その14
午後三時。
各局報道番組は、やんごとなき方の談話を報道した。
勿論、ご本人は出演されず、宮内庁の上位の役職就きの方が、代わりに淡々と書面を読み上げただけだけどね。
件の朝霧グループの令嬢は既に、皇室に縁ある家の御子息と結婚しており、可愛い子供に恵まれている。
また、あちらの国の皇太子と我が国の皇太子は年齢を越えた友人であり、事の重大さを鑑みて問い合わせた結果、王族に連なる一派が継承権を狙って仕出かしたそうで、その一派に関しては国王も怒りを抱き、王族から追放すると返答があった。
それから、例え朝霧グループが世界にも知られる大企業だからといって、石油資源を優遇する代わりの人身御供になるのは、いかがなものであるか。
なるならば、皇室に連なる女性が名乗りをあげなくてはならないのが、皇室の在り方ではないか。
日本国民の為に、婚姻の事実を否定して、ありもしない履歴を捏造し、一般家庭の幸せを壊す理由に甚だ、遺憾の意を覚えた。
また、皇室に縁ある女性の婚家のが所有する土地に、外国から輸入を頼るしかないレアメタルが豊富に眠る山があり、戦前にて宮家が犯した罪に対して苛烈な対処をしたとしながら、宮家の不祥事を相殺して不問とした事件を掘り起こし、取り上げようとしている事実も把握している。
されど、彼のお山は、平安の先の時代において、天皇の皇子として生まれ、後を継ぐはずべき皇子が異母弟に陥れられ、流刑された土地でもある。
そうして、陥れた異母弟を恨み、それに荷担した者達をも恨み、今の世では忘れさられた呪詛によって怨霊と化して、時の朝廷や国に甚大なる被害をもたらした。
その御霊を鎮める為に、怨霊と化した皇子の母親が、同母の弟や妹が、人柱として入滅された土地でもある。
故に、彼のお山は皇室縁の御陵、云わば墓でもある。
その墓守として怨霊と化した皇子の一族は、彼の土地に根付く事に相成った。
そのため、本来ならば、我が皇室が執り行うべき御霊を鎮める神事も、彼の土地に根付いた一族が担い、現代まで絶える事なく神事は続けられている。
本来ならば、神事を執り行う宮家として遇するべきご一家の私財を、希少なレアメタルを有するからとの判断で、策を弄して対価も提示せずに取り上げようとするのは、御霊を鎮める意味が喪われ、幾年月をも神事を担ってくださった彼のご一家への、暴挙にも等しい侮辱であると述べざるをえない。
また、追記するなら、彼のご一家は自らの財でもって家を繋ぎ、皇室からの援助を一切受け取ってはくださっていない。
辛うじて、ご一家の御当主の弟君が、嘗て宮家であった一族の女性と婚姻をしてくださるかという処まで、歩みよりを見せてくださっている。
もう一度、述べさせていただきたいのは、彼のご一家は我が皇室と同じ天孫の家系に等しく、宮家として遇したいご一家である。
漸く、縁戚と呼べる絆を交わせる大事な時期に、ありもしない罪を被せ、私財を取り上げようとする方に、私は強い不快を示させていただきたい。
どうか、国民の皆様にも、ご理解を願いたい。
国が潤うと思われる話題であろうが、それは歪められた公表であり、戦前の事件も宮家が起こした愚行を収めたにすぎず、罰を与える罪ではなかった。
咎められ、非難されなければならないのは、愚行を犯した宮家を止められなかった皇室にこそある。
では、その事件が何であったかは、後日嘘偽りなく公表させていただきます。
また、宮家が犯した罪を沈黙であって隠してくださったご一家に、謝意と敬意の代わりに、今回の問題を皇室が責任を持って収めさせていただき存じます。
朝霧グループの皆様方、夫人となられた女性とそのご家族の皆様には、改めて機会をもうけて謝罪致します。
画面には、直筆で書かれた書面が披露された。
この報道には、仕事のキリがついた和威さんも視聴していた。
我が家の双子ちゃんは、私と和威さんの膝上でおとなしく一緒に見ていた。
時折、うんうんと頷いていたけど、理解したのかなぁ。
「じゃあ、頃合いだから、私も本社で会見してくるよ」
楓伯父さんが、いい笑顔で出掛けていった。
まあ、朝霧邸に張り付いているマスコミにリークして、朝霧グループ本社まで引き連れて行こうとしたのだろう。
案の定、楓伯父さんが乗った車は、敢えてスモークガラスではない車種で、一騒動悶着を起こして、期待通りマスコミの数を減らしてくれた。
となると、庭に出るぐらいなら安心できるとなって、気分転換となぎ君の体力作りに、広大な庭を散歩する事にした。
序でに、宿題が終わった小学生組も、日光の陽射しを浴びに便乗した。
「たぁにいに、おいけには、こいしゃん、たあきゅしゃん、いりゅにょよ」
「ぢぇも、おいけに、はいっちゅ、めめにゃにょ」
「そうだね。鯉さんのおくちは固い物でも、二つに折れてしまうほど、力が強いからね」
「なぎともえの指をたべちゃって、指がなくなっちゃうのは、痛い痛いだからね」
「「あい、おやみゃにょ、ばぁばちょ、じぃじちょ、おやきゅしょきゅ、にゃにょ」
「ぱぱきゃ、ママちょ、いっちょぢぇ、にゃいちょ、おいけに、いっちゃ、めめにゃにょ」
「うんうん。僕や司もお祖母ちゃんとは、約束したよ」
「にぃにも、いっちょ?」
「いっちょねぇ」
巧君と司君とのお喋りに、尊君も微笑ましそうに聞いていた。
尊君は一人っ子だから、兄妹がいなくて下の子の面倒を見るのが楽しいのだとか。
宿題も手伝って教えてくれたと、巧君と司君は、悠斗お義兄さんさんと恵美お義姉さんに率先して報告していた。
ただ、お散歩にパパがいなくて双子ちゃんは、ちょっとだけ不満な素振りを見せていたけど、大事なお話があると分かると我が儘言わず私の手を握って庭に出た。
生憎と、悠斗さんと和威さんのスマホには、雅博お義兄さんと康治お義兄さんや篠宮の義両親から引っ切り無しに電話がかかってきていた。
その対応に、四苦八苦していたのが、なぎともえの我が儘言ったら駄目に繋がったのだろうなぁ。
騒動も夜には落ち着くかな。
癒しのお風呂タイムで、ばんばん甘えるがいいぞ。
そうこうしている間に、池に到着した。
万能家人の彩月さん宜しく、先にワンコと司朗君と珠洲ちゃんが待機していた。
ちょうど餌やりタイムだったようで、きゃらきゃら笑いながら鯉の餌やりをしている双子ちゃんと、落ちないように気を配るにいに達。
ひっくり返りそうになったなぎ君あわやとなりかけたも、ワンコの機転で池ぽちゃしなくて済んだ。
一頻り興奮状態で餌やりしていた、なぎ君が体力不足で眠そうになったので、部屋に戻る事になった。
「きよしゃんにょ、しおんけーき」
「はい、おやつに食べてくださいまし」
報道の過熱ぶりに秘匿されていた篠宮家の名前が特定されようとしていたらしく、マスコミは報道の自由を盾に個人情報暴露をやらかしかけていた。
それから、つけっぱなしのテレビ画面にて、内閣総理大臣が、馬鹿な既成事実を作ろうとした外務大臣と政務次官に、篠宮家のお山を二束三文の補償金で買い叩こうとした国土交通省大臣と政務次官、二人の大臣に利益を分配するからと荷担した法務省のお偉いさんを更迭し、司法の判断に任せると会見していた。
総理大臣は件の件には否定して何度も諌めていたとし、官房長官の定例会見も確定していない案件を世にだして、徒に世間を騒がせた各大臣を擁護しないと名言した。
それから、朝霧グループ本社で楓伯父さんとお祖父様が、何度も何度もお断りした話が公になり怒りを覚え、あちらの国から事業を撤退し、裏付けを取らず大臣の公表に載せられて、報道した責任を名誉毀損と噂の審議を問い合わせる野次馬根性丸出しの傍迷惑な、業務妨害の一般人を特定して、法的手段を検討していると断言した。
御愁傷様。
人のあら探しや、ロイヤルウェディングを妬み、クレーマと化した人物にはお仕置きは必要であると私は認識している。
和威さんの友人からも、篠宮家が特定されかかっていると連絡がきていた。
悠斗さん側にも、これまた友人から末弟の根も葉もない、自称親友がテレビ局に売り込んで、法外な情報料を請求しているとの情報がきていた。
幸い、双子ちゃんはおやつに夢中で、こちらに注意を払ってないけど。
和威さんや。
般若もかくやの怖い表情は止めてあげて。
怒りはなぎともえの前では抑えてくださいな。
指摘したら、眉間の皺をほぐして、深呼吸してから、おやつを堪能するなぎともえの側によった。
怒れる精神を癒しにいったのだろう。
「うにゅ? パパ、あーん、しちぇ」
「あい、あまきゅちぇ、おいちい、おやちゅぢぇ、ないないよ」
ほら、感情に敏感ななぎともえに心配されではないか。
「なぎ、もえ、ありがとうな。パパ、元気がでてきたぞ」
「あい、パパ、ぎゃんば」
「ふれー、ふれー、よ」
健気な姿に撃沈した和威さんがいた。
勿論、なぎともえはママにも、シフォンケーキを分けてくれた。
優しい我が子に、ママはほろっときましたよ。
なので、おやつを食べる邪魔にならない配慮してハグして頬っぺたにちゅうをした。
機嫌よく笑うなぎともえに、再び和威さんは撃沈。
次に、自分もハグとちゅうをかましていた。
呑気に過ごしていた私達だけど、まだ問題は解決してないのだけど。
今は、可愛い双子ちゃんを堪能するのを止める気は更々沸かなかった。
祖国に見限られた方々が、お金にモノを言わせて朝霧邸を襲撃してこようとは、誰も思わないでいた。




