最終話.これってハッピーエンドでいいんだよね?
あの後、急いで駆けつけてくれた友香と優ちゃんに助けて貰って、慶は病院へ連れて行かれ入院となった。
やっぱり睡眠導入剤を切れ目なく投与されていたらしく、結構危険な状態だったみたいだけど、適切な処理を施され時間が経てば問題ないとの事だった。
友香と優ちゃんが来た時には現場から彼女はもういなくなってて、でも自宅マンションにいるのが見つかった。
さすがに監禁だの無断投与だの暴行だのあって、放置する訳にはいかなかったので、しっかりと警察に通報し逮捕となった。
慶が言っていたように実家が病院を経営していて、彼女自身は医療資格を何も持ってはいないけど、一緒に暮らしていた兄が病院の後継者で協力していたらしかった。
彼女自身はなんと……富樫家が経営する会社の社員だった。だから慶の事情も、優ちゃんの事情も知ってたみたい。
元々は優ちゃんと同級生だし……少し調べればうちとの関係も分かるよね。だってお父さんは秘書なんだし。
私は詳しいことは良く分からないけど……なんか優ちゃん達の間では要注意人物に認定されてたらしくて、その結果こんな事件が起きちゃって……優ちゃんが彼女に対してすっごく厳しく冷たく、罵倒してたのにびっくりしました。優ちゃんって実は猫かぶり?
で、慶はと言うと、丁度昼寝中で大人しく病院のベットで寝てます。明日にはもう退院。
ベットの上でぐっすり眠る慶の髪に手を伸ばす。伸びたみたいで、目にかかってる。そっと髪を払い、寝てる事を確認すると……おデコに唇を寄せる。
色々あって、改めて気付いたのは慶の事がどうしようもなく好きだってこと。慶がいなくなって、心配して苦しくなって、監禁されてて逃げ出したって聞いて、不安でたまらなくて。
その時々ですっごく思ったのは後悔。もっとちゃんと慶と話し合うんだった。あのまま何もなかったような選択肢を選んで、また幼馴染として傍にいるんじゃなくて、ちゃんと自分の想いを伝えればよかった。
そんな後悔ばっかりで……こうして目の前に慶がいるって事がどんなに幸せな事かやっと気付いた。
自分が傷つきたくないからって、見ないフリ知らないフリをしてたんじゃ駄目なんだ。どんな結果になろうとも、……ちゃんと向き合わないと。
寝てる相手に卑怯だとは思いますが! 慶のおデコにチュッとキスして、向き合う為の練習をしてみた。
「大好きだよ」と、小さな声で告白する。
そしたら両手をガシッとつかまれあっという間に世界が反転。
「寝込み襲うなよ」
「け、けけけい?! お、起きてたの?!」うひゃ! わたしゃ痴女か?!
「…………今のは酔っ払ってもないし熱でうなされてもないよな?」いつかみたいにベットに押し倒され、真剣な顔で慶が聞くから……無言で頷いた。
うぅ、私きっと顔真っ赤だよね? どうしよう、どうしたらいい? 恥ずかしい。
「……その大好きは男として? 幼馴染に対するのじゃないよな?」え? まだ確認するの?! こんな状態でこんな私を見てそれ聞く?
「いやっ! 別に疑ってる訳じゃない……けど、やっぱり疑ってんのか? ってか色々ぬか喜びさせれて来たからなんつーか、やっぱり信じ……切れない?」私の両手を離し、上体を起こしてちょっと辛そうにそんな事言うから、なんか悔しい。
どう言う事? いつもぬか喜びさせてたのは慶のくせして! なんで私が信用ないのよ!
ちょっとムカッと来たけど……慶は私の告白を嬉しいと思ってくれてるの? そう気付いたら勇気が出てきた。
「慶? 私は、慶が好き。ずっと、子供の頃からずっと、慶を……男の人として好き、だよ?」片肘ついて、反対の手を慶の頬に伸ばし目を見てしっかり告白した…………けど、うぎゃーーーー!
恥ずかしい! 恥ずかしい! やっぱり無理!
恥ずかしすぎてやっぱり無理! 手を頬から離し目をそらして逃げようとしたけど、その前に手首を掴まれ……六度目のキスをされる。
「んっ」軽く啄ばまれすぐに離れ、おデコとおデコを合わされる。
「マジで嬉しい。……お前は……俺の事ただの幼馴染としか思ってないと思ってたから」そう言ってふわりと優しく笑う慶。
その言葉から、ああ、やっぱり今までの慶の態度は勘違いじゃなかったんだ。私に対して甘くて特別な気がしてたのは間違ってなかったんだ、ってやっと気付いた。
でも、慶の気持ちを疑う気はないけど……まだ私は言われてませんよ?
大事な事。肝心な事。慶の口から一言も。態度だけじゃない、ちゃんとしっかり言葉にして。
「……慶……は?」催促すると「うっ」て顔。いつもみたいに眉間に皺がよって……でもあれ? なんか顔赤い。
すぐ目の前にいるから耳まで赤くなって来たのが見える。
「ふふっ」つい可笑しくって笑うとそれをふさぐようにまた唇を奪われた。
もう! また言葉にしないで態度で誤魔化すつもり?!
ゆっくりと優しいキスを受け、目を開けると慶と視線が合う。
「……好きだ……。唯が好き。愛してる……」空気が震え届いた言葉は、私の想像を遥かに超えた心地好さで……涙が零れた。
唇でその零れた涙を掬われ、また口づけを交わす。そして…………不埒な手がモソモソと動き出した所で、バンっ! と何か物が叩きつけられた音が鳴り響いた。
何?! 慌てて慶を押しのけ二人で起き上がると……そこには修羅の形相した看護師さんが……。
「検温です!!」そう言って慶に体温計を突き出すと、テーブルに叩き付けたであろうクリップボードを持ち上げギラッと睨み付けられた。
うひっ! 怖っ! って今の見られてたんだよね?! 確実に見られてたんですよね!?
「ここは病室であって、そのベットはそのような行為をなさる所ではありません! 続きは退院してから家でおやりなさい!」と看護師さんはビシっと言い放ち慶から体温計を奪い取るように回収すると、鼻息荒く病室を後にした……。
うぅぅぅ、恥ずかしすぎる。穴があったら入りたい。ってかこのまま布団に隠れてしまいたい。
そ・れ・な・の・に! なんで慶ってば飄々と、にこやかに「はーい」っていい返事しちゃってるのよ!
憎らしげに慶を睨み付けると、超いい笑顔でこめかみにチュッとキスされ、
「明日退院だな」って耳元で囁かれた。
…………あれ? あれ!? これって私また貞操の危機ですか?! 本気で本気の危機ですか?! 今度こそ本気で本当に美味しく頂かれちゃうんですか?!
いずれ訪れるだろうその時を思ってあわあわしてる頭の片隅で、これってハッピーエンドでいいんだよね? と疑問に思わずにはいられなかったーーーー。
「sideA:唯視点」終




