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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のレクイエム
146/180

その8

 ぐるるるる。

 和威さんに一言申し立てようとしたら、二重奏が奏でた。


「「あうぅ。にゃちゃっちゃ」」


 音の源は、我が家の双子ちゃんだ。

 和威さんの膝上で、お腹を押さえている。


「もしかして、ご飯食べてなかったのか?」

「あい、にぃにも、いっちょ」

「ゆーくんも、えみたんも、いっちょ」

「そこは、パパと言って欲しかったな」


 何を言うか。

 なぎともえは、巧君や司君達が心配なのだよ。

 むにむにと、和威さんに片頬を摘ままれているなぎともえを見習うがいい。

 お義兄さん達も、驚いているというのに。


 ぐるるるる。


 ん?

 今度のは我が家の双子ちゃんではないぞ。

 音の鳴る方へ視線をやると、襖越しに巧君と司君に小鳥遊さんがお腹を押さえて気まずい表情で、此方を伺っていた。

 そりゃ、そうだ。

 時刻は九時近い。

 夕飯時間はとっくに過ぎている。

 しかし、真面目な話をしていたので、声をかけづらかったのだろう。

 気付いてあげれなくて、済みません。

 慌てて、真奈美お義伯母さんに連絡した。

 五分も経たず、夕飯は運ばれてきた。

 では、お話の続きは後にしましょう。

 座卓に並べられた夕飯は、専属料理長が腕を振るった数々の料理が、提供された。

 まあ、なぎ君の食事は相変わらす、野菜中心のヘルシー料理なのだけど。

 我が母の親友のレストランオーナー夫人のお兄さんから、野菜やなぎ君が食べても大丈夫な食材で、お肉やお魚の代用品となるレシピが母経由で、料理長に伝授された。

 見た目はお肉やお魚そっくりな、野菜料理や大豆を使用したハンバーグ擬きな料理を、飽きさせない工夫をされて出してくれるので、本当に助かります。

 それでも、必要栄養素が足りないので、補助食品を与えているのだけど。

 何せ栄養素重視だから、味が美味しくない。

 なぎ君が涙目で補助食品を食べているのを見るのは、忍びない。

 けれども、次の入院生活では、お肉やお魚が食べても大丈夫なのかを探る目的の、検査入院となる。

 それを、乗り越えたら、普通の食事に戻れるのだ。

 離れ離れになるもえちゃんには、不安しかないだろうけど、これもなぎ君の為だから、誠心誠意説明して納得させるしかない。

 お互い、あーんをしあいっこしている仲良しな双子ちゃんの姿を暫くは、見れないが我慢しかない。


「なぎともえは、いつも仲良しだね」

「うん。可愛いね」

「巧も、司がなぎともえぐらいの歳には、していたぞ。覚えてはないのか?」

「そうね。歳が近いから、司が産まれて、巧が赤ちゃん返りしちゃうのか心配したけども」

「巧は率先して、司の面倒を見ていたなぁ。時が流れるのは、早いものだ」


 悠斗さん達も、昔を懐かしんでいる。

 その話題は、雅博さん一家でも聞いたなぁ。

 上の子が下の子を邪険にしないで、母親より先に下の子の異変に気付いていたり、積極的にお世話していた。

 お山にいた頃も、帰省してきた梨香ちゃんや静馬君も、お世話させてと言ってくれていたしね。

 遊び相手も、嫌がらず勤めてくれた。

 私も楽させて貰ったなぁ。

 篠宮家の家風なのだろうね。

 和威さんも、歳が離れたお兄さん達との仲は良好だし。

 まあ、朝霧家の従兄弟達も、仲良しだけど。

 料理に其々が舌鼓を打ち、平らげると。

 やはり、双子ちゃんの活動限界はきた。

 お腹が満たされたら、うつらうつらし始めてきた。


「なぎ、もえ。ねんねしような。後で、パパが離れに連れていくから、隣のお布団で寝かして貰おうな」

「あい」

「……えみたん」

「なぁに、もえちゃん」

「おにゃまえ、よばれちぇも、おへんじ、めめよ。わりゅいにょ、いうきゃりゃ、えみたん、ちゅきゃまっちゃう」


 目元を擦り、欠伸に耐え、もえちゃんは、恵美お義姉さんに忠告した。

 名前か。

 私やなぎ君ともえちゃんと違って、恵美さんは真名を秘匿する理由がないからか。

 名前を悪用した呪詛が、掛けられてもおかしくはないな。

 幾ら、朝霧邸に結界があろうと、内側にいる当人の名前が起点となる呪詛なら、排除は難しい。

 かといって、呪詛避けの御札は、先頃水無瀬家に納入して、手元にない。

 しまったな。

 家族分ぐらい、ストックしておくべきだった。

 こういう処が、未熟で経験不足なのだよね。


「お義姉さん、なるべくなら、和威さんの側にいてください。和威さんは、媛神様からの加護で破邪の性質を有していますから、悪意あるモノは近寄れないですから」


 和威さんが、隣室のお布団になぎともえを寝かせるのを見ながら、補足しておいた。

 残念な事に、悠斗さんは破邪ではなく、知識関連の加護であるので、悪霊避けには向いてない。

 巧君と司君も、悠斗さん同様に知識関連の加護であるからね。

 取り分け、司君のIQ指数は同年代の小学生よりも高く、数学の分野では大学生並みの数式を簡単に解いてしまい、一悶着あった過去がある。

 多分、物理も答えが分かってしまえる程、数式に強い。

 対して、巧君は読解力に強い。

 和威さん並みに、数ヵ国語をマスターしていたりする。

 その筋の教授達は、巧君と司君を研究したいと押し掛けてきたそうだが。

 当人達は嫌がり、緒方家と篠宮家の抗議により断念した経緯がある。

 それでも、諦めない学者さんもいたらしいけど、何故かある日ぱったりと関わりませんと念書を出して、消えたそうだ。

 これって、篠宮家を親戚と思われているあの方々が動いた結果なんじゃないかと思う。

 当時は、私と和威さんも付き合い始めたばかりで、お祖父様も篠宮家の事は知らなかったはずだし。

 唯一、気になるのはお祖母様だけど、あちらの線が高い気がする。

 話が逸れました。

 巧君と司君が悠斗さんに言われて、大人の話し合いをするからと、なぎともえの添い寝に付き合ってくれた。

 彩月さんも側に控えてくれるので、安心して任せた。

 食後の一服を終えて、お義姉さんが話を再開させる。

 今度は、小鳥遊さんも加わった。


「私の実母はね。実家の自営業が借金まみれになったせいで、夜の街でホステスしてたの。そこで、知り合ったお客様の中で、兄の実父となる人と借金を肩代わりされる形で、結婚したのよ。だけど、兄の実父はとある業界で名の知れた実業家。ホステスあがりの母は、兄の実父の身内に酷い嫁いびりをされて、何度も流産を繰り返して、最終的に追い出された訳。母の実家は母を差し出しておいて、出戻りになった母を世間体が悪いからと言って、うけいれなかった」

「そんな時期にね。私は恵美の母親の、絵里さんと出会ったんです。当時の絵里さんは、酷く思い詰めて、踏み切り前にいて自死するのではないかと思い、私が保護したんです。そうして、理由を聞いたら、離婚の挙げ句、実家からも見放された。まだ、私の両親も健在でしたから、うちの工場の事務員として住み込みで雇いました。そんな折り、絵里さんが妊娠していたのが判明して、諸々の事情を鑑みて、私は求婚しました。産まれてきた子供も私の実子と届け出て、私達との間に恵美も産まれ、家族慎ましやかに生活をしていました」

「ところが、そんな平穏な日常を破ったのは、兄の実父だったの。兄の実父は再婚したようだけども、その再婚相手も女児にしか恵まれていなくて、後継ぎに悩んでいた。そこへ、母の実家が、また支援を受け入れられるんじゃないかって、母が男児を産んだ事を報告したようなの。それで、秘密裏にDNA鑑定されて、兄が小鳥遊の父の子供でないのが暴露されて、兄の親権を巡って裁判沙汰になったわ」

「そこへ、何故か朝霧グループの会長さんが中立的な立ち位置で、間に入ってくださって、小鳥遊家が長男を不当に拉致しているとの問題を、解決してくださったんだ。けれども、長男は、あちらの息子であるのは確実。後継ぎにどうしても欲しいと頭を下げられ、裁判官も本当の親の元での養育が望ましいと判断されてね。長男も、これ以上私達に迷惑をかけてはいけないと、自らあちらに行ったんだ」


 でも、それだけでは終わらなかった。

 あちらの方々は、息子には母親が必要不可欠。

 後継ぎを産めなかった再婚相手は、またもやお金を積んで離婚に応じさせ、恵美お義姉さんのお母様まで小鳥遊家から奪っていった。

 当時、恵美お義姉さんは幼児期にあり、母親が恋しい年頃。

 お母様は抵抗されたけども、小鳥遊家に不幸が訪れても仕方がないよねと、暗に脅されていた。

 そうまでして、手元に戻した息子と嫁だったけど。

 やはりというか、祖父母に馴染めない孫と嫁への精神的虐待は再開され、家庭を省みない父親は、後継ぎ教育も苛烈に行い、息子を駒にしか思わない毒親だった。

 反抗すれば、小鳥遊家に害を及ぼすとまで、平気でいってのける。

 また、実際に繋がりのある裏社会の人間と対面させ、小鳥遊家の工場への嫌がらせを強行した。

 黙るしかなくなったお兄さんとお母様は、恭順する振りを見せて、少しずつ実父と旦那様の企業を破滅に追いやる計画を練った。

 そうして、着々と進めてきた企みを、昨年度実行した。

 実父の企業の不正と裏社会の組織との癒着に、会社のお金の横領に脱税の証拠を、楓伯父さんに託して親戚一同に引導を渡した。

 無論、只では住まない覚悟をしていた。

 怒りに狂った親戚一同の手にかかり、二人は命を落とした。

 そこへ、第二弾の企みが発動する。

 溜め込んでいた財産は、公証人と弁護士立ち会いの元、作製されていた遺言状の通り、私財は恵美お義姉さんが唯一の相続人として遺され、実父の言うがまま娶った奥様には、遺留分の金銭が渡されないようにした。

 また、会社も醜聞の温床となった事により、取り引き先へ莫大な違約金を支払わないとならない。

 親戚一同が手に入れられたのは、到底支払えない借金と単なる紙束になった株券のみ。

 所有していた土地やらは、既に第三者へと譲渡されていた念の入れようだった。

 そうして、向けられたのが、億単位の遺産相続人となった恵美お義姉さんへの恨み。

 あちらは、財産放棄を厚顔無恥にも言ってきたが、公証人にはお祖父様の名があり、朝霧グループを敵に回す度胸はなかった。

 それが、ますますあちらを挑発する事になってしまっていた。

 ああ、お祖父様。

 お祖父様も楓伯父さんも、煽ったんだなぁ。

 それなのに、警護の隙をつかれて、小鳥遊家に被害が出てしまった。

 お祖父様達、まず小鳥遊さんとお義姉さんに謝罪するのが先だったのでは?

 ちょこっとだけ、頭が痛い気がしてならなかった。

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