出逢い
ガチャッ
「ただいまー」
ドアを開け、俺は空の部屋に向かって言う。
部屋には勝手に流れているラジオの音だけが鳴り響いていた。もちろん、返事はない。
まったく、この孤独感はいつまでたっても慣れない。
「あー、疲れた」
俺は深く溜め息をついたあと、冷たい床に寝そべって暫くの間、天井を眺めてみる。
ほんとに汚い天井だ。年季が入ったぼろアパートとすぐ分かるほどに。
「……さて、書くか」
ようやく気が落ち着いた俺は、ムクッと上半身を起こすと、机上を見た。次にカバンの中から新品のペンを……
「あれ?……ない」
そこでやっと気がついた。折角買ってきたペンを無くしてしまったことに。
カバンの中身をぶちまけた。あのときに違いない。
「まじかよ」
いろいろとうんざりとしてしまった俺は、再びコンビニへ向かう気力も起きなかったので、そのまま布団へと入った。
ふて寝というやつだ。
「明日は明日の風が吹く」
そう心の中で呟いて自分を励ましてみたが、思い起こされるのは、やはり何の変哲もない退屈な日々だった。
そんな自分が嫌になったので、さっさと瞼をおろして寝ることにした。
…………
「ジリリリリッ……」
外で気持ちよさそうに鳴いている鳥とは対照的に、騒々しい目覚ましによって俺は叩き起こされた。
「う……んぐっ……」
目覚ましを叩いたのち、のそりと体を持ち上げる。
汚い天井が視界いっぱいに広がる。
「はぁ、今日も独りか……」
そう呟き、朝っぱらから憂鬱な気分に苛まれる。
今日も退屈な一日が始まる……はずだった。
「…………?独りじゃないよ?」
「どぅわあ!?」
不意に背後から聞き慣れない声がした。
盛大に驚きつつも声のした方を見ると、その先にいたのは金色の髪をもつ少女だった。小学生くらいだろうか。容姿は明らかに日本人のそれではなかった。
早々、俺はパニックだ。
そもそも、俺以外に人がいる事自体がおかしい。
「えーっと、なんで俺の家に女の子がいるんだ?
もしかして、酒の勢いで……いや、昨日は酒なんて飲んでないはず」
そもそも、俺は酒に弱い。つまり、呑むことすら考えられない。
「それにしても、見たこともない子だ。これってもしかして誘拐になるんじゃ……」
「ねえ、さっきから独りでぶつぶつ何言ってるの?」
不意に彼女が顔を覗きこんできた。
俺ははっと我に返った。そうだ。こうなった経緯なんて今はどうでもいい。まずはこの状況をなんとかしなくては。
「ね、ねえ。お嬢ちゃん。お家は何処なのかな?」
なんか誘拐犯のような言い回しになってしまったが、気にしないでおこう。そして、問題は彼女の返事なのだが。
「お家?ここが私のお家!」
「はぁ!?」
いやいや、意味がわからないから!?
こういうときは、とりあえず交番へ届ければいいのだろうか?
彼女の顔をちらりと見てみる。…………いや、もう少し質問してからにしよう。それからでも遅くないはずだ。彼女をみていると、不思議とそう思った。
「えーっと、ご両親はどこにいるのかな?」
俺はモーニングコーヒーを淹れながら聞いた。
「うーん、両親はいないけど、ご主人様ならいるよ?」
「ん…………?」
「私のご主人は天野 浩太(あまの こうた)!」
「ブフゥッ!?」
それを聞いた俺は盛大に口に含んだコーヒーを吹き出してしまった。
だって、当たり前だろ?それ、俺の名前だもん。