その32
「りゅうしゃん。ぎょはん、ちゃべえにゃいにょ、めめよ。ぽんぽん、ぐぅは、きゃにゃしぃにょよ。いやぁ、よ。ぢゃきゃりゃ、あめしゃん、ばっきゃりは、めめよ」
『然れど、小姫よ。この地は、兄君と小姫と母君を、病院送りにした悪の輩が政治基盤とする地ぞ。そんな輩を支持する愚か者達が、数知れずおる地ぞ。我、許したくはないぞ』
「めめ! りゅうしゃん、めめよ。ぎょはん、だあいじよ。もぅたん、ぐぅは、いやぁ」
『いやいや。小姫のお腹は満たされるぞ。この地だけが、米を作っておるだけではないからな』
「ぢぇも、おやちゅ、くえちゃ、おじぃしゃんや、ようきゃん、ちゅきゅりゅ、ひちょにょ、ぎょはん、ないない、めめよ?」
ただいま、もえちゃんとこの地方の天候を任され、雨ばかり降らせている龍神様がやり取りしている案件を、私はすっかりと忘れ果てていた。
岩代のお爺さんが所有する河川敷の土地での治水祭事が終了したら帰るつもりでいたのだけど。
私達に付いてきていた宮内庁職員の度会さんに、本当に依頼したかった案件はこの地方の天候問題だったのを指摘されて思い出した訳です。
そうして、あっと口に出してしまい、もえちゃんにまだお家に帰れない事情を説明したら、
「わきゃっちゃ」
と頷き、お庭に出ると言い張り、出たら豪快に空に向かってりゅうしゃんと叫んだのだ。
勿論、もえちゃんと私に宿る龍神様はすぐに現れたのだけど。
もえちゃんには、この地方で雨を降らせ続けている龍神様を呼び寄せる事に成功した。
といいますか、もえちゃんの龍神様が裏で早く来いと急かしたのだけどね。
それで、もえちゃんの前に呼び出されたこの地方の天候を任されている龍神様は、現れるなりもえちゃんにお説教されているという事態になり、やや困惑している模様です。
何しろ、この地方出身で政治基盤を持つ国会議員が黒幕となり、資金援助したりして篠宮家
の分家である川瀬家達を実行犯にしたてあげ、胡桃ちゃんの父方の実家をも巻き込んで、朝霧邸に侵入して、私達が怪我を負う羽目になったのである。
なぎ君は一時命が危うい状態にまでなったせいもあり、篠宮家の祭神たる媛神様や水無瀬家の祭神たる龍神様達は大激怒して神罰を下しているのだ。
黒幕の国会議員を盲目的に支援している一般の方の中でも農家の方々に、彼の国会議員は好まれ支援者が多く、彼等も福の神となるはずだった子供を受け入れる事を良い策だと信じこんでいたのだ。
その福の神となる子供を肉体的精神的虐待をするほど、富栄えるとは知らずにだ。
そうした酷い事態に加担しようとした愚か者達を、龍神様は許す気がさらさら無く、逆にお前達に災いあれと報復しているのが現状なのだった。
それと、いつもは分からない意味をなぁにと司君に聞いてしまい、司君が懇切丁寧にわかりやすくもえちゃんに説明してしまったのもあり、雨が降り続けば農作物に被害が出て、お米の産地として名高いこの地方のお米が食べれなくなるのと。
生産者の農家の方々も大変困った事態になり、お金が貰えなくなりご飯が食べれなくなっちゃうんだよと、司君に教えられてもえちゃんは泣きそうな表情で龍神様にお説教兼お願いを訴えているのである。
ご飯が食べれないという状況は、前世か前々前世の時代か、それよりももっと前の時代において、その当時のもえちゃんの記憶に満足に食事にありつけなかったことを思い出させてしまっているのだと思う。
ご飯がたべれないのは駄目だと必死に訴える姿に、見守る岩代のお爺さんや石動家ご当主さんが首を傾げていたりする。
違うんです。
今のもえちゃんを飢えさせたことはないですから。
ご飯を食べさせてないなんてことはないんです。
前世からの記憶云々を言えない私は、少々居心地が悪いです、はい。
「小姫は必死に訴えておるが、ひもじい体験があるのだろうか」
「いや、朝霧様の家系ゆえ、食事に事欠くとは思いませんが。はて?」
「多分、夏休みに静馬お兄ちゃんの宿題で、戦争時代のレポート書かないとってなって、お山のひいおばぁちゃんが戦争時代のお話とかしてくれて、その時は食べる物がなくて、木の根っことか山菜とか無理して探して食べてたって聞いたし。臣叔父さんが、戦争時代のジ○リのDVDを編集して見せてくれたから。もえも、その事を言ってるんだと思います」
司君、ナイスアシストありがとう。
我が家には、ジ○リのDVDは子供向けのは揃えてはいるけど、あの某お墓と名のつくDVDは幼児にはトラウマになるだけと判断して買ってはなかったのだよね。
だから、もえちゃんとなぎ君が編集したヤツを視聴していたのは初耳だ。
「でも、あれは途中でなぎともえが泣いちゃって最後まで見てはなかったのだけど。覚えてたんだなぁ」
「成る程。確かに、あれは幼子には強烈な印象が残る映画だったろう」
「ひいおばぁちゃんも苦労したと教えてくれたから、なぎともえはご飯を大事にするんだよね。お母さんが言ってたもん。ぼくや巧お兄ちゃんがなぎともえぐらいの頃は、食べ物で遊んでいて行儀が悪かったけど。なぎともえは、絶対にご飯を遊びには使わない行儀が良い幼児だって誉めていたよ」
「うむ。先程、おはぎや羊羮を食べておられた時も、きちんといただきますやごちそうさまを言っておられたし、幼児にしては綺麗に食されておったな」
そうですね。
なぎともえの食事作法は、他の年齢の幼児とは違い手掴みで食べたり、嫌いな食材を放り投げたりといった行動は一切やらない。
まあ、希にフォークで刺し損ねたプチトマトを手で拾うことはあるけどね。
身内だけが同席している場合に限るけども。
『では、小姫は、此度の事件を許す気でありますゆえに、我々に矛を収めよと申されますのか?』
「ママぁ~。ほきょ、にゃあに?」
「もえちゃんとなぎ君に大怪我させた悪い人や支援した悪い人を許してあげてもいいですかって、龍神様は言ってらっしゃるのね」
「あい。わぁりゅい、ひちょは、おまーりしゃんぎゃ、ちゅきゃまえちゃきゃりゃ、あんしんにゃにょ。パパ、うしょ、いっちゃ?」
「パパは嘘は言ってはないわよ? 悪い人は、お巡りさんや刑事の人達が捕まえて、刑務所といった場所に隔離されているのよ」
朝霧邸に侵入した実行犯や黒幕の国会議員は、既に逮捕されて収監されている。
そして、篠宮家や水無瀬家の祭神から神罰が与えられているそうだ。
丁度、襲撃された時刻になると、壮絶に凄まじい苦痛より遥か上の七転八倒する痛みと、生きながら解剖される幻痛と幻覚が毎日襲うのだとか。
はじめは、警察病院に移送され健康状態を調べられたものの、検査しても異常は無しと診断された。
また、取り調べ時には時間になっても異常は発生しない。
結果、彼等は罪を逃れようと、精神に異常を来していると悪質な手口で偽装していると検察側や弁護士も心象を抱いている。
まあ、見てない方々にとっては、ニ柱の神々が神罰を下しているとは思いもよらないだろう。
唯一把握している方々は、とばっちりを受けない為に沈黙を貫いていた。
篠宮家を一族として迎えいれたいやんごとなき方々も、陳情を非公式に内閣府へ送り、法務省はお祖父様の意向に添った判決を希望して、経済界のラスボス的存在な朝霧グループ会長や社長へ経済的制裁をしないで欲しいと遠回りな経由でご機嫌伺いがきてたりする。
お祖父様は、被害にあった孫娘一家にではなく、自分に先に謝罪された時点で、そちらはガン無視だったけど。
楢橋家の事件や、私のロイヤルウェディング騒動で内閣府を信用に値しないと判断した。
どうやら、近々内閣総辞職の上、選挙が行われそうだとか。
朝霧グループ会長の不興を買うと、そうなり受け入れられてしまうのに、若干身内が末恐ろしい存在なんだと理解させられた。
お祖父様の暴走を止めれていたお祖母様の偉大さに改めて気付かされもした。
『致し方ない。小姫のご意志に従うは長のご意向でもある。本に遺憾ながら従いましよう』
「あい。あいあちょう、ぎょざぁましゆ。りゅうしゃん。おいしぃ、ぎょはん、まもっちぇ、くぅしゃい」
三十分ほど意見を交わして、漸く龍神様が折れてくださった。
これ、本来は私がやらなければならない案件だったのだけど。
もえちゃんが、立派に役目を担ってくれた。
もえちゃん。
お家に帰ったら、もえちゃんの大好物なご飯作るからね。
ママは、幼い身で龍神様の巫女をなしてくれたもえちゃんを労います。
龍神様の説得に活躍したもえちゃんを褒めて、パパにも報告するからね。
もえちゃん。
本当にお疲れ様でした。




