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君が好き??  作者: 尾花となみ
sideB:慶二視点
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最終話.Happyend!

 目が覚めたら病院のベッドだった。カーテンの隙間から日が差し込んでいる。体がだるい。なんだかデジャヴだ。そう思ってふと腕を見たらまた点滴が刺さっていて一気に血の気が引く。

 ガバッと起き上がり点滴を外そうとして腕をつかまれ止められた。


「それは、ちゃんとしたお医者さんが処方した点滴だからね、勝手に抜いちゃダメだよ。ずっとそばにいたのに気付かないなんて、びっくりだよ」

「……兄、貴……」相手を確認するとまた急に力が抜けて後方へ倒れこんでしまった。自分が寝ているベットのすぐ横にパイプイスに座った兄貴がいた。まったく気付かなかった自分にびっくりだ。


「……今日、何日? 俺どのぐらい寝てた?」かったるいながらも、監禁されていた時とは違い思考ははっきりしてる。

 あの時は靄がかかっているかのようで、しっかりと考える集中力がまったくなかった。だが今は違う。


 そして朦朧としていた意識の中での出来事だったのに、しっかりと覚えているのが不思議だ。何があったのか。どうなったのか、理解はしている……が、ひどく昔に起こった事の様に実感がわかなかった。


「今日はね、12月12日。ただ今の時間は午前9時過ぎ。病院に運ばれてからどのくらい寝てたかって質問なら、10日の夜9時ぐらいにこの病院に運んだから……36時間ぐらい?」

「はぁ?!」まったく想像してなかった時間経過に驚いて兄貴を凝視する。


「ついでに? 慶二が行方不明になったのが8日の帰宅後だとすると、合計52時間ほど監禁されてたのかな?」

「……はぁっ」盛大な溜息が出る。


「俺、全然意識なかったのかもなー。アイツん家行ったのてっきり一昨日の事かと思ってた。一昨日の夕方乗込んで行って、昨日助かったのかと思ってた。一日どっかに飛んじまってるよ」

「大分良さそうだね。ちょっと看護師さん呼んでくるよ」そう言って出て行った兄貴を眺めながら再び腕に視線を向ける。


 そこには点滴が刺さっていて、無理やり抜きたい衝動に駆られる。はぁ、最悪だ。トラウマかよ。暫くは点滴を見た後このゾワゾワっとした感覚が治まりそうもない。

 俺は点滴から目を逸らし瞑る。


 後悔が襲ってくる。自分が軽率な行動を起こしたがために迷惑をかけた。もちろんこんな事をしでかした長谷川兄妹が悪いに決まってるが、元はと言えば俺が巻いた種だ……。

 俺がもっとしっかりしていて、もっと色んな事に配慮できていれば避けられた事態だったかも知れない。


 そう思うと一概に長谷川兄妹だけに罪をなすりつけ断罪することは出来ない。

 だが、だからと言って犯してしまった行為に対して寛大な気持ちになれるかと言えばノーだ。しかも玲子に至っては唯へ攻撃しようとした。

 それだけは絶対に許さない。結果唯が怪我する事はなかったが、絶対に許さない。 


「富樫さーん、目覚めましたか~?」ちょっと化粧の濃いお姉さんが入って来る。

 無言で頷くと看護師のお姉さんは笑顔で俺の口に体温計を放り込むと、腕を取り脈を図りだした。


「ぐっすりと眠ってましたねー。大分すっきりしたんじゃないですかー? どこか痛みますー?」ずいぶんとざっくばらんな話し方をする看護師のお姉さんはそう言ってから俺の顔を見て笑った。

「やだ、忘れてた。話せませんよねー。じゃぁ、はいかいいえで」そう言いながら顔を縦と横に振るお姉さんを真似て頷く。


「どこか痛みます?」いいえ。

「頭も痛くないですか?」はい。

「寒い?」いいえ。

「暑い?」いいえ。……って体温測り終わってから話せばいいじゃねーの? なんて面倒臭く思ったら口元からピピピッと電子音が響く。


「うん、大丈夫そうねー。じゃぁ後で先生来るから、ちゃんとお話して下さいねー」俺の口からさっさと体温計を奪い取り確認すると部屋を出て行った。

 …………何だったんだ? 今のは……。


「慶二ー、看護師さん来た? 母さんに電話してきたよ。仕事放り出して来るってさ」いや、放り出したらまずいだろ。

「それだけ心配してたんだよ! ちゃんと、謝るんだよ?」兄貴に言われて神妙に頷く。きっと心配をかけただろうなって言う自覚はあるからな。


「葛木家にも電話しておいたから、きっと飛んでくるんじゃないかなー」嬉しそうに言う兄貴を睨み付ける。

「葛木家の方々もとにかく心配してたんだよー。特に唯ちゃん。あの状態じゃぁ仕方なかったとは思うけど、俺達が到着した時はすっごい錯乱してて大変だった」急に真剣な顔で話し出すから思わず俺も起き上がって姿勢を正す。

 そう言えば唯に見つけてもらって意識を失った後どうなったのか、聞いてなかった。


「救急車を待つより俺の車で救急病院に運んだ方が早いだろうって事で乗せたんだけどね、唯ちゃんがお前に抱きついたまま離れなくて困ったよ。とりあえず友香にどうにか宥めさせて病院に着いたけどそれでもずっと心配そうに離れなくてさ。頭の出血はもう止まってて傷も大した事なさそうだったけど、ずっと気を失ってるもんだから不安だったみたい」

「…………」


「俺達が着いた時はもう意識失ってたでしょ? だから俺達はそんな慶二を見ても割と冷静だったんだけどね。でも唯ちゃんは話してたのに真っ青な顔して動かなくなったから怖かったみたいだよ」 

「……うん……」そうだよな、そりゃ心配だよな……。


「慶二? ちゃんと話すんだよ?」そう言った兄貴の声は優しい。

 くそっ、本当こう言う所が敵わないと思う。じんわりとほだされて涙が出そうになっちまったじゃないか。

「噂をすれば……来たんじゃない?」バタバタと激しく廊下を走る靴音が聞こえすぐに病室のドアが勢い良く開く。


「慶!!」叫ぶなり抱きついてきた唯を慌てて受け止める。

「慶! 慶!」嗚咽交じりに叫びながらぎゅうぎゅうときつく抱きついてくる唯をそっと抱きしめ背を撫でる。


 視線の先で兄貴が部屋を出て行くのが見えた。



 ◆ ◆ ◆



「はい、それで間違いないと思います。よろしくお願いします」そう言って俺は電話を切ると、隣で不思議そうにしている唯を抱き寄せるとこめかみにチュッとキスする。

 すぐに真っ赤になってすごい勢いでソファーから離れていった唯を見て笑い声がこぼれた。


 俺達はお互いの気持ちを確認しあった後、幼馴染からちゃんとした恋人に昇格した。唯は今までとあまり変わらない態度ではあるが、所々に俺への愛情が隠れ見えてその度に幸せな気持ちになる。

 余り変わらない態度を見ていると、やっぱり唯はずっと俺の事が異性としてちゃんと好きだったんだなと思う。


 冷静に考えればそりゃそうか、って思う。他人が見ても丸わかりな程お互いに露骨に態度に出していたのに、本人達がありえない勘違いをしてたなんて馬鹿みたいだ。

 俺も唯もガチガチに固まった変な思考から身動きが取れなくなっていて、思い込みと勘違いを繰り返してしまっていた。


 今回の事がなかったらどうなっていたんだろうか? もしかしたらまだ中途半端な幼馴染のままだったのかも知れない……そう思うと恐ろしい。

 お互いの気持ちを確認せずに俺は唯に迫って傷つけていたかも知れないと思う。


「電話、誰?」再びソファーに戻ってきて俺の隣に唯は座ると。上目遣いでちょっと心配そうに聞いた。再び手を伸ばしそうになるのをどうにか我慢して答える。

「弁護士の先生。……傷害罪の方は示談にしたよ。正直、玲子とはもう話も出来ないし、どうせこのまま起訴しても難しいだろうから」悲しそうに目を伏せて無言で頷く唯の頭を撫でる。


 俺を病院に送り届けた後兄貴はすぐに警察に通報し現場へと急行してくれた。そして自宅マンションにいる長谷川兄妹を確保した。

 玲子は話しても会話にならず色々な検査をした結果、心神喪失と認定された。その為起訴しても不起訴となるだろう。


 兄の司は心労を重ねた状態だったようだが、自分の犯してしまった事を理解し、また悔いているようだった。

 監禁や点滴の違法行為などはまだまだこれから話し合っていかないといけない。彼の医師生命や病院の管理責任など問題点はたくさんあるだろう。


「慶? 大丈夫?」すりすりと近寄ってくる唯を抱きしめる。

「俺は大丈夫。……それより今日はずいぶん積極的だな?」髪を撫でながらそんな風にからかう。


 ボッと火が灯ったかのように真っ赤になる唯を逃がさないように閉じ込め唇を奪う。軽くついばんですぐに離す。

「そろそろ、準備オーケイ?」おどけて軽く言うと腕の中の唯が固まる。ガキンと音が聞こえそうなほど固まり、微動しない唯を見てまた笑い声が出る。


 悪戯をすると今迄と同じように真っ赤になって照れて、でもその先を意識する唯を見ると本当にヤバイ。

 気持ちを確認するまではその態度を可愛いと思ってはいたが、どうもやるせなさも消えなかった。


 男女の関係に興味があるだけなのか……。相手が俺じゃなくてもそんな態度を取るのか……。そんな負の感情は抑えても溢れてきて苦しかった。

 だ・け・ど! 気持ちをしっかりと通じ合った今なら違う。全くもって違う。


 唯の可愛らしい態度に気持ちがちゃんと乗っていると思うともう幸せで幸せで別の意味でおかしくなりそうだ。

 そうすると自然と余裕も生まれて、優しい気持ちになれる。


 唯の気持ちが追いつくまで、いつまででも待てそうだ。今まで焦っていたのが嘘みたいに穏やかな気持ちになれる。


「ま、まだ、もう少しだけ待ってください……」固まったまま消え入りそうな声で、それでも律儀に返事する唯に愛しさが込み上げる。

 こうやってちゃんと言葉にしてくれる事が増えた。


 お互い相手の表情や態度で先読みしてしまって勘違いが多かった俺達は、ちゃんと言葉にしようと言う事を約束した。

 だから、こんな事にもちゃんと答えてくれる。


 俺との行為が嫌なんじゃなくて、まだ心の準備が出来てないから……と言う台詞を受けて俺はまた唯にキスをする。

 さっきの可愛いキスじゃなくて、今度は大人のキス。少し執拗に攻めるだけですぐにトロンとなってしまう唯を堪能して俺は満足した。


 出来ればこの先にも進みたいが、本人が待ってくれと言っている以上我慢するさ。大丈夫、少しずつ少しずつ進めていくから……。でも、出来れば早めに覚悟を決めてくれると助かります。


「……好きだよ」耳元でそっと囁いて、何度目か分からない茹蛸の唯を楽しむと俺は唯の首筋に顔を埋めた。





「sideB:慶二視点」終


 慶二視点完結致しました。お付き合いくださりありがとうございました。

 詳しいあとがきは活動報告をご覧ください。


http://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/705047/

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