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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
10/180

その10

 お義姉さん、叔母様、叔父様と旅したスマホがようやく私の手に戻ってきた。

 明日昼食をご一緒する事で落ち着いた。

 母。

 流石兄の母だ。

 終始一貫して母のペースだった。

 と、同時にお庭で遊んでいた子供組もリビングに帰ってきた。


「「ママぁ。パパぁ」」

「ちゃんと、お手て洗って、がらがらしてきたかな?」

「「があがあ、しちゃの」」

「よし、いい子いい子」

「「むふふ」」


 頭を撫でてあげれば、満面の笑み。

 序でに顔も洗ってきたのか前髪が濡れている。

 お出かけ用の鞄からタオルを取りだし髪を拭いてあげるかな。

 本人たちは気にしないでいるけど、突撃された和威さんの服が濡れている。

 タオルを和威さんに渡せば、なぎともえの顔を拭いてくれた。


「お父さん、なぎともえは凄いんだよ」

「自分から手を洗いに行ったの」

「ほう、賢いなぁ。巧と司が同じ年の頃はうがいが大嫌いだったものな」

「本当に大変だったわ」

「そうなんだ。なぎともえは偉いねぇ」


 悠斗お義兄さんと恵美お義姉さんが、しみじみと育児の体験を語ってくれた。

 うん。

 なぎともえの場合は回りが大人だらけの環境だけに、自然と礼儀作法は身に付いたのよねぇ。

 あとは、口煩い親戚を嫌ってパパとママが恥をかかないように、と思ってくれているのかも知れない。

 あまり物欲とかないし、我が儘も可愛いモノばかりだ。


「はい、喉が渇いているでしょう。水分補給してね」


 叔母様が麦茶を人数分用意してくる。

 巧君や司君は普通のコップだけど、なぎともえのは幼児用のマグマグにて出してくれた。

 有り難いなぁ。

 まだコップだと勢いがつきすぎてこぼしちゃうのよねぇ。


「梨香、静馬。子供たちの相手、ありがとうな」

「ううん。巧や司もだけど、久しぶりになぎともえと遊べて、いい気分転換になったよ」

「わたしも、課題ばかりで運動不足だったもの。課題のテーマ探しに煮詰まっていてから、逆に有り難かったわ」

「そうか、なら良かった」


 静馬君は釣書騒動で振り回されていたのかな。

 当事者だから、なにかしら思う事があるみたい。

 まだ高校生の身でお見合い話は重たいだろうに。

 弱音を吐かないのが静馬君らしい。


「何かあれば頼っていいからな」

「うん。和叔父さん、ありがとう」


 なぎともえはパパの膝の上で麦茶を飲んでいる。

 いつも梨香ちゃんと静馬君はなぎともえの面倒を良く見てくれる。

 お盆休みやお正月等の帰省時には、骨休め処か毎日朝から晩まで双子ちゃんがべったりで、申し訳ないのだけど。

 梨香ちゃんも静馬君も嫌がらず、小さい子供達に大人気だ。

 巧君と司君も紅潮した表情で、如何に楽しかったかお義兄さんに身振りを加えてはしゃいでいる。

 大人組はそれを静かに微笑ましく見守っている。

 まるで、ホームドラマのワンシーンみたいだなぁ。

 釣書騒動が嘘みたい。

 結局、和威さんは静観の姿勢を貫くみたいだ。

 仕事先でも不倫願望の女性が現れて問題があるしなぁ。

 なぎともえの見えていない場で対処してもらいたい。


「「ママぁ」」

「なあに。なぎ君、もえちゃん」

「いちゃい、いちゃい?」

「だっこ」

「眉間に皺がよっているぞ」


 あら、いけない。

 お茶は飲み終わったらしい。

 両手を伸ばすもえちゃんを抱きとめる。

 ぎゅうと、力一杯でしがみついてきた。

 なぎ君も眉がへにょりと歪んでいる。


「ママ。痛くないよ。大丈夫だから、心配しなくていいの」


 なぎ君の頭を撫でて、もえちゃんの背中を軽くとんとんする。

 もえちゃんの小さな指が眉間にできた皺を拡げてくれた。

 ママは考え事していただけだよ。

 不安がらなくていいの。


「どうした」

「ただ、今日は色んな出来事が起きたなぁ、と思っただけ」

「ああ。そうだな」


 和威さんも、思い出したのか納得した。

 今日は兄の襲来に始り、釣書騒動に不倫願望の女性が現る。

 なぎともえの不安が今になって出てきたのかも。

 しっかりと私の服を掴むもえちゃんだ。

 楽しい気分がなくなっちゃたかな。

 それなら、ママが悪かったね。


「? 何か起きていたのか」

「奏太さんが友人連れで釣書問題で家に来ただろう。ちびっこ達がいるから詳しくは言えないが、出かけ間際に少しトラブルがあったからなぁ。それを、思い出したようだ」

「ふーん。何となく察しがついた気がする」

「琴子さんが不快になる何かか」


 叔父様、敢えてぼかしたのですから。

 その辺で止めておいて下さい。

 賢いなぎともえの事。

 敏感に察知したのか、それぞれパパママにくっつき虫となった。


「貴方。詮索は止めて頂戴な。子供達の教育に悪いですよ」

「おお。済まん」


 叔母様は、判ったらしい。

 お義姉さん方も頷いている。

 お義兄さん方は苦笑だ。

 さては、お義兄さん目当てに突撃した女性がいたとみる。

 和威さんの兄弟だから、皆さん精悍な面持ちだ。

 学生時代はさぞ、モテたに違いない。

 篠宮家には溺愛体質があるので浮気は有り得ない。

 反対に女性側が浮気したらどうなるのだろうか。

 怖くて聴けないけど。

 うん。

 想像もできない。


「「ママぁ。おにゃきゃ、ぐうよ」」


 空気を読んだのか、なぎともえのお腹が本当に鳴った。

 あれだけ、遊びではしゃぎ回ればお腹が空くわ。

 時刻も夕方になろうかという時間帯。


「お父さん、僕も」

「ぼくも、お腹空いた」


 巧君と司君も空腹を訴える。

 少し早めだけど、何処かで食事をして帰りますか。


「あらあら。では、お食事にしましょうか。ちょっと、待っててね。直ぐに準備するわね」


 叔母様がリビングから出ていかれる。

 皆さんで食事は規定路線でしたか。

 随分と大人数だけど、私もお手伝いしたら良いのかな。

 いや、しない方が良いか。

 緒方家には専属のシェフさんやお手伝いさんがいる。

 邪魔になるだけだよね。


「予定を訊かずに悪いな。息子達が独り立ちしてからは、どうも寂しくてな。あれも、張り切って食事の準備やら、泊まりの準備をしているからなぁ」


 食事だけでなく、お泊まりの準備までですか。

 何て用意周到な叔母様だ。

 今日は土曜日。

 お泊まりしても問題がない。

 きっと、着替えも人数分用意してあるのだろう。


「わたしと静馬は食事だけで帰るわ。週明けの月曜に課題提出があるの。お泊まりはお父さん達だけね」

「うちの子も明日は早くからサッカーの試合を見に行く約束がある。泊まりは僕だけで、恵美と帰宅させる」


 何故に皆さん私を見ますか。

 ここは、和威さんでしよう。

 叔父様、すがるような目で見ないでください。


「我が家は特に予定はないのですが……」

「なら、泊まりだな。なぎ、もえ。今日おじじの家でお泊まりするぞ」

「「ママちょ、パパは」」

「勿論、一緒にお泊まりするぞ」

「「いっちょ。いっちょに、おちょみゃり」」


 喜ぶなぎともえに、安堵する叔父様なんだけど、腑に落ちない。

 何故に私を見た。

 我が家はかかあ天下ではないぞ。

 決定権は家長の和威さんにあるはず。

 解せない。


「お待たせしたわね。皆、ダイニングに来て頂戴な」


 微妙な雰囲気が漂うリビングに叔母様が戻ってきた。


「あら、どうしたの?」

「何でもない。家族で泊まりなのは和威君一家だけだ。あとは、雅博君と佳子さんと悠斗君だ」


 小首を傾げる叔母様に叔父様は泊まりの人数を告げた。

 少ない泊まり人数に眉根を寄せた叔母様。

 本当は、お泊まりは予定になくて辞退したいのが本音である。

 今更、言えないが。

 だって、兄弟が揃えば絶対に飲み会が始まる。

 ざる、わくな兄弟のストッパーたるお義母さんがいない。

 朝まで飲んだくれになること間違いなし。

 無邪気に喜ぶなぎともえ。

 大嫌いな酔っ払いのできあがりだよ。

 まぁ、今日ははしゃぎ回ったから、お腹一杯になって、お風呂に入ったら直ぐに寝入ってくれそうだ。

 となると、和威さんの相手は私になる。

 微妙に酔っている和威さんの相手は、出きればしたくない。

 あれな話になるが、ねちっこく体力戦となる。

 人様のお家であれは嫌だ。

 出きれば避けたい。


「そうなの。でも、お食事はするのよね」

「ああ。食事は皆了承してくれたぞ」

「ご馳走になります」

「では、ダイニングにいきましょう」


 総勢14人が一度に食事を摂れるのか。

 疑問が湧くけど、口にはしない。

 ご馳走になる身で苦言は言えない。

 果たして、広いダイニングには6人掛けの丸テーブルが3卓あった。

 急遽用意されたのだろうか。

 以前は細長いテーブルがあったと記憶している。


「「おーしゃま、りゃんちだぁ」」


 抱っこ状態ななぎともえがテーブルに用意されていた、お子様ランチをみて声をあげた。

 口が回らないから、王様ランチと聴こえた静馬君が吹き出した。


「なぎ、もえ。お子様ランチだよ」

「「こーしゃま、りゃんち?」」

「お、こ、さ、ま、ら、ん、ち」

「「おきょしゃま、りゃんち」」


 おお。

 言えたね。

 まだ完全には言えてはいないけど。

 ぐう、となぎともえのお腹が鳴る。


「「あう。にゃっちゃちゃ」」

「さあ、お食事にしましょう。なぎ君ともえちゃんのお腹が催促しているわ」

「そうだな。巧と司もそのうちに鳴り出すな」


 悠斗さんに指摘されてお腹を押さえる巧君と司君。

 良い匂いがするから無理ないよね。

 私も鳴りそうだ。

 頭の痛い話は飲み会で続けて下さいな。

 子供用の椅子まで用意されていた。

 私と和威さんの間に挟んで座らせる。

 子供達の対面に叔母様が席に着く。

 叔父様は悠斗さん一家の席に着いた。

 ニコニコ笑顔な叔母様に対して双子は困惑顔。

 なぎ君、もえちゃん。

 我慢してご飯食べてね。

 お山のじいじとばあばと一緒だと思っていいから。

 お山では、座卓だったから違和感があるのかな。

 それか、丸テーブルかな。

 おもてなし大好きな叔母様のおもてなしをたっぷり受けて頂戴ね。

 叔母様はなぎともえの一挙一動に頬笑んでいる。

 次第にきにならなくなったなぎともえは、お互いの大好物をあーんして食べさせあっている。

 と、叔母様は何処からかスマホを取りだし連写している。

 兄と同じ行動だ。

 そんなに、感動ものかな。

 いつものあーんに私が慣れているからか。

 そうだと思いたい。


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