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七海の商店街観察日誌③ イカ様フェア

 いつもは残業で遅いパパちゃんが今日は珍しく定時に帰ってきた。しかも何やらいっぱい袋を提げている。なんだかいい匂い、美味しそうな匂いがするよ・・・。出迎えたチャーさんも鼻をひくひくさせている。


「おかえり、パパちゃん。それどうしたの?」

「ん? 今さ、商店街でイカ様フェアしているの知ってる?」

「うん。重光先生と沙織さんの婚約祝いを兼ねてるんだよね」


 重光先生のお膝元であるこの商店街では、いま先生と沙織さんの縁結びのきっかけとなったイカにあやかってイカ様フェアなんてのを展開中なのだ。なにがどうなってイカが縁結びのきっかけになったのかは実のところ良く分からない、というか色々な説が飛び交っていてどれが正解なのはイマイチはっきりしないんだ。


 この商店街一の情報通の篠宮酒店のおじさんと桜木茶舗の御隠居さんが揃ってイカが爆発したらしいと言っているのでそれが一番正解に近いんだと思う。だけど爆発して何で縁結びなんだろうね、沙織さんがキャーとか言って先生に抱きついたとか? なんか違う気がする・・・。


「で、何を買ってきたの?」

「まずは菜の花ベーカリーさんでイカの形をしたパン。あ、これは中身は普通にクリームパンだから。篠原さんのところでイカ入りのがんもどき、篠宮さんのところで徳利とお猪口、それから練助さんでイカのすり身を使ったハンペンに、魚住さんのところでイカそうめん、それからイカ入り焼売にイカリング・・・」


 どんだけイカばかり!!


「そんなに買ったらママに怒られるよ?」

「心配ないよ、ママ公認だから」

「えー?!」


 ちょっと予想外。いつもなら“こんなに買ってきてどうするの?!”ってママに怒られるパターンなのに。


「ママも明日から魚住さんでイカを買ってくると思うぞ。しばらくは毎日かならずイカを食べることになると思うな」

「なんでぇ?」

「商店街の人たちなりの先生へのお祝いなんだよ。ほら、国会議員は有権者から物を受け取れないだろ? だけど皆は先生のお祝いをしたい。だから先生達の縁結びに一役買ったイカを使ったフェアをして、お祝いの代わりとしているのさ。で、うちは小売店じゃないから購入してお祝いに参加しているってわけ」

「このフェア、先生達の耳にも入ってるってこと?」

「みたいだよ。こっそり事務所の人が写真を撮っていたって話だから、先生に見せているんじゃないかな」


 台所にパパちゃんが買ってきたものを持っていくと、ママがそれを見て楽しそうに笑った。


「チャーさんには食べさせられないからちょっと可哀ね」

「このパンは形だけがイカであとは普通のクリームパンだって」


 パパちゃんはちゃんとチャーさんのことも考えてくれていたみたいで、袋の中にいつものより高いウェットタイプのご飯が入ってた。こっちは鯛のすり身入りだって。どんだけお祝い気分なんだか。


「国会議員の先生ってもっと遠い世界の人だと思っていたけど、ここではそうじゃないんだね」

「だって親の代からの議員さんだし、重光先生のところはもともとこの辺りの名士だから。他の議員さん達よりも地元とは繋がりが深いかもしれないわね」

「庄屋さんみたいな感じ?」

「そんな感じかな。だから昌胤寺には先生のご先祖様のお墓があるんですって」

「へえ」


 そんなに昔からここに住んでたんだ、すごーい。足元でチャーさんがすりすりしてきて見下ろすとニャーンと鳴いた。どうやらパパちゃんが買ってきた鯛のすり身入りのご飯に気が付いたみたいだ。


「チャーさんはイカじゃないけど、これで一緒にお祝いだね」


 袋からそれを出すとチャーさん専用のお皿にそれを入れていつもの場所に置く。


「ね、このイカ様フェアっていつまで続くのかな?」

「さあ・・・意外と毎年の定番フェアになったりして」


 まさかあ・・・まさかだよね?


 そして次の日曜日、イベントに出ていたキーボ君の頭にイカが乗っているのを見て一気に脱力しちゃったのでした。もう皆こだわり過ぎだよ!

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