その15
夕方の報道番組は、更迭された各大臣や政務次官達の報道へと流れをかえてこぞって報道を鞍替えした。
朝霧グループに関連した話題は、最初にアナウンサーが謝罪して一連の報道の裏付けを取らなかった甘さを悔いている態度を見せていた。
そうして、朝霧グループへの禊は済んだ様子で終わらせて、皇室が公開した声明もさらっと流し、世間を騒がせた張本人達への怒りを滲ませた口調でアナウンサー達は、皆さん報道の在り方の見直しを宣言せざるを得ないと述べていた。
また、朝方に誤った報道をした番組のお偉いさん側も、朝霧グループ会長と社長の会見により、法的手段で訴えられる前にと秘密裏に、朝霧家に謝罪したいと申し出ていた。
しかし、お祖父様と楓伯父さんは、家に押し掛けてくるな、身内に取りなしを求めて近付くな、取り分け騒動の中心になっている私への接触禁止を言い渡した。
ついでに、篠宮家や緒方家にも、取材を突貫するなと警告を出した。
付随して、お義姉さん達の実家にもだ。
まあ、お祖父様達が申告しなくても、宮内庁側からももの申された様子で、報道番組内では篠宮家の名前は出てこなかった。
けれども、時代はSNSが席巻している訳で、ネット上にはぼかしてはあるも篠宮家に関して、それと分からない状態では発信されていたりする。
これは、和威さんの勤めるIT企業会社が、各インターネット会社の日本支部の情報セキュリティを担当していたりしたので、担当者がいち早く篠宮家と分かるネット情報を見分けて、和威さんには事後報告となったが、対処して都度情報を消去するように手筈を整えてくれた。
現在、和威さんはある外部に漏れてはいけない部門のチームの要となる主任の位置にいる。
個人情報が会社側から流出して、そのお仕事の内容が明るみに出てしまい、世間に知れ渡ると莫大な損失として違約金を支払わないとならなくなる畏れがある。
迂闊に取材に対応出来ないし、万が一にも従業員がネットにこれぐらいならと情報を発信したら、即解雇すると通達がいくほど、会社側もぴりぴりしている。
私も詳しくは知らないけど、どうやら朝霧家の身内が関係しているとは聞いた。
おそらく、海翔従兄さんのゲーム会社ぽいのだけど。
そのゲーム会社と共同で、何やら秘密が大きなゲームを作成しているみたいなのよねぇ。
和威さんも家族だからと言って、安易に教えてはくれない慎重さ。
しかし、我が家の双子ちゃんになぁにと聞かれたら、ゲームの根源に関わるお仕事だとは言っていた。
確か、和威さんが大学で学んでいたのはAI、人工知能の分野だった気がする。
そして、大学時代に特許申請したのが基礎となるプログラムで、その筋を研究する分野の方々に研究に加わるようラブコールが絶えなかった。
海翔従兄さんのゲーム会社も、ラブコールした会社だとは後日知った。
もしかして、開発中のお仕事ってと推測してみたり。
うん。
私も、あれかなとは思うので、迂闊に公になったら駄目だわ。
それもあり、和威さんの情報はひた隠し、おまけに篠宮家も隠さないとならない話題となった。
「あれ? 今日も、琴ちゃんのお祖父ちゃんのお家にお泊まりするの?」
「にぃには、いやぁ?」
「あっ、ごめん。なぎともえと一緒にお泊まりするのは楽しいよ」
「司が言いたかったのは、僕達の家が心配だったんだよね?」
「うん。あんな、大きな車がお隣の工場に突っ込もうとしたし、家も怖い人がきて荒らしたしね」
巧君と司君と尊君に遊んで貰えて機嫌が最高潮に良いなぎともえは、にぃに達が帰ってしまうのを嫌がった。
尊君も居候の身で、気軽にお友達を呼べない状態だったので、同年代の巧君と司君といれて密かに喜んでいるのが見受けられた。
少しだけ、肩と眉が下がっている。
その尊君は、二月になったら朝霧邸を出ていくのが決まった。
と言うのも、尊君のお父さんには姉がいて、只今海外赴任中の新聞記者だそう。
旦那様も国境なき医師団に所属して海外を飛び回り、楢橋家に起きた事件を最近まで知らないでいた。
というか、連絡がつかない状態だった。
業を煮やしたお祖父様が、朝霧グループの海外支社従業員に事情を話し、捜索を開始した。
序でに、グループ系列の警備スタッフも総動員して、漸くネットや電波も届かない地に派遣されていたのが判明して、連絡がついた。
瑠美さんと言う尊君の伯母さんは、事態を把握してすぐに帰国したがったものの、政局が不安定な国にいたのが災いして、外国人の帰国を足留めされてしまった。
どうも、海外に自国の情報を流出したくなかったのと、足留めした外国人の本国に人質扱いして身代金を請求しようと画策していたらしい。
まあ、お祖父様に知られ、楓伯父さんの不興を買い、謎の人脈を駆使してその国に各国総出で制裁を下した結果、瑠美さん夫妻は帰国の途につけたのだけど。
問題となったのが、旦那さんが腕が良く、親身になって貧民層の住人を治療してきたので、住人の方々が帰国しないでくれとプチデモみたいなのに発展してしまい、帰るに帰れない羽目に陥った。
それで、瑠美さんだけ一足早く帰国したのだが、いかんせんその国で新型インフルエンザが流行していて、絶賛瑠美さんは日本のある場所にて隔離しなくてはならなくなってしまい、尊君を迎えに来れる日程がずれにずれてしまっていた。
お祖父様は、尊君の元の住所に近いマンションを準備して、瑠美さんが解放されるのを待っている。
旦那さんも、楓伯父さんが圧力かけて、三月には帰国させる予定になっている。
お祖父様的には、実弟の残された孫息子は、自身の孫に近い。
離れるのは寂寥感に苛まれるが、お祖父様も朝霧グループの会長職に就いている訳で、四六時中尊君のそばにいられないのは理解している。
まあ、近い住所のマンションを、しかもセキュリティ万全な家を用意しただけに、時間を都合しては足を運ぶ回数は増えていくだろう。
勿論、我が家の双子ちゃんも、お祖母様が亡くなってからは、溺愛の深さが垣間見えるから、寂しさは双子ちゃんで埋めるだろうけど。
なぎともえには、暫くはお祖父様の精神安定剤になって貰わなくてはならないが。
もうじき、なぎ君は検査入院に戻らないとならないから、必然的にもえちゃんに頑張って貰うしかない。
無邪気に、にぃに達に甘える姿を見ると、離れ離れにならざるを得ないなぎともえの事を考えると、私も一抹の不安がよぎる。
今は、存分に甘えるがよいぞ。
「きょわい、ひちょ、もう、いにゃいよ」
「あい、ひぃじいじちょ、かぁくん、あっちいけ、しちゃ」
「そうなんだけど。やっぱり、自分のお家が一番安心するんだ」
「なぎともえのひぃお祖父ちゃんには、沢山助けて貰ったから、恩返しが大変なんだよね」
「「おん、ぎゃえし?」」
「そうだよ。助けて貰ったら、ありがとうと、恩返ししないとね」
「でも、なぎともえのひぃお祖父ちゃんは、沢山お金持ちだから何をしたら良いか分からなくて困ってるんだ」
お祖父様が聞いたら破顔して、恩返しは肩たたきでいいとか言いくるめそうだ。
楓伯父さんも、小学生が恩返しとは感無量で、更に何か巧君と司君へ贈り物とかしちゃいそうだなぁ。
それにしても恩返しとかは、悠斗お義兄さんか恵美お義姉さんの教育の賜物かな。
それか、篠宮の義両親かなぁ。
「ぢやぁ、なぁくん、ひぃじいじに、きいちぇ、あげう」
「もぅたんも。ひぃじぃじ、にゃにぎゃ、ほいきゃにゃあ?」
「なぁくん、しっちぇう。とんとん、しゅうにょ。あちょ、いっちょに、ぎょはん」
「あい、いっちょにょ、ぎょはん、だいじね」
我が家の双子ちゃんや。
一緒のご飯は、身内限定だと思うな。
隣室の和室で聞き耳立てていたお義姉さんと小鳥遊さんは、お祖父様と一緒のご飯は緊張しまくりだからご遠慮したいのが本音だろう。
渋い表情してます。
あちこちと連絡が絶えない悠斗さんと和威さんも、それは恩返しにならないと呟いていた。
一頻り、恩返しで話題が賑わっている子供達だったけど。
不意に、もえちゃんが沈黙して、庭の方角を凝視した。
あ、これは、先見だ。
「ママ、ちゃいへん。きゅりょくちぇ、しりょい、ひちょ、おんもぢぇ、あばえちぇう」
「珠洲ちゃん」
「畏まりました。すぐに、厳戒体制にシフト要請致します」
もえちゃんの先見に、疑いの余地はないから、控えていた珠洲ちゃんに指示を出す。
私は、昨夜の怨念の襲来にて綻びた結界を張り直したばかりだけど、ご神水と護符を新たに消費して悪意が入り込まない様に庭にでて、祈願と念を研ぎ澄ます。
慌ただしくなった朝霧邸内で、我が家付きの警護スタッフの橘さんと西澤さんが姿を見せて、何事にも対処出来るように目を配る。
無力な子供達は、奥の奥の避難場所にお義兄さん達と一緒に向かって貰う。
和威さんだけは、私を案じて側にいてくれた。
さあ、こちらは用意万端だ。
相手は何を思って、朝霧邸に襲来してきたか。
まあ、予測は付く。
私、水無瀬の巫女を願いを叶えると信じて曲解している馬鹿な輩には、お灸を据えないとね。
石油資源で潤った財を得て、我が物顔で自分の優位性を蒙昧して、日本政府に圧力かけた愚かさを身を持って贖いなさい。
私から大切な家族を奪おうと画策した、それだけでも万死に値する。
容赦なんて、してあげません。
二度と、私達に関わらないように釘を刺しましょう。




