その40
なぎ君のお見舞い時間は新型インフルエンザ対策もあり、時間に制限が儲けらていた。
なぎ君は、私やもえちゃんに会えて興奮したのと安心が募ったのもあり、栗羊羮を食べた後に眠気を訴えて寝てしまった。
で、その隣でなぎ君の腕を抱えて同じく眠るもえちゃんがいた。
なぎ君に釣られたか、亡くなられたお祖母様から忠告された、もえちゃんの無意識の治療効果を願う龍神様への代償による睡眠か悩まされたけれど。
私の守護龍神様から、なぎ君の回復を願うもえちゃんが自然治癒力を共有しているだけであり、龍神様への代償は支払われていないと教えていただいた。
そうして、眠る双子ちゃんを珠洲ちゃんと波瑠さんに護衛を託して、私と和威さんはなぎ君の主治医さんと今後の治療方針と退院時期について説明を受けた。
なぎ君の味覚障害も一時的なものであったけど、体調不良が出てしまったのは事実なので、当初予定していた退院時期がずれ込むかもしれないとの事。
そうなると、なぎ君の保育園入園に間に合わない可能性も出てしまった。
もえちゃん一人で保育園に通うには、大きな難題が。
産まれる前から二人一緒、何をするにも二人一緒な我が家の双子ちゃんである。
そして、もえちゃんの人見知りな性格と、一人を嫌がる問題に解決策がないのが現状なんだよね。
和威さんも、双子ちゃんの入園を一年延期するか思案している。
まあ、入園する保育園が身内が経営する保育園なので、なぎともえを溺愛するお祖父様も無理矢理もえちゃんだけ通わせる気にはならないと思うしね。
というか、保育園通わなくても良いと言い出しかねないだろうな。
私達的には、なぎ君にべったりなもえちゃんに、なぎ君以外のお友達を作って欲しいのが、将来を見据えたらと親なりに気になる部分なのだけど。
少しずつなぎともえの自主性を促す成長を期待して、距離を取らせようか悩みどころなんです。
だから、なぎ君のお見舞い時間が過ぎたら、もえちゃんを家に連れ帰ろうとして、分かりきっていたがギャン泣きされたのが今に至るのである。
「いやぁ! もぅたんも、なぁくんちょ、いりゅう。いっちょ。おうち、いやぁ~」
うんうん。
パパとママももえちゃんが、なぎ君と離れたくない気持ちは充分分かるよ。
特に、パパの新型インフルエンザ罹患とか、ママの宮内庁からの依頼で地方に行かなければならなくて、家族が一時的に離ればなれになっていたしね。
もえちゃんは年上のねぇねとにぃにと我が兄に預けられ、なぎ君は珠洲ちゃんや彩月さんがいたけど、パパがいなくて一人で入院生活送らされていたからね。
離れたくない気持ちは、本当に充分に理解できるよ。
ママ達だって、離したくて離す訳ではないんだよ?
でも、上手に説明したとしても、幾ら前世の記憶があり少々幼児離れしたなぎともえだけど、まだ二歳児の甘えたがりな幼い子供だしね。
どうしようか、ママは困りました。
「もえ」
「……ぁぃ、パパ」
「もえが泣きたくなるのも、パパは分かるぞ」
なぎ君に抱きついて離れようとしないもえちゃんに、話しかけたのは和威さんだ。
もえちゃんも、パパが大事なお話すると理解して、泣き喚くのを止めて、涙で滲んだ瞳を和威さんの視線とあわせる。
なぎ君は泣かないまでも、不安な感情は抱いているみたい。
二人して、パパの話の続きをおとなしく待っている。
「もえは、またなぎやパパやママのいない緒方のおじじの家に帰らないとならないと、思ってないか?」
「あい、ちあうにょ?」
「違うぞ。もえはママと一緒に、朝霧のひぃじいじのお家に帰るんだ」
「ほんちょ? ママも、いっちょ?」
「そうよ。ママと一緒にひぃじいじのお家に帰るのよ。そうだ、もえちゃんが帰らないと、先に帰っているわんわが寂しい、寂しいってもえちゃんみたいに泣いているかも」
「わんわ! そうぢゃ、もぅたん、わんわに、いっちぇきましゅ、いっちゃ。わんわ、おうちぢぇ、まっちぇうね。なぁくん、ぢょうしょう、わんわ、ないちゃう」
「あい。もぅたん、おうちに、きゃえうにょね。いち、まっちぇうきゃりゃ、ちゃぢゃいま、すうにょ、いいね。なぁくんみょ、いち、あいちゃい、きぇぢょ、いみゃは、ぎゃまん、にゃにょよ」
ここは、帰りたくなる様に我が家のワンコをだしにしたら、案の定もえちゃんは食いついてくれた。
なぎ君も、ハンストしてまで自分達に会おうとした前科持ちのいちを心配して、帰る支持をしてくれてほっとした。
何しろ、物欲の薄いなぎともえの事だから、おもちゃやお菓子なんかでは気を引けないからねぇ。
効果が狙えるのがワンコだというのが、双子ちゃんらしい。
こうして、一悶着あったけど、帰宅できて良かった。
和威さんのお小言がなし崩し的に無くなったのも一安心だった。
「わんわ~。ちゃぢゃいまぁ~」
緒方家ではなく朝霧邸の離れに帰宅できたのは、少し訳がある。
もえちゃんは、ワンコに意識が向いたら一直線だけど、離れの玄関には見慣れない靴が大小あるのに気付いてなかった。
「おかえり、もえ」
「なぎは、元気にしていた?」
「ありぇえ。たぁにぃに、さぁにぃに。おじじにょ、おうちぢゃ、にゃいにょ?」
「ねぇねも、いるわよぅ」
「しぃにぃにもだぞ」
「ははは、じぃじもいるぞ」
私ともえちゃんを出迎えてくれたのは、いちだけではなく。
緒方家に避難していた梨香ちゃん達篠宮家の孫世代と篠宮のお義父さんもいて、いちに抱き付こうとしていたもえちゃんが驚いていた。
無理はないかな。
避難先の緒方家だったけど。
緒方のおじ様に勘当され、生活に困窮していたおじ様の息子さんが司君を、ある研究所に多額の紹介料目当てに売ろうと、実家の緒方家に侵入してきた事件。
当人は、警察の事情聴取で実家に帰省して何が悪いの一点張り。
おまけに、父親不在の実家に父親の兄の孫が居座り、緒方家が雇う家政婦ではない人物や、見知らぬ曰くありげな堅気の人間らしくない不審者がいるのを注意に来たのは悪事なのかと警察の方に捲し立て、自分の行いは正統性があると主張した。
それに、区の児相職員に根回ししていたのか、児相職員も監督責任者の保護者がいない事実を申し立て、あわや梨香ちゃん達を児相に保護する流れになりかけた。
梨香ちゃんと静馬君は、児相職員の司君を見る目付きに勘が働き、この職員も司君だけ別な場所に連れていくと断定し抵抗したが。
警察は事件を起こした人物は管轄だが、未成年者保護は児相の管轄と位置づけ、要保護者がいない以上児相へ預ける気で説得し始める。
そこへ、お義父さんと朝霧家顧問弁護士連れた楓伯父さんが介入したのである。
楓伯父さんは、緒方家の身内がやらかした事件が、それだけでは終わらないだろうと予測して、篠宮家の当主である康治さんに連絡していた。
だけど、篠宮家も祭事を任せている分家の篠原家の葬儀と、隆臣さんの次期当主継承にまつわる諸々の手続きに奔走されていて上京させられる人物がいなかった。
なら、お義母さんがとなったのだけど、お義母さんこそ篠宮家の直系としてやらなければならないお仕事があり、最終的にお義父さんが孫達を迎えに来たと言い出して、ちゃっかり楓伯父さんが朝霧邸に保護した訳です。
私がこの話を聞いたのが、なぎ君の主治医と話をしていた時で、楓伯父さんの我が家に篠宮家の子供達を保護したからメールに、何事かと思った。
和威さんにはお義父さんから事後報告メールが届き、夫婦二人して主治医の先生の前で、つい何をやらかしたのか問い詰める電話しちゃいました。
診察室でスマホ利用は原則禁止だというのに、大変な無作法してしまった。
冷静を取り戻して謝罪したけど、主治医の先生は病院の設備投資に多大なる貢献した朝霧のお祖父様が、私達の後ろ楯にいるのを把握されているからか、朝霧家が何かをされたのだと誤解して不問にしていただけた。
帰宅の車中でも、楓伯父さんからは後を付けてくる不振な車がいたとまたメールがきた。
よって、暫くはセキュリティが見直され、より強固になった朝霧邸に避難させる方が好ましくなった様子になった。
司君狙いか、別な思惑があるのか、楓伯父さんは調査させるとの事。
兄の先見は、なかったそうだ。
もえちゃんも言わないから、詳細は調査結果を待つしかないかな。
となると、なぎ君のお見舞い回数も減らさないとならないかも。
大好きなワンコとねぇねとにぃに達に囲まれて、笑顔満載なもえちゃんが泣かないといいのだけど。
早期解決を祈願しておきましょうかね。




