ただの稽古、のはずだった
「はぁ、朝食で疲れるなんて・・・。」
まさか、ベーコンの切り方であそこまで口論になるとは予想外だった。
「よしっ、気持ちを切り替えて頑張るぞ!」
朝のこともあるしね。
さっそく、準備を始める。剣の手入れ、練習メニューの確認、等々。そうそていると、声をかけてくる人が1人。
「もう遅刻はやめたのか?」
「もう、ってまだ一回しかしてないです。私に話しかける暇があるなら準備手伝ってください、ベイナール様。あ、ちょうどいいや。今日のメニュー、皆さんに配ってきてください。」
「なんで俺がそんなことしないといけないんだよ!だいたいおまえ、俺の身分わかってんのか?」
「ええ、もちろん。でも、身分は違っても、騎士団では、私もあなたも副団長で、対等です。ですからそれ、お願いしますね。」
「お、おい!待てよ!」
はぁ、いつも身分身分うるさい人だ。たしかに、騎士団の大半が貴族とか身分の高い人たちだけど、普通の家柄の人だっている。まあそれは、ライト様がそういうのを気にしなさらないからなんだけど。
私は家も身寄りもない、言えば最低身分かもしれないけど、副団長にまで登りつめた。少しは認めてくれてもいいのに。
「ミーナ、準備は終わりましたか?もしよければ、手合わせ願いたいのですが。」
「え!あの、準備は終わりましたけど、なぜ突然手合わせなんて?」
「したくなったからです。」
あー。たまにあるんだよね。ライト様が突然よくわからないことを仰ること。
「・・・私、負ける試合って好きではないのですが。団長に勝てる気なんてまったくしません。それに、前に一度負けていますし。」
そう、わたしが前に言った二度だけ負けている相手。一人はライト様なのです。団長なので、強いのはあたりまえなんだけど、くやしかった。
それよりもくやしかったのは、もう一人のほう。なにを隠そう、あのベイナール様だ。まさかあの人に負けるとは思わなかった。いくら副団長といえど、勝てると思っていたから。実際は、さすが先祖代々騎士団というところだった。
やばい。思い出したらものすごくいらいらしてきた。だって、あのときまで、負けたことなんて無かったから。これは、相手がライト様でも勝てるかもしれない。・・・いや、無理か。
「何事も、やってみなければわかりませんよ。では、中央に行きましょうか。」
「う、はい。」
「おい、向こうで団長とミーナ副団長の手合わせするらしいぞ。」
「本当か!行こう!」
「団長と副団長が」
「早く行こうぜ!」
「なんか、人が多くないですか?あまり見られたくないのですが。」
「まあ、いいではないですか。では、始めましょう!」
「手合わせ、開始!」