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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
13/180

その13

「「いーぬしゃんは、わんわんわん。ねーこしゅんは、にゃんにゃんにゃん」」


 ご機嫌でお遊戯するなぎともえ。

 只今、朝の9時過ぎ。

 動物園に向かう車中で、ハイテンションな双子ちゃん。

 自作な歌と自由に動く手を振り回している。

 元気だなあ。

 ママは、寝不足だよ。

 チャイルドシートが動きを阻害しているけど、外したらママが激怒(げきおこ)だからね。

 分かっているわよね。


「ぞーうしゃんは、ぱおーぱおー」

「りゃいおんしゃんは、がおーがおー」


 昨夜の悪夢の影響は見当たらない。

 ご機嫌で何よりである。

 ママは微妙にパパを怒らせたみたいで、あの後で肉体的お話し合いに発展してしまった。

 篠宮家の摩訶不思議に、振り回された夜だった。

 だって、まさか双子ちゃんが前世持ちだなんて、判るわけがないじゃないか。

 可愛い我が子が魘されるほどに嫌がる行為をされた、と解釈してもいいじゃないか。

 毎日お風呂上がりに着せ替えているから、青アザなどないだろうにとは、和威さんの弁だ。

 そうなんだよね。

 毎日一緒にいるのに、暴力を振るわられる訳がない。

 お山にいた頃は和威さんが家にいたのにね。

 お散歩で離れた隙にとも思い付いたけど、ニコニコ笑顔で帰ってきてお話ししてくれた。

 考えればすぐに解ることだった。

 大いに反省である。

 しかし、和威さんはしつこかった。

 朝から義兄に離婚を疑われるは、妻にいらぬ疑惑をかけれるはで、ご機嫌斜めだった。

 御蔭様で早起きできなかった。

 お弁当は彩月さんにお願いした。

 私が準備したのはおにぎりだけ。

 他のおかずやベビーカーを動物園前迄持参してくれる手筈になっている。

 着替え?

 緒方の叔母さまが用意してくれた服に着替えた。

 下着のサイズは誰に聴いたか丸わかりだ。

 ちょっと引いたけどね。

 義姪に何を着せるかなぁ。


「「ママぁ」」

「なあに」

「にゃに、おきょっちぇ、いりゅの」

「もぅたん。おりきょうしゅんに、しちぇ、いりゅよ」


 いかん。

 眉間に皺がよっていた。

 なぎともえが不安がってしまう。

 私は助手席にいるのに気配を察したのかな。

 それとも、ミラーに写っていたかな。


「ママは、怒っていないよ。ただの、寝不足だからね」

「ねんね?」

「そう。ねんねが足りなかったのよ」

「にゃんで、なぁくんちょ、いっちょに、ねんね、しちゃよ」


 あら、前世持ちだからと言っても、理解できないか。

 そんなに、幼い時分に前世は終えちゃったのかな。

 長生き出来ていないとの情報だけに心が痛む。


「ママは、今日の準備でねんね出来てないんだ。朝ご飯はママの手料理だっただろう。緒方のおばばと一緒に作ってくれたんだぞ」


 ええい。

 寝不足の原因が、しれっと言わないの。

 本当は、お弁当を作るつもりだったのに。

 叔母さまも張り切って料理をしようとした矢先に、彩月さんに頼んだと和威さんの一言。

 叔母さまは見事に落胆された。

 まあ、なぎともえの二人が叔母さまの料理を食べないのは、分かっている。

 乳幼児の時から双子は、私か和威さん以外が作ったミルクや離乳食を食べなかった。

 あれは、どうして察知していたのか不思議だ。

 昨夜のお子様ランチは物珍しさに食べていたが、途中は私と和威さんで食べさせた。

 空気を読んだに違いない。

 あそこで、イヤだと言われたら、私に怒られると践んだのだろう。

 頭の良い子である。


「あい。わきゃっちゃ、にょ」


 なぎ君は得心がいったと満足した。

 もえちゃんは、まだ思案中。

 頭ごちんで疑問が解消できないから、今度はもえちゃんの眉がよっている。


「うー。もぅたん、わきゃん、にゃいにょ。にゃんで、ママは、ねんね、しにゃいにょ」

「もえより、早起きしてご飯を作ってくれたからだ」


 これで分かってくれないかな。

 無理かなぁ。

 あれな話はしたくない。

 幼児に聴かせていい話ではなく、なんとか納得させないとね。


「もぅたん、おてて」

「あい、なぁくん」


 みかねたのか、なぎ君が身を乗り出して精一杯手を伸ばした。

 もえちゃんも、必死に手を伸ばす。

 チャイルドシート外れないと良いけど。


「あい。ママは、はやおきしゃん。ぎょはんにょ、じゅんび」

「……あい。わきゃちゃ、にょ。あいあちょ、なぁくん」


 おおう。

 いつもながら、不思議な光景だ。

 頭ごちんでなくても理解できるんだ。

 こういうの何て言うのだろう。

 双子間の神秘で済ましていいのかな。

 前世持ちだからとは結論つけにくい。


「何で通じるのか、不思議よねぇ」

「そうだな。接触テレパスの一種かもしれんが、可愛い子供達に変わりがない」

「それは、同感。だけど、他の人の前ではやめさせた方がよくない?」


 将来的に学校に通わせる時期になれば、自分達とは違うと自然に理解できるんだろうけど。

 いらない詮索は買わない方がいい。

 でも聡いなぎのことだから、人前ではやらないか。


「もえが言い出さない限りは、自然とやらなくなるだろう」


 和威さんも重点になるのはもえちゃんだと思いついたわね。

 確かにもえちゃんが甘えないとなぎ君からはしないか。

 外出先では、他人の視線に敏感ななぎ君だ。

 お山のお家でも、毛嫌いしている親戚の前では披露してはいなかったね。

 針鼠みたいに神経を尖らせ動向を注視していた。

 遊びに夢中になっていようが、親戚の人が近付いてこようものなら、いち早く安全地帯のパパの元に移動だ。

 そんな日の夜はぐったりと微熱を出してしまう。

 幼いのにもえちゃんを思いやる良い子だと認識していた。

 それが覆されたのは、昨夜の悪夢にある。

 もえちゃんを返して、と言っていた。

 何処かに連れて行かれた妹を案じていた。

 想像したくないけど、不幸な目に遇わせられるのがわかっていたのだろうな。

 何だか、前世の両親に腹がたってきた。

 なぎともえの口振りからは、父親の話が出ない。

 無関心だったようだ。

 篠宮家は溺愛体質と身をもって体験したけど、双子を産んだからか冷遇されたのではないだろうか。

 今でさえ、私の風当たりがキツい親戚がいる。

 やれ、双子は不吉だ、産んだ母親も災いだ、何て言う輩がいる。

 和威さんも在宅の仕事をしていたのは、私と双子ちゃんに近付かせないよう牽制していたのよね。


「どうした? 不安か?」

「「ママぁ」」


 和威さんと、なぎともえの声にはっとした。

 いかん。

 物思いに浸っている場合ではなかった。

 私の感情に敏感ななぎともえがいた。

 後ろを振り返ると、こちらに向かって手を伸ばしす双子がいる。


「はい。なあに」

「「ママ、にゃんでは、めっ、にゃにょ?」」


 ほら、気付かれた。

 本当に聡い子達だ。

 ちょうど、動物園の駐車場に車が停車した。

 シートベルトを外して、身を乗り出して手を握る。


「ママとパパが一緒にいるときはいいけど、知らない人の前では駄目よ」

「「あい。わきゃり、みゃしちゃ」」


 握る手をぶんぶんと振る。

 ママ、体勢がキツいなぁ。

 でも、安心させるためには我慢だ。


「なぎ、もえ。その位にして、外にでるぞ。動物園に到着だ」

「「どおぶちゅえん。おんり、しゅりゅ」」


 お目々が輝いたなぎともえ。

 また、はしゃぎ過ぎて悪夢に魘されないといいのだけど。

 明日はパパがお仕事に出勤するのに、大丈夫かしら。

 車から降りて、彩月さんの到着を待つ。

 なぎともえは、さっきの元気が鳴りを潜めた。

 どうしたんだろう。

 駐車場を走り回らなくて危険ではないからよいが、おとなしくなってしまった。

 暫くして、和威さんの両足にへばりついている双子の近くに、彩月さんの運転する車が停車した。


「お待たせいたしました」

「こちらこそ、ありがとう」

「「さぁたん、あいあちょ」」

「ふふ。どういたしましてです」


 降りてきたのが彩月さんとわかりホッとした。

 さては、人見知りかなぁ。

 知らない場所で、知らない車が一杯だから、躊躇しちゃったね。

 彩月さんの車から、双子用の縦型のベビーカーが降ろされる。

 このベビーカーは、お義兄さん達の出産祝いに頂いた。

 少し重量はあるんだけど、私でも扱い易い優れものだ。

 双子用のベビーカーって、横型だけだと勘違いしていた。

 贈られて驚いたのは、その値段。

 かなりな御値段だった。

 御返しは不要だと、聴かされて困った。

 一応はしないとなぁと悩んでいたら、双子の元気な写真でも送ってくれと言われた。

 和威さんが成長記録を撮りだめしたなかから、選りすぐりの写真をアルバムにして送った。

 好評だったようで、第二段、第三段とアルバムは増え続けている。

 序でに私の兄にもアルバムは送っていた。

 あっ。

 兄で思い出した。

 緒方家での話し合いの内容は兄に報告したのかなぁ。

 それか、母との会食から伝えてもらうのかなぁ。


「ねぇ、和威さん」

「何だ」

「兄に報告した?」

「……一応はメールした」


 うん。

 完全とはいかないまでも、忘れていたのだね。

 双子ちゃんの前世問題から、私の実家に帰ります(未遂)に二の次になったわけだ。


「どうかなさいましたか?」

「何でもない。助かった。彩月も峰も今日はゆっくりしていてくれ」

「お夕飯はいかがなさいますか?」

「あっ。白米だけ炊いておいてください」

「かしこまりました。では、なぎさま、もえさま、楽しんで行ってらっしゃいませ」

「「あーい」」


 元気なお返事だ。

 和威さんに頭を撫でられてご満悦。

 では、お弁当も頂いたし、動物園に入場しましょうか。

 折り畳まれていたベビーカーを展開して、なぎともえを乗せようかな。


「「いーぬしゃんわ、わんわんわん。ねーこしゃんはわ、にゃんにゃんにゃん」」


 あら、また自作の歌が始まった。

 言われる前に片手を繋いでいる。

 視線は和威さんから離していない。


「「きーちゅねしゃんわ、こんこんこん。たーにゅきしゃんわ、ぽんぽこりん」」


 なんと。

 今回は最後のフレーズでお腹を叩いた。

 きゃっきゃっと笑っている。

 真面目な歌がコメディになってしまった。

 これには、彩月さんも和威さんも笑っている。


「「うにゅう。パパ、さぁたん、にゃんで、わりゃっちぇ、りゅにょ」」


 首を傾げるなぎともえ。

 その仕草も可愛いなぁ。

 うちの子は可愛い。

 人攫いには要注意である。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] もえちゃんを帰して とありますが 正)→返して  では ないでしょうか
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