06.できちゃったんだってさ。
その後、慶は何も言わず。もちろん私も何も言わず。大学仲間としてもちろんあってはいるけど、いつも通りにからかわれて、怒っての日常を過ごしてた。
そして週末。優ちゃんが帰ってきた。
社会人一年生の優ちゃん。私達の行っている大学の先輩でもあるんだけど(この辺も慶がいまだに誤解してる所以かも。私が優ちゃんを追って入ったと思ってる)、それまでは実家に暮らしてたけど、社会人になって一人暮らしを始めた。
社会人一年生で一人暮らしって絶対大変だからしばらくはまだ実家にいて、仕事に慣れてから一人暮らし始めたらって周りは進めたんだけど、優ちゃんはさっさと一人暮らしを始めてしっかり問題なく生活してる。
でも、まぁ、その一人暮らしの結果がこれじゃぁ……もっと反対しておいた方が良かったかなぁとは思わなくもない。
激しい衝撃音の後、
「幸治さん!」慶達のお母さん、香澄おばさんの焦った声。
「幸治! 落ち着けって」家族会議にも普通に参加しちゃうぐらい仲のいい(親友の)うちの父親の抑える声を聞きながら、カウンターキッチンで冷静にジュースを飲みながら観察。
「唯ちゃん冷静ねぇ」そう言うお母さんも冷静だね? しっかりおしぼりをキッチンで濡らし冷やす。
「優一さんっ」焦った友香の声がして、慌てて倒れて伸びてる優ちゃんに駆け寄る。
……幸治おじさん……本気で殴ったね? 伸びたまま動かない優ちゃんは完璧にノックアウトされてると思います。
「幸治……おまえこれじゃぁ話し合いにならないだろ。言い訳させる前に伸すなよ」かなり呆れた口調で父親――聡が言った。
うん、私もそう思うよお父さん。
優ちゃんの方を見ると、友香がお母さんの渡したおしぼりを額や赤く腫れ上がってきた頬に載せ、甲斐甲斐しく世話をしている。
でもまだ気がつく気配はない。本当、どうするのこの空気。取りあえず私のする事は親友の友香のフォロー? ってことで仕方なく優ちゃんを中心に女性陣がワサワサと集まっている所へいく。
「あー、友香大丈夫? びっくりしたでしょ?」そう言って半べその友香に近付くと、抱きついてきた。
自業自得な君たちとは言え、うん、ちょっと所じゃなくかわいそうになってきた。
私の不遜な空気を感じたのか、幸治おじさんが言い訳を始める。
「いや、だってだなぁ。この馬鹿が! よそのお嬢様に……その……、まだ二十歳だってのに……」みんなににらまれ居心地悪そうに身動ぎする。
「確かに手を出したのは悪いが……でも!」とまだ言い訳を続けようとするおじさんの前に仁王立ちで香澄おばさんが立ちふさがった。
「……それで、もし友香さんに当たったりしたらどうするおつもりだったのですか?」うひゃー、こりゃ怒ってるね。口調が丁寧すぎて、ピリピリと殺気を感じますが。
「そ、それは……」言いよどむおじさんを無視しておばさんは私達の方を向くと、深くお辞儀した。
「友香さん、本当にごめんなさい。こんな事になってしまって。優一も友香さんをご招待する前に報告していればこんな醜態を友香さんの目の前でさらすこともなかったのに」そう淡々とおばさんは語りましたが……。
おばさん、たぶんそれだと確実に優ちゃん死亡していたと思います。
だから友香も一緒に来たほうが良いよって説得したのは私。それならまだ怒りも緩和されるかと思ったんだけどねぇ。無理でした。えへっ。
皆さんこんにちは。唯です。
皆さんお察しの通り週末の一コマです。
帰ってきた優ちゃん、一人じゃありません。私の親友の友香を連れてます。
二十四歳の優ちゃんと二十歳の友香。皆さんお気づきの様にお付き合いをしておりました。
そして一人暮らしの優ちゃんと、女子大生の友香。まぁ青春真っ盛り? って訳か知らんけど、まぁ盛り上がっていたのは確かなようで!
できちゃったんだってさ。