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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のレクイエム
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その23

「ならば、お前の戯言に付き合う輩を呼んでこい」


 兄の冷たい言葉が、勘違い女性に突き刺さる。

 視界にいれもせずにだ。


「はあ? 貴方、私の言った意味を分かっているの? 私は、皇室に……」

「失礼致します。宮内庁侍従職に就いております自分の認識では、貴女が皇室並びに宮家に準ずる血筋であるとの見識はございません。まあ、貴女は妄想が甚だしい女性であるとの、宮内庁侍従長及び長官からご実家に苦情の書簡を送付させていただいております。よって、貴女と皇室並びに宮家は無関係であると、述べさせていただきます」

「風巻家からも、述べさせていただく。其方の女は、風巻家前当主の次女。当代風巻家当主の自分とは従姉妹の間柄。風巻家本家が都内にあり、役目柄宮内庁職員の方々や宮家と縁が近いとはいえ、その身に尊き血筋は有せず。また、先程宣った言葉には、虚偽ばかりの妄想故、誰も信じる者はおりません」

「なっ、何ですって! 私は、皇室から直々に望まれた由緒ある風巻家の当主の娘よ。お父様を陥れて、当主の座を奪った強欲なお前が、私達一家に何をしたか、石動のおじ様はご存知でしょう。それから、水無瀬の当主も私の味方をなさるでしょう。この場は、これの断罪の場で、私の立場を高みに望む場でしょう? 私は、一分家の家におさまるべきではない高貴な血筋の出身で、守護神たる神聖な四神を奉るれっきとした由緒正しい家の後継者なのよ!」


 おかしいな。

 女性の喚いている意味が、さっぱり分からない。

 侍従職の方は、きっぱりと無関係を主張して、突き放しているし、

 身内の風巻家当主からも、虚言だと言い張るし。

 石動家当主は、眉をしかめて女性を見ている。

 その表情は、怒りに近い。

 また、女性も支離滅裂な言葉ばかり言い、いかに自分の身の上が上位にあるかとマウント取ってきている。

 私達水無瀬家が本家で、風巻家や石動家は分家の立場のはずで、上から目線のマウント取りは家格的には悪手なのだけどなぁ。

 下手したら、お家断絶モノだよね。

 だって……。


「喧しい。これ以上、水無瀬家の方々に、無礼な赦されざる行いは、直ちに止めよ。我が石動家は、初代陸原(りくはら)から岩城(いわしろ)を経て、当家石動が当主家となった。その過程は、本家である水無瀬家を蔑ろにし、成り代わろうとし、奉る祭神から見放された結果故の事。風嶺(かざみね)家が傘嶺と氏名を改名されたのも、火を司る炎堂家が同じく祭神から見放され、円堂と名乗らねばならなくなった事案と等しい。その恥を風巻家が(そそ)がんと尽力しておるのにも関わらず、更なる醜態を晒しておるのに気付かぬ行い。そなたは、既に風の加護無き愚者でしかなく、巫女にもなれず、家を繋ぐ血筋を産む役割りも失った只人なり。未だに己が尊き身の上と、よく言えるわ」

「……おじ様。何で、そんな厳しい事を言われるの? 私は、我が家は、風の加護厚き、風嶺家の、高貴なる方々を尤も身近に御守りしてきた家なのに、どうして……」


 石動家当主にも苛烈な批判を浴びて、女性の威圧的な高貴発言が通じないのをやっと悟り始めた。

 風巻家当主の膝上に座す白い猫姿の神使ですら視る能力がないのは一目瞭然で、神使側も女性を一瞥しただけで歯牙にも掛けない様子で丸くなってしまっている。

 石動家当主の膝上の黒い亀姿の神使は、既に手足や頭は甲羅に納めて、我関せず状態。

 私に宿る龍神様は、私達を敬う素振りがない女性の態度にお怒りで、長い尾の部分がびたん、びたんと床を打ち据えている。

 麻都佳さんと兄の秘書兼付き人は、いつでも実力行使いけます体勢で、警戒を怠ってはいない。

 侍従職の方も、皇宮警察の制服さん達を招き入れている。

 これ、兄のGOサインが出たら、捕縛後連行が待ち受けてるね。

 そして、行き着く先は、考えたくないや。

 きっと、人知れず、私に関係しない場で処分されちゃうのだろう。

 まあ、命までは無くさないよね。

 うん。

 本当に怖いから、考えるのは止めよう。

 でも、石動さんが説明したのは、私も巫女の能力を引き継いだ際に、他の三家についての情報も漏れなくついてきていて把握している。

 水無瀬家から別たれた三家は、初代は陸原、風間、炎堂が氏名を与えられた。

 しかし、その三家も長い歴史の中で、水無瀬家への下剋上を狙った地位簒奪と、他家への干渉によって罰が下り、炎堂家は役目を果たすには相応しい人材が産まれずに衰退した。

 辛うじて、巫女の血脈は残されているも、守護する当主家が護り人の家系に乗っ取られ、当主家の地位を剥奪されているのが現状である。

 巫女の血脈は、水無瀬家と石動家の護り人が今は代理の護り人を務め、血脈だけは残されてはいる。

 しかし、我が家に祭神が宿る御神体があるのも事実であって、巫女としては祭神に認識されてはいない為、本当に血筋が残っているだけで、役目を全うするには至らずなのである。

 御神体の鳳凰は、何故か我が家の双子ちゃんがお気に入りで、気軽に会話が成立しているのと、御神体のお手入れも赦されちゃっていたりする。

 兄に、この状態が良いのか相談したら、先見で分かっているのだろうと思われる返答された。

 曰く、なぎともえが、相応しい時期に相応しい人物に託して、炎堂家が復興するだろう、とね。

 ああ、そうですか。

 としか、返せなかった。

 つまり、時期と人物が揃えば、鳳凰の御神体は南の地にお戻りいただける。

 多分、炎堂家に纏わるお家騒動にかたがつく訳ですね。

 元々、水無瀬家が下賜した御神体だそうで、なぎ君ともえちゃんが、託してあげれちゃうのも有りな成り行きだそう。

 といっても、まあ簡単には行かない過程がありそうだとの註釈付きだったけど。

 それから、風間家は関東領域が守護範囲であって、水無瀬家代理で皇室をお支えする役目が付随していた。

 風間家は、水無瀬家の意向も汲んで役目を全うしていたのだけど。

 風間家に巫女が産まれにくくなり、風嶺家が巫女を拝命する家柄になると、風間家は身内が当主の方が巫女も動きやすいのではないかとの配慮で、当主の座を譲り護り人へと鞍替えした。

 のだけど、三代目ぐらいまでは風嶺家も風間家を優遇して、本家分家の立ち位置はわきまえていた。

 が、四代目が愚鈍な教育をされてしまい、いつまでも風間家が当主面をするなと馬鹿ないいがかりをつけて、縁切りした。

 その頃には、巫女も風間家を見下して、不要な一族だと断言して、追放を許可しちゃったから、風の祭神も風嶺家を信用に足る一族だと思わなくなり、徐々に巫女の能力が低下していった。

 代わりに台頭してきたのが風巻家で、古式ゆかしく面々と祭事を営んできたのが、風の祭神に気に入られて、当主家が交代したのはつい最近の事。

 水無瀬家から別たれた三家の当主と巫女任命権は水無瀬家にあり、水無瀬のおじ様は風巻家当主交代を承認している。

 宮内庁や皇室の長も容認しているから、風巻家が当主なのは揺らぎようがない。

 なのに、風の氏名を改名された元風嶺家は反発して、他家への内部干渉だと水無瀬家へ暴言吐いたり、覆そうにないと知ると莫大な慰謝料請求してきてるんだよね。

 後、今までの役目を担ってきた退職金代わりの無理難題な要求も恥知らずにもしてきている。

 それは、風巻家当主から、取り合わない方向で無視してくれと当主補佐の方が水無瀬本家に訪れて土下座までして謝罪していった。

 逆に迷惑料貰ってしまい、風巻家の了承を得て、一人親家庭の進学費用を助成する基金とか、孤児院卒業した身寄りがない成人前の教育を学びたい学生の返済義務がない奨学金を出す法人を立ち上げて資金源にさせて貰った。

 まあ、そのお金を返せと悪びれもしない、風嶺家の親族もいたけど、無視一択した。

 石動家も、炎堂家を傘下に手に入れて水無瀬家への下剋上を狙った陸原家やら、炎堂家を衰退への道に歩ませた岩城家を潰した過去を知り、徹底した分家の分を越えない仕来たりや教訓を教育課程に練り込んだ。

 よって、風巻家も石動家も、水無瀬家が本家であり逆らうなんて以ての外、下僕扱い希望根性が身についたのである。

 水無瀬家当主としては、若輩者な兄や巫女就任して経歴が浅い私達を上座に据えて、敬うのも彼等には当たり前な事なのである。

 水無瀬家側も、三家が機能しない事態は防ぐべく裏では暗躍している。

 血の繋がりがあるお祖母様の生家も、歴史を紐解けば皇室にだって意見を進言しても無視は出来ないお家柄でした。

 それから、勘違い女性は、四面楚歌を味わい、誰一人も味方をしない状況にキレて、またもや意味不明な戯れ言をほざいたので、とうとう兄に最後通牒された。


「風巻家、石動家、円堂家の本家として、通達する。今後一切の、傘嶺家が守護家を名乗るのを禁止す。又、守護家であった経歴を抹消す」

「風巻家当主、拝命謹んで受託致します」

「石動家当主、同じく受託致します」

「宮内庁長官に代わりまして、宣言お聞きしました。以後、この者に与えられておりました特権は無効となる手続きを致します。では、何ら関係のない一般人には、お帰りいただきます」


 一人の賛同者をも得られなかった部外者が、強制的に連行されていった。

 それでも、己が間違えてないと、悪くないと主張する女性は最後まで足掻いて、喚いて退場していった。

 あの人、何しに来たんだろうか。

 謎が残された。


「あれは、巫女になれない自分を哀れらまれた環境は、自分がいるに相応しい場ではないと思い、見返す為に水無瀬家当主の許嫁と盲信して、自己の保身に走った。水無瀬家当主殿には、誠に不快な場に立ち会わせるに至り、大変申し訳ありません」

「構いません。ああした輩を排除するのも私の役目であります。石動家も不遜な一派がおりましたら、遠慮なく相談ください」

「ご配慮、有り難く。ですが、努々身辺にはお気をつけられますように願います」


 こうして、兄と私の他家の当主さんとの交流は終わりを告げた。

 後は、宮内庁経由した、皇室からの依頼だけとなり、私は石動さんの同行で東北方面に移動する事になった。

 兄。

 もえちゃんと、梨香ちゃん達篠宮家の子供達を頼んだからね。

 私は、泣く泣く長期になりそうな依頼に向けて、出発した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 円堂家に戻す必要ありますかね? 炎堂家も元は水無瀬家から独立(?)した家なんですよね。 なら、なぎorもえの子供が新たに家を起こしてもいいのでは?
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