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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のレクイエム
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その7

 やはり、悠斗さん一家と恵美お義姉さんのお父様の小鳥遊さんは、精神的な疲労から休息が必要と彩月さんに診断され、休んでいただいた。

 客間では人数分の寝台がなかったので、和室に布団を敷いて纏まって寝ていただいた。

 その方が、皆さん安心されるだろう。

 そして、我が家の双子ちゃんは、いつもなら夕飯とお風呂を済ませて眠る時間が来ているのに、にぃいと食べる、にぃいと一緒がいいと健気に待ちの姿勢だった。

 しかしながら、お腹をぐぅぐぅ鳴らすのが、忍びなく。

 スティックパンと野菜ジュースを、食べさせた。

 数時間我慢して、うとうとしたかなぁと思ったら、私ともえちゃんが同時に庭へ視線を向けた。


「ママ? もぅたん?」

「ママ」

「うん、大丈夫。お家には入れないから、心配しないで」

「ぢぇも、にゃんきゃ、わりゅいにょちょ、いいにょ、はんぶんきょ」

「そうね。不思議な感じがするね」

「ママ、もぅたん、なぁに?」


 なぎ君が、私ともえちゃんの会話に交ざれなくて、首を傾げている。

 私ともえちゃんが感知したのは、朝霧邸に侵入しようとしてくる禍々しい気を発する所謂悪霊みたいなモノ。

 生前のお祖母様が朝霧邸に施していた悪意ある呪詛避けの結界は、私が引き継いで張り直している。

 それに、何度もぶつかり侵入してこようとするモノがいるのだけど。

 何故か、悪意に紛れて、馴染みのある気配も有しているのだよね。

 だから、完全に排除出来なくて、侵入を許してしまう可能性があった。


「琴子様」

「珠洲ちゃんも、気付いた?」

「はい。ですが、どうも不思議な感覚があります」


 私付きの護り人である珠洲ちゃんも、気配を感知して警戒している。

 護衛用に、神水を淹れた瓶を要所要所に置いて待機していた。


「悪意だけではなく、守護しなくてはと、訴えかける声らしきものもあります。もしや、小鳥遊家を守護されてきた守護霊を、使った呪いかもしれません。琴子様や、なぎ様、もえ様には危害は加えないと思われますが、如何致しましょう」


 小鳥遊家を狙った悪意が、裏組織だけにとどまらず、呪詛を行える能力者まで出てきている。

 一体、何が起きているんだか。

 何に巻き込まれているんだろう。

 まったく、和威さんめ。

 相談してくれてもいいのに。

 そんなに、頼りないかなぁ。

 あっ、それか。

 お祖母様が儚くなられたから、水無瀬家の巫女就任で私が専念出来るように、配慮してくれたのかも。

 うう。

 でも、夫婦何だから、相談して欲しかったなぁ。


「琴子様?」

「あっ、ごめんなさい。そうだね、あちらが直接的に、害しようとしない限りは静観しておこうか。何故か、浄化したらいけない気がするから」

「ですね。他家の守護神様の御使いを、断りなく浄化して消してしまうと、大事になりそうです」


 日本には八百万(やおろず)の神様が存在している。

 外の悪霊は、微かに神気を感じるから、小鳥遊家の守護神様が使わした神使である可能性が高い。

 また、悪霊に転じたのに対処なさっていないのであれば、それは其方の神様の思惑があると見ていい。

 朝霧家=水無瀬家の祭神に仕える巫女が祓ってしまったら、神様同士の争いに発展して大問題になってしまいかねない。

 となると、私が巫女の座を下ろされたり、巫女の役目を妨害されたりしたら、大変よろしくない未来が待っている。

 ならば、今は静観するしかない。

 まあ、あれが私に危害を加えたら、龍神様は反撃を許されるのだけどね。

 神様にも、色々なお考えの神様がいるから、仕方がない。

 ちょっとした事でも祟る神様もいれば、人の世の中に我関せずな神様もいる。

 ましてや、水無瀬家の祭神は水を支配する龍神様。

 そして、気象関連にも関わってくる。

 怒らせてはならない神様として、内閣府も宮内庁も気を配らないとならない神様である。

 お祖母様の葬儀にも、本葬の儀にも、丁寧な弔文と御供えの品を贈られてきている。

 私も就任して直ぐに、座を下りる訳にもいかない。


「琴子ちゃん。和威君が帰宅したわよ」

「「パパ~」」

「真奈美義伯母さん? わざわざ、案内してくださったの?」

「あら、だって。暇だったし、和威君は奥の間を知らないでしょう?」

「いや、最初は喜代さんが案内をと、言われたんだがな」


 なぎともえは、パパの帰宅にすっ飛んで行き、和威さんの足にしがみついていた。

 和威さんは、双子ちゃんを簡単に抱っこして、困った様に渋い表情をしている。

 まあね。

 朝霧邸の奥の間は、昔ながらの武家屋敷みたいな和室が連なるから、初見の人間は一度は迷う。

 従兄弟の従兄さん達も、和の奥の間には滅多に近寄らない。

 基本、従兄弟達が集まる部屋は、洋館の方になる。

 あっ、朝霧邸には、洋館と日本家屋が建ち並ぶ建築様式になっている。

 本来は日本家屋が主となり、屋敷の主人が居住して、身内しか立ち入り禁止である。

 そして、洋館部に、お客様を宿泊させたり、もてなししたりする。

 だから、和威さんも奥の間には、足を踏み入れた事は数回しかない。

 我が家の双子ちゃんは、お祖母様のお見舞いだったり、お祖父様が招いたりしているので、何度も来ているけど。

 でも、武家屋敷仕様は、お山の篠宮家の母屋に通じるから、馴染みはあるだろう。

 ただ、お祖母様の巫女のお仕事部屋があったりするので、人避けの呪いがされて迷いやすくはなっている。

 真奈美義伯母さんは次代の朝霧邸の女主人であるから、奥の間にはフリーパスで入る許可はされている。

 案内人には、適しているだろう。


「そろそろ、お客様もお腹を空かせているんじゃないかしら。手配はしておくから、何時でも呼んで頂戴ね」

「あっ、案内ありがとうございます」

「喜代さんじゃなく、わざわざ義伯母さんに連絡すればいいんですか?」

「あら、お客様をもてなさないとね。お義父さんや楓君からも頼まれているし。琴子ちゃんの義理とはいえ、旦那様のお兄さんの家族は、うちの身内も同然だもの。私がもてなさなくて、どうするの」

「では、甘えてしまいます」

「ええ、そうしてね」


 真奈美義伯母さんは、にっこり笑って去っていかれた。

 多分、厨房へ差配に行かれたのだろう。

 真奈美義伯母さんの登場で、脇に控えていた珠洲ちゃんが頭を下げて見送る。

 さて、和威さん。

 言いたい事が沢山あるんですけど。


「琴子、悠兄貴と義姉さん達は?」

「……今は、お休みいただいています。隣の和室にです」

「そうか。怪我の具合とかは」

「パパ、ゆーくん、おきゃお、いちゃいにょよ」

「うんちょ、たーなしにょ、おじしゃんもよ」

「悠斗さんと小鳥遊のおじ様は、顔に殴られた跡があります。恵美お義姉さんと巧君と司君は、見た目には怪我をした感じはありません」

「? 何か、怒っているか?」


 当たり前です。

 丁寧語で話していたら、違和感を感じた和威さんか不思議そうにしているのが、更に癇に障るんですが。

 パパに抱っこされている双子ちゃんも、察してパパに身を寄せる。

 なぎ君ともえちゃんには、怒ってはいません。

 ママは、パパにお怒りなんです。

 懇切丁寧に打ち明けようと口を開きかけたら、

 隣の和室の襖が開いた。


「和威?」

「悠兄貴、大丈夫なのか?」

「ああ、見た目は派手になったが、然して痛くはないよ」

「和君、ごめんなさい。峰君と司郎君に、怪我をさせちゃった」


 人の気配に目を覚まされた悠斗お義兄さんと恵美お義姉さんが、出てこられた。

 小鳥遊さんと、巧君と司はまだお休み中みたいだ。


「帰宅する前に、病院に寄ってきた。峰は、左腕にひびが入った程度で、頭を打っていた司郎は脳震盪を起こしただけだそうだ。念の為に、精密検査はする様だけど、二人とも意識は回復していた」

「そうか、良かった」

「後、工場の従業員の方達も、打ち身だけだそうだ。緒方の叔父さんが、そちらの面倒は見てくれると言っていた」

「そうなのね。緒方家にも朝霧家にも、迷惑かけちゃったわね。和君も、琴子さんも、ごめんなさい。私が原因で、問題を先延ばしにしたのがいけなかったの。きっぱりと、関係がないと断れば良かったのに」

「恵美。だけど、恵美にとっては、実の母親と兄が、恵美を思ってした事だ。騒動の種になってしまったが、あの二人には大切な想いであり、願いであったんだ」


 恵美お義姉さんの、お母様とお兄様?

 あれ。

 和威さんに悠斗さん一家を紹介された時には、お義姉さんの家族はお父様だけだったはず。

 恵美お義姉さんも、片親としか話してはくれていないけど。

 複雑な家庭環境があったのかな。

 離婚されたとか。

 でも、そうならそうと話してくれていたよね。

 内心、付いていけない会話に黙っていた。


「会話に交ざる無礼をお許しください。お話が長くなりそうでしたら、此方にお移りくださいませ。今、お茶を淹れさせていただきます」


 隣室の和室を挟んで会話していると、珠洲ちゃんが手際良く座卓にと促し、お茶を淹れ始めていた。

 ああ、私が困惑していたから、口を挟んでくれたんだ。

 ありがとう、珠洲ちゃん。

 また、彩月さんも、それとなく隣室に移動して、巧君と司君と小鳥遊さんが異常をきたしないか見てくれると言うので、お任せした。

 そうして、座卓に移動して、淹れてくれたお茶で一服する。

 和威さんの膝に座るなぎともえには、林檎ジュースを配る珠洲ちゃん。

 あれ、何処から持ってきたんだろう。


「あのね、琴子さん」

「あっ、はい」

「和君を怒らないであげてね。私が、琴子さんにというか、朝霧さんにまた助けていただくのに甘えるのを遠慮してしまったの。決して、琴子さんを蔑ろにした訳ではないの」

「ああ。お祖父様も言ってましたね。関わりがあるって、詳しい説明なく出掛けてしまいましたけど」

「そうなの。朝霧会長さんも、社長さんも、私の遺産相続問題には関係があってね。弁護士さんまで派遣してくださって、対処してくれていたの」

「遺産相続ですか?」

「ええ、私の実母と実兄はね。自分達を捨てて放置したくせに、後継ぎだからといって有無を言わせず、私から母と兄を奪ったある人達を許さないでいたの。だから、その人達を破滅させる為に、長年唯々諾々と従っている振りで謀たして、見事にやり遂げたの。その結果、二人は命を無くしたのだけど。母と兄の財産は、私にだけ相続させると遺言状を遺していた。社会的信頼を喪ったその人達は、手に入る筈の財産が既に処分されていたり、他に譲渡されていたりとで、あてが外れた訳。そうなると、その憤りは私に向けられたの。けれども、その時点で、その人達は私に接触禁止を命じられていたから、陰で嫌がらせが始まった。ネットの誹謗中傷から、経営妨害とか色々。でも、その度に、朝霧さんからの助けがあって、大事にはならなくて済んでいたのだけど」


 業を煮やしたその人達は、最終手段で裏社会の組織と手を組んで、お義姉さんを拉致して恨みを晴らそうとした事態に繋がるのか。

 それで、悠斗さんは朝霧家に甘えぱなしな現状を鑑みて、緒方家や兄弟に助けを求めた、と。

 小鳥遊家には、悠斗さんつきの家人だけでなく、雅博さんつきの家人や和威さんつきの家人も警護にあたっていた。

 これ、要するに朝霧家がでしゃばって、篠宮家や緒方家の面子を潰してしまった弊害があったんだ。

 うわぁ。

 和威さんを、怒れなくなってしまった。

 うう、ごめんなさい。

 反省します。

 でも、一言相談は欲しかったと思うのは、間違いではないよね。


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