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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のレクイエム
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その36

 篠宮家分家であり、篠宮家が代々お守りしてきたお山の一画に建てられた土地神様である媛神様を奉るお社を託された篠原家の宮司である方の訃報を受け、お祖父様や兄とやり取りして勘違いしていた事項が判明しました。


『妹。曲がりなりにも、ばあ様の跡を継いだお前が、何故そんな勘違いしていたのか。正直分からん』

「えっ? 何かおかしな説明した?」

『あのな、神職に就かれている方の葬儀は、一般の方の葬儀とは違う。神式での葬儀なら、香典ではなく玉串料と言うんだ』

「えっ? でも、お祖母様の葬儀では、香典だったはず。お出迎えの役に就いていた真雪ちゃんと穂波ちゃんが記帳と共に受け取っていたのは香典でしょ? それに、香典返しの手配だってしていたじゃない」

『ばあ様の葬儀は、朝霧グループ会長夫人の立場故とじい様の体裁の為に行った。僧侶は頼んでないし、水無瀬のご当主が簡略して執り行った斎場内ではお経を聞いてないだろう』


 あれ?

 そういえば、そうだった。

 というか、私はなぎともえを気落ちしていたお祖父様の傍に連れていき、斎場に入れなかったお祖父様と別室で待機していたけど。

 喪主を楓伯父さんが務めて、朝霧グループ会長夫人の葬儀をしたのだった。

 水無瀬家の巫女であるお祖母様の本葬儀は、水無瀬家本家で私がご遺体を悪用されない為に、龍神様の御元にお返しした。

 本来ならば、朝霧グループの名の元でお祖母様の葬儀は執り行わない予定であったのを、お祖母様信者の方々や朝霧グループと関わりがある他企業の重鎮の方々に横槍を入れられる形で行わねばならなくなった。

 まあ、朝霧グループ自体が大企業な訳で、その会長夫人の葬儀を行わないだなんて、お祖父様の体裁に障りがあるからでもあったしで。

 家族葬だけと公表したら、信者の方々が直に朝霧邸に弔問に来ないはずもなく。

 また、お墓参りもしないはずもなく、体裁を取り繕う目的で、納骨されてないのは秘密にしてあるけれども、朝霧家のお墓参りが一時期報道の話題になってしまった経緯もあったりする。

 お墓にはお祖母様の遺骨代わりに、愛用していた品を納めていただいた。

 勿論、菩提寺の住職様には説明済みであるし、警備のお手伝い要員も派遣してある。

 未だにお墓参りされる方々が途切れずにいて、報告してくださる住職様も苦笑されていた。

 ただし、皆さんマナーを遵守されていて、苦情の類いは一切なかった。

 朝霧邸への弔問客の訪れも、皆さん弁えておられて、一日に数件で誰がどの日に訪れるか話し合われているとか。

 まあ、その中に某大臣とか某国会議員とか、現役を退かれた政治家さんも入っているのだけど。

 新型インフルエンザが流行しないままでいたら、現在も弔問客とか訪れていたのは間違いはない。

 菩提寺の側も、今の期間は身内だけのお墓参りを要請している。

 しかしながら、お祖母様信者の中でも崇拝度が危ない方は、逆に来訪者が少ない時期を狙って毎日の様に来訪しているらしい。

 その度に、派遣した警備員に追い出されているのだけども。

 何て言うのかな。

 その対応にも、逆に火をつけてしまった様子で、最終的にお祖母様の遺骨を入手しようと画策して、とうとう逮捕されてしまった事件にまで発展していたりする。

 なので、菩提寺の住職様にも迷惑がかかると判断されて、楓伯父さんがお祖母様の遺骨は水無瀬家の方へ移転させたと公表して、お祖母様信者の方々へ警告した。

 慌てられた信者の方々は、当然水無瀬家へ連絡して次のお墓が何処にあるのか聞き出し、水無瀬家は一部の信者の行きすぎた行為を危惧して黙秘とする旨を伝えた。

 水無瀬家のお墓は私有地内に点在してあり、新調してないのもあってか信者の方々も調べきれず困惑しているのが現状で、朝霧邸や水無瀬家には連日恨み言めいた電話がかかってきていた。

 朝霧家側としても、事件にまでなったのは事実であるとして、墓荒らしまでやらかした輩がいるのだから黙秘は当然とした。

 そのせいか、唯一聞き出せそうな桜伯母さんの料亭にまで押し掛け、業務妨害に近い仲居さんにお金をちらつかせてお仕事を妨害した強者もいた。

 まあ、そんな方はすぐに出禁になった訳だけど。

 そして、お祖父様の勘気に触れた。

 新型インフルエンザで経営が逼迫している企業には、条件付きで資金援助を申し出て捜索を断念させ。

 個人には弁護士経由で司法的に警告した事で、騒動を納めた。

 ああ、話がかなり逸れた。

 といった細々な事案があったりで、すっかり忘れてました。

 兄に言われるまで気付かないだなんて、私も資格を得たわけではないけど神職に連なる巫女だったよ。

 香典と玉串料の違いに気付かないなんて。

 ああ、恥ずかしい。


『じい様には、俺から伝えておく。篠宮家というか義弟の和威君には、ちゃんと伝えておけよ』

「うー。はい、分かりました。でも、康治お義兄さんとか篠宮のお義母さんとかから、伝わってそうだよね」

『まあ、そうなるかな。ああ、宮内庁への伝言も承った。何とか、職員の派遣だけに留めるように要請しておく。これは、俺ではなく水無瀬家現当主殿に依頼しておく。若輩者の俺より当主殿の方に発言力あるからな』

「うん。お願いします。私も、水無瀬のおじ様には、後で連絡しておきます」

『また後日な。ああ、そうだ。次の相手の報告な。もえが泣きそうな話になるから、気をつけておけよ。じゃあな』


 はい?

 兄よ、待て。

 早々と切るでない。

 何か、いらない一言が気になるでしょうが。

 兄との電話が終わったのを見て、もえちゃんが期待に弾む表情をしているんですけど。

 電話の邪魔にならないように、にぃにとねぇねに遊んで貰っていたのだけど、次は司郎君となると思って近寄って来たんですけど。

 いや、可愛い我が子を邪険にするはずがないから、とことこ近寄って来たもえちゃんを膝上に乗せますよ。


「マぁマ。わんわ、まだぁ~?」

「うん。じゃあ、次は司郎君ね」

「あいっ」


 兄の忠告は聞かなかったふりして、もえちゃんの期待に応えないとならないぞ。

 お利口さんで待っていたもえちゃんにも見えるようにして、司郎君へテレビ電話を繋いでみた。

 渋滞にはまっていたのは、前回の連絡で報告済みだけども、あれから時間が経つから順調に解放されたと思いたいな。


『はい、司郎です。ああ、いち。もえ様だよ』

『わふっ!』

「わんわ~、ろうくん~。いま、ぢょきょ~。もうしゅぎゅ、きゃえっちぇ、くう?」


 もえちゃんは、直球にスマホ画面に映る司郎君といちに答えを求める。

 いちがもえちゃんを見て、大アップになったのはご愛敬である。


『こら、いち。少し、落ち着いて。でないと、もえ様とお話できないだろう』


 司郎君に嗜められて、いちの大アップは無くなったものの。

 画面の向こう側では、いちのせつない鳴き声が聞こえた。


『いちが、申し訳ありません』

「大丈夫よ。いちも、もえちゃんも、側にいないと不安だものね」

「あい。わんわ、はあきゅ、あいちゃいにょ」


 わふっ!

 わふっ!


 司郎君は詫びるけど、いちは我が家の家族の一員だし、司郎君もだしね。

 家族が揃わないのは、私も寂しい。

 なのだけれども、やはり兄の忠告は当然の如く当たった。

 司郎君が、気まずい表情をしていて、話ていいものか悩んでいるのが見てとれた。


「もしかして、また渋滞にはまってしまった?」

『渋滞と言いますか、そのう。一旦は、渋滞から解放されたのですが、○○県境で大規模な事故が発生して、通行止めに遭いました』

「あー。それは、ついてないなぁ」

「ママ? わんわちょ、ろうくん、ぢょうしちゃにょ?」


 兄の忠告は、これかぁ。

 最初の渋滞も事故が原因だったよね。

 私達も車移動していたら、これに巻き込まれて身動きが取れなくなっていたのかも。

 幼児がいる状態での長時間の車での拘束は、きついものがある。

 特にもえちゃんは、チャイルドシートを嫌がるからねぇ。

 お山を移動中は危険があるからおとなしくしていても、平地に出ると器用に抜け出した実績があったしなぁ。

 毎回、チャイルドシートにいないとパパが車を運転できなくなるんだよと、言い聞かせても泣いていたし。

 一回それで、和威さんが違反キップを切られたからね。

 まあ、もえちゃんがチャイルドシートで大泣きしているのを見られて、取り締まったお巡りさんも同情はしてたけど、違反は違反。

 ちゃんと、罰金支払いました。

 シートがきついのかなと、和威さんと話し合って、改善点を探しだしたのはつい最近な気がする。

 まさか、前世の記憶で束縛された酷い思いを呼び起こしていたとは思い付かないでいたよ。

 しかし、東京に引っ越してきてからは、あまり拒絶はしなくなった。

 和威さんが仕事で不在のおりに、朝霧邸の車で移動する際専属運転手の川上さん運転の車内に、なぎともえ用にミニテレビが付けられて配慮されてからかな。

 和威さんも自分の車にテレビを付けてみようとした。

 が、結局付けずじまいで、もえちゃんの嫌が治まったのだよね。


「ママ?」

「ああ、ごめんね。もえちゃん、司郎君といちはまだ車の中なんだって。いつ、帰れるか分からないみたい」

「わんわ、きゃええ、にゃいにょ? にゃんぢぇ? おきゃあり、にゃしゃい、めめ?」

「うん。車が走る道路で事故があって、車が進まなくなっちゃったの。これは、司郎君もいちも、車を運転してくれる人も悪くなくて、どうしようもないの」

「……わんわ~。ろうくん~。パパも、なぁくんも、いにゃい。ママ、いっちょ、ぢゃけど、もぅたん、いやぁ~」


 うん。

 分かるよ。

 寂しいね。

 身体を翻して私に抱き付くもえちゃんは、兄の言葉どおり泣き出してしまった。

 ママだけ傍にいても、パパもなぎ君もいなくて、いちもいないのは悲しいね。

 よし、ここは朝霧家のツテを頼ろうか。


「司郎君、今車は少しも進めない?」

『いえ。事故の案内板が見えましたら、運転手の方が近くのパーキングエリアにて待機を……。済みません、運転手の方が琴子様にご報告したいと。代わります』

『司郎君との会話中に申し訳ありません。朝霧セキュリティチームの中垣内です』


 司郎君に代わりスマホに映るのは、私が東北地方に行かなくてはならなくなった依頼を知ったお祖父様が手配してくれた朝霧グループのセキュリティ部門のスタッフさんだ。

 西澤さんと橘さんは私に付き添い一緒に、新幹線で帰京している。

 中垣内さんは運転手として、司郎君といちの移動を任された方。


『事故はかなり大規模であると、自分にも連絡がきましたので、沖田主任の指示でパーキングエリアにて待機をとの事でした。おそらくですが、車での移動を避けるかと』

「もしかして、ヘリコプター移動を?」

『高い確率で、そうなるかと』


 私もそれを頼もうかとしたら、既に手配済みだった。

 ただし、ヘリコプターにいちを乗せれるかが疑問点だけどね。

 ヘリコプターの轟音に、聴覚が優れている動物を乗せていいのか。

 媛神様の神使であるいちなら、諭せば行けるのではないかと思った次第。

 果たして、想定したどおりになるかは、いちにかかっている。

 ちょっとだけ、我慢してくれないかなぁ。

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