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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のオラトリオ
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その51

 なぎともえの幼稚園問題を、すっかり忘れていた私と和威さん。

 確かに、この時期だと公立の幼稚園には入園は無理そうである。

 お祖父様の妹の芙美子大叔母様が経営されている学園法人が、幼稚園からあって助かった。

 持つべきは、頼りになる身内である。

 夕食が終わるなり、お祖父様が芙美子大叔母様に連絡してくれた。

 あちらも、夕食時ではないかと思えば、芙美子大叔母様は笑って快諾してくれた。


『あらあら、やっぱり忘れてたのね。雪江お義姉さんから、琴子ちゃんも入院したりしていたから頭にないだろうかとか。緒方家も支援されている保育園があるから、そちらに入園させる手筈をしているのかとか。相談されていたのよねぇ』


 離れに戻り電話してみたら、案の定緒方家の名も出てきた。

 電話する前に和威さんに尋ねたら、緒方家が支援する保育園があるらしくて、雅博さん一家と悠斗さん一家は通わせていたそうだ。

 そちらも、良家の子女が通うセキュリティがしっかりした有名な保育園だった。

 芙美子大叔母様が経営する学園法人も、資産家や政治家のお子様達が通う私立校としては、かなり上位の学園である。

 まあ、芙美子大叔母様が嫁いだ徳重家は、著名な博士や大学教授を排出し、教育関連に発言力が重く受け止められている家柄である。

 大叔母様の旦那様も義両親も博士号を戴く著名人で、息子さん二人共に大学教授への道をあゆんでいる。

 そのまた、孫世代も教職者へと進んでいたりする。

 なので、誰一人も経営学を選んでいなかったりして、学園法人の後継者がどうなるのか、朝霧家でも話題になっていたりする。

 大叔母様的には、息子さんのお嫁さん辺りに継いで欲しそうなのだけど、実の息子を差し置いて自分がとか慎み深くやんわりとお断りされている状態だそうだ。

 ただ、高校生の孫娘さんが、見るに見かねて跡を継ぐ決意を表明してはいる。

 徳重家の男性は教育関連には明るいが、経営には興味が全くないのを孫娘さんは嘆いていた。

 学問に集中できる環境にいた弊害だったり、血筋であったり、色々と問題点があげられるだろうけど。

 徳重家の皆さんは、朝霧家の財力に魅力を感じない稀有な人柄の持ち主なのだよね。

 家が繁栄して富み栄えるより、学問を取る方達だからか、野心がないのもよりけりだ。


『取りあえず、必要書類は送付しておくけど、住所は兄さんのお家でいいのね』

「あっ、はい。お願いします。後、準備する物とかありますか?」


 そう言えば、和威さんの会社に提出してある住所は、越してきて住み始めたマンションのままだった。

 済し崩しで朝霧邸に居候しているけど、役所にも行かないとだよね。

 ああ、やることだらけだぁ。

 後回しにしてきたつけが、一気に訪れた感が半端ないよ。

 しょげていたら、和威さんの膝上でおとなしく静かに電話している私を見ている双子ちゃんが、首を傾げていた。

 幼稚園が何の意味があるか理解していないなぎともえは、質問したいであろうがもしもししているパパとママのそばで静かに聞いている。

 頻りに、和威さんを見上げているも、言葉は出さないでいる。


『そうね。制服とか鞄類は此方で準備してあるわ。後は、送付する書類を確認して頂戴ね。けれども、なぎ君は年明けにはまた入院するのよね。四月迄には、退院できるのかしら』

「そうですね。その辺りは、年明けに病院の先生と相談します」

『そうしておいてね。最悪、もえちゃんだけ通うのは無理そうでしょう? 兄さんからも二人は同時が望ましいとの見解があったし』


 お祖父様は分かってらっしゃる。

 仲良しななぎともえが、離れ離れの状態を受けいれるのは無理だと思う。

 聡い子達だから、分かりやすく説明すれば理解してくれるだろうけど。

 初対面の人見知りが激しいもえちゃんだけだと、無理して通いストレスを最大に抱え込んで体調を崩すのは目に見えている。

 頼れるなぎ君がいないと、他人に話し掛けたり出来ないだろうしなぁ。

 幼稚園で楽しく過ごす筈が、苦痛を与える場所になるのは避けたい。

 それぐらいなら、一年遅らせてもいいかな。

 まあ、何にせよ。

 なぎ君の回復具合いの結果次第だとは思う。


『あまり詳しく言えないけど。うちの学園に通うのがステータスとなると判断して、無理矢理通わせる保護者がいるのは確かよ。うちの学園には兄さんも理事に連なっているし、今日はなぎ君ともえちゃんをお披露目したでしょう。お近づきになりたいらしい同年代の子を持つ保護者から、早速問い合わせがあったわ。朝霧会長の曾孫さんは、通うのかって。これは、恵梨奈ちゃんや拓磨君の時も騒動があったけど。皆さん、仲良しになってくれるのを願って、必死みたいよ』

「ご面倒をお掛けします」


 それしか、言えません。

 朝霧の名は重いのは重々承知しているから、なぎともえの幼稚園は緒方家所縁の保育園に変更した方が良さげにみえる。

 だけど、和威さんはセキュリティの面から、梨香ちゃん達篠宮家と同様に扱うには、無理があると判断している。

 お披露目した時点で、朝霧の名は一生ついてくるのは分かりきっていた。

 緒方家の本家の篠宮家と、水無瀬家の分家の朝霧家とは格が段違いに違う。

 どちらも、歴史が旧い旧家であるが、篠宮家は地元である和歌山でしか活動の場を広げてはいない。

 事業を興している訳ではないし、武家の名門で豪族の立場を貫いてきた。

 代々、お山を大切に守護する役目に重きを置いてきた。

 対して、朝霧家は日本を代表する大企業に成長してきた。

 私と和威さんの結婚だって、順風満帆だった訳でもなかった。

 旧家の横の繋りでは歓迎されたけど、新興の家柄からは横槍を入れられたのは事実だ。

 篠宮家の分家の緒方家は、言い方は悪いけど戦後の好景気に成り上がってきた。

 同様に成り上がってきた家としては、政略に扱うなら自分の家格の方が上であると売り込む家さえあった。

 お祖父様は一切の苦情を無視して、和威さんを追い落とそうとした輩には鉄槌を下したけどね。

 楓伯父さんも、いい笑顔で方々に圧力かけていたのを、母から聞いた。

 酷い家柄だと、武藤のお祖父さん達を人質扱いしていた。

 まあ、その家は、お祖父様に文字通り潰されたそうだけど。

 実は、和威さんの入社後早々の事件も、そうした思惑を含んだ嫌がらせだったりもする。

 和威さんが解雇されなかったのは、会社が和威さんが特許をもつ技術が必要だったのもあるけど、お祖父様が裏で暗躍していたのもある。

 でないと、和威さんの地元に支社なんか作らないでしょうから。

 そうして、私達は朝霧家に守られている。


『有名税だと思って諦めるしかないわね。来期の園児募集は打ち切ってあるから、にわかお友達候補は入園はさせないから安心して頂戴』

「はい、ありがとうございます」

『年始にはお義姉さんのお見舞いがてら、ご挨拶に行くから、旦那様にも宜しく伝えてね。じかに、なぎ君ともえちゃんに会えるのを楽しみにしているわ』

「はい、お待ちしています。今日は、無理を利いて頂きありがとうございました」

『あら、身内だもの。多少の無理は聞いてあげたいわ。琴子ちゃんと奏太君は、太一さんの意向で結局はうちには通わなかったのだしね。それに、自然が豊かな土地で育ったなぎ君ともえちゃんが普通の幼稚園に馴染めるかも心配だったし。その点、うちの幼稚園は自然が溢れた場所にあるし、のびのびと遊ばせられるしね』


 そうだった。

 都会の幼稚園とかには、園庭がない所があったりする。

 私が通った普通の幼稚園にも、遊び場となる園庭が極少に狭くて遊具は無く、近くの公園に遊びにいった覚えがある。

 また、その公園には他の幼稚園の園児がいたりもした。

 遊具の取り合いも発生していたなぁ。


『なぎ君の体調次第で、見学に来てもいいわ。来期の入園予定の園児には体験入園もしているから、一度は遊びに来てね』

「分かりました。和威さんとも相談して、伺います。今日はありがとうございました」

『ええ。では、年始にね』

「はい」


 電話を終える。

 スマホのボタンを押して、一息ついた。

 すると、もしもしが終わった途端に、もえちゃんが寄ってくる。


「ママ。もしもし、にゃあに?」

「あのね。ひぃじぃじも言っていた、なぎ君ともえちゃんの幼稚園のお話よ」

「よーちえん、にゃあに?」


 膝に乗せると、なあに攻撃が始まる。

 和威さんの膝上でも、なぎ君がパパを見上げていた。


「なぎやもえと同じ年の幼児が通う場所だな」

「にぃにや、ねぇねにょ、ぎゃっきょう?」

「おっ、なぎは賢いな。そうだ。学校と同じ様に、遊んだり学んだりする場所だ」


 和威さんがなぎ君を撫でながら、説明していく。

 お山に帰省する従兄弟のにぃに達が帰っていく際に、学校があるんだよと静馬君に教えて貰っていたのを覚えていたのだろう。

 集落には閉校になった小中学校があり、散歩の折りには門の外側から外観だけは見ている。


「ママぁ。もぅたん、なぁくんちょ、いっちょ?」

「そうよ。なぎ君と一緒の幼稚園に行くのよ。二人一緒」

「あい。もぅたんは、なぁくんちょ、いっちょ」

「ふちゃりは、にゃきゃよし、にゃにょ。いっちょぎゃ、いいにょ」


 やけに、なぎともえは一緒に拘るなぁ。

 あっ。

 あれか。

 前世の影響か。

 昔は女児には教育は不要だとされていたし、前世のもえちゃんは虐待もあって、なぎ君とは差別されていただろうからか。

 和威さんも気付いた様子で、穏やかな眼差しをなぎ君に向けていた。


「ああ、なぎともえは一緒だ。だから、パパとママは幼稚園では一緒にいないけど、仲良く二人で一緒に行けるかな」

「うっ? パパは、おちぎょちょ。ママは、おちぎょちょ、にゃいにゃいよ」

「ママ、いにゃいにょ? いやぁよ。ママもぅ、いっちょ」


 パパの一言に過敏に反応するもえちゃんが、勢いよく抱き付いてきた。

 ああ、なぎ君と二人一緒だけど、ママがいないのは嫌がるか。

 涙目で懇願するけど、それは無理なんだよねぇ。


「幼稚園には、ママは一緒にはいられないの。でも、ママも我慢して幼稚園には行ったのよ。もえちゃんには、なぎ君が一緒にいていいなぁ。ママは、一人だったもの」

「しょうくんは?」

「奏太伯父さんは、ママのお兄さんだけど。なぎ君ともえちゃんと違って、同じ年ではないから一緒には通ってはないの」

「うー。パパは?」

「パパは残念だけど、お山に幼稚園がなかったから通ってはないんだ。パパは小学校が初めて通った場所になるな」

「こーくんちょ、まぁくんちょ、ゆーくんちょ、おーくんも?」

「そう、伯父さん達も小学校からだな」


 和威さんの説明だと、幼稚園には行かないと言いださないかな。

 少しだけ、不安になってきたぞ。

 さて、どうやって納得させれるかな。

 内心、溜め息が溢れてきた。

 世のお母さん達は、どうやって納得させたのか知りたくなってきた。



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[気になる点] >済し崩しで朝霧邸に居候しているけど、役所にも行かないとだよね。 ストーカー事件が収まるまでのつもりだったのに、 もえちゃん誘拐未遂事件あったからねぇ…… ―――――――――――…
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