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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
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その14

 迷子防止にベビーカーに双子を乗せて、動物園に入場した。

 休日ということもあり、それなりに並んだ。

 なぎともえは、駐車場での元気が引っ込んでしまっていた。

 表情がひきつっている。

 あの自作な歌も今は歌っていない。

 さては、人が一杯いるから萎縮しちゃったかな。


「さあ、どの動物を見に行く?」

「なぎともえは何が見たいんだ?」

「「……」」


 私と和威さんで話しかけたが無言である。

 ベビーカーを押す私達側に向きを向けているので表情がよくわかる。

 今にも泣き出しそうだ。


「ライオンかパンダか、どちらがいいんだ」

「「パパぁ。だっこ、しちぇ」」


 あらら。

 抱っこをせがまれた。

 そんなに緊張しなくても良いのになぁ。

 和威さんはリクエストに応じてなぎともえを抱っこする。


「どうした。パパもママも側にいるぞ」

「人が沢山いるから固まっちゃったのね」


 お山でもお祭りか盆休みやお正月でもないと、こんな賑わいを見せたりしないしね。

 たまに、買い出しにショッピングセンターに連れて行っても、始めはおとなしい。

 暫くして慣れてくれたら、可愛い我が儘振りを発揮して、お菓子を強請るのだけど。


「人が一杯か」

「あい。おみゃちゅり、にゃにょ」

「お祭りではなくて、なぎともえと一緒で動物を見にきたんだぞ。パパとママがついているから安心しろ」

「「あい。パパちょ、ママ、いっちょ」」


 むぎゅう、と双子ちゃんを抱き締める和威さんだ。

 入場門の脇とはいえ、人目を集めてるのだけど。

 完全に無視しておりますなぁ。

 従業員さんも微笑ましく見ている。


「おんり、しゅりゅ」

「ベビーカーに乗らないのか?」

「のりゅましゅ」


 なぎ君はベビーカー乗ってくれるけど、もえちゃんは嫌なんだろうなぁ。

 和威さんの腕から降りたがらない。

 酔っ払った和威さんの高い高いで、微妙に高所恐怖症気味な割りに抱っこは嫌がらない。

 まぁ、パパの側が一番安心できる位置と理解しているのだろう。

 立派なファザコンである。

 その点、なぎ君は私の側にいてくれる事が多い。

 こちらは、マザコンかな。

 それとも、ママを仲間ハズレにしないようにしてくれているのかな?


「うー。もぅたんも、のりゅ」


 珍しい。

 もえちゃんが自分から乗りたがった。

 動きを束縛されるのが嫌いなのに。

 チャイルドシートでさえ、何十回と言い聞かせないと抜け出す癖があるのに。

 さては、なぎ君と離れるのが不安だな。

 ふたたび、ベビーカーに乗るなぎともえである。


「それで、何処に行く?」

「りゃいおんしゃん」

「がおー、がおー」

「よし、出発だ」


 ベビーカーを和威さんが押して歩きだす。

 私は横に並んで双子ちゃんを観察中だ。

 双子用なだけあり、ベビーカーは大きく目立っている。

 他人の視線に慣れていないなぎともえが、いつぐづついてもおかしくはなさそう。

 でも、和威さんがお山に戻る気がない以上、慣れないとね。

 休日は休んで欲しいのだけど、彩月さんに頼んで出掛けたりしたら、羨ましがられるだけだしなぁ。

 その内に私の父や母からも、お出掛けの催促がきそう。

 初孫は可愛い盛りだしね。

 緒方家に出入りした回数分だけ、つれ回されそうだ。


「ほら、ライオンだ」

「りゃいおんしゃん。どきょ?」

「みえにゃい、よぅ」

「ちょっと待て」


 ライオンの獣舎に到着。

 しかし、ベビーカーの向きを変えないとみられないわよ。

 気付いた和威さんが、降りようとするもえちゃんを慌てて制する。

 力業で降りようとするもえちゃんは金具と格闘中。


「もぅたん。じゅんばんよ。まちゅにょ」

「ライオンは逃げたりしないから、落ち着け」

「あーい。パパ、おんり」


 なぎ君と和威さんに諭されたもえちゃんは両手を挙げて待ちの状態。

 順番にベビーカーから降ろすと突進するかと思いきや、私のジーンズの裾を握り締めた。

 良い子だね。

 頭を撫でると、にっこり笑う。

 右手になぎ君左手にもえちゃんの手を繋ぎ、ライオンの檻の前に近付いた。

 ちょうど空いたスペースがあったので、間近にライオンが見えた。

 大きな口が空いて欠伸をしている。


「りゃいおんしゃん、おおきいにぇ」

「パパより、おおきい?」

「そうね。パパよりも大きいわね」


 しゃがんで双子ちゃんの目線と合わせれば、脅えたのか首にしがみついてくる。

 実物大のライオンを見たのがはじめてだからか、身体が強張っている。

 大丈夫。

 ライオンさんは檻から出てこないよ。

 何で最初にライオンを選択したのだろう。

 パンダの方が良かったね。

 それか、キリンとか草食動物が良かったかな。


「いちより、おおきい?」

「いちよりも大きいね」


 いちは、お山の実家で飼われている大型犬だ。

 シェパードで、なぎともえよりも大きい。

 庭で遊ぶとよく転がされている。

 犬とライオンを比べるまでもないが、双子ちゃんにしたら大問題なんだろうなぁ。

 人生初の肉食動物との対面は、どんな感想をもたらしたかな。


「うにゅ」

「りゃいおんしゃん」


 ライオンが、私達の方に歩いて近付いてきた。

 双子ちゃんの脅え方が半端なく、しがみついてくる腕に力が入った。

 さっきは眠たそうに欠伸をしていたのに、此方を見る視線はまるで威嚇しているみたい。

 ぐあお。

 と、大きな口を空けて、檻に飛び掛かった。

 弾みで檻が揺れる。

 勿論、なぎともえは涙目で私に抱き付いた。


「「やぁよ。あっち、いっちぇ」」


 思わぬ迫力に、他の家族連れも小さな子が泣き出した。

 ライオンは、獣舎の中をいったり来たり。

 牙を剥き出してご機嫌斜めな様子。


「パパぁ。りゃいおんしゃん、おきょっちぇりゅ」

「りゃいおんしゃん、めっ、しちぇ」

「そうだな。うちの可愛い子供達に何を威嚇してくれる」


 和威さん。

 本気にしないでよ。

 真面目にライオンと、にらめっこはやめてくださいな。

 なぎ君、もえちゃん。

 パパを止めてあげて。

 背中を叩いて安心させるのだけど、なぎともえは益々私に抱き付いて離れない。

 これでは、和威さんに突っ込めない。

 すると、和威さんの気迫が勝りライオンが檻から離れていくではないか。

 おおう。

 パパ、勝っちゃった。


「「パパ、しゅぎょい」」

「おう。勝った」


 なぎともえははしゃいで、私から和威さんの足に突進した。

 頭を撫でると抱き上げる和威さん。


「パパは、頑張ったぞ。なぎともえをいじめるライオンを、めっしてやったからな」

「パパ、ちゅよい」

「パパ、きゃっこいい」


 にこにこと笑顔が戻って何よりですなぁ。

 和威さんがいなかったら、私がめっしてたかな。

 いや、公衆の面前でそれはないか。

 兄だと、やりそうだけど。

 双子のほっぺたにちゅうをかます和威さん。

 その辺で次に行かない?

 また、注目を浴びているのだけど。

 周りをみて欲しいな。


「さあ、次はどんな動物が見れるかな」

「「ぱんぢゃしゃんは?」」

「パンダも行くけど、道なりには他の動物が待ってるぞ」

「んちょね。ごりりゃしゃん」

「きりんしゃん」


 抱っこから降ろされて、和威さんの手を引っ張っている。

 ライオンに泣かされそうになったのは、何処かに引っ込んだよう。

 大泣きしなくて助かった。

 初っ端なから泣かれたりしたら、動物園嫌いになっていたかも。

 ベビーカーを押しながら後に続いていく私である。






「「おいちぃねぇ」」


 お昼時になり、お弁当を広げた。

 なぎともえは小さく握ったおにぎりをパクパク食べている。

 彩月さんは一人一人におかずを詰めてくれたのだけど、双子ちゃんは手をつけない。

 これは、あれかな。

 離乳食と一緒で、ママかパパが食べささないと、食べてくれないな。


「もえちゃん、あーん」

「あーん」


 ミートボールを差し出すとお口を開けてくれた。


「なぁくんも」

「ほら、なぎはパパがするぞ。あーんしろ」

「あーん」


 和威さんにあーんされるなぎ君。

 大好きな唐揚げに齧り付いた。

 せっかく、彩月さんがキャラ弁を作ってくれたのになぁ。

 見向きもしないのはどうかな。

 ママのおにぎりなんて、白米を握っただけなのに。

 嬉しいけどね。


「ママ。たきょしゃん、たべりゅ」

「パパ、なぁくんも」


 おにぎりを両手に持ち、あーんと口をあける。

 親鳥の気分になる。

 私が作っていたら、自分で食べたかな。

 いや、場所柄で甘えてあーんかも。

 ライオンを筆頭に様々な動物に出会い、興奮が醒めやらない。

 お腹が満たされたら、あっという間にねんねだろう。

 今も欠伸がでているし。

 タコさんウィンナーをあーんすれば、ニコニコ笑顔で互いを見やる。


「「おいちぃねぇ」」


 それは、何よりである。

 食欲が沸いてきたのか、自分からフォークを握り食べ始めた。

 この隙にママも食べるとしましょう。

 うん。

 彩月さんの料理はお義母さんの味と似ている。

 薄味だけど、美味しい。

 和威さんも味については感想がない。

 と言うよりかは、和威さんは味覚が他人とずれている。

 新婚生活中には、よく調味料を間違えて作った。

 お義母さんの味を踏襲しようとしたのだけど、中々上手くいかなかった。

 和威さんは味がおかしな料理を、不味いとは一回も言ったことはない。

 何度も作り直すと訴えても、綺麗に完食した。

 悪食か、味覚音痴だと思う。


「「ママ。ごちしょうしゃま」」

「はい。りんごは食べるかな」

「「たべりゅ」」


 デザートにはうさぎ型に切ったりんごが入っていた。

 食べると元気よく手を挙げたなぎともえ。

 だけど、なぎ君はりんごの皮が好きではない。

 喉に引っ掛かる気がするのだと、言う。

 彩月さんは、なぎ君用に皮を剥いたりんごを入れてくれている。

 フォークに刺して開けた口にりんごをあーんする。

 ニコニコ顔をして咀嚼するなぎともえ。

 お弁当は、残念ながらご飯の部分だけ残した。

 彩月さんにおにぎりを作ったと伝えていない報告ミスだね。

 小さめなおにぎりを結構食べていたし、和威さんが残した料理を全て食べてくれるので、お弁当箱は空になった。


「パパ。いりゅかしゃんわ、どきょ」

「ぺんぎんしゃんわ?」

「イルカとペンギンは動物園ではなくて、水族館だな」

「「いにゃいにょ」」

「うん。ここにはいないね」


 ペンギンは動物園にいるところもあるけどね。

 和威さんのことだから、来週は水族館に行こうと提案するかな。

 マップを広げると、ペンギンはいた。

 あら、ゴリラはいない。


「ペンギンはいるみたいよ」

「「ぺんぎんしゃん、みりゅ」」

「なら、見に行くか」

「「きゃあ。やっちゃあ」」


 繋いだ片手を上下に振るほど、感激したらしい。

 興奮が睡眠欲に打ち勝った。

 ねんねする気配がない。

 これは、夜ご飯食べないで寝ちゃいそうだ。

 まぁ、たまには良いかな。

 お腹が減って起き出したら食べれる夜食を準備しておくかな。

 跡片付けをしてベビーカーに双子ちゃんを乗せた。

 さあ、ペンギンさんに会いにいこうね。



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