閑話 反撃の後日談
美月視点
人の縁とは、何て不思議なんだろうか。
高崎の陽祐パパが、パパカミーユと同じハーフで交流がなければ、今の私はいなかっただろうし。
凌ちゃんが、尊君と昴君と行方不明にならなければ、朝霧さんとも関わりがなかっただろうし。
朝霧グループ会長の孫娘さんの旦那さんが、緒方さんの甥でなかったら、パパカミーユの遺したママイネスを描いた絵画とも邂逅はならなかった。
それに、パパカミーユの支援者だった柳瀬画廊の皆さんとも再会もなかった。
そして、私達エトワール一家を案じてくれていた、パパカミーユの絵画のファンの方々の協力で、パパカミーユの個展も開かれはしなかっただろう。
雅号の氷室正史ではない、本名の名前での個展には、私の代わりに鑑定番組に出てくれた俳優の最上穂高さんが世に出してくれた、三枚の人物画が目玉として並べられ、柳瀬のおじ様が身体をはって死守してくれた私が描いたパパカミーユの肖像画もちゃんと揃っていた。
子供が描いた拙い絵ではあるけど、個展に招待されたパパカミーユを知る方々は、家族の絵だねと皆さん涙ぐんで喜んでくれていた。
個展が開かれるまで、本当に色々な事があった。
まず、鑑定番組放送後、八月に画家氷室正史の夫人と柳瀬画廊の息子であるお兄さんを騙った犯罪者が逮捕された。
夫人を騙ったのは、パパカミーユの血の繋がらない異母姉で、お兄さんを騙ったのはその旦那さんだった。
パパカミーユの実の両親は既に亡き人で、パパカミーユを追い出しておきながら画家として大成したパパカミーユを妬んで、成功が許せずに不幸を望んでいたらしい。
パパカミーユのお父さんは、フランス人の恋人がありながらも親の策略で結婚を余儀なくされていて、パパカミーユのお母さんと駆け落ちしていた。
私にとっての曾祖父にあたる人は、かなり有名なある企業の創業者で、実の姉の嫁ぎ先は政治家だった。
息子の醜聞にいたく激怒した曾祖父は、政治家さんの協力の元に祖父母を見つけ出し、パパカミーユを人質にして別れさせて、息子をたらしこんだ異国の女性は秘密裏に処理したんだって。
パパカミーユのお父さんは、息子だけは死守したくて親のいいなりになるしかなかった。
けれども、結婚した相手をガンとして受け付けずにいて、異母姉さんはどうも曾祖父との間の娘だったらしい。
父親と戸籍上の妻の不貞に、お祖父さんは嫌悪してますます奥さんとの仲は悪くなるばかり。
表向きは良妻賢母を貫いていた継母さんは、パパカミーユに見えない処で苛め抜いていた。
ある日、継母がパパカミーユを階段から突き落とそうとした現場を目の当たりにして、パパカミーユを庇いお祖父さんが重体となり亡くなった。
再びの醜聞事態に、曾祖父はまたもや政治家さんの協力でお祖父さんは病死として、序でにパパカミーユも戸籍上で死亡扱いにして、放逐した。
その頃には、異母姉と政治家さんの甥の息子との縁談があり、跡取りには困らないだろうと判断された結果だそう。
まあ、パパカミーユの強運は、エトワールの祖父母と、良識的な孤児院の院長先生との出会いに費やされた。
また、放逐した曾祖父も、日本人離れした容姿のパパカミーユが生き延びられると露ほどにも思っていなかったのが幸いした。
院長先生は、卓越したパパカミーユの絵の才能を伸ばしてくれる教育を施してくれて、支援者となる柳瀬画廊のおじ様を紹介してくれた。
エトワールの祖父母は、パパカミーユとママイネスの婚姻を承諾して、日本に永住して帰化してもよいと思ってくれた。
そうして、パパカミーユは、曾祖父の思惑を外れて幸福を手に入れた。
しかし、曾祖父の目を恐れてパパカミーユは表に出るのを嫌い、徹底して画家氷室正史像を作り上げた。
柳瀬画廊のおじ様も、パパカミーユを隠してくれていた。
けれども、画家氷室正史が売れていくと、やはりパパカミーユの秘密は隠しきれれなくなった。
異母姉が、パパカミーユに偏執までな愛情を抱いていたのが敗因だった。
異母姉弟だと思われていたのが、そうではないのが知らさると、パパカミーユをあらゆる手段を使って捜索した。
そうして、パパカミーユを見つけるやいなや、突貫して連れ帰ろうとした。
その時点で、曾祖父は鬼籍に入り、邪魔をする人が誰もいなかった。
継母はパパカミーユを金の成る木としかみていなかったし、政略結婚した異母姉の旦那さんは凡庸で企業の社長職に就くには、才覚がなかった。
贅沢三昧に慣れていた実家の人間に、節約や倹約などは認められず、ただ潤沢にあった資産を食い潰すだけの日々。
そんな人間が、画家氷室正史を食い物にしない訳がなかった。
身内であるから、パパカミーユの財産も自由にして何がおかしいのか?
自分達から追い出しておいて、戸籍も無くしておいて、何を言うのか。
パパカミーユが、拒絶したのは当然である。
しかし、相手も裏社会と関連がある政治家の後ろ楯があった。
エトワールの祖父母を、難癖つけてありもしない罪を着せて国外退去させ、孤立化させようとした。
パパカミーユは、相手のなりふり構わないやり方に危機感を抱き、私を交流があった陽祐パパに保護を願い、アトリエにあった絵画を柳瀬画廊と、大事な家族の人物画だけは最初の顧客であった緒方さんの住所に一方的に送り付け、保管を頼み込んだ。
ちゃんと理由も添えて、どうか何もリアクションしないで預かってくれと訴えていたそうだ。
送り付けちゃうパパカミーユもどうかと思うけど、それを許容しちゃう緒方さんも寛容な人だよね。
私か高崎の陽祐パパが辿り着くまで、きちんと正確に保管してくれていたんだもの。
有り難すぎて、足を向けて寝られないや。
それから、陽祐パパの家族も暖かな家族だった。
高崎家にも色々な事情があり、陽祐パパはパパカミーユのアトリエが火事になり、パパカミーユとママイネスの遺体が発見されて、柳瀬画廊までも火事に見舞われたと知るやいなや、私を正式に養子にした。
一応、書類上は陽祐パパの親戚の娘としてね。
陽祐パパもドイツ人とのハーフであったし、当時は三男の空雅お兄ちゃんのママも、自分の身内として私を保護してくれた。
そう陽祐パパの息子は、三人とも母親違いの兄弟だった。
というか、三人とも陽祐パパの実子ではないのだけど、実子として戸籍には届けられている。
陽祐パパは四回結婚して三回離婚していた。
ママさん達は、パパカミーユみたいに恋人がいながら、家のため仕方なく結婚して子供を産んで、役目を終えたから離婚して、其々が恋人と再婚した。
話に聞くと、息子は置いてかれたみたいで悪女みたいなんだけど、真実は違っていて、お兄ちゃん達は恋人さんとの間の子供。
離婚する際に、息子を連れて再婚しようとしたものの、理由を把握していなかったお兄ちゃん達は陽祐パパを選んだ。
母親を誤解していると踏んだ陽祐パパが真実を打ち明けて、母親の名誉を回復したのだけど。
真実を知ってうちひしがれたお兄ちゃん達は、陽祐パパの他者を思いやる博愛ぶりに酷く憤慨して、陽祐パパの去る者追わずな姿勢にお説教していた。
ママさん達同盟も密かに結ばれていて、再婚された旦那さん達までも巻き込んで、陽祐パパの最愛探しに奔走していた。
それなのに、私達がやきもきしていたのを知らず、平然と再婚すると言われた日には、お兄ちゃん達とママさん同盟組は、またかと思ったのは陽祐パパが原因だからね。
それが、菜々子ママが押し掛け女房になって、既成事実作って再婚したと聞いた時には、菜々子ママを如何に排除するか話題になったんだよ。
しかし、陽祐パパは菜々子ママを溺愛しているのがわかり、漸く陽祐パパに春が来たと皆揃って狂喜乱舞したのは悪くない。
凌雅ちゃんが産まれて、高崎家の跡取りは凌雅ちゃんに指名しようとしていた私達血の繋がらない継子に、菜々子ママは滅多に怒らないマジな怖い笑顔でお叱りをした。
長男の大雅ちゃんは成人して、陽祐パパのお仕事をお手伝いしていたから、長男が継ぎなさいと説得な日々。
また、凌ちゃんも、幼いうちからお兄ちゃんお姉ちゃんを敬い、慕ってくれた。
可愛い末弟にあざとく、いなくならないよねと上目遣いで言われてしまって、私もお兄ちゃん達も撃沈したのは言うまでもなく。
お兄ちゃん達の本当のパパさん達には申し訳ないのだけど、高崎家は五人兄弟であり続けていく決意を新たにした。
パパさん達もいい人ばかりで、まめに連絡の取り合いをしてくれるなら、自分の分も陽祐パパに恩返しをしてねと、母国で商売の提携を結び、それなりにWin-Winな関係で結ばれている。
そして、凌ちゃんが行方不明事件の際には、わざわざ来日して捜索してくれたんだよね。
生憎、その事件の日には、陽祐パパと大雅お兄ちゃんは海外出張で日本にはいなく、菜々子ママも声楽家としての公演で海外にいた。
居残りしていた雷雅お兄ちゃんが主として捜索しても、お兄ちゃん達の個人的なマンションに凌ちゃんが来ていたらしいが、不審者もいて逃げるしかなかったそう。
これは、凌ちゃんからの説明。
後日、朝霧さんの個人弁護士さんから、ある組織の勢力が狙っていたと判明して、既に警察に逮捕されたと連絡がきた。
何でも、児童ポルノを扱う反社会的勢力だったとか。
以降、朝霧さんからの協力が続いて、パパカミーユの事件も、再捜査で異母姉夫妻の殺人行為と判明されて、失火による事故扱いして捜査を打ち切った当時の警察官僚とか、パパカミーユの存在を消しにかかった某政治家一家に、検察が捜査に乗り出したとして、高崎家に警察のお偉い方々が謝罪に来たりとか。
非公式に内閣からも、政治家による犯罪を見逃して、パパカミーユを貶めたことを陳謝する手紙が来たりとか。
切っ掛けを与えてくれた篠宮さん一家にお礼をするには、何をしたらいいか調べていたら、あるやんごとなかなきお方から深入りするのは止めなさいと忠告が来たりとか。
朝霧グループは分かるのだけど、篠宮さん一家も何者なんだろうとか頭を悩ませたりした。
尊君経由で、篠宮さん一家はある地方では名家で、象徴な方々とご先祖様が一緒だとか聞いたら、ますますお付き合いするのか怖くなってきてしまった。
まあ、でも。
凌ちゃんが尊君が保護されている朝霧家に遊びに招かれると、皆さん暖かく迎えてくれて、陰の功労者の双子ちゃんが可愛く遊んでと甘えてきて、凌ちゃん達も癒されると和んでいるそう。
しかしながら、敵には容赦しない苛烈な面もあって、私達に害になる人物は蟻一匹逃さないようで、警察に発破をかけているとか。
パパカミーユの個展も、朝霧グループ社長さんのお声がけで開催された模様である。
私達の預かり知らない場所で、残党狩りしているようです。
陽祐パパは悔しがっているみたいだけど。
大大企業の先を読む経験値は、比嘉の差が果てしなくある。
本当にお返しはどうしたらいいのだろうか。
甘えてばかりは、いられない。
悶々としていたら、幸せになりなさい。
それが、恩返しだよと、言われました。
いつか、朝霧グループに入社して、一社員として活躍してみるのが目標です。
だから、これからは、勉学に頑張ろうときめた。
だって、パパカミーユの絵画をお譲りしても受け取ってはくれなさそうだし。
バリバリ働いて貢献するのが、いいよね。
パパカミーユ。
ママイネス。
二人の娘であるのを誇りに、私は頑張るね。
だから、安心して見守ってください。
パパカミーユが遺してくれた絵画に誓います。




