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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のレクイエム
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その33

 漸く本来の依頼を遂行して、東京に帰る事ができたのだけど。

 幼いもえちゃんの移動に、長時間の車での移動は向いてないと思い、新幹線で帰京する手筈を整えたのだけど。

 泣かれました。


「わんわも、いっちょ、きゃえうにょ~」


 そう問題は、いちをどうやって帰京させるかで揉めた。

 流石に、盲導犬や介助犬以外の動物を新幹線に乗車させるには、小型犬や中型犬に限り、またキャリーケースに常に入れないとならない。

 となると、我が家のワンコは大型犬な為に、これに当てはまらない為、一緒に帰京が出来ない。

 よって、司郎君といちは車での移動になる。

 それを、もえちゃんは嫌がり、ぐずり盛大に泣いてしまったのである。


「もえ様。僕といちは車でしか帰れないのです。ですから、もえ様がお先にお家に帰り、おかえりなさいと出迎えてくださいませんか?」

「……ひっく。おきゃぁり、にゃしゃい、しゅう。わんわも、ろうくんも、おうちに、きゃえっちぇ、くう?」

「はい、必ず帰ります。もえ様の、おかえりなさいを楽しみにしていますね」

「あい、もぅたん、まっちぇう」


 機転を効かせた司郎君の説得にもえちゃんを納得させてくれ、私達と司君と麻都佳さんに護衛を自負する石動(いしるぎ)家のご当主さんに、朝霧家から派遣された警護スタッフを加えて、またもやお祖父様の財力で一車輌貸切にした新幹線で帰京できた。

 ホームで降車したら、厳つい護衛さんが付いている私達は注目の的だったのは言わずもがなであったりする。

 意味が分からないまでも注目の的だったので、SNSにあげようと写真やら動画を撮り出そうとした一般の方々に駅員さんや私服警察官さん方が盾になり私達を隠してくださっていたのには、頭が下がります。

 それでも、証拠写真やらを撮れなかった一般の方々は呟き等のSNSで情報発信はされていたらしい。

 まあ、すぐにしかるべく法的措置が取られて、削除案件になったそうで。

 そのことについても、抗議の呟き等が発信されてのいたちごっこが暫く続いた。

 そんな裏事情を知らない私達は、まず司君の安否を知らせるべく、緒方家を訪問した。


「司! もえ! 心配したんだからね。急に姿が見えなくなって、叔父さん達にどう償えばいいか、本当に混乱したんだからぁ。良かったぁ、無事で」


 篠宮家の孫世代の最年長者であり、任された責任を全うするべく心を砕いてくれていた梨香ちゃんは、安否が分かり無事でいた報告をされていても心配だったようで、緒方家に帰宅した司君ともえちゃんを抱き締めて涙ぐんでいた。


「梨香ちゃん。心配かけてごめんなさい。ぼくは怪我とかしてないよ。だから、あんまり泣かないでね」

「あい、ねぇね。もぅたんも、ちょっちょぢゃけ、ちゅきゃえちゃ、けぢょ、ぶじよ。あんしん、しちぇ、くぅしゃい」


 健気な二人の言葉に、ますます梨香ちゃんは感極まって泣いてしまったけど、数分後には落ち着いた。

 それから、巧君が司君を抱き寄せて、良かったと何度も安心を口にしていた。

 巧君も連絡はあり、無事は確認できたものの心配は消えなかったそうで、長時間移動して疲れた司君ともえちゃんとお昼寝する事になった。


「では、私がお昼寝の護衛を致しますので、梨香様と静馬様は不審者侵入後のお話をされてくださいませ」

「はい、波瑠さん。お願いしますね」


 子供達の安全は波瑠さんに任せ、兄不在時の騒動を梨香ちゃんと静馬君から聞く事にした。


「まず、慎之介に関してね。緒方の大叔父さんからは、勘当したから身内扱いしないでいいとは注意されてたの。だから、あの日急に緒方家に来て、家の中に入ってこられてプチパニックしちゃって、押し問答してしまったの」


 梨香ちゃんは、その時別室で卒業後の進路について学校教師と通話しながらやり取りしていた。

 で、気付いたら、緒方家に入れない筈の慎之介さんが家の中にいて、不審者対策に派遣してくれていた沖田さん達がどうして中に入れたか疑問を抱きつつ、奥に入れないようにした。

 もしかしたら、何らかな非常識な手段を使って沖田さん達を行動不能にしたのではないか。

 自分の身の危険も感じつつ対処していたが、押しきられて皆がいるリビングに侵入された。

 そして、連れの研究者ぽい人物は、朝霧家の親族のもえちゃんではなく、司君が目的と分かり、うちの兄から渡された非常手段の警察直行の通報ボタンを押そうとしたら、もえちゃんが司君を連れて庭に飛び出し、司郎君といちもいないのにも気付いた。

 後を追おうとしたら、波瑠さんに止められたし、豪雨と雷に阻まれて断念した。

 また、先に追いかけた慎之介さんと連れの人物が雷の余波に撃たれて気絶した処へ、沖田さんと警察官が現れて二人を連行していった。

 それから、豪雨が止んで庭に出たらもえちゃんと司君達は何処にもいなくて、つい入院していた和威さんや悠斗さん達に連絡してしまい騒ぎに発展しかけて、波瑠さんの二人は無事発言と沖田さん達の落ち着いた態度にいぶかしみながら安否を祈っていた。

 そんな精神不安定な中に、漸く私から梨香ちゃんのスマホに疲労から寝ているもえちゃんと司君の写メがいき、起きた司君からも連絡が来て安堵のあまりその日はダウンしてしまった。

 ああ、それはごめんなさい、だね。

 一応、無事でいるよとは連絡はしたけど、遅い時間帯だったから、それまでは不安だったよね。

 反省頻りだ。


「以前に、悠斗叔父さんからも言われていたの。アカデミーとかシンクタンクとか研究所とか名前の組織とか、そこに所属する人間は司には接近禁止令が出されているから、気をつけるようにって」

「まさか、慎之介さんが司の身柄を売ろうとしていたなんて、思ってもなかった」

「沖田さんが教えてくれたのだけど。慎之介さん、かなり借金があるみたい。私は知らなかったけど。和叔父さんが朝霧グループ会長の孫娘と結婚したから、朝霧グループと親交があり、本社の重要ポストにスカウトされているとウソを吐いて、結婚詐欺紛いの事件起こしてたんだって」

「その慰謝料とかを緒方の大叔父さんに支払って貰おうとして断られ、裁判所沙汰になりそうになったから、今回司を人身御供よろしく、お金と引き換えにしたとか聞いて、凄く腹がたった」


 まあね。

 司君の媛神様の加護が加護だけに、幼少期の物理難問解読騒動が、未だ尾を引いていたとはね。

 でも、司君は答えは分かるも、その過程を説明できない難点があり、一概に天才児とは言えないのだよねぇ。

 司君も判別つく年頃になると、自分のおかしな点が分かり、以降は身内以外の前では口に出さない用心をしていたけど。

 和威さんによると、一時期司君争奪戦していた件のアカデミーやらを黙らせた方がいたそうなのだけど、詳細な人物像は教えて貰えなかったそう。

 今なら、あの方達かなとは思う。

 それから、お祖母様は確実かな。

 お祖母様経由でお祖父様とか楓伯父さんとかも協力していそうだわ。


「梨香ちゃんも、静馬君も、ごめんなさいね。肝心要な時に保護者代理の兄がいなくて、不安だったでしょう? 兄には苦情を言っておくわね」

「しかし、それはこちらも不可抗力だったんだ」

「兄? いつから、いたのって。兄! どうしたの、何があったのよ」


 頼りになる保護者として緒方家にいる筈だった兄の不在を詫びたら、その兄の声がした。

 少々、文句を言いたかった私が振り返ったら、見事な青アザを口許に拵え、利き腕の右腕の骨折を表すギプス姿の兄がいた。

 驚いただなんて問題ではない。

 兄は他人をよくおちょくり怒らす性格だが、父の指示で護身術は身に付けていて、喧嘩になったとしてもここまで怪我をしたことがない。

 そういえば、兄も誰かに呼び出されていたっけ。


「名誉の負傷というヤツだ。まあ、単純骨折なんで、治りは早いだろう」

「だから、理由を言いなさいな」

「ああ、まあなぎが入院する病院に押し掛けた輩がいただろう。それに関連して、水無瀬家本邸にも馬鹿がやって来た。煽動したのは、宮内庁で会ったあの女だ。俺達にやり込められた鬱憤を晴らす為だけに大金を費やして、噂をばら撒き裏社会の人間を雇い本邸を襲撃された」

「ちょっと、それは大事件じゃないの。兄がそれだと、水無瀬家に関連する親族や家人の方にも被害が出たのよね?」

「いや、俺が最大の怪我人だ。というより、自分でこうした。でないと、じい様が報復できないからな」

「お祖父様をあてにしない。なんの為に、水無瀬家には護衛職に就いた人達がいるの。守られる側が自ら率先して怪我を負ったら、その人達が護衛職を剥奪されてしまうでしょうが」


 水無瀬のおじ様の娘さん一家に纏わる忌まわしい事件以来、水無瀬家の後継者問題に関わる大きな騒動の種となり、分家を巻き込んで水無瀬家存続の危機になったんだよ。

 お祖母様の唯一の娘である我が母は巫女の資格がなく、孫の兄と私も不適格と烙印押されていたんだよ。

 まあ、それは私達を後継者問題に関与させないで、水無瀬家の血を狙った医学界からも目を向けさせないように苦心された結果なのだけど。

 水無瀬家の直系が絶えるのも時間の問題で、野心ある分家が下克上を狙ったのもあり、ますます私達は隠されていた。

 なので、いきなり水無瀬家の後継者は兄と私であると公表されて、分家の中でも就任を認めずにいる家も未だにある。

 ただし、巫女の私に関しては能力を示したので、トーンダウンしたけど。

 当主の兄に対しては、恭順しない分家はまだ残っている。

 ああ、だから兄はその騒動を治めて、分家に認めさせようとしたのかも。

 でも、それだと護衛の方に怪我を負わせた責任がいってしまうではないか。

 兄め。

 一挙両得は、無理だよ。


「そこは、根回しはしたさ。俺付きの筆頭護衛に、盛大に叱られてきた。ついでに、父さんと母さんにも叱られた。後、水無瀬のおじさんにもな」


 兄よ。

 あっけらかんと言うでない。

 水無瀬家の悲劇は忘れ去られるには時間は然程過ぎてない。

 だから、後継者に指名され引き継ぎされている兄や、巫女となった私は最重要人物で、喪われてはならない存在なんだよ。

 気軽に囮になる訳にはいかないのだから。

 よし。

 父に密告してやろう。

 兄が全然反省してはないと。

 父の二度目なお叱りは長く、兄も回避したいからね。

 存分に叱られなさいな。

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