04.そもそもなんでこんな事になったんだっけ?
「な、な、な、な、何が?」いや、私動揺しすぎでしょ。
それが分かってるのか慶はとっても楽しそう。
「何ってナニを」
「下品!!」ニッコリといい笑顔で言う慶を拳骨で殴ろうとして避けられる。うげ! やっぱり動体視力いいな?!
なんて突っ込みを入れてる余裕ないよ。
慶はそのまま私の拳を大きな手の平で包み込むと、下へ降ろさせる。そして空いている方の手で頬に触れてきた。
「っ」その温もりに体中の血液が沸騰する。優しく、丁寧に頬をなでられ、何故か背中がゾクゾクしてくる。
慶はそのまま頬を撫でながら親指を立てその親指で私の唇に触れてきた。頭が真っ白になる。
何も考えられなくなって、このまま流されそうになって……。
もう無理、限界! そう思って決死の覚悟で頭突きをお見舞いしようと力を込めた。
けど、いつの間にか片手じゃなくて両手とも慶に掴まっていて、世界が反転したと思ったら私はソファに倒れていて、その上に真剣な顔をした慶がいた。
「……普通頭突きしようとするか?」呆れた口調で慶はそう言うと顔を寄せてくる。
固まったままの私の唇に触れそうなほど近づいてから、そのまま逸れて耳元で囁かれる。
「……あれ誰? あの男と付き合ってたのかよ? 俺知らないけど」うん、言ってないもん。
大学の友達に話すと慶にも絶対に漏れるから言わなかった。
だから知ってるのは違う大学へ行った親友の友香だけ。相談した時すっごく微妙な顔されたけど、反対はされなかった。私の気持ちを一番よく知ってくれているから。
「……いつから?」顔が見えない状態で、それでもありえないぐらい近くで慶が吐息まじりに囁く。
「……三、ヶ月前から」体が密着した状態で、慶の声が耳元で聞こえるたび自分の体が反応する。
人の上にぴったりと寄り添いながら体重をかけないように両腕で支え、髪を撫でられた。
耳元に唇を寄せ、髪をなでる慶の服をつい掴む。背中に回す勇気はないけど、ちょっとだけ。服なら触れてもいい?
そう思って服を掴む手に力を入れると、慶が離れる。
慌てたように体を起こすと、睨まれた。
「何やってんの? 俺今襲ってるの分かってる?」うん。わかってる。わかってるよ。
でも分かってないのは慶。何も分かってないのは慶。
来る者は拒まず、去る者は追わず。誰にでも優しくてでもちょっと冷たくて。そんな所がいいって言う女の子は後を絶えなくて、いつもいつも女の子と一緒にいる。
そんな慶は何も分かってない。私が今どんな気持ちでいるかなんて……。
「……本気で襲って欲しいの?」それもいいかも知れない。そうしたらこの行き場のない想いも終われるかな?
ただの、一回だけの相手。そんな相手はいっぱいいるって聞いた。私には知られないようにしてるらしけど、バレバレだよ?
だから、私も幼馴染やめて一回だけ抱かれたら何か変わるかな?
「…………」再び慶の手が頬に触れた。目を瞑っていた私はドキッとする。慶がどんな顔をして私に触れているのか分からない。
タメ息が聞こえて目を開ける。
そこには辛そうな顔の慶。私が、こんな顔をさせてる。
私の気持ち、漏れちゃった? 私困らせてる? そう思ったらなんか笑えて来た。
私何やってんだろ? なんか自分捨てちゃってた? 悲劇のヒロインになっちゃってた?
なんかすっごく馬鹿らしくなってきた!
第一なんで私がこんな思いしてるわけ?
ちょっと怖い思いして落ち着いたと思ったのに、慶は一体何してるわけ? 何がしたいのよ。
そもそもなんで私押し倒されたんだっけ? 意味が分かんない。
ちょっと落ちていた気持ちが浮上してくると、急に湧き上がってくるのは慶への怒り。
私は慶を睨みつける。すると慶はびっくりしたのか切れ長の目が大きくなってる。でもすぐにニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
「で、唯ちゃんは俺に襲われる気になったの?」
「んなわけあるわけないでしょ! いい加減どいてよ!」上半身は起き上がったものの、まだ慶は私の上だ。
さっきの熱が冷めれば、また急に動揺が襲ってくる。でも駄目よ。それを敵に知られたらおしまいだ。
またさっきみたいに私を動揺させてからかって遊ぶつもりだ。そんなの絶対に嫌!
そもそもなんでこんな事になったんだっけ?