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28話 彼らの未来に幸福を

 ニコライに呼ばれ、店先に現れたダリアは増えた来客の姿に、眉を顰めて溜息を吐き出した。

 頭が痛いと、額に手をおき、目をそらす。

 昔の知り合いがいるなんて、きっと気のせい。心の中で言い聞かせ、指の間から来客を盗み見、ラズと視線がかち合い、確信した。

 気のせいではない。本人たちだ。

 ラズは天使と見まごう笑みをダリアに向けきた。

 その腕の中には、顔を林檎のように赤く染めた女性が、逃げ出そうと暴れている。

 久しぶりに近くで会ったラズは、幼少の頃よりも磨きのかかった捉えどころのない空気を纏っていた。

「母さん?」

 動揺したダリアに、ニコライが不思議そうに母を覗き込む。

 挑むような恐ろしさを感じとる視線をダリアへ一瞬向けてくると、女性を離して和やかな笑みで、ダリアへ歩み寄ってきた。

「お久しぶりです。ダリア」

 ダリアは気のせいなどでなかったと、思い知らされた。腕を腹に寄せ、腰を折り敬意を示した。

 ニコライを産む前、ダリアは城で働いていた。兵士として、城に使えていた頃、城から脱走して城下へ行く双子王子の護衛を何度かさせられていた。

 脱走するところを偶然見つけてしまい、ちょうどいいと護衛にさせられて以来、王子たちが脱走する度に、城下へ連れまわされていた。

 そのことが上司に見つかり、ダリアは解雇された。

 解雇されたおかげで今の旦那と出会えたのだから、解雇されたことに後悔はしていない。むしろ双子王子が巻き込んでくれて感謝しているぐらいだった。

 そのことを後悔しているのか、ラズの笑顔はどこか少し申し訳なさが滲んでいるように見えたのも一瞬。


「なにをされているのですか……殿下」

 隣でニコライが「え、殿下?」と驚き、声を詰まらせているが構っていられない。

 国にとって大切な人がいくら女装をしているとはいえ、供もつけずに歩き回っていいわけがない。

「ルディの大事な人探し、ですね。ダリアが匿っていてくれたおかげですぐに見つかりました。感謝します」

 ラズの背後で、女性二人が抱き合っている。よくみれば、相手は女装したルディだった。周囲の目を気にしないで、アカリと――

「……!」

 思わず目をそらしてしまった。

「ルディはしょうがないですね。……ごほん、げほん」

 ラズはわざと大きく咳払いをした。

 我に帰ったアカリがルディを引き剥がし、盛大にテーブルで頭を打つ。

 頬を染め慌てふためくアカリと、同じ顔でラズを睨むもう一人の女性。

 ああ、この二人は。

 ダリアは、笑みをこぼした。


『ねえ、ダリア。いつか俺に……』

『ねえ、ダリア。いつか僕に……』

 あれは二人に着いていった最後のお忍びだっただろうか。中庭で、王と王妃が人目を忍んで、睦み合う姿に、二人声を揃えて尋ねてきた。

『お二人にも、この人だと思える女性が必ず現れますよ』


 笑い合う四人にダリアも自然と頬が緩む。

 ――どうか、彼らのいく未来が幸福であることを。

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