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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のレクイエム
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その17

 諸々の騒動が終着したのは、やはり内閣府の謝罪報道が、各新聞社や報道局にトップで扱われた翌週の頃。

 外務省に勤める真雪ちゃんも、お祖父様の知人が所有するテレビ局の報道番組の取材に応じて、包み隠さず心情を発言し、外務大臣からのパワハラ紛いな命令を下された事や、要求された従姉妹(私)への遠回しな要請を黙って受け入れさせろと言われた事等暴露した。

 これは、既に総理大臣から了承を得ての発言で、追従する形で官邸からも非道な行いがあったと更に謝罪する羽目になった。

 まあ、件の外務大臣やら政務次官は更迭され、人身御供的な要請は実質人身売買に近いと弾劾されて、只今警察に拘留されていたりする。

 それから、私は一般人であるから、興味本位な素性ばらしは個人情報保護の観点から、訴えられても構わないなら暴けばいいと、朝霧グループ会長(お祖父様)と社長(楓伯父さん)連名で、各社新聞社や出版社に通達されている。

 これは、朝霧邸に三流ゴシップ誌のライターが、不法侵入した件もあわせての通達で、そのゴシップ誌を発行する出版社は、朝霧グループの制裁の憂き目にあっていて、潰れるのも間近だったりする。

 また、有名処の雑誌社が、朝霧邸から通学する司郎君に付きまとい、情報を得ようとして巡回する警察官から警告を出され、おちおち朝霧邸から外出できなくなったりと、迷惑極まりない記者やライター避けに、わざわざお祖父様達は再び会見しなくてはならなくなったりしていた。

 なので、暫く司郎君は峰君が運転する車で、登校しなくてはならなくなった。

 いちの散歩も出来なくなり、近場のドックランにも足を運ばないとならないのもあって、不便を強いられてしまった。

 悠斗お義兄さん一家の帰宅時にもマスコミは尾行していたらしく、一旦朝霧グループ系列のホテルの尾行者が入れない優先駐車場で車を乗り換えて移動しなくてはならなくなり、大変申し訳ない限りだった。

 和威さんが謝りの電話を入れてくれたけど、お義兄さん達も別な方向の情報、篠宮家が宮家に匹敵する家柄だと公にされたのもあってか、密かに探られていたのが判明した。

 某報道局から、真偽の電話があったとかで、取材の申し込みが頻繁にあり、事業の邪魔をしていた。

 それは、雅博お義兄さん一家や緒方家にもあり、またもやお祖父様の勘気に触れ、やんごとなきお方にも話が伝わり、宮内庁からの抗議が出されたりと、色々ありました。

 我が家にも迷惑掛けたお詫びにと、あちらの国の皇太子様から、有りがたくない品々が届けられていた。


「これは、詫びなのか? 押し付けられても、維持費とかどうするんだ?」

「あっ、でも、この文面だと、維持費やら管理人のお給料は、あちらが出されるらしいわ」

「じゃあ、これは単なる名義人が変わっただけか? 個人資産に含めていいのか?」

「諸経費並びに、税金もあちらが支払うそうよ」


 有りがたくないお詫びにといただいてしまったのは、避暑地として有名な海外の別荘地だったり、広大な土地付きお城じゃないかと思わせる屋敷一式とか。

 まだましなのは、外国車のスポーツカーや、誰もが知る画家の絵画や、目も眩みそうな宝飾品とかである。

 うん。

 私は水無瀬家の巫女に就任した手前、日本から長期にわたる外国への滞在は無理な訳で、海外の別荘地は無用の長物になりそうな気配がしてならないよ。

 維持管理費はあちらが支払うとの事だけど、この場合所有財産に含まれるのだろうか。

 後で、朝霧グループ顧問弁護士さんに問い合わせよう。

 返品しようにも、あちらのメンツを立てないとならない面倒臭い事柄故に、一応は受け取り楓伯父さんに丸投げしようか模索中だ。

 何故に、あちらのセレブな方々のお詫びはスケールが半端ないのか、不思議である。

 それから、菊の御紋の入った菓子折りと直筆の、これまたお詫び状が届いて、返信はどうするかも悩んだ。

 こちらは、篠宮家当主の康治お義兄さんが代表で、返信するとの事でおまかせした。

 どうも、隆臣お義兄さんのお見合いを潰したくはない思惑もあるからか、早急なお見合いが開催される運びになりそうである。

 隆臣お義兄さん的には余計なとばっちりが行き、こちらも大変申し訳ないです。

 そんなこんなで、1月が過ぎようとしていて、忘れていたのはなぎ君の検査入院である。

 彩月さん経由で、病院から連絡が来て、さあ困ったぞとなった。

 問題は、もえちゃんにあった。

 もえちゃんは、しおらしく言葉に出さないでいたけど、先見の能力で予知していた。

 私やなぎ君から離れたがらず、しきりに抱っこをせがんだりと甘えん坊さんになっていた。

 昼寝の時間も、私にしがみついて服を握りしめて眠る切なさを体現して、暫しの別離を感じていたのだよね。

 なぎ君も、つられて不安定な体調崩しを繰り返してもいる。

 だから、日曜日に和威さんが双子ちゃんに、かいつまんで説明しようとしてくれた。


「パパぁ。なぁくん、びょーいん、いきゃにゃいちょ、めめ?」

「もぅたん、おうしゅばん、いゃあ」

「うん。パパも、なぎとママがお家にいないのは寂しいな。だけどな、なぎが病院に入院するのは、なぎの身体が元気になったよと、調べる為でもあるんだ」

「なぁくん、げんき、よ?」

「そうかな? なぎはご飯を食べるのが少なくなったし、すぐに疲れて寝てしまうだろう?」

「……あい」


 和威さんの膝上で、泣きそうな顔でパパのお話を聞くなぎともえの姿に、私は理由のない別離ではないのを説き伏せる気分にはなれなかった。

 今日まで話してあげれなかったのも、双子ちゃんの内心を慮ってというのもあった。

 騒動を言い訳にしてしまったつけを、和威さんに後処理させているのだよね。

 自己嫌悪しか湧かないや。


「なぎが入院するのも、今は食べれない魚や肉を食べれるのか検査するんだ」

「おうち、めめ?」

「ああ、家には彩月がいるけどな。なぎが食べた後で、気分が悪くなったり、お腹が痛いだけでは済ませられない状態になったら、病院にいればすぐにお医者さんが診てくれるからなんだ」


 なぎ君は家でも出来ると言いたかったのだろう。

 彩月さんや看護士資格のある喜代さんが常駐しているけれども、朝霧邸に病院で使われる医療器具はないからね。

 なぎ君に何かあったら、その度に救急搬送しなくてはならなくなる手間を考えたら、入院がベストな答えなのは当然。

 だけど、なぎ君ももえちゃんも、退院したのは元気になったからと思っていた訳で、また入院するのはなんでとなるのも当然なんだよね。

 これは、私達がきちんと話してなかったせいだから、私達が悪い。


「なぁくん、びょーいん、にゃりゃ、もぅたん、ひちょり?」

「いや、前みたいに、朝にパパがもえを病院に連れて行って、病室で過ごせばいいんだ。夜パパが迎えに行って、一緒に家に帰るようにするぞ」

「ぢぇも! パパも、びょーいん、にゅーいん、しゅうにょ。まぁくんも、ゆうくんも、みねくんも、だもん。もぅたん、ねぇねちょ、にぃにちょ、ぢゃけ、おうしゅばん、よ?」

「ん? パパも、入院しちゃうのか?」

「あい、こんこん、おしぇきちょ、おねちゅ、パパぢゃけ、にゃいにょ。みぃんにゃ」

「琴子、これは先見かな」

「そうみたいね。今、流行している新型インフルエンザかしらね」


 もえちゃんは、パパも入院すると言う。

 よし、兄にも確認だ。

 水無瀬家の当主交代に伴う根回しと、挨拶回りで多忙だろうが、事が事だけに四の五の言っては入られない。

 案の定、出るまで鳴らし続けたスマホ越しから、兄の苛立つ声音でお小言が出始めた。


『妹よ。兄は忙しい。手短に話せ』


 先にラインで、緊急連絡と打ってから連絡したので、出てはくれた。


「兄、多忙だとは承知しているけど、緊急の相談なの」

『ああん? 緊急だから、出てやった。早く説明しろ』

「兄の先見で、我が家だけでなく篠宮家のお義兄さん達も病気で入院するの見えている?」

『ちょっと待て、そう言えば、そんな先見があったな。もえが一人で泣いているのが見えた。そうか、なぎはまた入院するんだな。そして、琴子が付き添い、もえの側にいるはずの和威君が入院か。ああ、お兄さん達もか。一番年長の梨香さんだったかな。彼女が、従兄弟達の面倒を弟君と見ている未来がある。なんだ? 緒方家も、全滅か。いや、緒方社長夫妻は海外で足止めされてるな。帰国便が飛ばないのか。琴子、いや駄目か、既に緒方社長夫妻は海外にいるな。じい様と楓伯父さんは無事みたいだが、椿伯母さんと桜伯母さんも罹患するな。避難先が、緒方家しかないのか。困ったな。どうやら、俺も動けないらしい』


 ああ、確定されてしまった。

 朝霧家側も罹患しているから、避難先に指定出来ないようだ。

 お義兄さん達が罹患したら、家族の梨香ちゃん達も濃厚接触者だから接触禁止になる訳だね。

 となると、武藤家はどうなっているのかな。


「兄、武藤の、父と母は?」

『待て、父さんが濃厚接触者に辺り、母さんともに隔離だな。それから、琴子はなぎが入院しているのだが、断れない筋からの依頼で、他県にて治水の祈願祭に行く羽目になっているな。だから、琴子も頼れないようだ。それから、どうも不確定な先見で、子供達しかいない状態の緒方家に何か騒動が起きる兆しがある。じい様に、暗躍してもらった方がいいな。分かった、そちらは俺が手を回す。琴子は、依頼を受ける際に、事細かな条件付きで受けろ。そちらも、こっちで裏から苦言をしてみる』

「分かりました。お願いします」

『ああ、どうも先見同士の先見は見にくいな。俺よりも、もえの方が正統的な先見だからな。もえが関わる先見は、当たり外れがあって、どう転ぶか分からん。ただ、救いは篠宮家の祭神と火に纏わる祭神だな。両祭神が、篠宮家ともえは守護してくださるから、罹患はしないだろう。が、保護者不在の隙をつかれて、どこかがやらかすのは見えた。警戒するようにじい様に忠告はしておく』


 兄曰く、以前の私達一家は先見でも見えたが、私が正式に巫女となり、なぎともえが次代の当主と巫女だと認識されたら、途端に見にくくなったようで、助言しても回避出来ないか、更に悪い結果になりそうで、出来なくなったらしい。

 その場合、もえちゃんの先見を優先して対処した方が、良い結果になるだろうと告げて通話は切られた。

 兄は多忙な中、もえちゃんから派生した先見の干渉に、手を尽くしてくれるのだろう。

 そうか、新型インフルエンザが世間を賑わすようになるのか。

 和威さん経由で、お義兄さん達にも気を配ってみるように提案はしておいても、損はないかな。

 でも、代々の先見の的中率から言って、回避不可能な結末が待ち構えていそうで、少々どころではない不安が増してきた。

 さあ、どうやって和威さんに説明すればいいかな。

 ちょっとだけ、未来に不安を残して、兄からの先見の内容を話してみた。

 結論、もえちゃんが大泣きしてしまいました。

 ああ、失敗した。

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