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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のオラトリオ
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その57

「ご招待状はお持ちでしょうか?」

「「あいまーしゅ」」

「では、拝見いたします」

「「はいけん? にゃあに?」」

「招待状を見せてください、だよ」


 レストランの入り口には朝霧邸でよく見かける警護スタッフがいて、我が家の双子ちゃんは機嫌よく受け答えしていた。

 私達一家と篠宮のお義父さんの分の招待状を手に、差し出しかけて固まる。

 警護スタッフも笑顔でお付き合いしてくれたのだけど、いかんせん丁寧すぎて双子ちゃんには伝わらなかった。

 しまった、という表情で警護スタッフも固まってしまい、和威さんが助け船をだす。

 済みません。

 言葉に出さないで警護スタッフが呟いた。

 いえいえ、こちらこそ。

 なぎともえにお付き合いいただいて、ありがとうございます。


「「あい、どーじょ」」

「はい、お預り致します」


 朝霧家主催の食事会が決定したその日のうちに、招待状を作製したのは母自身であった。

 朝霧邸にあるパソコンとプリンターであっという間に作製して、あっという間に招待客に配ったのである。

 今回の食事会に招待されたお客様は、尊君とお友達の二家族に、私達篠宮一家に、母や朝霧家の近しいお友達らしい。

 というのも、オーナー夫人のお父様の恩人である楢橋一家に訪れた不幸を把握しておられて、是非にも尊君に渡したいモノがあるのだそうだ。

 恐らく、オーナー夫人のお父様が生前に残された楢橋家が経営していた食堂のレシピ集とのこと。

 何でも、海外で酷使されて疲弊していたお父様は、楢橋家に一時厄介になっていたそうだ。

 本来なら、実家にて安静にしていなければならなかったそうなのだけど。

 揉めた相手が強行手段で報復しないとも限らないので、安全な朝霧家で保護しようとしたらしい。

 けれども、逆に落ち着かない場所になるだろうからと、楢橋家が引き取られたそうな。

 まあ、楢橋家に婿入りしたのはお祖父様の弟であるから、それとなく周囲には派出所も置かれて、お巡りさんの巡回も定期的に行われた治安のよい場所だった。

 水無瀬家からも、引退した警護スタッフの方々を近隣にお引っ越しさせていただいて、不測な事態は起きないであろうと言われていた。

 だというのに、数十年過ぎたら、楢橋家の護衛が忘れさられていたのは、記憶に新しい。

 所轄の警察署の署長には、代々申し渡ししないとならない案件であったらしいのだが、お馬鹿な人がいて人件費削減により楢橋家の特別扱いを止めてしまっていたのが判明している。

 また、近隣に引っ越しされていた引退された元警護スタッフも亡くなられていたりと事案が重なり、危険を回避出来なかったのが痛手だった。

 火事で焼失した楢橋家と近隣の家には、原因を作った被告の父親である永峯元議員が財産をなげうって、再建の資金を出したそうだ。

 楢橋家にも多大なる賠償金を支払うと、入院されている尊君のお父さんの病室にて土下座をされたと聞く。

 しかし、尊君のお父さん剛氏はまだ会話が困難な状態なだけに、尊君の怒りは凄まじかったそうだ。

 亡くなったお祖父ちゃんとお母さんを返せ。

 お金なんかいらないから、返して。

 興奮して暴れた尊君を宥めたのは付き添っていた喜代さんで、冷静に諭して落ち着かせてから永峯元議員に冷たい言葉を残して追い出した。

 尊君と剛氏の精神的安静を脅かす存在と認定して、接触禁止にした。

 その話を聞いたお祖父様は、ひたすら尊君に謝罪していた。

 永峯元議員に剛氏の入院先を教えたのはお祖父様で、謝罪を先に受け入れていたのもお祖父様だった。

 元々、お祖父様の永峯元議員の印象は良好であったので、真摯に謝罪する姿に絆されたらしく、つい教えてしまい、病室を警護するうちの警護スタッフにも面会許可をだしていたそうだ。

 やっちゃったお祖父様は、尊君からの信頼回復に頭を悩ませているとか。

 なので、気分転換を兼ねて、尊君とお友達の交流の場になればと、お祖父様は思っている。

 だけどね。

 何故に、縁があるレストランでも、騒動が起きる場所だと分かって選ぶかなぁ。

 我が家は、元がもえちゃんがプリンを食べたいと言ったから、出向いた訳だけど。

 尊君とお友達家族には何ら関係がないぞ。

 あっ、でも。

 大使館職員と鉢合わせしてないところを鑑みると、何かアクション起こしているのだろうか。

 駐車場にも、外交ナンバーの車がなかったしね。

 あったのは、身内の車ばかりだった。


「確認致しました。どうぞ、お入りくださいませ」

「あい」

「あいあちょー、ぎょざーましゅ」

「……ましゅ」


 なぎ君が律儀におじぎをすると、もえちゃんも真似をする。

 私や和威さんが教えた訳でもないのに、お利口さんな姿に和むわぁ。

 警護スタッフも同様みたいで、にこやかに笑い扉を開けてくれた。


「あら、いらっしゃい。なぎ君、もえちゃん。篠宮さんも、わざわざご足労いただいて、ありがとうございます」

「……母よ。その姿はやめい」


 だから、母の和装姿は極妻仕様になるから、あれほど止めてと口酸っぱく言ったのに。

 レストラン内に入り、出迎えたのがそれでは誰もが引くわ。

 お化粧もばりばり極妻だ。

 何処から見ても、極妻だ。

 大事なので、何度でも言おう。

 極妻は、止めておくれ。


「わぁ、ばぁば、しゅぎょいねぇ」

「あい、いちゅもちょ、ちあうね」

「うん。迫力ある出で立ちだな」

「武藤さんは、和装だと普段とは違う雰囲気を纏われる。一瞬、どなたかと疑いたくなるねぇ」


 なぎともえは称賛しているも、和威さんとお義父さんは遠回しに極妻と認識している。

 いいんです。

 直接的に、言っていいんです。

 だから、母の和装姿は極妻だと。


「母よ。止めてと言ったはずだよね」

「あら。だって、物分かりの悪い方の鼻っ柱を叩き折るには、相応しいとは思わないかしら」

「わざとか。わざとなんだね」


 母的には、相手を威圧するには相応しい姿にとの考えみたいである。

 あのさぁ。

 友人のレストランに悪評がつく恐れを思いやろうよ。

 母の背後で苦笑しているオーナー夫人を見つけると、頭を下げたくなるよ。


「まあまあ、琴子ちゃん。奏子さんも、こうと決めたら引かない人だから、諦めた方が楽よ。それに、渡貫さんを凝らしめるには、徹底してやらないと渡貫さんも聞く耳持たないから、丁度よいのよ」


 流石に、母との付き合いは私より長い友人の言葉には重みがある。

 そして、相対する自称友人さんも、半端な事ではへこまない人格だと分かった。

 まあ、自分本意な人でないと、やらかさないか。


「あっ、そうそう。篠宮さん。あちらの方、後輩の方でお間違えはないですか?」

「はい? 後輩ですか? ! 誠四郎。誠四郎じゃないか。その姿はどうしたんだい」


 お義父さんが、母が指差した人物に向かって足早に駆けていく。

 釣られて見ると、草臥れたスーツ姿に痛々しい青あざのある頬を晒した男性がいた。

 名前から察するに、渡貫家に婿養子にだされた後輩さんみたいだけど。

 どういう事?


「緒方先輩。申し訳在りません。どうやら、娘の蝶子は海外で資産家のパトロンを得て、渡貫の会社を乗っ取りました。先輩が所有する株式以上の株を買い占めて筆頭株主となり、私を罷免し、放逐した報復として監禁されて暴行されました。が、危うい処で、助け出されたのですが。私も、何故にこの場にいるのか皆目検討がつかないです」

「渡貫さんの動向を探らせていたのは、楓兄さんの手配よ。どうやら、渡貫家のご当主さんは、蝶子さんを自らの養子にして、会社の実権を取り戻す算段をしていたそうなの。まあ、少し後手に回ってしまい、渡貫さんの保護に手間取ってしまい、怪我を負わせてしまった責任は取らせていただくわ。それに、渡貫さんとご当主の娘さんとの離婚は成立したから、旧姓の小幡さんに戻られましたわ」

「そうでしたか。誠四郎を助けていただき、ありがとうございます。誠四郎の身柄は、緒方家で預からせていただきます」

「あの、先輩。こちらの方々は、いったいどちらの方々なのでしょうか」


 おい、母。

 説明はしてないのかいな。

 渡貫さん、いえ小幡さんは不信感丸分かりな表情で、母を伺っていた。

 そりゃあ、そうだよね。

 何ら説明なく、連れて来られたら不安があるさ。

 しかも、母の姿は極妻だしね。

 警護スタッフも厳つい方々ばかりだから、やのつく方々を思い出しても仕方がないよ。


「ああ、こちらの方々は、末の息子のお嫁さんの実家の方々だ。武藤姓を名乗られているが、婚姻される以前は朝霧翁の愛娘さんなんだよ」

「! 朝霧グループ会長の愛娘さんですか?」

「そうなんだ。末の息子は、家格の高い娘さんを嫁にしてしまったんだよ。しかも、婚姻したら地元に連れて帰ってきてね。妻とどうしたら、不便な山奥に嫁いできて、離婚されないでいてくれるか気を揉んだよ」


 いえ、快適なスローライフでしたよ。

 まあ、双子ちゃんの育児に頑張りすぎて、迷惑をかけたのは私です。

 お義母さんやお義祖母さんやお義姉さんといった、優しい方々に大いに助けていただきました。

 ありがたや、ありがたや。


「渡貫の義父が、朝霧家と緒方家が結ばれて、いっそうの支援が期待できると言っていたのは、この事でしたか」


 納得された様子で、小幡さんは肩の力を漸く抜けれることができた、みたいです。


「じぃじにょ、おちょもぢゃち?」

「そうだって。困っていたから、楓伯父さんが助けてくれたみたいよ」

「かぁくん、あいあちょうね」

「そうね。後で、ありがとうしましょうね」


 じぃじのお友達は、身内に入るのかな。

 なぎ君は、ありがとうを言う気満々である。


「先輩のお孫さんですか? 利発なお孫さんですね」

「そうなんよ。自慢な孫達なんだよ」


 孫を誉められて、お義父さんのテンションが上がる。

 手招きされて、きちんとご挨拶するなぎともえ。

 固い表情だった小幡さんに笑顔が戻る。

 愛想を振り撒くなぎともえに、またもや空気を読んでの行動だと推測できた。

 よし、なぎ隊員、もえ隊員。

 この調子で、母の印象を払拭して欲しい。

 頼んだよ。

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[気になる点] >「そうだって。困っていたから、楓伯父さんが助けてくれたみたいよ」 今さらだけど、統一してませんね。 翁⇒ひぃじぃじ 雪江⇒ひぃばぁば 篠宮婦人⇒ばぁば 先代篠宮婦人⇒ひぃばぁば …
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