38.馬鹿男ーーーー!
なんて思っていたのにね、気がついたら朝でしたー。わー朝日まぶしー、いいお天気だー、でも寒そうだなぁーなんて現実逃避してる場合じゃないですよ。
結局洋服のままだよ、結局顔を洗わなかったよ。あぁ、こう言うのがお肌に良くないんですよね?
しかし、あんなに寝たのにまたしっかり寝れちゃう私ってば本当すごい。そして無意識の間にしっかりガッツリお布団に包まってましたよ! さすが睡眠最優先女! 悩みなんてそんなの知ったこっちゃない。眠くなったら寝るんだよ! 睡眠が何よりの精神安定剤なんだよ!
よし! サクッと起きてシャワー浴びて(いやー、風邪引きそう……)、サクッとお勉強しに行きますか~! ってハイテンションで自分で自分を慰めてみたものの……やっぱり自分のあまりのお気楽さにちょっとへこみました。あい……。
そんなお気楽気楽なわたくしですが、さすがに昨日の今日で慶に会うのはきっついなぁって思ってたら、お迎えは来なかった。
大学へ行っても慶はいなくて、今日はどの講義もお休み。慶と仲の良い穂積くんに聞いたら連絡もないみたい。
どうしたんだろうな? って思いながらちょっとほっとした。さすがにどんな顔して会えばいいのか分かんなかったから……って思ってから、きっと慶もそうなんだろうなってなんとなく分かっちゃった。
そりゃ私以上にきっと気まずいよね? いくら手馴れてるからって、あんな事して堂々としてられる程性格悪くないと……信じ、たい? いや、信じてる!
もしかしたら慶も落ち込んでるのかなぁ? 顔見るの怖いなんて考えてるのかな? なんて思ったら、なんかどうでも良くなって謝ってきたら許してやろう、なんて上から目線だったのですよ。
それが家に帰ったらお母さんと香澄おばさんがいて、ちょっと変な顔してる。何? 何? なんかあった? ってか昨日の事がバレタ??
「唯ちゃんお帰りなさい。帰ってすぐで悪いのだけど、慶二知らないかしら?」え? 真面目にちょっと困った顔(変な表現だな)でおばさんが聞くから、慌ててお母さんを見る。
「なんかねー、昨日から帰ってないみたいなの。唯ちゃん知らない? 大学にはいた?」同じように困り顔で可愛らしく首をかしげている。
「えっと、大学にも来てなかったけど……」とりあえず昨日の事がバレタ訳じゃないのね。
「そう。なんでもね、昨日大学から帰って来た気配はあるみたいなの。でもその後どこへ行ってどこで泊まったのかも分からないってすみちゃんが」お母さんはそう言うと香澄おばさんを見る。
おばさんはその視線を受けると一つ頷いて続きを話した。
「外泊なんて別に珍しくもないのだけど……無断は初めてなのよ。誰と、なんて事は教えてくれないけれど、いつも必ず泊まってくる、とかご飯いらない、とかメールしてくれるのよ。だから初めての事で、しかも携帯も繋がらなくて……ちょっと心配になってたの」話し終えたおばさんの視線を受け……ちょっと居心地悪いデス。
あぁ、お母さん。あなたまでその熱視線やめてください。もっと居心地悪くなります。
「唯ちゃん? 何か知ってるならお話しして?」うぅ、お母さま怖いです。
「唯ちゃん? 何か知らないかしら?」香澄おばさま、もっと怖いです。微笑まないで下さい。
特に責められてる訳じゃないのになぜか逃げ腰。猫の前の鼠みたいな? 蛇に見込まれた蛙みたいな?(ってなんかデジャヴ)
分かりました分かりました! ちょっとだけ話します! だから二人して微笑まないで~!
「つまり、喧嘩したの?」いや、まぁ?
「まぁ、唯ちゃん泣かしたの?」いや、まぁ?
「最近うまく行ってたと思ったのに、急に付き合ってないとか言い出したり、喧嘩したり……いいわねぇ」ってお母さん、感想なんかおかしいですけど。
とりあえず、襲われたって事は省いてなんか怒らせたみたいで怒られたって言っといた。たぶんきっと間違ってないはず。でもなんかそれじゃぁ悔しいので、酷い事言われたので、私も怒ってる。的な事も。
「すみちゃん! 青春ね、青春!」きゃっきゃと喜ぶ母をニコニコ見つめながら「そうねー」っておばさんも大概母に甘いですよね。
「でも痴話喧嘩なら安心ね!」えー、その単語嫌なんですけど……。
「きっと唯ちゃんを泣かしちゃったから落ち込んでるのね。それならそっとしておきましょう。その内帰って来るでしょう」ってそれでいいのおばさーん?
二人は納得してしまったようで、「買ってきたケーキ食べましょ!」だの「どの紅茶にする?」だのキャッキャと楽しそう。
ケーキを横目で選びながら、まぁ私もその内帰って来るでしょう。って何か納得しちゃったんだけど……結局その日も慶は連絡もなく、帰っても来なかった。
次の日の大学にも、もちろんいなくて……。皆に聞いても分からなくて……家に帰って一人クッションをかかえていたら、さすがに本当に心配になってきた。
あの未遂事件(と命名)があった後だったから、てっきりそれが原因で帰って来れないのかなぁ? なんて思ってたけど、もしかしたら違うのかも知れない。そう考えたら急に恐怖が襲ってきた。
もしかしたら本当は事故にあったのかも知れない。もしかしたら本当は何か事件に巻き込まれてしまったのかも知れない。もしかしたら本当は自殺……は、さすがにないよな。慶に限ってないない。
でも本当になにかトラブルがあって連絡取れなかったり、身動きが取れなかったりするんだったら……昨日の時点でもっとちゃんと探しておくんだった!
じわりと涙が浮かび、慌てて拭う。どうしよう、どうしよう。慶に何かあったら。どうしよう、どうしたらいいの?
嫌な考えばかり浮かんでまた涙も浮かぶ。今度は拭えず溢れた。両手で顔を覆ってその場でうずくまる。
うぅー。怖い。怖くてたまらない。慶がいなくなっちゃうなんて考えたら……嫌だ! 絶対に嫌! そんなの絶対に無理!
乱暴に涙を拭うと気がついたら携帯を手に家を飛び出していた。どこを探せばいいかなんてわかんなかったけど、走った。ひたすら走った。
慶の名前を叫びながら走った。慶がいそうな所片っ端から探しまくった。茜色に色づき始めた空をバックにひたすら走り続けた。
絶対に、絶対に探し出してやる! だから待ってろよ~!! 馬鹿男ーーーー!




