Restart ―リスタート―(スピンオフ)飛田 穂積視点
慶二の友人、ブラコン弟のお話です。
スピンオフとなっておりますので、唯と慶二とがイチャラブしてる訳ではございませんのであしからず。
富樫慶二は最低な男だ。高校時代はそう思っていた。
俺の上には歳の離れた姉が二人いて、その姉達にしっかりと女性を大切にするよう教育されてきた。
双子の兄穂高も例外ではなくて、俺達は女性ってのはふわふわ可愛くて、柔らかくて、傷つきやすくて、壊れそうなものだって思ってたんだ。
それなのに、その女性をまるでモノの様に扱い傷つけていく慶二は最低な男だ、としか思えなかった。
慶二に傷つけられて俺に泣きついてくる女の子を慰めれば慰めるほど、あいつが最低な男だって認識は消えなかった……。
◆ ◆ ◆
Restart ―リスタート―
◆ ◆ ◆
初めて唯ちゃんに会ったのは、確か朝倉舞と一緒にいる所に声をかけたからだったと思う。
朝倉は穂高や慶二と同じで高校の同級生。
俺は一度も同じクラスになった事はないけど、穂高が同じクラスになっていたので知っていた。
朝倉は好みじゃないけど、唯ちゃんは違った。
小さめの背にスラリとした体型。ふわりとウェーブした髪は肩ほどで柔らかそう。
笑うとふにゃって崩れて、俺に可愛いと言われ慌てる彼女は……本当に可愛かった。
なんだろう、可愛い子だ。頭だって良いし、物事だってはっきりと言うのに、なぜか庇護欲をそそり構いたくなる、そんな女の子。
考えている事がすぐに顔に出て真っ赤になる彼女は、俺が思っていた通りの女の子。
ふわふわ可愛くて、柔らかくて、傷つきやすくて、壊れそうな守るべき対象の砂糖菓子みたいな女の子だった。
だから慶二がその彼女と一緒にいるのを見た時、慶二の毒牙にかける訳にはいかないって思った。
今までの女の子達と同じように傷つけてしまってはいけないって思ったんだ。
それは朝倉も一緒だったようで、どうにか慶二から唯ちゃんを守ろうとしてたけど……その必要はないってすぐに分かった。
なぜって俺たち以上の過保護がそこにはいたから。
言い辛そうに「幼馴染なの」と言う唯ちゃんと、その言葉を受けて眉間に皺を寄せていた慶二を見て、すぐに二人は想いあってるんだって気付いた。
それなのに、付き合ってはない。
高校時代の慶二を知っているだけに、不思議な関係だと思った。
でも唯ちゃんと接する慶二を見てなんか納得しちゃったんだ。心に唯一の一人がいるから……他の女性には冷たく出来るんだって事に。
そしてそんな大事な女性だから、おいそれと手を出せないんだって事に。
正直、俺も朝倉も何度も目を見張るような場面に出くわして、富樫慶二と言う男に対して認識を変えざるを得なかった。
だってなんだよ、その挙動不審。
沈着冷静・冷淡無常・威風堂々のはずの富樫慶二が。なんで彼女が絡むとワタワタと落ち着きなくそんなモロバレな表情をするんだか……面白くて仕方なかった。
そして勝手に想像していたより全然いいやつだったって事に気付くのにそんなに時間はかからなかった。
◆ ◆ ◆
「君達さー。ギャイギャイ騒いでるけど、本当に慶二の事が好きなわけ?」
いい加減本気になった慶二を応援したくて、慶二親衛隊なる女の子達にちょっと冷たい声が出る。
「本当に慶二の事が好きで慶二を見てたら、こいつの心がどこにあるかって事ぐらい簡単に分かるでしょ?」
慶二の事が嫌いだった俺や朝倉だって、あっという間に気付いたけど?
慶二がどこを見てるかなんて簡単じゃん。だって、どこにいても慶二の視界の中には絶対に唯ちゃんがいるんだもん。
唯ちゃんは自分の生活があって、当然それを普通に過ごしてるけど、慶二は違う。講義中でも、学食にいても、いつも唯ちゃんの方向を向いてる。
別に正面切って彼女を凝視してる訳じゃないけどね、自分の視線の中に映る様に場所をとるんだ。
講義中は彼女より後ろの席。斜めだったり、正面だったりとその時によって違うけど、後ろの席って事は絶対に変わらない。
学食は親衛隊のせいで結構離れるから、正面に唯ちゃんの背中を捕らえる。
そして本人と一緒にいる時は注意を引き立て、必ず自分の正面に向かせようとする。
そんな態度を見てて、気付かないわけがない。
それなのにこの子達はなんで気付かないんだろう?
本当に慶二の事が好きなのかな? って、慶二の近くにいたら疑問に思った。
だからすぐに気付いたんだ。この子達は本当の所で慶二の本質を見ようとはしないんだって事に。
富樫慶二と言う高物件のステータスに吸い寄せられ、自分の中で勝手に恋をする。
本人達が親衛隊なんていっているように、本当にアイドル(偶像)なんだ。
だからセックスフレンドなんて言う意味のない場所に固執して、慶二の心がどこにあるかなんて気にしない。
こんな女の子達もいるんだ、ってある種のカルチャーショックを教えてくれた。
女の子ってのは、唯ちゃんみたいに可愛らしいものかと思ってた。でもやっぱり個人差があるんだ。
ドロドログチャグチャ汚らしい感じのもあって……この時初めて慶二に同情した。
高校時代ももしかしたら、勝手に神聖視した慶二に裏切られたと思って話を盛ってた子達もいるんじゃないかなーと気付かされたけど……こんな付き合い方をしてる慶二も悪いと思う。
「何変な顔してんの? 俺だって言う時は言うんだよ」
変な顔して何か言いたそうにしてる慶二に少し怒ってみる。
だってさ、この子達は姉が言っていた守るべき相手には思えないんだもん。
他人を蹴落とそうとする事にばっかり一生懸命で、相手の事を思いやろうなんて心を持ち合わせてない人達……。
この子達をここまでにしてしまっているのは慶二の責任もあるのかも知れないけど、それでも俺には守りたいと思える子達じゃなかった。
その後も色々ムキになって突っかかってくる彼女達を慶二は冷たくあしらい、俺には感謝と謝罪の言葉をかけて唯ちゃんの元へ行く。
取り残された彼女達を見て溜息をつく。
これ、フォロー必要?
いつも俺ってば慶二に冷たくされて泣く女の子達を優しく慰めてあげるんだけど……ここも必要かなぁ?
なんて考えていたのに、慶二がいなくなった途端女達は蜘蛛の子を散らす様にあっという間にいなくなった。
なんだかなー。さっきまで泣いてた子もあっという間に涙引っ込めていなくなっちゃった。
一気に冷めたのかグチグチ悪態をつきながらいなくなる子もいて……本当に女の子の事嫌いになりそうで怖いよ。
そう言えば……あの子はどうしたかな?
唯ちゃんの友達で朝倉とも良く一緒にいたあの子。慶二にずいぶんアタックしてた。
唯ちゃんの友達のくせにって思ったけど、唯を好きな富樫君が好きなのよ? なんて笑って話していたあの子は……。
◆ ◆ ◆
「午後の講義はお休み?」
学食のイスに心ここにあらずで座っていた彼女につい声をかける。
声をかけられた相手はちょっとびっくりした表情をした後、微笑んだ。
「ここ座ってもいい?」
頷く彼女の隣に腰掛けて、彼女の手元にあった本を見る。
「……シンデレラ・コンプレックス?」
本の題名にピンと来なくてたずねると、彼女は皮肉そうに顔を歪めた。
「前に読んだ事あったんだけど、なんかまた読みたくなっちゃったの」
「確か王子様が迎えに来てくれるを待ってる、みたいな心理だっけ?」
読んだ事もないし、まったく興味もないからなんとなくで言うと睨まれた。
「そんな簡単な事じゃないわよ。もっと深いの」
ちょっとふて腐れた様に言うと、彼女は本を開き読み始めた。
しばらく無言で本に目を通している彼女を見つめていると、彼女は溜息を付いて本を閉じた。
「何? 何か用があったの?」
「んーー?」
なんだろう? 別に特別用があった訳じゃないんだけどね。
ただ……なんとなく一人座ってる君を見て声をかけたくなったんだ。
「用がないなら何処かに行ってくれない? 真剣に読みたいの。……見られてると気が散る」
そう言って目を伏せて本をさする彼女を見て、気がついたら俺は彼女の頭を撫でてた。
「……ちょっと、セクハラ」
俺の手を払って睨みつけてくる彼女を見て笑う。
「君だって慶二にはセクハラしまくってたじゃん」
「あれは! ……あれはボディタッチって言うの……。それに男と女じゃ全然違うし」
ツンと横を向いた彼女を見てまた笑う。憮然とした顔をする君が可愛い、と思った。
正直好みじゃないけどね。
ふわふわ可愛くて、柔らかくて、傷つきやすくて、壊れそうな砂糖菓子みたいな女の子。そんな子が好みなんだ。
そう、例えるなら唯ちゃんみたいな。
全力で守ってあげたくなる、そんな子の側にいたい。
でも早紀ちゃんは肉食でしょ?
好きな子がいるって言う男にもガンガンいける女の子。
性にも奔放で自分に自信があって強い、そんな子だよね?
だから、本当は好みじゃないんだ。
それなのに君が消えそうなぐらい儚く一人で座ってるから、つい声をかけた。声をかけずにはいられなかった。
なんだかなー? 全然好みじゃないはずなのに、ほっとけなかったんだ。そのまま一人にさせておけなかった。
慰めてあげたい。抱きしめてあげたい……って思っちゃったんだ。
好みじゃないのに……。
全然好みじゃないのに……なんでかなぁ?
くわしくは活動報告にて。
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