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1.丸木弓の時代(志波城の櫓)

 新春の三浦半島で今度の回遊テーマを『北東北古代城柵』に決めてから5ヶ月、出羽清原氏関係の資料を少し読んで、更に、出羽清原氏を中心とした古代城柵に絞ってみたいとの考えは更に深まった。テーマを大鳥井山遺跡に絞り込んだ理由は、この数か月で清原氏関係の資料を相当数読むことが出来、最新資料から受けた印象の影響が大きかった。


 清原氏は従来の歴史書では源氏や安倍氏、藤原氏に比較して脇役にされる場合が多かったような気がする。しかし、最新の諸資料は清原氏の解明こそが安倍氏、藤原氏の根本的な謎の解析に繋がる印象を私に与えた。関連して前九年・後三年合戦と平泉藤原氏関係の数冊の本を斜め読みした上で、東北自動車道を岩手県に向けて出発した。何時もながら、準備不足の上に明確な方向性の無い気ままな旅のスタートである。


 後ろにした関東では、もう、藤が終わり、菖蒲の花も後半に成っていたが、宮城、岩手の千メートル以上の山々は真っ白な雪景色である。数百メートルの低い山が新緑に燃えているのと対照的に白石から見える蔵王連峰、岩手に入った北上山地そして、北奥羽の岩手山へと続く山並はまだ冬の色彩を多量に残している。晴天の下、新緑の白っぽい緑の山並みの上に重なるように、白と薄い青に彩られた山塊が連なる姿は東北独特の色彩であり、爽快さである。一年の内で生命の息吹を最も感じる北東北のこの季節は、何時見ても感動を新たにする。


 大和朝廷の本格的東北侵攻は多賀城(宮城県多賀城市)建設から始まり、多賀城から直線で約200km、坂上田村麻呂による胆沢城(岩手県水沢市)の構築によって東北戦争の盛期を迎える。そして、多賀城建設から約80年、陸奥の国最北端の古代城柵志波城は築かれた。


 今回の北東北の古代城柵を歩くにあたって、最初に古代最強の武器、丸木弓について、現地で考えてみたいと思った。古代城柵では、より強力な武器である弩が配備されていた記録もあり、現物の出土もあるが、大多数の兵士の持つ主力武器は丸木弓だったと想像される。丸木弓は日本古代から使用され、阿弖流為、坂上田村麻呂の頃には、ほぼ完成型に近づいていたと思われる。


 そして、平安中期から平安末期が丸木弓の実戦使用の最盛期だった。即ち、前九年の役、後三年の役の時代である。平安後期~末期には、最新型の弓である木と竹を接着した準合成弓である伏竹弓が登場して、飛距離や貫通力を高めているが、利用比率から見るとまだ少なかったようで、平安時代を通して丸木弓の時代とみても良いのではなかろうか?


 結論からいうと阿津賀志山防塁の合戦時に相当数の武士が伏竹弓を使用した可能性はあるが、平泉藤原軍、鎌倉軍共に主要武器はやはり丸木弓と考えて良いのではないかと個人的に思う。即ち、桓武朝の胆沢城周辺の古代東北戦争、前九年の役、後三年の役の時代、阿津賀志山防塁の合戦までの長期間にわたる北東北の城柵の歴史散歩の、一つの物差しとして、丸木弓を考えてみたいと思って、初めに、志波城(岩手県盛岡市)を目指した。


 雪を頂く岩手山の姿は盛岡市域に入って徐々に大きくなり、陸奥最北の古代城柵では、堂々とした山容を見せてくれた。雫石川の南に広がる志波城址の復元された築地塀と外郭南門、付随するたくさんの櫓の背景として、盛岡市民の愛するこの山は創建当時と同じ雰囲気を訪問者に与えてくれる。


 外郭の築地塀は高さ約4.5mで、塀を跨ぐように10基の櫓が復原されている。志波城内を彼方此方と歩きながらご説明頂いた熊谷さん(女性)の紹介では、櫓の間隔は狭いもので約56m、広い所で約61mあって、平均すると60m程度の間隔で配置されているとの事。確かに櫓の中間の築地下に立ってみると塀は予想以上に高く、左右の櫓は考えたよりも近距離に感じた。我々、現代の弓でも矢頃の位置にある。


 この事は当時の朝廷軍の武人達にとっても、片側30mの射程は十分に敵を牽制し、制圧できる距離感だったのだろう。因みに戦国時代の弓足軽が甲冑を着た敵兵を射殺せる距離は30数m以内が有効だったらしく、現在の弓道でも射手と的の距離は15間(約28m)である。


 この志波城で感じた丸木弓による敵味方の射戦の距離感は、安倍氏、清原氏、平泉藤原氏を通して北東北の城柵の交戦距離として、認識しても良いのではないかと復元された志波城の外郭櫓群は暗示してくれた。


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