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不視議な彼女とフリーター!  作者: 銀虎
退屈な日常からの脱却
5/5

びょういんへ行こう!

「さてと」


 いつもより少し遅めに目を覚ました俺は、狭い部屋の隅にある鞄を担ぐ。


「あれ、今日はバイトじゃないの?」

「ああ。ちょっと用事があるから出掛けてくる」

「むうぅー。遊んでもらおうと思ってたのに」


彼女が頬を膨らませて、こちらを睨んでくる。もちろん、俺は構ってやる義理もないので、それらを軽くスルー。

ちなみに、用事というのは病院へ行くことだ。無論、幻覚の正体を知るために。


「じゃあ、俺はもう行くからな。留守番頼んだぞ」

「…………うん、分かった」


少し間があいて、彼女は俺に背を向けた。昨日のこと、やはりまだ気にしているのだろうか。


「本当に行くからな」


返事はない。玄関の扉を開けた後、二三度ほど中を振り返り俺は家を出た。



 さて、一旦家から出てしまえば、あとは幻覚も居ない、いつも通りの光景。気持ちをリフレッシュするためにも今日1日は一人でいよう。

……でもそうだな。折角だし帰り際、あいつに詫びの品の一つでも持って帰ろうかな。……って何考えてるんだろう、俺は。相手はただの幻覚じゃないか。

 しかし彼女、昨晩からあのテンションだ。例え幻覚であったとしても、終始あの様子でいられるのは勘弁願いたい。


 そのときだった。ふと、背後から微かな気配を感じた。


「……お前、ついてきたのな」

「うん、ダメ?」


そこにいたのは、ビクビクとした様子で尋ねてくる彼女(げんかく)の姿だった。

周囲の目線もあるし駄目だ。と一蹴したいとこだったが、これ以上関係を悪化させるのも後々面倒になるので、俺は二つ返事でついてくることを許可した。


「ところで、お前どうやって俺についてきたんだ?」

「うん?どういうこと」

「だってお前ペンなんだろ?俺、家からお前なんて持ち出してきてないし」


すると、彼女は少し躊躇(ためら)ったあと、独り言のように聞いてきた。


「……怒らない?」

「ああ」


それを聞き、少し頷いてから、以前見たのと同様に、忽然と俺の目の前から消えてみせた。そこで、俺は気づいた。


自分が例のペンを右手に握りしめていることに。


「え?なんで」

「えーっと、なんていうか、その……」


彼女は俺の様子を見て狼狽えた。多分、俺に怯えてるんだろう。

俺は「はぁ……」と大きく息を吐いていった。


「お前さ。昨日のこともあるから少しは我慢してたけど、もう少し普通に接してくれよ。そうじゃないと俺も喋りづらい」

「けど、そうしたら浩太怒らない?」

「怒らない。その……昨日のは俺が悪かった。すまん」

 俺は遠くのビルを見つめながら頬を掻いた。

「うん、分かった」

 聞こえてきた声は、まるでオモチャを買ってもらい喜ぶ子供のように明るかった。彼女が俺の横に並んだ。手に不思議な温もりを感じた気がした。



 まもなく、俺達は近所の病院へついた。ここら辺では一番大きい病院だ。

「大きい建物。浩太、ここに住めばいいのに」

「嫌だ。誰がこんなとこに住むもんか」


 俺は小さい頃から病院が嫌いだった。薬品の臭い、子供の泣き声、風邪で咳き込む人。その環境一つ一つが自分にとってはストレスだった。


「ほらさっさと診察券取りにいくぞ」

「はーい」

 彼女は片手をあげて、返事した。


 建物内に入るとさっさと整理券を取った。

 しかしながら、やはりというべきか、病院内には様々な人がいた。イライラする。待ち時間が妙に長く感じる。


「ねえ、浩太って病院は嫌い?」

「うん?嫌いではないな」

「嘘だ。だって手、震えてるよ?」


 言われてやっと気づいた。俺の両手が自らの膝の上で小刻みに振動しているのを。

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