おきゃわり、ありゅ?」

「ママの炒飯ではないけど、ばぁばの炒飯ならあるよ」

「「ばぁばにょは、いりゃない。ママがいい」」


 あら。

 可愛い事を言ってくれる。

 でも、無いものは無いの。

 ばぁばので我慢しなさい。

 母は苦笑している。

 これは、お代わりを作らないといけない流れかな。

 私が作ったふりは、通じないな。

 我慢させるか、作るかどうしようか。

 悩むなぁ。

 本当に、どうしよう。


ブックマーク登録ありがとうございます。

次話は、26日です。

ご了承くださいませ。


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