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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のオラトリオ
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その36 珠洲視点

「じゃあ、なぎ君、もえちゃん。お友達と遊んで、楽しんでね」

「「あい、ママ。はあく、おむかえ、しちぇね」」


 ばいばいと、手を振られているなぎ様、もえ様、つられた甥っ子の斎と聖。

 若干涙目でしたが、斎と聖の遊ぼう攻撃に我慢されました。

 遊びに夢中になられたら、時間なんてあっというまに過ぎますよ。

 ほどなくして、徐々にお子様方がキッズホールに集り始めていますが、我れ関せずと電車の模型で遊ばれています。

 今回、朝霧グループ各社や関連会社のお子様を招いています。

 が、最年少はなぎ様ともえ様のお二人だけのはずなのでしたが、乳児とわかる年齢のお子様を預けようとした趣旨を理解していない厚顔無恥なお客様がいました。


「何故、預けたら駄目なんだ。朝霧様に招待されているんだぞ」

「ご招待状に記載されております通り、三歳になられておられないお子様はお預けにはなれません。また、専属のスタッフも配置してはおりませんので、御遠慮願います」


 インカム越しに伝わる会場前ロビーの会話は、全スタッフに筒抜けでした。

 本日の朝霧グループ主催のクリスマス会で、朝霧様の秘蔵子を披露されると噂されています。

 まだ、未就学の年齢で、もしかしたら婚約を結べれるのではないか。

 又は、ご学友に選ばれて恩恵が受けられるのではないかと子と細やかに話が広がっています。

 親から言われているのでしょう。

 朝霧家の人間を探すお子様もいます。


「おい、お前達は朝霧様か?」


 取り巻きを連れて、威圧高々に命令口調で仰有るお子様がいます。

 上流階級のお子様方には形成するグループもあり、顔と名を知らない新顔さん達にそう聞いています。


「ちあうよ。パパは、しにょみや」

「ママは、むちょう、よ」

「僕達は、中垣です。お探しになられている朝霧様ではありません」


 斎が入場時に渡されたネームプレートを指して、追い払います。

 なぎ様、もえ様も、微妙に加担しておられます。

 いえ、正しいのですが。

 真実を知る立場としましては、笑えてしまいます。

 どうやら、親に言い含められたお子様方が探しているのは、朝霧様のお孫さんらしいです。

 今度は、お祖父様の名を聞いてくるグループがいました。


「お前達のお祖父さんは、朝霧様か?」

「じぃじ? あしゃぎり、ちあうよ」

「あい、しにょみやちょ、むちょう、よ」


 はい、なぎ様もえ様は正しくお答えになっています。

 だいたい、聞いてこられるお子様方は小学生の年代です。

 正直と言いますか、裏を読めないと将来が困るのではと思いました。

 それにしても、なぎ様ともえ様の素っ気なさは、琴子様譲りでしょうか。

 相手が興味を持たなくなる前に、玩具で遊びに戻られます。

 的確に、お身内になるかならないか判別しているのではないかと。

 お二人から、不適合とされたお子様方を注視しておきましょう。

 スタッフを除外して、大人の目がないと判断されての行動で、お子様方がどうされるかを私達スタッフは監視しております。

 第一は、なぎ様ともえ様の身の安全です。

 第二に、朝霧の名を利用した悪賢いお子様の排除にあります。

 大上流階級のお子様の中には、我々スタッフを人だとは認識してはいないのです。

 置き物であるかのように振る舞う使用人がいたりしますから、その常識を当てはめて我が物顔で慇懃無礼な言動をする親子がいてもおかしくはないです。

 ある程度のグループが形成されたら、スタッフが一人付く手はずになっていますが、早速我が儘放題やりたがるお子様がいます。


「おい、恵梨奈は何処だ。態々、婚約者の俺が来たんだ、挨拶しろと呼べ」


 片倉恵梨奈様。

 朝霧様の曾孫に当たり、琴子様のお従姉妹のお嬢様。

 胡桃様が、なぎ様ともえ様の大怪我の原因の一旦を担ってしまいお心を病んでしまわれたので、旦那様の赴任先で療養されています。

 まだ、惨劇から日が浅いのと、海外での生活に慣れる為に年末年始は帰国されないと通達がありました。

 その代わりに、椿様ご夫妻があちらに行かれるそうです。

 もしかしたら、雪江様のお身体が万全ではないのを理由に、帰国は為されるかもです。

 本日のクリスマス会に、雪江様は欠席なされます。

 病に侵されているお身体では、昨日は無理しておられたと祖母から教えていただいています。

 そのことで、朝霧グループが斜陽の路を辿るのではないか、あまり良くない噂が独り歩きしているようです。

 奏太様と琴子様が、水無瀬家の名跡を継がれる。

 悪い噂が払拭されるのを願います。


「早く、恵梨奈を連れてこい」

「申し訳ありませんが、本日は恵梨奈様は欠席しております。それから、婚約されたと嘘をつかれるのは、お止めください」

「何だと? 俺のお祖父様は、朝霧様の片腕なんだ。恵梨奈との婚約は、俺がお祖父様の跡を継ぐ意思を示したら、そっちがお願いしますと言ってきたんだぞ。俺は、未来の朝霧グループの重鎮だぞ」


 阿呆がおります。

 お祖父様が朝霧グループの重鎮だとしても、お孫さんが成長されてグループに就職された時点では、どうなのでしょうね。

 朝霧グループは縁故には厳しいですから、新人から他の新人よりも倍の実力を示さないとならないです。

 奏太様と、楓様のご長男様は、倍どころか三倍は課題を課せられたと聞いております。

 甘やかされているであろうふくよかなお子様では、朝霧グループに入社以前の問題だと思われます。


「ほら、みろ。嘘だったじゃないか。朝霧グループのご令嬢が、高々雇われ役員の孫なんかに嫁ぐものか。僕みたいに、親が会社を経営していないと、話にならないんだ」

「ふざけるな。貴様なんか、恵梨奈に嫌われてるじゃないか」

「そっちこそ、ふざけるな。祖父が朝霧グループの重鎮だけで、さも自分も偉いんだと勘違いするな」


 あちゃー。

 水と油。

 犬猿の仲の要注意人物が、争い始めました。

 なぎ様ともえ様は、びっくり眼で眺めています。

 恵梨奈様のお名前が呼ばれているので、反応されましたね。

 争い始めた両者は、朝霧グループの名を笠に着て将来は朝霧グループのトップになると豪語する勘違い少年と、業務提携している準大手企業の社長令息。

 それぞれが、取り巻きを連れて恵梨奈様に相応しいとか宣っております。


「えーねぇねは、いにゃいにょにねぇ」

「あい。えーねぇねは、どいちゅに、いうにゅにねぇ」

「なぎ様、もえ様。ああした、周りを見ないで騒ぐのは駄目ですからね」

「人様に、迷惑は駄目です」

「あい、はんめんきょいし、ね」

「あい、なぁくん、しゅぎょい」

「なぎ様、反面教師です」


 まさか、なぎ様が反面教師だなんて言われるとは。

 何方の教えでしょうか。

 どうも、なぎ様は、見聞きしたり体験されたりした事を、お忘れにはならないみたいです。

 たまに、もえ様も歳相応な行動はなされない時があります。

 まあ、詮索は致しません。

 水無瀬家と篠宮家の祭神による、恩恵だと思えばいいのです。

 その辺りは、お付きになる斎や聖が軌道修正していくでしょうし。

 ただ、残念なことに、もえ様のお付きになる人材が不足しているのです。

 できれば、分家からお付きに出したいのですが、こればかりはどうしようもなく。

 本日のクリスマス会にて、お心の通じ会う女の子がいて欲しいものです。

 わいわいと騒ぐがきんちょ、いえお子様方が無視できないほど衆目を集めるなか、ふとなぎ様ともえ様が立ち上がりました。

 視線の先には、同年代らしき女の子が二人、所在なさげに佇んでいました。

 言葉を荒らげるお子様を、恐れている風に見えました。


「ぢょうしちゃにょ?」

「いっちょに、あしょぼ?」


 お手を繋がれて女の子の元に行かれるなぎ様ともえ様。

 後に続く斎と聖も怯えているのを理解して、笑顔でいます。

 もえ様が電車の模型を差し出していますが、ぬいぐるみではないのが不思議でした。

 キッズホールには、プレイマットが敷かれた室内遊具がある場所と、飲食可能なスペースがあります。

 女の子二人は、靴を脱いでプレイマットの遊具に行こうとして、立ち止まっていました。

 と言いますか、騒ぐ集団によって進行を妨げられていたのですが。

 早い所悪目立ちしている集団を何とかしてくださいな。

 警護スタッフに、保育スタッフの視線が刺さりまくりです。

 当の警護スタッフは、何やらインカムで連絡しあっていて、気が付いていないです。


「……ななつぼし」

「あい、きゃわしぇみも、あうよ」

「ほんとだ、イエローもある」

「ここは、騒がしいから、あちらに行こうか」

「「あい」」

「はい」

「……はい」


 ショートカットの女の子は、大事そうに電車の模型を抱えました。

 横髪を三つ編みにして後頭部で結ぶ女の子は、少し表情が和らぎます。

 すかさず、斎が誘導して騒ぐ集団から、女の子二人となぎ様ともえ様を離します。

 聖も殿(しんがり)に着いて、背後を守ります。

 最初に遊び始めた場所に戻ると、私と他の手透きな保育スタッフが間に入る位置につきました。


「初めまして、中垣斎です」

「弟の聖です」

「なぁくんは、しにょみやなぎ、よ」

「もぅたんは、しにょみやもえ、よ」

「なぎ様ともえ様は、双子なんだよ」


 脅えていた女の子二人を安心させる様に、柔らかく話し出す斎に、聖となぎ様ともえ様が続きます。

 なぎ様ともえ様は、片手をあげて自己紹介しています。

 ご立派です。

 のが言えなくて、にょになっているのが可愛いです。


進藤羽美(しんどううみ)です」

藤原雫(ふじわらしずく)です」

「くぅとは、いとこです」


 髪を結ぶ女の子が羽美様で、ショートカットの女の子が雫様です。

 羽美様は萎縮なさっておられる様子ですが、本来は勝ち気な性格をしているかと。

 雫様がやや人見知りらしく、ぎこちない笑顔で返してくれました。


「うーたんちょ、くぅたんね。いっくんちょ、ひーくんね」


 にこにこ笑顔なもえ様が、愛称をつけて呼ばわれました。

 斎と聖は、主家の方に愛称で呼ばわれる誉れに感慨無量です。

 言葉なく、頷いています。

 私の時は、琴子様が珠洲ちゃんよと紹介されてからの、すぅたん呼びでした。

 すずが、まだ上手く言えなくての愛称呼びでしたけど。

 甥っ子達め、初日で愛称呼びは、さぞ嬉しいことでしょう。

 帰宅して姉に自慢して、悔しがらせないようにしないと大変だぞ。

 姉は、まだ琴子様に拝謁なさっていないからね。

 今日も、妊婦でなかったら、琴子様のお側に侍れたでしょう。

 メインホールでは、未だに舌戦を修まらないお子様方以上に騒がしくなりそうですから、祖母が禁止にしたのです。

 姉には是非、もえ様の付き人になれる女の子を期待したいです。

 兄は出会いが圧倒的に不足しておりますので、期待はよしておきます。

 私?

 私にも一応は、許嫁がおります。

 お相手は奏太様の側近候補になりますが、なれなかったら破棄できる間柄になっております。

 完全に家絡みの仲になります。

 私が琴子様の付き人に選ばれ、琴子様が巫女に就任されたら嫁の行く先は選り取りみどりになりますので、悲観はありません。

 お相手も乗り気ではないですし、奏太様の側近になれそうにもないので、近々破棄すると思います。

 我が家は斎と聖二人が、次々代様の側近候補になりえるみたいですから、分家の面目は保てます。

 私も付き人を頑張りますから、甥っ子達も頑張ってみなさいね。


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