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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のレクイエム
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その26

 ああ、もう。

 この頑固なお爺さんをどうにかして欲しい。

 石動(いしるぎ)家からの水無瀬家への、宮内庁を挟んだ依頼は、暗礁に乗りに乗っていた。

 そもそもの発端は、朝霧邸を襲撃し、もえちゃんの誘拐を企てた篠宮家の分家の川瀬の後ろ楯となった某国会議員さんの地元である、有名なお米の産地の異常気象。

 豪雪地帯ではないものの、冬の季節には雪の日が多い地域なのだけども。

 今年は、かなりの豪雪と雨が降り止まずで、河川の小規模な氾濫による田畑の被害と家屋を失う方が続出していた。

 勿論、地元出身の某国会議員が任期を経ずに辞職し、何やら不祥事を起こして逮捕されたのは、皆さん知っていた。

 けれども、この異常気象の原因がそれとは、誰もが認識するはずもなく、何処へ陳情すればいいのか、県知事さんも頭を悩ませていたそうだった。

 そうして、最終的に頼られたのが、地元の名主で旧家でもあり、東北地方の難事を解決してきた守護家の石動家。

 元は、違う家名が名主であったが、事情を知らない一般の方々は、単に本家の血筋が絶えて分家に移動したぐらいにしか思われてなかったりする。

 まあ、お家騒動を知る生き字引の方々は黙して語らずを貫き、難事が起きたら石動家を頼るが定着していたのである。

 それで、石動家当主に話が伝わり、石動家の巫女が守護神様に異常気象の解消を願うも、返答はあまり芳しい神託ではなく、日々被害が起きた現場に出向いては大地の安定の祭事を行うしか手はなかった。

 ただし、石動家当主様は守護神様のご様子に、疑問を抱かれて本家筋の水無瀬家へ相談に行かれた。

 無論、歴代に類を見ない突出した異能を所持していた前巫女たるお祖母様の逝去と、水無瀬のおじ様の病状もあわせての代替りが起きているのを承知されていた。

 と言うか、そうした水無瀬家の代替りも関係があるのではないかと思われていた。

 なので、風峰家も交えて、ご機嫌伺い兼代替りの祝辞にと水無瀬家本家へ足を運ばれた。

 そこで、次代の当主となる兄が、諸々の一因を暴露して、盛大に驚愕する羽目になったそうだ。

 漸く、原因が分かった石動家当主様は、守護神様が神託を下ろさなかった意味を悟り、石動家の守護神様や風峰家の守護神様より上位の龍神様がお怒りの事実に納得された。

 水無瀬家次代の巫女の家族を、某国会議員が黒幕となり害した。

 そりゃあ、龍神様もお怒りになる。

 が、無辜の一般の、事件に関与してない地元の人達が何故に標的になったのか、一度被害地域に戻られた石動家当主様は、情報を精査された。

 そうしたら、被害を被った側にもある程度の、某国会議員への利益供与や恩恵に預かり、資産を得ていたのが判明したり、誘拐されるはずだった吉を与える子供に何を行おうと計画されていたのかも突き止められた。

 これには、龍神様以上に石動家当主様も怒り心頭となられた。

 詳しくは教えてくださらなかったけど、怒り具合から想定すると酷い計画だったのだろうと思われた。

 そして、県知事や被害地域の市町村の長に、異常気象の原因がある事件に起因し、石動家でも鎮める事がかなわないと通達された。

 大いに困り果てたのは、頼りの石動家から見放された形になった被害地域の住人達と、幾度もなく陳情される県知事や市町村の長の皆さん方。

 結果、自分達にも対応が無理と判断して、逮捕された某国会議員の代わりに選出された国会議員を経由して、内閣府に陳情を上げた。

 陳情された内閣府も、新任の国会議員には詳細を教えないまま、対応する省庁や災害派遣の要請はしつつ、全ての事情を把握済みな総理大臣も宮内庁を経由して最古から神事を司る水無瀬家へお伺いをたてるしか手段はなかった。

 水無瀬のおじ様の代役にたった兄は、最初は取り合わない態度だったとか。

 大企業の朝霧グループ会長の祖父や楓伯父さんにも取り成しを願い、直々に頭を下げられたらしかった。


「祖父や叔父の頼みですから、話は聞きますが。貴方達の同僚ともいえる立場の国会議員が、権力を行使して何を企て、実行したか、本当に理解されておいでですか? 亡き祖母も最後の助言をされた通り、今年度の日本は異常気象に見舞われ、農作物に莫大な被害が出るのは仕方がないのですよ。何せ、事件を起こした当人からの謝罪は未だに無く、命を失いかけた幼い甥と手術をするまで怪我を負った姪は完治してないですし。甥は生涯癒えない傷を抱えて生きていくしかないんです。ああ、ついでに言わせていただきますと。その幼い甥こそが、正式な水無瀬家の当主となります。自分は中継ぎでしかありませんので、正式な当主と巫女の血を継承する姪が失われていたら、異常気象はあの地域だけでは済みませんでしたよ。それを、ご理解してなさってないでしょうから、龍神様も荒れに荒れておられます。まあ、某国会議員と何ら関係がない方も被害にあわれてしまうのは、こちらも目覚めが悪いので、巫女を継いだ妹と相談はさせていただきますので、今日はお引き取りください」


 当主の代替りの忙しい最中、非公式に内閣府に呼び出された兄は、朝霧グループが所有するホテルでの面会をなら受けると返答していた。

 威圧感丸出しと、自分達が呼び出される側に義憤を顕に感情を隠さなかった使者さんを兄は暗に、お前らにも原因があるんだぞと半ば脅してやり込めた。

 この話は、仲介した楓伯父さんが記録して保管され、お祖父様に持っていった。

 記録をみたお祖父様は翌日、弁明の機会を与えに総理大臣官邸に突貫していったそうである。

 よって、拗れに拗れた挙げ句、内閣府では心証が良くないのではないかとある方の意見で、宮内庁が引き継いで、私に依頼を要請したのが、事の成り行きなのだけど。

 石動さんの護衛の元、宮内庁職員の渡会(わたらい)さんも同行して、件の地域に来た訳ですが。

 石動家当主に代替りする前の岩城(いわしろ)家最後の当主であった人物の末弟であるご老人が、当主交代を言い渡した過去の恨みもあり、水無瀬家の巫女を目の敵扱いして、難癖をつけたのが始まりの、治水祭の神事妨害と、所有地の立ち入り禁止を頑なに覆さない態度を示すから、他の人達も水無瀬家を信用しない風潮が生まれてしまっていた。

 それが、冒頭の私の本音の嘆きにあった。

 石動家の当主一家や巫女さん達は、丁寧な対応で私達をもてなしてくださっているのに、元岩城家分家筋の付き人や護り人達は敵意を顕にしてくるから、厄介な事態に陥っていて、どうしようもなくなっている。

 龍神様も、護り人の資格無しと認定して、石動家の守護神様に加護を破棄するように申告していたりする。

 河川が氾濫した地域は、岩城家の所有地を通らないと行けない場所が多々あり、せっかく石動家当主様が働きかけて叶った水無瀬家巫女の派遣に水を差した形になるのを理解されているのかも疑問視している。

 もしかしたら、石動家当主様の不手際を呼び水にして、守護家の奪還を画策しているとかかなぁ。

 龍神様の逆鱗に触れる行為にしかならないのに、益々自分達の守護神様から見放される未来しか来ないのを、夢にも思ってないのだろうね。

 それから、私の秘書役兼付き人の麻都佳さんなのだけど。

 石蕗(つわぶき)の家名は、岩城家の分家でもあった。

 水無瀬のおじ様は、従兄弟の春日のおじ様を石動家当主様が水無瀬家の後ろ楯で当主になったと知らしめる目的と、元当主一家の監視をする為に分家へ婿入りさせた。

 元々、水無瀬家を除く三家の守護家は水無瀬家の分家から独立した家であるから、本家の意向には逆らえない立場にある。

 また、石蕗家の奥様、麻都佳さんの母親は大地の巫女候補であったから、産まれた麻都佳さんは巫女にと期待されてはいた。

 が、麻都佳さんは水無瀬家の血が出て、水を操る才はあれど大地に関する才はなく落胆されるかと思いきや、逆に石蕗家から水無瀬家の巫女になれるかもと別な期待が寄せられる事になってしまった。

 春日のおじ様も、水無瀬家や石動家に害なす輩を炙り出す役目を自ら課して、麻都佳さんを次代の巫女にと声高に喧伝していた。

 それが、今回裏目に出てしまったから、笑えない。

 厄介なご老人は、私が水無瀬家の巫女と認めず、麻都佳さんに役目を代われとか、己の役立つ駒に麻都佳さんを仕立て上げようとしていた。


「おじ様方は、馬鹿なんですか? 貴方方が、恭しく琴子様を巫女姫と認定して尊ばれるなら、龍神様もお怒りは鎮めてくださいましたのに。火に油を注いだだけですわね。事情を知らされず、龍神様の逆鱗に触れてしまい、巻き込まれた方々には、おじ様方の態度によって被害が増大すると説明させていただきます。ですので、被害にあわれた方々には、おじ様方が自分の財産から賠償金なりお出しくださいませ。では、琴子様。もうこちらに滞在する必要はなくなりましたので、帰郷致しましょう」


 麻都佳さんも、話が通じないストレスを抱えていたらしく。

 一刀両断して、本気で帰り支度してしまいました。

 慌てているのは、同行してきた宮内庁職員の渡会さん一人のみ。

 石動家当主様も腹に据えかねていたのか、沈黙して指示を出す始末。

 さてさて、どうやら無駄足になりそうです。

 相変わらず、龍神様は鎮まる気配もなく、本日も暴れてられます。

 本当に、どうなる事やら。



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[気になる点] >命を失いかけた幼い甥と手術をするまで怪我を負った姪は完治してないですし(略 命を失いかけたのも、手術を受けたのも、なぎくんでは? もえちゃんは精神的ダメージはともかく、物理ダメー…
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