08.いなくなっちゃうと思うんだ。
取りあえずその日はにこやかに(?)お食事会となった。
目が覚めた優ちゃんはまた幸治おじさんに殴られそうになってたけど友香がしっかり止めてくれて、また気絶しないで済んだみたい。
なんだかんだ言いながらおじさんはすっごく嬉しそう。慶と優ちゃんの男二人兄弟しかいなくて、本当は女の子が欲しかったのを知ってる。
だって私の可愛がり方が半端じゃなかったもん。なんでもかんでも買って貰って、絶対本当の子供達より優遇されてた。
それがなくなるのは残念だけど。これからはきっとベビちゃんがその対象になるんだろうなぁ。
大量の赤ちゃんグッズを目の前に困ってる友香が目に浮かぶわ。だってきっと性別わかる前から買い出して、性別分からないからって男の子用女の子用両方用意しそう。
絶対そうなる。おばさんじゃないけど断言出来るかもー。
なーんて事をサワーをちびちび飲みながら、ぼけーっと友香達を見ながら考えていたら、急に腕をつかまれた。
な、何? 誰?
「ちょっと、こっち」そう言って私を引き摺る様に引っ張って庭に連れ出したのは慶だった。
ちょっと、このシチュエーションやばくない? 私二人の事ボケッと見てたし。もしかして……慰めコース?
「……おまえ、さ。知ってたの?」うん。そりゃもちろん。親友だし。一番に相談されたし。
私の顔を見て慶は目を細める。いやー、それやめてー。
「……いつから?」なんか最近この質問多いな。それはベビちゃんの事? それとも付き合ってたこと?
まだ掴まれたままの腕を離して欲しくて身動ぎするけど、慶は無視して余計に力を込める。痛いよ。
「二人が付き合ってるっていつから知ってたんだよ」あ、そっち?
「付き合いだした時から」一番に報告してくれたよ。だって片思いしてるのも知ってたし。って言うか二人から相談されて、なんだ両想いじゃーん、くっついちゃいなよ~とキューピットしたの私ですけど何か?
痛っ! なんか手の力強くなったんですけど。そして……いつの間にか顔、近いですけど!
「……あいつ……」慶はそう小さな声で呟くと舌打する。ねぇ、それ誰の事? なんかメッチャ怖いんですけど。怒ってますよね?
「……お前……それで付き合いだしたの?」ん? 誰が? 誰と?
私が意味わからんって顔をしていると、また目を細める。ひぃ。さっきまでは誰か違う人に怒ってた気がしますが、今は私に怒ってます? 私に怒ってますよね?
「……児玉ってやつと! 付き合ってたんじゃなかったのかよ」ああ、そっか。そうでした。そんな人いました。すっかり忘れてました。
って言うか慶も忘れてください。私の汚点です。そんな事今更穿り返さないで下さい。
……って待てよ? 今の、話の流れ的に? また勘違いされてないかしら。
つまり、友香と優ちゃんが付き合いだした事によって、失恋した私は自棄になって児玉くんと付き合いだした。と……。
うっひゃー。確かに筋書きとしては見事なまでに通ってますよ。そしてちょっと自棄になって付き合ったってのも当たってる。その理由は違うけどね。
でも……それでいいか。うん。よし。それで行こう。
私は演技するべく視線を下に逸らす。
「…………」そしてここは無言、っと。否定も肯定もしない。これなら嘘もついてない。でも慶はきっと……
「そうかよ。そう言う事かよ」やっぱり勘違い。
慶は乱暴に私の腕を離すとそのまま一言もしゃべらずに家へ入っていった。少しも私の方を見なかった。
私には何も言わず、家に入っていった。
ねぇ慶。呆れてる? 失恋して付き合った男にストーカーされて。やっぱり馬鹿な女だって思ってる?
そうだよね。私もそう思う。本当に馬鹿。ちゃんと本当の事話せばいいのに、いつも嘘ついてばっかり。
だって慶には知られたくないの。絶対に私の気持ち知られたくないの。
だって慶は知っちゃったら逃げるでしょう? 私の気持ちに気づいてしまったら……きっともう幼馴染には戻れない。
だから私の気持ちを知られてしまったら、きっと慶は私の前からいなくなっちゃうと思うんだ。