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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のオラトリオ
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その35 珠洲視点

「ママも、いにゃいにょ~」

「パパ、おしぎょちょ、いっちゃっちゃにょに~」


 皆様、始めまして。

 珠洲と申します。

 ただいま、お仕えする琴子様のお子様方が涙ぐんで、身を寄せあっております。

 琴子様のお話では、昨夜に大泣きする程の恐い夢を見たそうで、ママから離れようとしません。

 旦那様の和威様が破邪の体質をされていて、本当はお仕事いかないでと訴えたいのを我慢されていってらっしゃいと、手を振られていました。

 私達がいる場所は、朝霧グループが主催するクリスマス会の別ホールのキッズホールになります。

 昨日とは違うお召し物を身に纏い、緊張した素振りでキッズホールに来られたなぎ様ともえ様は、プレイマットの床に膝まづいた琴子様の前で泣くのを精一杯我慢されています。

 お仕えして短い期間ではありますが、なぎ様ともえ様がパパママ大好きっ子であるのは十分に理解できます。

 私と遊んでいる途中でもママの気配を敏感に感じとり、琴子様が立ち上がると不安そうに振り返られます。

 何やら、理由がありそうですが、詮索は致しません。

 なぎ様ともえ様はお仕えする方の可愛いお子様方です。

 お二人を支えお仕えする人材は、既に選ばれ教育が始まっています。

 内面を理解して支援の手を差しのべるか、協力してトラウマなりを乗り越えるかは、後輩たちに任されています。

 私が第一に優先するのは琴子様であり、次にお子様方と旦那様です。

 言い方は悪いですが、お子様方と苦難を共にして成長され、付き人と認識されなくてはなりません。

 本来ならば、奏子様の付き人に我が母が、琴子様の付き人に姉がと目されていましたが、雪江様によって付き人制度を取り止めていた経緯があります。

 水無瀬の巫女を守護する付き人は、学友であり、巫女の楯であり矛でもあります。

 血筋だけでは選ばれません。

 ある意味、分家の中ではエリートのような立ち位置になります。

 雪江様から奏子様と琴子様に巫女の適性は薄いと判断され、分家にも強い巫女の適性を保有している者が現れず、巫女の能力が絶えるかと心配されていました。

 それでも、母は奏子様を主と慕い、いつでもお側にお仕えする日々を待ち望んでおりました。

 姉もそうでした。

 琴子様にお仕えするのは本来ならはば姉でしたが、雪江様のお言葉により結婚して海外に赴任された義兄と日本を離れました。

 私に、くれぐれも琴子様が健やかにお過ごしできる環境を作るように念押しして。

 姉が海外に行く頃、分家の中でも下位の位置にある我が儘娘が巫女の能力を得たと吹聴し始め、正統な血統である奏子様と琴子様を排斥しようと企んでおりました。

 母がある程度は潰しましたが、琴子様を雑種と揶揄する我が儘娘が事件を起こすまでに至り、大怪我をさせてしまいました。

 母は食い止めれなかった責任を自らに課して、奏子様の付き人にはならない請願を請いて琴子様の怪我の治癒の願かけをしました。

 水無瀬家の祭神たる竜神様の加護厚き御神水が効を発揮して、酷い火傷はケロイドにはならず紅い痕が残るだけになりました。

 勿論、姉は大激怒しました。

 愚か者と、分家の我が儘娘を武で叩きのめし、序でに私も再教育されました。

 姉の悔しさが伝わりましたので、甘んじて受けました。

 そのお陰で、祖母から付き人落第を言い渡されませんでしたから、結果的に助かりました。

 私達分家には、必ず主となる巫女や当主が判別できるのです。

 それは、水無瀬家直系から嫁いでこられた血により、竜神様の加護があるからに他ならず、従者の鉄則みたいなモノです。

 己の才覚を捧げるお方は、生涯にただお一人。

 私と姉の場合は、琴子様が主と判別できていました。

 母も奏子様を主と判別しておりました。

 けれども、雪江様は奏子様と琴子様をお隠しになりました。

 まさか、奏子様が当主の才に恵まれ、琴子様が気象を操る才が歴代最高だとは思いもしませんでした。

 また、琴子様がお生みなられたお子様方が、他の祭神の加護も受けておられた。

 そして、既にもえ様は巫女の能力を発揮しておられる。

 僅か二歳での発覚に、雪江様がお隠しになられたくなるのは、十分に分からされました。

 ですが、当主には奏太様がお就きになられ、琴子様が巫女だと正式に公表される運びになりました。

 母は己の主を飛び越して奏太様が当主となられるのを、感無量だと泣いて喜んでいました。

 私が琴子様の付き人になるのを、我が事であるかのように祝福してくれましたが、再びの凶事が起きないように務めるのを怠らないようにと釘も刺してきました。

 当たり前です。

 水無瀬家現ご当主が、我が儘娘と排斥にと画策した分家を断罪しましたが、直系の降嫁もなく血が薄まり、竜神様の加護も消失している分家がまだあるのも事実です。

 就任早々、騒がしくなりそうな気配もしております。

 九月の事件を防げなかった愚兄が、護衛と諜報に勤しんでいます。

 汚名返上に、頑張れとエールを送りました。


「琴子様と離れるのは、寂しいですよね。ですが、僕と一緒に遊んでくださいませんか?」

「ぼくも、一緒に遊んで欲しいです」

「「うにゅぅ。だぁれ?」」


 キッズホールには、まだお客様は入室してはいません。

 今いるのは、身内ばかりになります。

 ですので、七歳と五歳の甥っ子が笑顔で、なぎ様ともえ様に近寄ります。

 甥っ子は、将来の当主となられるだろうなぎ様の付き人謙側近候補です。

 しっかり、顔を覚えていただかなくてはなりません。


「初めまして。中垣斎(なかがきいつき)と申します」

「初めまして。中垣聖(なかがきひじり)です」

「あい。はじましちぇ、しにょみやなぎ、でしゅ」

「はじましちぇ、しにょみやもえ、でしゅ」


 丁寧にお辞儀をして名乗り出る甥っ子に習って、なぎ様ともえ様も頭を下げられました。

 この年齢で挨拶を交わされるなんて、どんなにお利口さんなお子様方でしょうか。

 私の時も若干戸惑われましたが、きちんと挨拶をしてくださりました。

 琴子様と和威様によれば、敢えて教える以前周囲が大人ばかりだったが為に、見様見真似で覚えていたそうです。

 大人びた言動は、そこから来ていたかと納得しました。

 昨日お会いした篠宮家の皆様方も、挨拶やお礼は欠かさずされていましたしね。

 ご従兄弟の巧様と司様も、帰り際には一緒に遊んでおられた海翔様と大地様に、ありがとうございますと仰られていました。

 朝霧家の皆様も結束が深い仲でしたが、篠宮家の皆様も仲は良好でなぎ様ももえ様も笑い声が絶えなかったですね。


「斎と聖は、珠洲のねぇねの息子なのですよ」

「んちょ、すぅたんの、おいっきょ?」

「そうです。なぎ様、当たりです」

「おおぅ。なぁくん、しゅぎょい」

「本当にです。なぎ様は、理解が早いですね」


 ぱちぱちと両手を叩くもえ様と、感嘆する斎。

 顔合わせに前以て、普通の二歳児と思わないことと、忠告はしておいた。

 決して、侮り、不愉快な感情を含まないとも言い含めたけど、斎と聖を見て杞憂に終わったと感じました。

 二人とも私も覚えがある表情で、なぎ様ともえ様に接している。

 主に出会えた瞬間を目の当たりにした。


「いちゅきにぃに、ひじりにぃに、あしょんぢぇ、くえりゅにょ?」

「あい、いっちょに、いちぇ、くえりゅにょ?」

「はい、そうです。昨日は従兄弟のにぃに達とでしたが。今日は、僕達と遊んでくださいね」

「電車が好きななぎ様には、これを。兎が好きなもえ様には、これを持ってきました」


 作り笑いではない、心からの笑顔で聖はお子様方が好きそうな玩具とぬいぐるみを差し出す。


「いえりょー、どくちゃー」

「まいめりょちゃん」


 黄色の新幹線と、サンリ○キャラクターのぬいぐるみに、なぎ様ともえ様は歓喜される。

 大事そうに抱えて、にっこり笑われる。

 態々、特注したかいがありましたね。

 義兄の実家が玩具メーカーだから、短い期間で作成された特注品です。


「まだ、ありますよ」

「きゃあ。かわしぇみ、にゃにゃつぼし、たくしゃん、ありゅ」

「うしゃしゃんも、たっくしゃん。もぅたん、うれちい」

「あい、なぁくんも、うれちい」


 嬉しさに足踏みされる部分は、年相応に振る舞われている。

 きゃあ、きゃあ、可愛らしい声をあげてはしゃがれていた。

 甲高い声を嫌がらずに、甥っ子二人は見守っている。

 率先してプラレールを組んで、電車の模型を走らせる。

 もえ様がハブられるかと思いきや、仲良く電車遊びに夢中になられた。


「良かった。二人だけの世界にならなくて、済んだわ」


 心底安堵された琴子様も、お子様方だけにするのは不安視されていたのだろう。

 子守り役の私以外を寄せ付けないのではと、危惧していたのも分かります。

 ですが、私の見解では、そんなに不安に思われなくても大丈夫だと思います。

 琴子様が想像されるほど、人見知りは発揮しないですよ。

 入院されていた時に、ボランティアが入院患者用に準備した玩具にありつけなかった子に、もえ様は一緒に遊ぼうと誘っていましたよ。

 その子はすぐに退院してしまいましたが、お友達になり得ました。

 ですから、そんなに悲観しなくても大丈夫です。

 もえ様は割りと、社交的です。

 仲間外れを嫌う傾向にありますから、馴染めない子を見つけて一緒に遊ばれますよ。

 もし、疎んじる子がいれば、ホールから連れ出されるのは必定ですから。

 本日の主役は、なぎ様ともえ様です。

 不都合は起こさせません。

 このキッズホールに配属されているスタッフや看護士に、警護要員に至るまで、全てが朝霧家と水無瀬家の人員で賄っております。

 私よりもベテランな保育教師もいますし、皆一丸となりお子様方を守ります。

 あんな悲惨な事件は、未然に防いで見せます。


「琴子。そろそろ、客が入り始める」

「兄、了解です。では、珠洲ちゃん。なぎ君ともえちゃんを頼みます」

「はい。この身に替えても、お子様方は守らせていただきます。では、いってらっしゃいませ」


 付き人としては琴子様のお側に侍りたいのですが、大切なお子様方をお預けいただけました。

 その信頼にはお応えさせていただきます。

 メインホールには祖母達も配置されておりますので、琴子様をお任せするに値する人材もおります。

 ですので、愚兄。

 へまをしたら、姉の折檻が待っていますからね。

 気合い入れ直して油断しないでくださいよ。

 こちらは、万全な体制で対処ができます。

 事が起きるなら、メインホールでしょう。

 失態なぞおかしたら、姉と母が真剣片手に上京しますからね。

 姉と母に前科をつけないようにしてください。

 私も、二人がかりの再教育は勘弁願います。

 連帯責任は負いたくないですからね。

 口を酸っぱくしてでも、苦言は言います。

 なぎ様ともえ様の笑い声に癒されながら、琴子様を送り出しました。


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