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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のオラトリオ
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その40

スクリーンに映し出される光景に、羞恥に顔色をかえる人が増えてきた。


「会長、申し訳ありません。うちの孫が騒動を起こしてしまいました。直ちに、帰宅させますので、お許しください」

「遠野。お前が謝罪する必要はない。息子夫婦とは同居しておらんだろう。孫の教育には携わっておらんと聞いた。息子の嫁と、あちらの家族とは疎遠であっただろう」

「ですが、息子も孫も、朝霧の重役に名を連ねる私を盾に、傍若無人な行いをしております。孫も、私や妻の前では、聞き分けの良い優等生を演じていた模様です。あんな風に声を荒げ、権威を笠に威圧する。スタッフにも暴言を吐く。あんな姿は初めて見ましたが、妻は演技を見抜いており、何度も注意をしておりました。私は、きつい妻の言葉を何度も止めさせてきました。いまは、裏切られた憤りで、一杯です」


顔面蒼白な顔色をしたのは、お祖父様が重用している遠野専務さんだ。

確か、息子さんが朝霧グループの本社にて就活の面接官に対して、親の自慢ばかり話して碌に自己アピールをしなかった経緯があった。

勿論、縁故採用はしなくて、不採用の通知をだしたら、本社まで乗り込んできて、親の名前を持ち出して人事の責任者を辞めさせろと騒いだ問題児だったはず。

遠野専務は、責任を感じて辞職する構えだったけど、お祖父様が慰留させた経歴があった。

何故、私が知っているかと言えば、大地従兄さんのクラスメートであったらしく、大地従兄さんに自分を採用させるように圧力かけろと粘着したんだよね。

連日家に押し掛けてきて、警察沙汰にまで発展した。

一流大学に入学して、一流の成績を残したのに、就活に失敗した。

悪いのは、役に立たない人材を雇用した朝霧グループにあると責任転嫁した。

無断侵入と器物破損の前科がついたみたいで、就活に響いたそうだ。

そんな人がどうして、今日のクリスマス会に招かれたのかは、奥様の家柄にあった。

何でも、名家のお嬢様を言葉巧みに口説いて、婿に収まってしまったそうだ。

義理のご両親が鬼籍に入り、事業を継承してそれなりに纏めあげているそうだ。

一時期は真雪ちゃん狙いであったが為に、自分の息子に朝霧家の令嬢をモノにしろと言い含めていた。

恐るべし、朝霧家の諜報員。

他家の裏側をしっかり、調べあげている。

可哀想なのは、恵梨奈ちゃんだ。

のしあがる権力を得る為だけの、縁組みだなんてお祖父様は許さないだろう。

今回、招待客に選ばれたせいで、息子さんも俄然祖父を見返して、より高い地位にと望んでいるだろう。

しかし、お祖父様は兼ねてから、恵梨奈ちゃんの婚約者だと嘯いて外堀から攻めてきている相手を、社会的に葬り去ることを決意した。

まあ、なぎともえに対する態度も悪いし、お山の大将気取りなお子様を周辺から一掃する狙いでいると分かる。

水無瀬家からの遊び相手を受け入れたのも、なぎともえに再び不測な事態にならないようにするのが目的だしね。

そして、何か事を犯したら、黙ってはいないアピールも兼ねている。


「お、お義父様。あれを止めてください。裕紀は、優しく思いやりがある子なんです。あんな風に暴言を吐く子ではないのです」

「そうです。少しはしゃいでいるだけで、いつもは下の子も面倒見が良い息子なんです」

「おやおや、随分とご立派な教育をされているのですね。まあ、そんなのだから、初等部での児童会には選ばれなかったそうですし、ご両親は朝霧グループとは縁がないのに、さも朝霧グループに必要とされているか吹聴している。些か、見苦しいのでは?」


遠野専務の息子夫妻が慌てて、寄ってきた。

対立するお子様の両親だろう夫妻も、直ぐにやってくる。

だけど、謝罪にきた訳でもなく、遠野専務の息子さんに嫌味を言いにきたらしい。

お祖父様に挨拶もなく、舌戦が繰り広がる。

キッズホールと同様な有り様に、招待客が冷めた眼差しで見ているのに気がつかないのかな。

親子して騒ぐ必要があるのか、甚だ疑問である。

クリスマス会を台無しにする両者を、お祖父様は止めない。

沖田さんが指示を出して退場させようとするのを、楓伯父さんも制止した。


「見苦しいとは何だ。高々、初等部の児童会に選ばれただけで、家柄は低いそちらに、朝霧家の令嬢が嫁ぐ訳がない」

「その令嬢が留学されたのも知らない貴方に、言われる筋はないでしょう。それに、うちの息子は恵梨奈嬢とは文通して交流がありますよ。それから、恵梨奈嬢の婚約者だと吹聴しているのは止めた方が宜しいですよ」

「息子と恵梨奈嬢は婚約するんだ。父は朝霧グループの専務だし、香坂家とは内々で承諾されている」

「香坂家? ああ、朝霧家の長女が嫁がれた家か。でも、椿さんと香坂家は不仲だ。椿さんは承諾されていないなら、その話題は朝霧家がつぶすだろう」

「何を言っている。椿さんは関係がないだろう」

「何をとは、知らないのか。恵梨奈嬢は朝霧会長の長女椿さんのご息女、胡桃さんの娘だ。朝霧会長にとっては曾孫にあたる。念の為にいっておくが、朝霧会長の孫世代はみな成人されているぞ」

「は?」


どうも、蚊帳の外にされている私達だけど。

今日のクリスマス会に、変な噂が一人歩きされていた。

朝霧会長の孫の御披露目と婚約者探し。

実際は曾孫の御披露目と、孫の私と兄の水無瀬家を継ぐ御披露目なのだけど。

どうして、勘違いがされたのだろうか。

不思議だ。

もしや、お祖父様が何かしら流させた噂であろうか。


「まあ、お孫さんは二組しか結婚されていないから、婚約者探しは噂の粋にしかないが。どこで、誤った情報を仕入れたか興味が沸くな」

「父さん、真実なのか」

「愚息、菱田さんも、朝霧会長の御前だ。事を荒がした謝罪をするのが、先決だろう。そこまで、無礼な行いをするなら、退場しなさい」

「あ? 失礼致しました」

「……申し訳ありません」


遠野専務が怒りの眼差しで、両者を嗜める。

完全に遅きになってしまっているけども、渋々と謝罪らしき言葉を述べる両者に楓伯父さんの眉が跳ねる。


「心の籠らない、その場凌ぎの謝罪は必要はない。お子様共々、お帰り頂こう」

「「なっ⁉」」

「恵梨奈は政略結婚の道具では断じてない。儂の孫娘が、緒方家に縁のある甥っ子と結婚したが、恋愛ありきの結婚だった。儂は、娘と息子に結婚を強要したことはないのでな、孫や曾孫に押し付けるきはない。琴子」

「はい、お祖父様」

「気分を害した。可愛い曾孫の元に行くか」


スクリーンに映し出される我が家の双子ちゃん。

男の子女の子と一緒に電車の模型で遊んでいる姿に、癒されに行きますか。

ちょうど、保育スタッフにも噛み付いたお子様達が、メインホールに突撃しようとしている。

お祖父様は無視を決め込んだみたいである。

どこぞの、見知らぬお子様よりスタッフを信頼するのが当たり前だしね。

メインホールは楓伯父さんに任せて、兄と私をお供にキッズホールに移動した。

折角、朝霧家とお近づきになりたがる招待客の不満は、あちらにぶつけてくださいな。

お付き合いするきは、さらさらありません。

沖田さん等警護スタッフに囲まれてメインホールを抜けたら、キッズホールの警護スタッフに誘導されているお子様とすれ違う。

ちょうど、人垣に遮られる形になったが、お子様は知らんぷりでメインホールに行った。

まあね。

あの年で、経済界の大物たる朝霧グループの会長の姿は見聞きしていないでしょうから、無理ないか。

恵梨奈ちゃんの祖父を、香坂家と勘違いしているみたいだし。

朝霧家と混同して覚えていそうだね。

そして、キッズホールに行くと、珠洲ちゃんがなぎともえを抱えて、殺到するお子様達から庇っていた。

斎君と聖君が前に立ちはだかり、威嚇している。


「あっち、いっちぇ。あっち、いっちぇ」


なぎ君も懸命に追い払おうと声を張り上げている。


「「ママぁ~」」

「はぁい、ママですよ」


草履を脱いでプレイマットの上にあがる。

近くまでより、膝をついて軽く両手を広げた。

必死にすがり付く双子ちゃんに、まだ親離れは早かったかな。

警護スタッフが周辺に立ち、威圧の眼差しで睥睨する。

成人男性の本気の威圧に、詰め寄ってきたお子様達が怯む。

中には、腰を抜かしたお子様もいる。


「ママぁ~。なぁくん、まぎょじゃ、にゃいもん」

「もぅたんも~」

「そうね。なぎ君ともえちゃんは曾孫だものね」

「「あいー」」


よしよし。

しがみついてくるなぎともえの背中をぽんぽんして、落ち着かせる。

もえちゃんが震えているのは、怒られる=殴られると前世の記憶を揺り動かしてしまったからかな。


「大丈夫。ママも、奏太伯父さんも側にいるし、ひいじぃじもいるわ。それに、守ってくれる沖田さん達もいるのよ。誰も、なぎ君ともえちゃんを苛めたりしないの」

「いっぱい、ひちょぎゃ、きちゃ。きょわいよう」

「もぅたん、ちゃちゃいちゃり、しにゃい? けりゃにゃい?」

「当然、ないわよ。それに、珠洲ちゃんもなぎ君ともえちゃんを抱えて安全な場所に避難しようとしてくれていたのよ。斎君と聖君も、大きな子の前に立って、側に近寄らないようにしていてくれたの。ありがとう、しましょうね」

「「あい」」


袂からハンカチを出して、泣いているもえちゃんの顔を拭く。

結構、本格的に泣いていたから、すぐにハンカチが涙に濡れた。


「こちらも、お使いくださいませ」

「ありがとう」

「「すぅたん、あいあちょう」」


気をきかせて、珠洲ちゃんがタオルとウエットティッシュを運んできてくれる。

申し訳ないけど、なぎ君は兄が顔を拭いてくれていた。

可愛いことに、なぎ君は私のお着物の袂を握っている。

ママは、どこにも行かないよ。

安心していいからね。


「ふむ。何故に、なぎともえは泣いておる」

「申し訳ございません。始めに、ご自身が孫ではないと仰いましたが、お孫様に会ったことがあると仰ったがために、人が殺到してしまいました」

「成る程。まあ、確かに孫ではないし、儂の孫に会っとるから嘘ではないしのう。何やら、孫の御披露目と勘違いしておるみたいなのが、不思議よな」

「それですが、ひとつ心当たりがございます」


珠洲ちゃんの説明に、保育スタッフ主任が付け足す。

お祖父様が、さきを促す。


「どうも、恵梨奈様の話題がどのグループにもあり、本日はその婚約者が発表されるとあります。私どもは否定致しましたが、確実であると本気で思われておいででした」

「それは、確かに長男の息子、儂の孫が婚約を決め結納の日取りをと、話がでておるがな。まだ、内々の話で本決まりではないのだが。どこから、漏れたかのぅ」

「それなら、受かれて本人が酒の肴にしていましたよ」


溜め息とともに、兄が暴露した。

篤従兄さん。

接待に連れていかれて、相手先企業の令嬢を勧められて、自爆したみたいである。

内々のことなのでと、口止めをしたようだけど、話が尾ヒレついて広まっている訳か。

お馬鹿さんめ。

優良物件が纏まろうとしているので、次は自分達にと期待させたのか。

後で、問い詰めてやろう。

なぎともえを泣かせた罰だ。

お高い物を強請ってやる。



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