閑話 奏太視点
じい様とキッズホールに行き、主催者が長時間招待客を放置するのは礼儀に反する。
癒しな双子に別れを告げて、メインホールに移動した。
キッズホールとは階が同じなので、さほど距離はない。
が、招かざる客がいるのはばあ様と俺の先見で判明している。
もえが白くて黒い人と言ったのは、それしか形容しがたいからだが、俺に言わせればアラブ圏の住人であるのが知れた。
あちらは、朝霧グループのネームバリューを欲しがり、新たな石油プラントを開発するのを名指して指名した。
だが、ばあ様と俺は話に乗るのを反対した。
理由は単純に、朝霧グループの利益にならないから。
数年内に枯渇する資源では、生産量が期待できずに、大幅な赤字に転落するだけ。
じい様と楓伯父さんに説明して、この話は立ち消えになったはずだった。
しかし、あちらは諦めることを知らない。
何とか、朝霧グループと縁を結びたい裏があった。
次に、話題に昇ったのが、外交官に配属された真雪の存在である。
朝霧家直系の女児であるから、婚約を希望する話は沢山ある。
だからか、あちらも婚約を打診してきた。
朝霧家の婚姻は恋愛ありきな本人次第なので、見合いやらは特別ある訳ではない。
まあ、朝霧家の女児でフリーなのは真雪と穂波の二人だが、どうやら友達以上恋人未満な相手がいるらしい。
らしいとは、伯母達の推測だけであるが、そういった話題は外さない人達なだけに、説得力がある。
なので、この話もお断りした。
じい様が態々あちらの大使館に乗り込んで、胡桃と琴子の結婚相手がどうやって結婚に至ったか話題に出した。
胡桃の相手は人生設計をプレゼンして、椿伯母夫妻を盛大に笑わかした。
胡桃は恋人期間に、朝霧家の孫だとは言わないでいたらしく、プロポーズされて告白したそうだ。
朝霧家の名が出て躊躇う素振りを見せたので、振られたかもと嘆く胡桃の意表をついて翌日にプレゼンしたのだ。
突貫で作成したプレゼン内容であったが、真面目な面持ちで娘さんをくださいと、土下座までしたそうだ。
振られたと思い込んでいた胡桃は号泣して、言えなくて辛かったと白状し、片倉氏は自分が逆玉だと謗りを受けようが嫁に来てくれと訴えた。
幸いにも、片倉氏が勤務する会社は朝霧グループ系列ではないが、そこそこ大手な会社だ。
だが、やはり朝霧グループの孫を嫁にしたことで、やっかみは受けたようで危険地帯を海外赴任先に選ばれてしまった。
胡桃も妊娠するまでは、朝霧家が手配した護衛付きで赴任先に付いていったが、紛争地帯に派遣されたことと妊娠したことで日本に帰国した。
それからは、単身赴任になったが、じい様が片倉氏が紛争地帯ばかり赴任させられるのを問題視して横槍をいれた。
いまじゃ、傘下にしてしまったがな。
そのおかげで、片倉氏を左遷したりすれば、じい様の逆鱗に触れると認識されている。
まあ、朝霧家襲撃事件で胡桃が病んでしまったのは、俺にも責任ある。
ばあ様から先見を引き継ぐ僅かな期間の、隙間を付かれて先見が役にたたなかったのは痛い。
まさか、もえを庇ったなぎが重体に追い込まれるとは、腑甲斐無い限りである。
献血したかったが、俺とは血液型が違うから出来ないでいた。
篠宮家が同じ血液型で大いに助かった。
特に、隆臣氏。
彼は、媛神様より頑健な体質を加護されている。
その隆臣氏の体質は、献血でなぎに付与された。
だから、長時間の運動には向かないが、短時間の運動ならなぎは活躍できるまでに回復する。
あの日、あの場に、篠宮家が勢揃いしていて本当に助かった。
また、手術した彩月さんの腕が衰えてなかったのもある。
琴子は知らないが、じい様とばあ様が彩月さんには頭を下げている。
破格の手術代も支払った。
ただし、後日和威君から妥当な報酬額を引かれた金額を返されたがな。
そう言えば、和威君の琴子包囲網は若干引いたな。
琴子が朝霧家の孫だと知らされたのは、俺と共に水無瀬家の縁戚に硫酸をぶっかけられ事件で公になった。
俺が上手く立ち回らなかったせいもあり、琴子には火傷痕が酷く残ってしまった。
これも、先見には見えてはなかったのが痛い。
先見も万能ではない。
ばあ様と俺が見てきた琴子の生涯は、不幸のオンパレードだった。
幸せに満ちた生活が一転して暗く辛いモノでしかなかった。
だから、和威君と琴子を出会わせたくはなかった。
俺が高校を卒業するまで、接点がなかった二人だが、和威君が入試直前で琴子を見初めたのは痛恨の限り。
まさか、入試と琴子包囲網を成し遂げるとは、ばあ様と溜め息しかでないでいた。
遠回し的に反故できないか試したが、和威君はうちの伯母を先に籠絡したようで、楽しげに企む伯母達を止める役が誰もいなかったのだ。
伯母達は、和威君のバックにいる緒方家と縁を結びたいと常々思案していた。
桜伯母さんにとっては、嫁ぎ先の老舗料亭の根元足る土地を取り戻したかった経緯がある。
椿伯母さんは、あるアパレル関連の伝が欲しかった。
和威君から、恋人から婚約者に鞍替えしたいから協力をとくれば、渡りに舟だった。
伯母達の勢いに楓伯父さんとじい様はたじろいでしまっていた。
そんなこんなで、琴子は和威君と婚約した。
朝霧家の孫世代で二十代になるかならないかで結婚した二人のおかげで、まだ年嵩の俺は自由でいられる。
曾孫の恵梨奈に拓磨、なぎともえがいるので、切羽詰まって相手を探さなくてよくなった。
まあ、芸能人の穂高従兄さんにとっては、身内で遊ぶと絶対にパパラッチに狙われるがな。
じい様が采配しないでいたら、穂高従兄さんは実妹の穂波といるだけでスクープされたりする。
穂高従兄さんが、朝霧家の孫だとは知らしめてはいないが、大手出版社の上役には通達してある。
スクープすれば、潰すぞとかなり脅したみたいだ。
また、大手出版社の代表がばあ様の信者だったりするから、出版業界では穂高従兄さんのスクープを狙うのは解雇一直線である。
それを、表に出さないから狸じい様達は、油断がならない。
硫酸事件でも、極度に被害者の名は伏せられていたけどな。
大使館で、他国の外交官を脅すじい様の類友だけあるわ。
しかしながら、あちらも食わせ者がいるみたいだ。
朝霧と縁がある水無瀬家も調査の対象となり、先見の事がばれた。
だから、あちらは婚約相手を真雪から琴子に変更してきた。
既婚者だとは、あちらに通じない。
処女性を求めてはいなさそうで、和威君と琴子の結婚を無効にするよう、外交筋で圧力をかけたようだ。
無論、ばあ様に知られてじい様が激怒。
戸籍を変更出来ないように手筈を整えた。
圧力をかけられた外務事務次官が、左遷されたそうだ。
それだけ、じい様の激怒は大きかった。
金輪際、関わるなとあちらに通達してはいる。
それでも、あちらは諦めることをしない。
堂々めぐりな状況だからか、もえが情緒不安な状態になっている。
早いとこ、折合いをつけないと朝霧グループが本格的に敵に回るだけだがなぁ。
そうなると、困るのはあちら側なだけ。
石油プラントは、他国で開発している。
きちんと、採算がとれる土地を選んでいる。
『Mr.アサギリ。ご相談したい案件が……』
『私にはない。招待していない客がいる。排除せよ』
移動中に英語で話かけてくる相手を一瞥することなく、じい様は無視する。
沖田氏が周りを促して、ホテルの警備員と共に招かざる客を追い出しにかかる。
これで、朝霧グループ関連の施設を出禁になったな。
哀れ、無謀な客は体格に優れた警備員と朝霧家の警護スタッフによって、追い出されていく。
「朝霧の名と水無瀬家の異能にしか興味がない輩は、可愛い孫を託すに相応しくはないわい」
「同感です。あちらの王族は一夫多妻ですからね。琴子に寵愛はなく、ビジネスライクありきな結婚は不幸でしかないですから」
「ふん。真雪だろうが琴子だろが、誰もやらんわ」
じい様はそれきり、あちらに興味を無くした。
メインホールに移動して、群がる招待客を無難にあしらう。
入れ違いになった遠野氏の孫は、楓伯父さんが相手にしていた。
「お祖父様からも、言ってください。招待しておきながら、客に不満しか思わせない人間がいたんです。あの様な人材は、朝霧家にはいらないでしょう」
「何を勘違いしているか、君は認識していないようだがね。たかが、一役員の孫だというだけで、朝霧家が相手にして貰えると?」
「えっ?」
「甚だ、不愉快だ。君はご両親と帰った方がいいな。薄ら笑っている君も同様に、帰りなさい。今後は、招待客のリストから外しておくよ」
「はい? 何故ですか。忠告しただけですよね?」
騒動を起こしたお子様は、自分達がキッズホールで罵りあい、朝霧家が手配したスタッフに苦情を言う。
朝霧家の面子を潰したと、認識していないのだろう。
つまり、朝霧家が手配したスタッフに不備を言う=朝霧家が相応しい人材を雇用していないといった図式が成立するのを理解していない。
日頃、我儘放題に成長しているのだろう。
朝霧家の曾孫たる恵梨奈も見下していたしな。
本人は分かってはいないようだがな。
恵梨奈、恵梨奈と呼び捨てにして連呼していたしな。
どんなに優秀な成績を取っていても、人間性に難がある。
じい様や、楓伯父さんが引導を渡すだろう。
「君達は、朝霧グループが主催したクリスマス会にけちをつけていると理解していないね。また、キッズホールでの騒動は知られていないとでも? 未就学年の幼い子供も集められているんだ。子供を預けても安心していただけるようにキッズホールとは、監視カメラを繋いでいたんだよ」
「……あっ?」
「そんなぁ」
「馬鹿孫が。お前の本性は知られていたのだ。それに、朝霧家に恥をかかせようてしているのが、何故に分からんのか」
「「……」」
「謝罪もないのでね。お帰り頂こう」
楓伯父さんの最後通牒に、警護スタッフが動く。
伴い、ホテルスタッフが両親を促して、ホールから移動の案内を告げている。
両者の親は、顔色を赤くしたり、蒼白になったりで放心していた。
早々と、退場させられるのだ。
今後の上流階級の付き合いは難しくなるだろう。
朝霧家に恥をかかせた家だと判断されたのだから、帰宅したら大いに揉めるだろうが、こちらの知ったことではないな。
それよりも、なぎともえの友達の両親をキッズホールに招かないとな。
さあ、探そう。




