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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のオラトリオ
100/180

その30

 おやつに満足した後に、腹ごなしにまたゲーム大会が始まる。

 今度は、太鼓を叩くリズムゲーム組と、身体を動かして遊ぶ組に別れて各々が楽しんでいた。

 我が家の双子ちゃんは、太鼓を叩いてご機嫌よく笑っている。

 補助をしてくれる巧君と司君に言われて、太鼓を連打。

 力が弱くて反応しない場面もあるが、何とか一曲最後までこなした。


「ほら、点数が出たよ」

「なぎ、惜しいね。もえに負けちゃった」

「「にゃんてん?」」


 そんなにたいして差が出た訳でもないが、初めて幼児が楽しんだ割りにはなかなかな点数だった。


「「ママ~」」

「うん。見ていたよ。なぎ君ももえちゃんも、上手に出来たね」

「あい」

「えへん」


 誉めると照れくさそうななぎ君と胸を張るもえちゃんである。

 可愛らしくてほっぺを撫でると、ますます笑顔が綻ぶ。

 少し汗をかいていたので、備えてあったタオルで順番に拭いてあげる。


「あいあちょう、ママ」

「ちゅぎ、にぃにね」


 手にしていたバチを巧君と司君に渡して、観戦モードに入る。

 ちゃんと私も誘い、期待を膨らませてモニター画面に釘付けになっている。


「うーんと。これなら、なぎともえも知っているかな」

「難易度は低めにしようか」


 なぎともえの為に分かりやすい選曲をした巧君と司君は、自分が楽しむよりも双子ちゃんが楽しむ選択をしてくれる。

 思いやりがある優しい子達だね。

 朝霧家の従兄弟達は結束はするも、遊びになると自分本意な選択をする。

 今日はこれ、明日はこれ。

 遊ぶ素材があると順番にはしてくれる配慮はあるが、自分が得意な遊びになると自分を優先しがちになる。

 ついていけない従兄弟は、おいてけぼりになる。

 だからか、いつしか男の子と女の子で遊びの種類が変わってしまうと、朝霧邸に遊びにきてもバラバラになる時も多々あった。

 下手したら、挨拶しただけで一日が終わっていたりする。

 まあ、そうした事情を知ったお祖父様が俄然張り切り、大型連休にはキャンプやら旅行やら計画して従兄弟達が結束しないとならない場面を作るのだ。

 私が小学生になったばかりの夏休みで、お祖父様は子供だけでキャンプに行かせた。

 突然集められた従兄弟達と供に、有無を言わさずにキャンプ場に放り出されて疑問符を飛ばしまくる。

 キャンプなら自炊は当たり前、テントも自分達で設置しろとばかりにキャンプ道具と料理の材料と置き去りにされた。

 今でこそ、キャンプ道具は種類が豊富で手際がよくなる物が増えたけど。

 当時は、火起しから材料の下拵えから子供達だけでやった。

 勿論、監視する大人もいて、キャンプの専門家も手配されていたりする。

 見知らぬ大人に警戒しつつ、年長組が先導してテントを設置したり、料理を作ったりしていた。

 私もお手伝いしたが、あの頃は家族に見放された感が半端なく、泣きながら準備した覚えがあるや。

 たった一日。

 されど一日。

 年長組に従い耐えたキャンプは、お祖父様的には満足した結果であろうが、従兄弟達にとっては結束しないとならない経験となった。

 毎年、お祖父様からの旅行のは、少なからず敬遠したくなるお誘いだった。

 お陰さまで、学校の林間学習では料理以外の準備は大いに活躍させて貰った。

 対して、篠宮家ならどうだろうか。

 年代にばらつきがあるし、人数的にも子供だけでは放り出したりはしないだろう。

 家族揃ってキャンプ場に行き、子供にやらせる所はやらせて、危ない箇所は大人が手を貸したりと和気藹々とするかな。

 なにしろ、お山では毎日がキャンプ場みたいな生活が出来たからね。

 母屋には薪で炊く竈や、五右衛門風呂が残されている。

 普段は使用しない五右衛門風呂も、帰省した巧君と司君が気に入り毎日沸かしていた。

 一度はなぎともえも入浴したが、つるりともえちゃんが足を滑らして溺れかけた為に、幼児は厳禁となりましたとさ。

 臣さんが素っ裸でぎゃん泣きするもえちゃんを運んできた時は、大いに焦ったものである。

 居間に飛び込んできた臣さんを、能面見たいに表情を凍らせたお義母さんがはたいてもえちゃんを受取り、私に回す。

 お義父さんが首に腕を回して臣さんを居間から連れ出す連携プレーに、呆然と残されている嫁と孫達。

 わんわん泣くもえちゃんがいなかったら、微妙な空気に包まれていたなぁ。

 一緒に入浴していた和威さんは上半身は裸でいたものの、下はきちんとジーパンでいた。

 もぅたん、もぅたんと騒ぐなぎを抱えての登場に、ああ旦那様以外の裸見ちゃった程度に終わったのはよい思い出である。


「にぃに、しゅぎょい」

「だだだだだぁ」

「ふふ。これなら、なぎともえも出来るかな」

「やってみる?」

「「あい」」


 再びバチを手に、音楽に合わせて太鼓を叩いていくなぎともえ。

 溺れかけてお風呂が怖くなったもえちゃんを、怖くなくしてくれたのも巧君と司君だったなぁ。

 お風呂での遊びを思い付いて、離れのお風呂で水を半分位淹れて、楽しく遊んでくれた。

 そのかいがあって、もえちゃんはお風呂嫌いにならなくて済んだ。


「うにゅ?」

「残念。今度はもえが負けちゃったね」

「おあいこだ」

「おあいきょ? にゃあに?」

「さっきはなぎが負けちゃったけど、次は勝った。そして、もえが勝ったけど、負けちゃった。同じだね、って意味かな」

「おおう。はんぶんこ?」

「意味は近いかな。本当は半分こではないけど、なぎともえにとったら半分だね」


 巧君と司君に説明されると、顔を見合わせてニッコリ。

 双子ちゃんは、半分こが大好きな言葉として覚えている。

 バチを手放した両手をあわせて、ぶんぶん上下に振る。


「「はんぶんこ。はんぶんこ。いちゅも、にゃきゃよし、はんぶんこ」」

「ははは。半分こで、喜ぶのはなぎともえぐらいだなぁ」

「うちは、何でも半分こでいいさ」

「「おーくん。パパ」」

「お帰りなさい、臣叔父さん、和叔父さん」

「あれ? お父さんと、伯父さん達は?」


 小ホールに来たのは、和威さんと臣さんだけ。

 康治さんと雅博さん、悠斗さんの姿が見えない。

 パパが恋しい双子ちゃんは、パパに抱き付いていく。

 難なく受け止めた和威さんは、臣さんを見てから肩を落とした。


「ただいま。安心しろ。一緒に帰ってきたよ」

「親父じゃない、じい様に捕まってるよ」


 あら。

 篠宮のお義父さんも解放されましたか。

 でも、和威さんの表情が固いのは何故だろ。


「篠宮の遠い遠い親戚さんがな。ちょっと、無茶ぶりを言い出してだな」

「臣兄貴に、縁談が持ち上がった」

「縁談て、何?」


 今度は巧君が、疑問の声をあげる。

 司君も傾げている。


「臣兄貴には奥さんがいないから、こちらのお嬢さんと結婚して見てはいかが、と言われたんだ」

「巧と司は、伯父さんが結婚していたのを知っているよな」

「うん。夏生ちゃん。病気で亡くなっちゃった」

「いつも、にこにこしてたの覚えているよ」


 私とはお会いしたことのない臣さんの奥様。

 名家の出だと聞いたけど。

 あまり、夏生さんに関しては詳しくはない。

 嘗ては、宮家のご令嬢が降嫁されたお家だったはず。

 そのご縁で、またもや宮家に連なるお家のお嬢さんを紹介されたのかなぁ。

 篠宮家の男性は伴侶を選ぶのが早く、浮気にはめもくれない溺愛体質持ち。

 再婚するにしては、短き時間になる。

 臣さんが受け入れるとは思えないけど。


「臣叔父さん、夏生ちゃんを忘れちゃうの?」

「まさか、忘れたりするもんか。だがなぁ、安易に断るのが辛い状況でなぁ。叔父さんも、困ってるんだ」


 どうしたら、穏便に事を修めれるかが問題だね。

 喪に服す期間はとうに過ぎてはいる。

 ただ、臣さんは夏生さんとの過去は消し去れないから、未だに喪に服していると言える。

 下手に、第三者が口を挟むのも難があるし、難しい。


「おーくん」

「ん? 何だ、もえ」

「はうきたんは、なちゅきたんぢゃよ」

「……はあ?」


 もえちゃんの爆弾発言に、臣さんが甲高い声をあげる。

 怒られる。

 と感じたのか、もえちゃんは眉を歪めて和威さんに抱き付く。


「めんしゃい。おーくん、めんしゃい~」

「わわ。悪い、もえ。おーくんは、怒ってはないぞ。驚いただけだからな」


 泣き出す一歩手前なもえちゃんに、臣さんは慌てた様子で宥めにかかる。

 もえちゃん。

 また、先見ですか。

 知らない他人がいなくて、パパとおーくんが困っていたから発言したのだろうけど。

 お外では駄目だよと、ママと約束したのになぁ。

 ほら、巧君と司君も目を丸くしている。


「もえ。それって、人前では言ってはいけないんじゃないかな」

「うん。琴ちゃんのお祖母ちゃんが巫女さんだったから、もえも巫女さんになるかもって聞いたけど」

「お父さんが、見たり聞いたりしても知らんぷりしなさいって言ってたけど」

「大怪我したせいで、第六感が鋭くなったみたいって言ってたけど。じかに、見ると凄いね」


 おや。

 当り障りのないお話が伝わってましたか。

 兄の、采配かな。

 なぎともえが、孤立したり、敬遠されたりしない配慮だね。

 多分だけど。

 丁寧に説明しても、篠宮家の皆さんなら平然と受け止めてくれる気がする。


「あー。もえ。パパも怒ってはないぞ。だから、泣かなくていいからな。もえは、悪いことはしてない。ほら、ママもぷんぷんしてないぞ」


 私を引合いに出さなくてもいいと思う。

 しかし、もえちゃんは真剣な眼差しで私を伺うから、茶化すに茶化せない。

 軽く両手を広げたら、もえちゃんは素直に抱っこさせてくれる。

 背中をぽんぽんして、安心させる。


「パパの言う通り、ママも怒ってないからね。もえちゃんは、パパとおーくんが悩んでいたから、悩まなくていいと教えてあげたかったのよね」

「あい。おーくん、はうきたんちょ、にこにこよ。おーくん、ひちょり、にゃいにょよ。しゃびしきゅ、にゃいにょ」

「もえ。幼子に心配されてた俺、猛反省」


 そっか、もえちゃんは孤独の記憶があるから、臣さんの孤独を理解してあげていたのか。

 臣さんが兄弟や甥っ子姪っ子を大切にするのは、寂しさの裏返しだから。

 寂しくなくなるのを、臣さんに教えたかったのか。

 でもね。

 人は、唐突に言われても受入れ難く思う時もあるから。

 一概に、有り難がることも出来ないんだよ。

 そういうのを、教えてあげないとならないか。

 まだ、幼児だからと、水無瀬の巫女の血を甘く見すぎていたのが失敗した。

 私も、猛反省しないとならない。

 だから、もえちゃんは謝らなくてもいいのよ。

 ママと一緒に、巫女のなんたるかを学ぼうね。




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