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狂想曲は続いていく  作者: 堀井 未咲
篠宮家のカプリチオ
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その1

前短編にブックマーク評価ありがとうございます。

連載お待ちの方お待たせしました。


 ぺちぺちと小さな手が頬を柔らかく叩く。


「ママ、おっきよ」

「ママ、おはようよ」


 皆さま、はじめまして。

 そして、お久しぶりです。

 篠宮琴子です。

 いま、狸寝入りの真っ最中です。


 和威さんに兼ねてから打診されていた本社転勤の内示が出され、和威さんからご両親や親戚一同に引っ越しが報告されました。

 同居している長男夫妻には寝耳に水だと言わんばかりに、詰め寄られたそうです。

 私はその場に立ち会わなかった。

 なにしろ、なぎともえの機嫌が珍しく悪く母屋に行こうとしない。

 私に抱きついて離れなかったから、煩くわめく親戚の到来を予期したのかも。

 和威さんは仕事だからと、あっさり都内の物件を探してきては、引っ越し準備を進める。

 引き留めるお義兄さんと議論の末、お義父さんの実家の緒方家と私の母方の実家朝霧家を配慮し、双方の理解を得て都内の緒方家所有のマンションに落ち着いた。

 そして、昨日の夜にマンションに着いた訳なのである。

 なぎともえが幼い子供なだけに、車での長時間移動が堪えた。

 特にもえちゃんは普段チャイルドシートにおとなしく座ってくれなくて、自分で抜け出てしまうのが困りモノだったけど、昨日はいつもより静かにしていた。

 知らない道や初めての高速道路に緊張していたのかな。

 頻繁にサービスエリアで休憩は取っていたけど、マンションに着くなり私と双子ちゃんはダウンだ。

 真新しい寝具は私達より1日早く上京した、家人の彩月さんと峰君が手配してくれていた。

 よく干してあったので、ちょっとのつもりが朝まで熟睡。

 二人は私達一家付きの家人で和威さんの転勤に合わせてついてきてくれた。

 正直私としては助かった。

 私は左半身の火傷跡が災いして動作が機敏にできない。

 大分跡は薄くなり皮膚も厚みが増してきたけど、こればかりは完治に時間がかかる。

 本社転勤になった和威さんは、週に一度の出勤だったのがほぼ毎日になりそうとの事。

 突然の環境変化が双子ちゃんにどれだけの影響与えるか心配だった。

 私は実家の母が同じ都内にいるため、相談できる相手が身近にいてくれるのは嬉しい。

 世の母親様を尊敬します。


 双子の小さな手が起床を促す。

 ママは未だねむねむだよ。

 もう少し眠りたいなぁ。


「もぅたん、ちあうよ。こんにには、よ」

「あい。こんちゃあ、ね」


 なぬ、こんにちはですと。


「ママ、なぁくん、おにゃかぐるぐるよ」

「ママ、もぅたんも、ぐるぐるよ。おっきしてちょーだい」


 双子の宣言通りお腹の虫の音が聞こえた。

 あぅ、と呟く声に一瞬で頭が醒めた。

 朝じゃなくお昼?


「いま、何時? 和威さんは、何処⁉」

「「うきゃ」」


 思わず飛び起きたら、双子ちゃんが転がる。

 ベッドから落ちると焦ったけど、寝起きで身体がいうこときかなかった。


「落ち着け、琴子。今は11時過ぎたところだ」

「11時⁉ 朝御飯は?」

「「かりかり、ちゃべた」」


 落ちかけたもえちゃんをナイスキャッチする和威さん。

 ひっくり返った状態で、なぎ君は辛うじてベッドの上で伸びている。

 安堵すれば、先ほどの双子の言葉に疑問が生じたのだけど。

 かりかり、って犬や猫じゃないんだから。

 一体何を食べたのやら。

 越してきたばかりでお買いものにいってないから、録な食べ物が冷蔵庫には入ってなかったはず。


「彩月が気を利かせて色々買い込んできてくれたぞ。なぎともえは牛乳をかけたシリアルと目玉焼きを食べた。その後、近くの公園で一遊びしたから腹が空いたみたいだな」


 彩月さん、ありがとうございます。

 東京でも足を向けて眠れません。

 幾ら疲れていたからと言って、子供のご飯を用意できないとは、ダメママである。

 和威さんも、昨日は一日中運転してくれたのに、双子ちゃんのお世話ありがとうございます。

 私なんて座ってただけなのに。

 さて顔を洗って、歯磨きして、頭をスッキリさせねばならないと。

 惰眠の誘惑を振り切って起きましょう。

 だから、なぎ君は何時までも伸びていないで、おっきしてね。

 今度はなぎ君がおねむですか?

 それとも、抱っこかな。

 手を伸ばすと笑い声をあげながら起き上がり、いつもより強い力で抱きついてくる。

 もしかして、起きないママを心配してくれたのかも。

 暖かな温もりに反省する私である。





 彩月さんがお買いものをしてくれたのと、白米を炊いてくれていたので、簡単にチャーハンと卵スープを作ってお昼を済ませました。

 ご飯大好きなもえちゃんはおかわりまでして、お腹パンパンに膨らませている。

 お腹が満たされたら眠気が訪れて、あっという間に夢の中。

 二人仲良く同じ体勢で眠っている。

 どんな夢を見ているのか、たまに手足を動かしている。


「和威さん、お茶にする? それとも、コーヒーにする?」

「俺がやるから、琴子も休憩してくれ。まだ昨日の疲れが抜けてないだろう」


 どちらもインスタントだけど缶を取り出す私に、和威さんは子供たちにタオルケットをかけながら答える。

 聡いなぁ。

 昼頃まで寝ていた私であるが、どうにも身体が重く感じてしまう。

 普段より動作がスローペースになっていた。

 和威さんが自分に任せろ、と言うときには逆らわないようにしている。

 何せ、なぎともえが乳児の頃頑張りすぎて、ぶっ倒れた経験があり、一時期入院までしてしまった。

 当時の双子はママが側にいないことを肌で感じとったのか、誰の手にも負えない頑固さを発揮していた。

 パパ以外の抱っこはいやいや、ミルクもいやいや、大泣きして困らせていたという。

 何て早い人見知りなのかと、途方に暮れた和威さん。

 医師免許を保持する彩月さんと、育児の先輩方の指導のもと、立派なパパ振りだったとお義母さんが教えてくれた。

 その後で、しっかり周りを頼りなさいとお小言はいただいた。

 兄や両親にも沢山迷惑かけてしまった。

 退院したその日は、なぎともえに忘れられているかもと不安だったのだけれども、ただいまの一声で大泣きされた。

 はいはいができなくて、ずりはいで一生懸命ママのところに来ようとする姿に、私も泣けてきた。

 無理は厳禁。

 身体に異常を感じたら、彩月さんの診察を受けるか、おとなしくしている。


「琴子はお茶な」

「ありがとう、和威さん」


 ソファに腰を落ち着けた私に、愛飲しているお茶をマグカップに入れてローテーブルに置いてくれた。

 手渡しだと私がひっくり返したら、との懸念があるからだ。

 伸ばした手が後頭部に周り額が合わさる。

 おぅ。

 胸キュンな仕草に顔が赤くなりそうだ。

 夫婦なのに照れますなぁ。


「熱はないみたいだが、長時間の移動は負担が掛かりすぎたみたいだな。次は新幹線で移動するか」


 それは、なぎ君が喜ぶ。

 なぎ君は電車が大好きなのだ。

 お山のお家には模型があり、全種類の名前が言えちゃうほど。

 お山に嫁に行ったときは新幹線だったので、その話を何回でも聞きたがる。

 ちなみに最寄り駅迄は大人の足で一時間はかかる秘境駅だ。

 毎日ではないけど子供たちとお散歩に出歩いていて、体力はついたと思ってただけに少し不満だ。


「学生の頃より体力ついたと思ったんだけどなぁ」

「同じような姿勢が続いたのが、敗因じゃないか?」

「そうかも。休憩の時には、柔軟とかしてたのに」

「もえは運動が物足りなさそうだったが、琴子の隣でしばらく横になったかと思ったら、爆睡してたぞ」


 そういえば、ねんねすると言うからもえちゃんの背中とんとん軽く叩いた覚えが。

 見知らぬ場所でのねんねに緊張してたのかな。

 なぎ君は相変わらずマイペースでもえちゃんの横に寝転がっていた。


「和威さん、いつから出勤するの?」

「ん? 今週はしない。来週月曜からだが」


 今日は水曜日だから、あと数日は余裕があるかな。

 パパのいない日常に双子ちゃんを慣れなさないといけないなぁ。

 まぁ、その代わりに彩月さんや峰君が付いていてくれるのだろうけどね。

 なぎともえはお昼寝後のパパとのお散歩が大好きだから、ママで我慢してくれるかしら。


「何か悩み事でもあったか?」

「パパがお家にいない環境で、子供たちのストレスが少し心配かな。仕事なんだと言う意味を、どこまで理解していることやら」

「あぁ、そうだな。特になぎが気を張りそうで、体調を崩さないかだな」


 そうなのよね。

 鷹揚に構えてマイペースに見えるなぎ君なのだけど、男の子だから、お兄ちゃんだから、と言われて育ったものだから。

 周囲の観察力が並大抵ではなく、悪感情にはいち早くもえちゃんを連れてパパの元に逃げてくれる。

 見知らぬ人がもえちゃんに近付こうものなら大絶叫だ。

 好奇心旺盛なもえちゃんのストッパー役も担ってくれるから、突然の環境変化に知恵熱をだされるかも、要注意である。

 今もしっかりもえちゃんの手を握り眠っているし。

 私も和威さんも特に兄、妹の区別はつけていない。

 双子の兄妹が不吉なら姉弟でもいいと思った。

 旧家だから後から産まれたのが長子になるとの謂れがあったけどね。

 それで行くとなぎ君が弟一子、もえちゃんが弟二子なので、長子を養子に出せないとか何とか難癖付けて兄妹になっていた。

 なぎともえ、どちらも養子に出す気は更々ありません。

 何でしたら、母方の祖母の実家に名乗り出て貰いますよ。

 同じ旧家同士ならば対抗心があるかと思いたち宣言したら、私の実家を侮っていたらしく、和威さん自身の養子発言も相成り、うるさい親戚は篠宮家に出入り禁止になったみたいだ。


「そういえば、和威さん。もえちゃんのお気に入りフルーツ牛乳は、どうやって手に入れるの?」

「あっ、忘れてたな」


 私も今の今まで忘れてたのだけど。

 3時のおやつになかったら、またもや大号泣だと思う。

 慌てて冷蔵庫に走る和威さん。

 昼食作る時に開けたけど入ってたかなぁ。

 これは、我が兄の出番か。

 もえちゃんの牛乳好きは兄と共通している。

 篠宮家ではなく、確実に武藤家の血だ。

 容姿だけでなく趣好まで私よりとは、俺の遺伝子云々な和威さんには言えないが。

 諦めて兄にメールする私であった。

 兄よ、可愛い妹からのメールであるからして、早急にお返事くださりませ。

 でなければ、近所迷惑間違いなしな二重奏再びが控えているのである。

 切に願います。



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