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君が好き??  作者: 尾花となみ
sideB:慶二視点
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01.Where are you going?

 お気楽娘唯とは違い、少しねちっこい話になると思います。ガッツリ執着系です。

 そして男の子ですので、心の中では結構いやらしい事を考えているようで、下ネタ的な描写は露骨になると思われます。

 R15で大丈夫だと思うのですが……どこまで平気なんでしょうかねー?



 sideAに比べ1話ずつが長くなっておりますので、話数少なく完結出来ると思います。

 ※作者は英語出来ませんので、各タイトルについての突っ込みはご勘弁下さい(笑)


「それ、どこ連れて行くつもり?」目の前で繰り広げられていた男女の修羅場にいい加減我慢の限界で、手に持っていたコーヒーの空き缶を二人の間に投げつけていた。

 真っ青な顔してる唯を一瞥すると、男の方を見る。


「誰だか知らないけど、あんたには関係ない。俺達は付き合ってるんだ。話し合いをしてる所なんだ。邪魔しないでくれ」ワタワタと落ち着きなく言い訳する男の台詞を聞いて……自分でも機嫌が氷点下まで下がるのを感じる。


「……ふーーーーん。そう、彼氏? 付き合ってんだ?」優しく唯に確認の視線を投げれば、その本人は一心不乱に首を横に振ってる。


「彼女・・、否定してますけど?」馬鹿にしたように男を見れば……男は戦意喪失。ちっ! くだらねー。

 俺はそのまま適当に相手すると唯の腕を掴んで葛木家へと連行する。空き缶は……後で回収しとくか。


 家に帰ると真っ青な顔でソファーにうずくまる唯を見て……少しだけ不安になる。何もなかったのは知ってるが、唯のそんな表情を見ると心配だ。

 実は大学からずっと付かず離れず後ろを歩いて一緒に帰って来てたから、あいつが待ち伏せしてて、言い合いが始まったのも最初からバッチリ聞いてた。


 だから……あいつと付き合ってたって事は事実で。そして……何か揉めて唯は別れたと思ってて、あの男はまだ続いてると思ってた事も事実。

 初めて聞いたその事実に……自分の心が凍りついた気がした。


 少し加虐な気持ちで唯をからかうと、思っていた以上に楽しい反応をするからつい熱が篭もり……逆に自分を追い詰めてしまった。

 なんだよその反応。なんだよその顔。女の顔してんじゃねーよ。俺を煽ってるのかよ?


 一瞬流されそうになったくせに、やっぱりいつもの唯に戻った時はなぜかホッとした。なんでだよ? このまま流れに任せて食っちまえばよかったのに。

 そしたらこの、隣人でただの幼馴染という関係も変わるかも知れなかったのに……。


 俺は葛木家を後にし、空き缶を拾いながら溜息をついた。



 ◆ ◆ ◆ 



 唯は隣の家に住む幼馴染の女だ。両親が共に仲良く、生まれた時からずっと一緒にいる存在。

 歳が同じせいか実の兄貴より一緒にいる時間は長いかも知れない。


 俺はそんな唯が好きだ。ずっと、子供の時からずっと変わらず異性として好きだ。そしてそれを誰にも隠してない。

 俺達を知っている人達なら誰でも知っている事実。別に大きな声で言いふらしてる訳じゃないけど、なぜか周知の事実。

 だが、その当の本人がその事実を理解していない。きっと唯一俺の気持ちを知らない人間が、本人だってんだから笑えねー冗談だ。


 いや、もしかしたら無意識の内に気付かないフリをしてるのかも知れない。あいつにとって俺はただの幼馴染だから……。

 俺が唯を好きだって事を知ってしまったら今まで通りの関係でいる事が出来なくなるから、気付かないフリをしてるんじゃないかって、思う。


 そんなんで俺は実る事のない長い片思いに大分諦めがあって、みんなが知ってる「唯が好き」と言う事実を簡単に言葉にして口には出せなくなっていた。

 恋人にならなくても唯の一番近い男が俺ならばいい、そんな風に思えるようになっていた矢先の男発覚で……体中の血が沸騰するかと思った。


 ふざけんなよ? 俺以外の男が唯に触れる? 冗談じゃない。

 恋人になれなくても、唯の好きな相手が兄貴ならかまわないと思ってた。唯が他の誰の男のものにもならないのなら、幼馴染でいいと思ってた。


 でも……内緒で彼氏と言うものを作ってた。冗談じゃない。憧れの延長線上で兄貴に惚れてるのと、惚れてもないけど彼氏がいるのとは状況が全く違う。

 いつ既成事実が起きても可笑しくはない。実際に多少進んだ付き合いだったみたいだ。


 唯の反応から一線を越えてるとは思えなかったが、キス位はしてるかも知れない。

 ……いや、俺にからかわれてあの反応じゃまだか?


 唯に触れた右手を見つめ、自然に笑みが零れた。押し倒した時の反応を思い出し嬉しくなる。

 まさか、あんな風に女の顔をするとは思わなかった。あの時の様に拒絶され侮蔑の瞳を投げかけられるかと思っていたのに……現れたのは拒絶しながらその先を望む、期待して震えてるエロイ女の顔。


 成長……してたんだな、やっぱり。昔と全然変わらない気がしてたけど、やっぱりちゃんと成長してたんだ。男女の関係に興味があるように。



 ◆ ◆ ◆



 何度も言う様だが俺と唯は産まれた時からの腐れ縁で。幼稚園も小学校も中学校も同じ。そして俺は唯が好きだと言う事を隠してもいなかった。

 男から見れば唯は可愛い部類で、すぐに思っている事が顔に出て、表情が豊かで、ちょっと天然な所があるけど、明るくていつもニコニコして楽しそうにしてる唯は人気があった。


 だけど俺はそれを許さず、少しでも唯に近付こうとする男がいれば釘を刺し。俺は唯だけを見て唯だけを甘やかして唯だけをいじめてた。そして唯は俺にだけは、常に全力で怒ったり泣いたり文句言ったり優しかったり……我慢してないありのままの唯でいた。

 そんな俺達を見てれば回りは自然とちょっかいを出したりするやつはいなくなり、それどころか殆どの人は俺達を応援し、俺たちがくっつくのが当たり前だと思っていた。


 もちろん俺自身もそう思っていて……今思うと調子に乗ってたんだ。

 唯のお母さんの京子さんからは「慶ちゃんが傍にいれば安心だわ」と太鼓判を押され。お父さんの聡さんからは「お前なら嫁にやってもいい」なんて認めて貰ってて……調子に乗ってた。


 実際に告白しあって付き合ったりしてる訳じゃないのに、俺は自分達の関係が恋人だと勘違いしてた。

 今でも当時を振り返ると忌々しく思うが……あれは中学三年の夏。俺達は同じ予備校の夏期講習に通ってた。


 当時、うちは親父とお袋が忙しく、家を空けている事が多く。兄貴は兄貴で色々忙しかったから、一人が多かった。別に一人で自分の事をするのに不安を感じてはなかったが、それでも京子さんが心配して、常に葛木家にいたと思う。


 その日も夏期講習の後、昼食を葛木家でご馳走になり、予備校の宿題を唯の部屋でやっていた。

 ベット横に地べたで座り、猫足の白い折り畳みテーブルに向かい合い勉強していた。俺はベットに向かっている形で、唯はそのベットを背もたれにしてた。


「……あっつー、唯、いい加減クーラーつけて」俺は髪を掻き揚げると額から流れた汗を拭う。

「えー、だって……クーラー嫌い」そう言う唯だってジワリと汗をかいてる。


「だからってこの中で集中して勉強なんて出来ないよ」そう言ってTシャツを扇いだけど、全然涼しくない。

 真夏の部屋でクーラーなし、扇風機だけって地獄だろ。やる気が起きなくてテーブルに突っ伏す。


「じゃぁ慶も脱げば~」その慶も(・・・)の部分に、は? と顔を上げて唯を見れば……Tシャツを脱いでいた。

 カップつきキャミソール一枚になり、そのまま後ろのベットへ倒れこんだ。


 おい、なにやってんだよ。

 そんなマジマジと見るつもりなんてなかったけど、視線は自然と胸元へ行く。ツンと突き出された胸は十分に尖り、存在を主張していて……俺は生唾を飲み込んだ。


「ちょっと休憩しよ~」そう言ってそのまま伸びをする……。お前、誘ってんのかよ?

 固まったまま返事もしない俺を不審に思ったのか、起き上がると不思議そうな顔してる。


「何? どうした? 慶?」そう言ってテーブルに肘をつき俺の方に体を突き出すから……谷間が強調され、目が釘付けになる。

 その目の前の谷間に首から流れた汗が吸い込まれた瞬間、気が付いたら唯の両手首を掴みテーブルを乗り越えベットへ押し倒してた。


「は? え? 何?」まったく現状が理解出来てない唯を置いて行ったまま、俺は谷間に流れた汗を舌で掬う。

「ひゃぅ! なにっ! なにしてんのっ!」急に危機を感じ出したのか焦った声が聞こえたけど……俺はそのまま胸に顔をうずめる。

 なんだこれやわらけー。まだそんなに成長してない胸だろうけど、十分未知の物体。もっと知りたくてキャミソールの隙間から鼻をもぐりこませ、性急に胸の中心の突起を口に挟んだ。


「やだっ! いやぁ! やめてっ!」足をバタバタさせて心底嫌がる唯に気がついて慌てて唯の胸から顔を上げると、グーパンされた。

「いってぇー」結構な力で頬に当たり、痛い。起き上がって頬を押さえるとすごい速さで俺の元から後ずさる。


「な、なにっ! 何やってんのよ!」明らかに怯えた顔。気持ちの悪いものでも見るような顔。心底軽蔑した視線。

 集まりつつあった熱が一気に冷める。


「変態変態変態!」必死に胸を押さえて俺を罵る唯にムカっときた。

 別に変な事じゃねーだろ? 至って普通の事だろ? 只でさえ多感な時期なんだぜ? 目の前にそんな餌ぶら下げられたら食いつくの当たり前じゃん。


「……別に変態じゃねーし。兄貴だって親だって普通にしてることだろ」……今思えばこの台詞が一番悪かったんだと思う。

 でも思春期盛りの男に対して変態って……まともな性欲を否定されて、俺も傷付いたんだと思う。


 でも、唯はまだそんな所まで成長してなくて。只でさえそう言う男女の機微に目覚めきってなかった所、言われた台詞に……なんとも表しようのない顔をした。

 泣きそうな、怒り出しそうな、傷付いたような、何かを我慢したような……。


 思春期の少女ゆえの潔癖か……俺のちょっとした性欲から起こした暴挙暴言をその後許してはくれなかった。


 一応は表向き今まで通りなのに、明らかに開いた距離。不用意に俺の傍には近づかなくなり、部屋にも上げてくれなくなった。

 当然俺の部屋にもあがらなくなり、勉強する時はダイニングテーブル。


 そんなに心配かよ! その内お前だって興味出てくるんだぞ! ってその時はその程度にしか思ってなかった。

 でも、自分の考えが甘かったんだって気付かされたのは、高校の志望校がいつの間にか変わってたのを知った時だった。



 ◆ ◆ ◆



「唯!! 淑清女子高校へ行くってどう言う事だよ! 一緒に高神高校に頑張っていくって! だから一緒に勉強してたのに!」

「……やっぱり、私には無理だったから……慶だけ、行きなよ。私は友香と同じ所にしたから」

「なんっだよ! なんだよそれ!」意味がわからなくて唯に近づく。そんな訳ねーだろ、偏差値変わんねーし! 模試の結果だって問題なかったのに!


 離れて目をそらす唯と、ちゃんと話がしたくて肩に触れようと手を伸ばした途端、

「触らないでっ!!」激しく拒否された。


「……ゆ、い?」

「来ないでよ! わ、私今、慶と……一緒にいたくないの! 傍にいたくないの! 離れたいの!!」そう吐き出すように叫ばれ、自分の思考が停止する。

 なに、言ってんだ?


「だ、だから、私は友香と女子高行くから! 慶とはもう一緒に高校行かないから!」言い捨てて二階の自室へと駆け上がる唯の足音を聞きながら、今起こったことが理解できなかった。


 何が起こったんだ? 俺は……唯に拒絶、されたのか……?

 どうして? どうして? どうして今頃?! 夏休みの後だって、普通にしてたのに! なんで急に!?

 俺は葛木家のダイニングのイスに腰掛け頭を抱えた。


 その出来事があってから唯の俺を避ける態度は顕著に現れ、俺が拒絶されたって事は嘘でも冗談でも……夢でもなかったと思い知らされた。

 そして、改めてやっと理解したんだ。


 俺の唯が好きって気持ちと、唯の俺が好きって気持ちが決して同じものではなかった、って事に……。


「ふぅっ」俺はベットから起き上がると溜息をつく。頭いてー。こめかみを押さえて時計を一瞥する。

「もうこんな時間かよ。やべぇ、バイト行かないと……」俺はバイトの用意をすると、鎮痛剤を飲んで、家を後にした。



 ◆ ◆ ◆



 バイト先は駅前の居酒屋だ。大学入学から始めてもう二年。人とコミュニケーションを取るのは嫌いじゃない。

 親父の会社を継ぐのは兄貴だから、俺はその兄貴の手助けをしたいと思ってる。親父のサポートを全面的に聡さんがしてくれているみたいに、俺は色々な事を視野広く見つめて行きたいんだ。


 だから飲み屋のバイトを始めた。

 親父とお袋は、兄貴がしてたみたいに会社の雑用から参加させたがってたが、俺は他の社会を見てみたかった。

 兄貴も高校時代はそれなりのバイトをしてたが、大学に入ってからは会社の経営者としての立場を重んずられた。


 俺も高校時代のバイトには口出されなかったが、大学入った後会社に来いって言われてたのを断った。

 高校時代には出来なかった時間帯、バイト先で色々な人を見てみたいと思ったからだ。


 特に金曜日の夜はいい。仕事帰りのOL・サラリーマンが色々な事を愚痴ってる。どこどこの会社の誰々部長はケチだ、とか。

 どこどこの会社はもうヤバイんじゃないか、とか。休みの前日、酒を飲む大人は面白い。

 思っていた以上に人間観察が出来て有意義なバイト先だった。


 普段は水曜日にバイトはない。金曜の深夜と土・日の夜だけだ。でも今日はどうしても変わって欲しいと言われ出てる。


「富樫先輩大丈夫っすか? 顔色悪くないっすか?」バイトの後輩に聞かれまたこめかみを押さえた。

「……いや、大丈夫だ。少し頭痛がな……」鎮痛剤が効かなかった。いや、これは精神的なものからくる頭痛だからか、いつも効かないな。


 中三の時の事を思い出すと、いつも頭が痛くなる。自分でどんだけトラウマだよ、メンタル弱すぎるだろって突っ込みたくなるが、それだけ俺にとっては世界の変わる出来事だったんだ。


 俺と唯の好きの種類の違い。気付きたくなかった。

 異性として、女として俺は唯が好きだ。でも唯は違う。俺の事を好きなのは確かだ。嫌ってなんかいない。でもそれは異性として、男として好きなわけじゃなくて……きっと兄妹に対するのと似てる。


 そう、兄妹だ。同級生よりもっと近い存在。でも恋愛感情に左右される事のない関係。俺達はそんな関係なんだ。

 唯が俺に対して他の人と違う態度なのは、俺が異性として好きだからな訳じゃなく、気安い兄妹だから……。

 そして同じ幼馴染でありながら兄貴への態度が違うのは、恋愛とは呼べない程度の淡い憧れのお兄ちゃんだから……。


 改めて思いついた所で答えは中三の時からと変わりもしない事実。余計に頭が痛くなってきた。


「お疲れ様でーす」後輩の挨拶に答えて俺はバイト先を出た。


 しばらく家に向かって歩いていると…………まただ、つけられてる。いい加減にしてほしい。毎回毎回バイト終わり、直接話しかけてくるでもなく後をつけられる。

 今日は臨時のバイトだったからいないと思っていたのに……どうやって俺の情報を仕入れてるんだ?


 家に着くまでの間、無言でずっとストーキングされる。相手はわかってる。直接文句言って、辞めるよう忠告し咎めた。だが、辞めない。

 その内あいつに対して俺が気を揉むのが馬鹿らしくなってきた。今の所無言でストーキングされるだけで、特別表立った嫌がらせを受けている訳じゃないので、無視する事にしていた。


 だが、この判断を後で大きく後悔する事になるとは……この時の俺は思ってもいなかった。


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