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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のレクイエム
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その13

 本当なら、恵美お義姉さんに関する案件が決着ついたなら、小鳥遊さんと悠斗お義兄さんは工場が心配で戻られたかったのだけれども。

 新聞紙に報道された内容が内容だけに、すぐにマスコミが朝霧邸に襲来してきた。

 勿論、優秀な警護スタッフと、楓伯父さんに不快だと連絡された警察官が跳んできて、マスコミ各社に警告を出した。

 和威さんは、会社に半休申請して午後には出社する予定でいたのだけど、今車で出勤したらマスコミは関係者と認定して尾行してくると思われる。

 なので、上司の部長さんには事細かく詳細を知らせ、楓伯父さんも交代して謝罪してリモートでの仕事に切り替えて貰った。

 そうして、小鳥遊さんや悠斗さん一家も出れなくなり、巧君と司君に尊君も小学校をお休みしなくてはならなくなった。

 まあ、巧君と司君に関しては、実家と繋がる工場が何者かに襲撃された事情を警察から校長には連絡されていて、心身が落ち着くまで安全な場所に避難していると話をつけてあるそうだ。

 これは、悠斗さんではなく楓伯父さんの根回しによるもの。

 また、尊君も今まで通っていた小学校は、教頭が買収されて虚偽の情報を警察に話した事実が明るみに出て、お祖父様と教育委員会に顔が利く、芙美子大伯母さんの婚家の徳重家がちくちくと口撃したのと、PTAの皆様が説明会にてかなり糾弾した結果、廃校になってしまった。

 ので、今年度は近隣の中学校や小学校の空き教室を借りての学習となり、来年度は朝霧グループが突貫で改装している廃校が新たな小学校になるのが決定した。

 これで、尊君はお友達の凌雅君と昴君と離れなくて良くなった。

 まあ、お祖父様は自身が寄付金を出すから、芙美子大伯母さんが経営する私立校に入れたがったようだけど。

 昴君の親御さんが、甘えれないと固辞されたので、この案となった。

 昴君の母親はテレビにも出演した料理研究家であっても、父親は一般の会社員であるから、私立校に昴君を通わせても馴染めないのではないかと不安視されたようである。

 だから、お祖父様も諦めて新たな小学校を作る側に落ち着いた。

 でも、作るだけで運営はしない。

 教師等は都の教育委員会に任せるから、失態を挽回しろと突き付けた訳である。

 それで、お休みの間にと出された宿題をパソコンからプリントアウトして、小学生組は仲良くやっている。

 大人組は、私にひっつき虫となったなぎともえを連れて、テレビのある居間に移動して報道番組を視聴していた。


『……これは、国を越えたロイヤルウェディングですね。世界に名だたる朝霧グループの令嬢と、彼の国の王族が外交で出会い、愛を育んだ。まさに、奇跡的な運命です』

『そうですね。朝霧グループの令嬢が外務省にお勤めになっていたとは噂で聞き及んでいましたが、朝霧グループも更なる発展を遂げる礎となる令嬢を持ち、益々他の大企業とは肩を並べるどころではなくなりましたしね』

「……」


 視聴して、言葉を無くす羽目になるとは思わなかったなぁ。

 テレビ画面に映し出されている見初められた朝霧グループの令嬢の顔と名前が一致してないと、誰もが内心で突っ込みいれてるのが分かった。


「ママ、ちあうね?」

「あい、まゆたんね」

「そうね。真雪ちゃんだね」


 進行役のアナウンサーが令嬢の紹介をしているのだけど、私は外務省に勤めてはいないし、既婚者である。

 貴方達が紹介しているのは朝霧グループ会長の三女の娘ではなく、長男の娘だ。

 恐らく、外務省辺りから流出したであろう立派な履歴を、やや興奮気味に話しているが、それは私ではない。

 何だか、私と真雪ちゃんを混同して報道されている。

 各局、見事にそればかり報道していたが、一局だけ別な内容で私の話題を一言も出さない番組があった。


「ああ、この局は父の友人が代表取り締まり役だしね。琴子と和威君の結婚式にも、招待して出席されていたから、偽の情報だと把握しているのだろう」


 ああ、そうか。

 結婚式に出席しているなら、私が既に既婚者で別人だとわかっているから、報道をしないように徹底したのかな。


「ただし、コメンテーターの彼はやらかすだろうね」


 楓伯父さんは渋い表情で、談じた。

 その私の話題を報道しない番組に出演しているコメンテーターは、辛口な批評をする事で有名な芸能人だった。

 常に、話題を先取りして、報道番組の穴を突いて、何故報道しないのかとアナウンサーとバトルするのも、この番組の売りの一つだったっけ。

 静かに視聴しているとコメンテーターの某氏は、早く喋りたいのかそわそわと身動ぎしているのが映っていた。

 そうして、アナウンサーが昨夜醜態を晒した芸能人の事件の話題が終わり掛けて、次の話題に入り掛けた頃、等々コメンテーターが口を挟んだ。


『○○さん。どうして、あの話題を出さないの。今は、世紀のロイヤルウェディングに世間は注目でしょうに』

『ああ、✕✕さんが仰りたいのは、朝霧グループの令嬢の件でしょうが。その話題は、うちの局では厳禁ですね。何しろ、虚偽の話題ですからねぇ』

『はあ? 虚偽って、外務省や政府が公表したじゃないですか。それが、間違っている訳ないじゃありませんか』

『いやいや。僕、話題の朝霧グループの身内である最上穂高君とは、ほだっち、ケンケンとあだ名で呼び会う仲でして。本人に確認したら、それは嘘だって教えて貰いましたから。身内の話しですよ。これ以上の情報提供者は、いないでしょう?」


 アナウンサー氏は、コメンテーター氏を一刀両断して、冷めた眼差しで見つめる。


『だいたいですね。貴方は、お忘れになっているみたいですけど。数年前にこの番組でも話題のご令嬢が、ある企業の創業者一族のご子息と結婚して、現代に政略結婚はあり得ないとの見識を発言されてますよ。そこで、朝霧グループ程の大企業も堕ちたとか、酷評されてますが?』

『えっ?』

『それにですが。他局も、充分な裏付けを取らず、政府の公表をそのまま報道されてますが。朝霧グループから盛大な抗議と、報道による莫大な問い合わせや取材交渉の連絡による業務妨害の賠償金請求されるのが目に浮かびます。早急な、謝罪報道された方がよいと提案します』

『ちょっ、それは、真実なんですか? あんた方、番組が報道出来ない様に朝霧グループが圧力かけただけなんじゃ……』

『馬鹿を言わないでください。うちは、虚偽の情報を発信するなが信条です。だから、昨年のある議員の息子が仕出かした事件も、きちんと裏付けしたから報道内容を吟味して発信しました。案の定、他局は間違った報道して、謝罪訂正に追われて、まだ和解に至ってないでしょう。なのに、再度の虚偽報道です。和解どころか、局が潰れるのが早そうですね』

『はい?』


 アナウンサー氏の、コメンテーター氏を見る瞳が益々冷たくなっていく。

 コメンテーター氏が他局で、楢橋家の事件を被害者であるのに加害者と断定して、強気な発言したのに触れた。

 あらら。

 楓伯父さんを見ると、大きく頷いた。

 なら、お祖父様も把握しているのか。

 やらかしたコメンテーター氏が、テレビ業界から消えるのが確定したなぁ。


『ああ、視聴者の皆様。番組の途中ですが、その話題のご令嬢の身内である俳優最上穂高君が、ライブでの会見に応じてくれる様です。どうぞ、事実をご覧ください』

「うにゃ」

「ちきゃちきゃ、ほだくん、みえにゃい」


 画面が切り替わって、事務所前だと思われる玄関口で、穂高従兄さんがマスコミに囲まれ、カメラのフラッシュを浴びていた。

 ああ、穂高従兄さんにまで被害が及んでしまった。

 お仕事に差し支えないといいなぁ。

 でないと、孫だと公表したお祖父様が、押し掛けたマスコミ各社や各局のスポンサーを降りる結末しか見えてこないわ。

 眩しフラッシュに、双子ちゃんは両手で両目を押さえる。


「う~。ママ、おめめ、ちきゃちきゃ」

「まぶゅし、きゃっちゃ」

「うんうん。眩しかったね。痛いの痛いの、跳んでいけ」


 気休めに、目元を撫で、跳んでいけをしてあげる。

 すぐに、にこっと笑って私の両脇に抱き付いてきた。

 背中に手を回して、中途半端だけれども抱き締め返す。

 ぐりぐりと顔をくっ付けた後フラッシュの被害がおさまったのか、またテレビ画面に目を向けるなぎともえ。

 釣られて、私もテレビ画面の穂高従兄さんを見た。


『あー。皆さん、言いたい事、聞きたい事色々ありそうですが。まず、僕と言いますか、朝霧のじい様から苦情を言わせて貰います』

『苦情ですか?』

『ええ。ああ、林さんとは知らない仲ではないですし、僕も林さんが家庭を持っているのは知ってます。ですから、聞きます。林さんは、奥さんと子供さんとは赤の他人とされて、結婚の事実も思い出もなかった事にされて、石油資源を優遇する代わりに人身御供として、単身外国の顔も知らない相手と結婚を強要されて、素直に従いますか? それも、恩恵を受けるのは、仲介した政府関係者のみで、他人とされた奥さんと子供さんには何ら補償はされない。これを、政府はうちの朝霧グループの既婚者である従姉妹に、言ってきてるんですよ。しかも、外務省に務めていない、渡航経験もない、詳細な顔合わせもしていない尽くしの、従姉妹にですよ。確かに、外務省に朝霧グループ会長の孫娘は勤めていますけど、あちらが寄越せと横暴に言われている従姉妹とは無関係な訳なのに。部下が見初められて嬉しいとか述べている大臣さんに、僕等孫世代も親世代も、勿論じい様も大変怒り心頭なんですが』


 指名された林さんと言うレポーターさんが、穂高従兄さんの発言した内容を飲み込むに連れて、顔色を悪くしていく。

 周囲のレポーターさん達も、おめでとうございますとの発言が、いかに不味い台詞だったか悟り、騒がしかったのが静寂に包まれた。


『まあ、朝霧グループの孫世代が公表されたのはつい最近ですから、皆さんも詳細な情報を持ち合わせてはないでしょうが。じい様の孫娘は、僕の妹を含めて四人います。その内の二人だけが孫世代の既婚者で、ひ孫も産まれてます。それなのに、外務省さん達は、超法規的手段で、外務省に勤めている従姉妹と偽って公表して、煙に巻こうとしている訳なんですが。その辺りの裏付けすら取らないで報道する。いつから、貴方方は政府の意のままに報道する報道官になってしまわれたんです? 正直、じい様が僕を経由して反論するのも、貴方方テレビ局を慮り、傷を浅くしたいがためなのですが。理解されてますか? 新たな世紀のロイヤルウェディングと持ち上げた処で、事実は政府も関与した虚偽の報道です。それから、僕の会見後に苦言を公表されるお方は、政府が人身御供とする従姉妹の旦那さんの遠い親戚だそうです。どうぞ、やらかした方々同様に、叱られてください。以上、朝霧家を代表しての、僕の会見は終わらせていただきます』

『あっ、あの、最上さんの後のある方とは?』

『それは、ご想像にお任せします』


 追い縋るレポーターさんを振り切って、穂高従兄さんは事務所内に戻っていく。

 あのぅ。

 あるお方って、まさかだよね。

 篠宮家の遠い親戚に心当たり有りすぎなのですけど。


「康治兄さんか雅博兄さんに、問い合わせてみるよ」


 いや、母さんかな。

 悠斗さんの言葉に、悠斗さん達もあるお方が思い浮かばれているのだろう。

 仕事部屋に籠った和威さんを、呼んでこないと。

 ああ、更なる衝撃が世間に公表されるまで、後少し。

 篠宮家や緒方家まで巻き込んで、引きこもりをしなくてはならなくなるとは誰も思はなかった。



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